ホーム > 資料の収集 > 納本制度 > 納本制度審議会 > 第1回納本制度審議会ネットワーク系電子出版物小委員会議事録

第1回納本制度審議会ネットワーク系電子出版物小委員会議事録

日時:
平成14年6月27日(木)午後2時~4時
場所:
国立国会図書館 新館2階大会議室
出席者:
納本制度審議会ネットワーク系電子出版物小委員会委員・専門委員(敬称略)
委員:公文俊平、合庭惇、内田晴康、小幡純子
専門委員:奥住啓介、白田秀彰、杉本重雄、戸田愼一
要約:
(1) 事務局から、配布資料「ネットワーク系電子出版物の納入に係る論点整理」に基づき報告を行い、それについて意見交換が行われた。主な意見は以下のとおりである。
 ・ネットワーク系電子出版物の特性に鑑み、収集後の利用のあり方についても想定する必要がある。
 ・デジタル・コンテンツについて、より詳細に整理した後、それぞれについて、いかなる制度が可能か、網羅的に収集できるか検討したらよい。
 ・ネットワーク系電子出版物収集の目的と関連して、当館の役割をどう位置付けるのか。
 ・収集対象資料及び収集方法の問題と制度化の問題は、分けて議論した方がよい。
(2) 今後の進め方については、次回小委員会の開催を10月下旬とした。また、今回提示された論点について、7月末までに随時、委員及び専門委員から事務局に意見を提出することとした。
会次第:
1. 小委員長あいさつ
2. ネットワーク系電子出版物の納入に係る論点整理について
3. 平成14年度における小委員会の進め方について
配布資料:
(資料1)ネットワーク系電子出版物の納入に係る論点整理
(資料2)関係法規集(抄)
(資料3)デンマーク王立図書館によるネットワーク系電子出版物収集について
(資料4)平成14年度における小委員会の進め方について

議事録:
1. 小委員長あいさつ
小委員長:  それでは時間になりましたので、第1回のネットワーク系電子出版物小委員会を始めさせていただきます。この委員会は、3月に開催されました第6回納本制度審議会におきまして、当審議会議事運営規則第11条により設置されました。国立国会図書館長から受けた諮問「日本国内で出版されるネットワーク系電子出版物を納本制度に組み入れることについて」の調査審議、一つには現行納本制度に組み入れることの可否、一つには組み入れられない場合の収集すべき範囲及びその収集の方法について調査審議するという委員会であります。
 考えてみれば、これは誠に容易ならぬことだと思います。例えば、今ここに私が毎日持ち歩いているパソコンがあります。今後制度や法律の変化がどうあろうと、たぶん技術的には過去10年、20年の傾向は中断することなしに続くと思います。そうなりますと10年ないし20年の間に、この能力は間違いなく1000倍にはなる。特にそのなかで注目すべきはハードディスクのようなメモリの容量でありまして、仮にこれに200テラバイト入るとしますと、文字で言いますと多くても本1冊は1メガ、ということは2億冊がこの中に入る。絵も入れて1冊あたり100メガ平均としても200万冊が入る。それくらいのものを個人が当たり前に持ち歩く時代になる。そうすると一体そのときの図書館の役割は何だろうか。2億冊入れば世界中の本が全部持ち歩けることになりますが、そこで国立図書館がどんな機能をどういうふうに果たすのか。その際に電子的なネットワークとの関係をどう考えていくか。興味深いけれども、考えてみると難しい。そういったことを考えあわせてほしいと思います。
 今日は、前回御出席いただけなかった戸田専門委員と小幡委員が出席されています。恐縮ですが、簡単に自己紹介をしていただきたい。
 
2. 委員自己紹介
〔小幡委員・戸田専門委員から自己紹介〕
 
3. 配布資料について説明
小委員長:  ありがとうございました。それでは第1回目の議題でございますが、2つあります。第1は調査審議すべき項目について。第2は進め方について。事務局から配布資料の説明をお願いします。
事務局: 〔配布資料について説明〕
 
