内務省の移植民保護奨励策

Plano de incentivo à emigração do Ministério do Interior

Emigration incentive measures by the Home Ministry

1922年内務省は、人口問題、失業問題の解決策として、ブラジルへの移植民奨励策を打ち出した。

大正11年8月1日水野錬太郎内相手交

  移植民及移住

  職業保護の道は之を国内問題として考ふれは失業保険、職業紹介、官公営事業の急施、内地植民等ありと雖も之を国外問題として観れは海外移植民事業奨励の如く重要且つ緊要なるはあらさるなり思ふに我国に於ける人口問題、失業問題の解決は之を対外的関係に求むるは最も策の得たるものにして其の方法手段は慎重に考慮を要する所たり。

  南米ブラジル国は土地広く(我本土の二十二倍)天産物無尽蔵にして「サンパウロ」州は最も産業発達し外国よりの移植民に対し保護を与ふること厚く我国の移植民地として最も好適の地たり、之を過去の実績に徴するに我国民は北米加州に移民として移住すること最も熱心にして已に団体移民を為し三十九年を閲し在留邦人六万九千余名なるに其の本邦人の所有地一万一千八百町歩に過きす而も移民の入国を認めさることとなりたるに反し「サンパウロ」州に在りては過去十三年間に於て已に三万五千余人の移植民あり其の所有地現在六万七千余町歩なるに比すれは移植民地としてブラジル国ノ好適地タルコト謂フヲ侯タサルナリ

  ブラジル移植民の斯くの如く有望なるに拘らす従来其の事業振はさりし観あるは我か国民の移植民思想の幼稚なると之か奨励方法徹底せさるにも依ると雖も政府の援助に関する方針確立せさると戦時好景気の際の如きにありては国民多く好景気に忸れて海外に移住するか如き思ひを致す者少かりしにも因れり而して今や我か国情に顧み人口問題、失業問題処理の上よりも海外移植民の思想を鼓吹し内に鬱屈せる思想を外に転換する要あるのみならす国内に不景気襲来、軍縮に因る失業、行政整理等の失業等に因り人心自ら緊張し思ひを海外に致すの時に於て殊に一層移植民事業の根本を定むるの便ありとす固より年々増加する人口の調節と臨時に起る失業保護とを移民事業奨励に依りてのみ解決すること能はすと雖も内に鬱屈する民心を外に転し雄大ナル国民精神ヲ失ハシメサルニ努ムルハ移植民事業ノ根本ニシテ延イテ国民精神ト生活安定トヲ得シムルニ庶幾シト謂フヘキナリ

  移植民事業奨励の方法は事重大にして容易に速断すへからすと雖も移植民事業を経営する会社に対して相当条件を付して奨励金を交付し移植民事業事情の普及徹底を期せしめ移植民地に於ける教育機関、衛生施設を完備し又法律相談にも応し進んて産業上の保護をも為さしめ安して其の邦土に愛着せしむるを要す更に移植民に対して相当渡航費又は家屋建築、生計費の補助を為さしむる為め相当補助の途を開く要ある可く此等の為に年々約百万円を支出するの要ありと認む

  次に内地移住に就ては朝鮮、樺太、北海道等相当収容の余地あり今後一層之を奨励するに於ては其の目的を達成し難きにあらす而して之を奨励せむか為めには小屋掛料及農具購入代の補助を為すの途を開くか如き一方法たるを失はす、之に対しても相当の経費を支出するの要ありと認む

  右二方策実行に当りては外国、内地の移植民及移住調査の実行と之を主管する相当の人員に要する経費は相当支出するの要ありと認む