4. 論点整理について説明
小委員長:  どうもありがとうございました。それではさっそく調査審議すべき項目についての議論に行きたいと思いますが、まず資料1でネットワーク系電子出版物の納入に係る論点の整理があります。これについて事務局から説明いただきたいと思います。
事務局: 〔以下の6点について、配布資料をもとに説明〕
1. ネットワーク系電子出版物とは
2. ネットワーク系電子出版物を現行納本制度に組み入れる場合の問題点
3. 収集の範囲と方法について
4. 人格権等について
5. 著作権について
6. 想定される収集の法的枠組
 
5. 論点整理についての議論
小委員長:  どうもありがとうございました。事務局のほうから6章にわたって論点の整理、それから調査審議すべき事項等について参考資料を作っていただいて説明願ったわけですけれども、これからしばらく委員の方から御意見を伺っていきたいと思います。資料に関する御質問でももちろん結構です。
 
-他の省庁等の動向について-
委員:  官庁のものと民間のものとの区別が何箇所か出てくるのですけれど、国立公文書館でも同様の収集を考えているのでしょうか。
 また、配布資料の2章についてですが、官庁のネットワーク系電子出版物を収集する場合には国立国会図書館法24条(官庁納本に関する規定)に掲げられている「公用又は外国政府出版物との交換」という納入目的と整合的でなく困るという趣旨ですか。民間納本に関しては25条で「文化財の蓄積及びその利用に資するため」と規定されているということで収集に問題はないけれども、官庁の場合はその目的と整合的でないかもしれないという趣旨ですか。
事務局:  ただいまの御指摘のとおりでございます。
委員:  公文書館のことは調べていらっしゃるか。
事務局:  だんだん行政情報自体がネットワーク上のものとなりますけれど、実際上公文書館に集積されるかについては理解がゆき届いておりません。ただ現在の紙媒体のものにおいて、いわゆる行政文書と呼ばれるものと出版物と我々が考えているものとの関係について、一応行政文書については公文書館が役割を負うものと考えられます。
 
-収用との関係について-
委員:  納入目的であえて違うことが書いてあるので、官庁用と民間用で作りわけないといけないか。
 もう一点、収用についてですが、法律を作ってという話でしたよね。憲法・行政法の学説では、例えば法律で補償規定をおかない場合は、憲法29条を直接適用すればよいというのが通説です。要するに違憲無効にはせずに、例えば法律でできることを定めて、なにがしかの代償金を払うことになるだろうと思うけれど、それはそれでできる。ですから、土地収用と並べる必要は必ずしもないと思います。個別法で財産権を取るということを書いたら、そこに補償がいるということを定めるか定めないかという話だと思います。この資料では著作権と財産権が両方混じっているから、収用といわれると馴染まないかもしれない。
事務局:  現在の納本制度に引きずられているわけですが、ネットワーク系だけを無償にというふうにできるかどうかの問題はまず根底にあります。
委員:  収用に関して、納本制度ではパッケージ系電子出版物についていわゆる商業出版社が発行している商品を納めてもらうので、収用ということは分かる。しかしネットワーク系の場合、媒体に固定して収めてもらうのではなく、国会図書館は複製するだけですね。それであれば収用という発想をしなくてもいいのではないかという気がします。むしろ、電子ジャーナルみたいなものの収集で問題になるのは利用形態で、収集自体についてはそこまで考えなくていいのではないかというのが読んだときの感想です。先ほど公文書館という話が出ましたが、納本制度という枠組みということで考えると公文書館は関係ない。ただし、公文書館もアジア歴史資料センターの面等では重複するのではないか。
委員:  重複ではなく、納本制度の目的規定がございますので、その目的規定にかなった限度を外れると公文書館でやってくれるということになるのかなと思ったので。
 
-議論の前提について-
専門委員:  話の前提を壊すようで申し訳ないのですけれど、本資料に挙げられている今後検討すべき事項に我々の議論は拘束されるのでしょうか。私の印象ですけれども、インターネット上のネットワーク系コンテンツというのは常に動き続ける複合したデータベースであって、図書という観点から見ると必ず誤るのではないか、ゼロベースから考えるべきではないか。この資料を前提にすると図書のイメージに引っ張られてしまう危険があるという点で、まずこれを前提にしなければならないのか伺いたい。それから各国の事例が載っていまして、それが納本制度と絡んで出てきているということです。そもそも日本国と海外を分ける意味があるかさえ分からないのですけれども、海外の事例とハーモナイゼーションしなければいけないという前提があるのかどうか伺いたく思います。私としてはゼロベースから考えないと絶対に話がおかしい方向に向かうという印象がどうしてもぬぐえないのです。
事務局:  最初の図書という概念に引きずられていくことがまずいのではないかという問題ですけれども、これはおっしゃるとおりだと思います。今回諮問は2段階ありまして、2章のところで現行の納本制度、館法24条・25条で縛りがかかっているところの納本制度に組み入れる場合の問題点を挙げておりますが、それがネットワーク系電子出版物の性格に照らしあわせて可能かどうか、これを御議論いただくのが第一段階です。この資料の中ではそれは難しかろうということで、そうだとすればどういう範囲と方法があるかがその後述べられているところです。これが諮問の第二段階です。今おっしゃられた観点からいえば現行の24条・25条に縛られる必要はないだろうとお考えいただいて構わないと思います。それが第1点目のお答えです。
 それから2点目の海外の事例の件ですけれども、これは世界中どこの国立図書館も同じですけれども、その国の出版物を全部集めてそれを全国書誌の形で公表して、いつでも利用できるような体制をとることを任務としております。ネットワーク系電子出版物については、それぞれの国立図書館が海外の事例にありますように単純に言ってしまえば悪戦苦闘しているわけです。皆それぞれができる範疇、プロジェクトの段階からやっているところもあります。法律でやっているのはデンマークがいい例ですが、そのデンマークにおいてもダイナミックな方はやっていなくて、静的な情報だけは集めるように規定しています。それぞれの国がそれぞれの出版物に対して責任を持つという国立図書館同士の連携からすると、海外の事例というのは非常に重要な意味を持っていると私どもは考えております。
小委員長:  今おっしゃった第2点目は、いくつかある海外の事例が相互に調和したような制度を作っているわけではないということか。
事務局:  今の段階ではその辺はなんともいえない段階ですね。一方においてそれぞれの国において検討が進められておりますし、国立図書館の集まりである国立図書館長会議の中でも、この問題についての議論は深まっていくと理解しておりますので、いずれ何らかの指針なりガイドラインなりが出てくるだろうと思います。それに国立国会図書館としては、日本の側からどれだけ寄与ができるかというところだと思います。
 
-整理すべき権利問題について-
委員:  今の納本制度は出版物の所有権とそれに伴って収集で財産権の侵害がある場合についての権利関係を考えていて、著作権者と収集による負担との関係はもともと考慮していないのではないかと感じます。今回ネットワーク系になると突然著作権者が収集に絡んで出てくるというのは、たぶん収集の過程でサーバに固定するということで複製権侵害という声が起きるため、著作権が収集の過程で問題になるのではないかということで、かなり従来とは違う気がしています。
 ただ、収集の場合、情報提供している発行者が著作権者でなくても著作権者から一定の許諾を得て提供している場合、単に図書館が利用者に代わるのであれば、著作権者の問題は本来ないはずです。要するに、通常利用者が利用できる範囲で国会図書館自体も利用している限りでは、本来著作権者が許諾した範囲のはずです。そうなると収集に関して著作権者の権利侵害の問題を正面から考える必要が本当にあるのかという気がします。一方で利用の側面では、従来の出版物も利用の際の複製権侵害やディスプレイした場合の問題、ネットワークを利用した場合の問題は著作権の問題です。この問題はネットワーク系でも同じように出てくるのではないかという気がします。
 そのため、出版物に対して持っている財産権的なものと著作権の関係を、収集の場合と利用する場合で切り分けて本当の問題はどこにあるのか整理してみてはどうかという感じがします。
専門委員:  ネットワークの情報を出版物と見るべきかは疑問だと思います。技術的な話をすれば、ネットワーク系電子出版物の一般的特性のところに書いてある問題をどうやってクリアするかが一番大きな問題ではないかと思います。
 それから先ほど官庁のデータをというお話がありましたが、官庁のデータはすでに霞ヶ関WANでいろいろなホームページを出しています。それをその日のうちに総務省のクリアリングシステムは全部ロボットで収集しているわけです。そうするとお分かりになるように、そこで霞ヶ関の主要な官庁のネットに出しているデータは見られる。国立国会図書館がその機能の一つを利用するのか、あるいは同じことをもう一遍やるのかについては議論が必要ではないかと思います。
 それから3点目、私法律のことはよく分かりませんけれども、この資料では著作権法だけを書いていますが、外国の例からいきますと、まずEUは、著作権ではないデータベース独自の保護がすでにあります。これとどう協調するかという問題があります。それからアメリカもここ2、3年、データベースの保護、データベースとは言わずコレクション・オブ・インフォメーション(情報収集体)がどうあるべきかという、著作権以外の保護を法制化する動きがあります。やはりこの辺りにも先ほど先生方が話されたように著作権以外の財産権にするのか十分な検討が必要ですし、もし仮にネットワーク系の納本制度ができたとしても、できた途端にハーモナイゼーションできないのではないかという問題があります。
 
-プライバシー侵害のおそれについて-
委員:  収集した後どうするのかという問題にも関わるのですが、利用に供するという話になってくるのか。本人にそういう気がないものが固定されて利用に供せられるというようなことになるとどうか。個人情報保護の点から言えば固定されたくないものが固定されるおそれがある。
 
-収集対象について-
専門委員: 皆さんの考えとだいたい共通していることですけれど、ひとつはネットワーク系の情報資源、インターネット上の情報丸ごとを出版物として捉えるのはちょっと冒険だなという気がします。
 それはともかくとして、実際にペーパーメディアで流通している情報がネットワーク上で流れるだけではなくて、重要な情報がペーパーメディアなしにネットワーク上で流通している実態を考えれば、何らかの形でそれを後世に残すという考え方は妥当だと思います。保存は、従来コストがかかるということで、民間企業ではなく図書館が公的資金でやってきた。今ネットワークで流通している情報に関しては運用のコストがだいぶ変わってきた。言い方は悪いが、従来の出版物というのは出版社は生んだらほったらかしにしておくという方針をとってきた。つまり出版した後は出版社は関与しない、2次流通には関与しない。それで何百年かはうまくいったと思うんですけれども、電子出版ではおそらく出版社は生み捨てという形にならないだろう。著作権のある間は管理して利益を上げるといったビジネスモデルを考えていく。そうすると図書館は従来の形での収集した資料をサービスに提供していくという対応ができなくなってくる。
 そうなると先ほどからの議論にも出てきましたけれど、納本制度は収集に関しては見える部分があるのですけれども、提供に関して図書館が一体どういうサービスができるかが見えていないため、納本という枠組みをこれからどういうふうに考えていくのかはっきりしない。集めてからどうするのか、図書館のこれからの方針が見えてくると、納本がどんな形であり得るのかも、もう少しはっきりするのではないか。
専門委員:  25条の民間文化財の蓄積及びその利用に関して、ネットに出ているものには将来の文化財になり得るものは必ず含まれていると思う。最初にこの資料を拝見したときに、議論するのはたぶん制度に関するものだろうと思うのですけれども、現在こういうことができるから、できないからということに囚われない方がいいのかなと感じました。何を収集する対象の範囲とするかから始めるのがよいと思う。
専門委員:  マイクロソフトのドットネット構想のように、今インターネットでデータをどのように保持するかについては相当動いています。商用ネットではバックエンドにデータベースがあって、アクセスする人ごと時間ごとに違ったものを表示するようなことを平気でやっていると言います。そのうち、マイクロソフトの構想でいけば、個々のクライアントPCにあるデータとインターネットのデータを結合して何かの文書を生成することもできるようになります。静的コンテンツという概念が数年のうちに消えてなくなる可能性もあります。だからインターネットではすべて動的なコンテンツであって、止まることなく変化している状態にあるわけです。
 これをもし集めようとしたら、どういう目的でそれを作ったかはその人の主観に関わります。これは機械的には絶対処理できませんし、いちいち問い合わせることもできません。それをネット上に公開しているから使っていいのか、いけないのかということです。セキュリティの設定ミスということは最近さまざまな問題で起きていますが、使えた以上は本人が駄目だといっても参照できる。一方で制度ということを考えれば、これも著作者の主観に関わる。ここまでは見せるつもりだった、そこから先は見せるつもりはなかったということも機械的には処理できません。現実的には全部集めるか、それとも集めないかの二者択一をまず前提として考えなければいけないのではないか。それを使用目的であるとか著作権者の意図等によって切り分けるのは技術的に私はできないのではないかと思う。
 収集頻度に関して年に1、2回という話もありますけれど、実際日本全国を一瞬にして年に1、2回とるというのは不可能ですね。あるエリアから順番に取りながら、全体に年1、2回になるようにサーベイしていくという形になると思うのですが、そうすると資料的価値という意味で、はたして意味があるのかなとも感じられる。
 私がゼロベースから考えなければいけないと言うのはそういうことで、ここに出ている資料をベースに制度から考えましょうというのはまずいのではないかなというのが私の意見です。
事務局:  非常に難しい問題です。私どもも予想しておりましたけれども、大変だなと改めて実感しております。制度と方法の問題についての検討では、先ほどもお話したように納本制度に馴染まないとしたらどういう内容のものをどういう方法で集めることができるのだろうかということをこの1年かけてお願いしたいと思っています。
 先ほどもいくつかの切り口はお示ししました。例えば官庁出版物と民間出版物。例えば、先ほど静的なものはもうないとのお話がありましたけれど、静的出版物、電子ジャーナルのように貼り付けてそのまま変わらない、何巻何号という形で載せてあるものは集めて、それ以外のダイナミックなものはしばらくおいておくとか、有料制と無料制など、こうしたいろいろな切り口について、今後御議論をいただいて、どういう種類の資料をどういうやり方によって集めることができるかの結論を出していただきたい。
 先ほど小委員長や専門委員からお話がありました、国会図書館の目的やそれに基づく利用提供の考え方を持っているかという問題と密接につながってくることになります。これはおっしゃるとおりで、24条・25条で集めた資料の利用目的はそれぞれに明確に規定されています。ですから、電子媒体の世界についてどういうふうに規定していくかということを議論していただかなければならないと思います。
 この1年、対象資料と方法について御議論いただき中間報告をまとめていただいた後、あと1年かけてこういうものをこういうふうに集めるのだとすれば、どういう制度が可能なのか、要するに法律的な枠組みに話を持っていければと考えています。ですから両者がなかなか簡単には分けられる話ではないことも重々承知しておりますけれども、そういうかたちで進めていたければありがたいと思っているところです。
 
-収集対象の類型化と収集範囲の限定について-
小委員長:  それは大変妥当だと思いますが、その前提として例えばこういうことはできませんか。今後2、3ヶ月の間に、広い意味で電子出版物と呼んでいるものにどんなものがあるかをもう一回整理してみる。
 例えばすぐに思いつくのは、いわゆるデジタル・アーカイブのように、もともと物理的に作られた本などがあり、それが持っている情報をデジタル化して固定するものがある。さすがに化学物質はまだでしょうが、例えば、手紙でコレラの流行っている地域からきたものは消毒のためにお酢がかけてあって、その匂いが数百年後になっても残っているのでこれを嗅ぎ取って、疫病の分布についての情報を得るというのが現になされているらしい。そこまでデジタル・アーカイブの中に入れられるかというと、将来は出てくるかもしれませんが、多分今は無理でしょう。それはともかく、作られたものはデジタルな形で固定されて確実にどこかに貯蔵されている。問題はそれを誰が、どういう費用を払って行い、またこれを使うための費用分担の仕組みをどうするかというその次の話になります。
 他方の極は、先ほど言われたように完全にダイナミックになってきて、いわゆる著作物と読者とか利用者というコンセプト自体がほとんど分からなくなって、曲と演奏、それから聞いている人も参加して作っていく、つまりネットワーク上の出版物がいつ生まれていつ死んだかもよく分からない形で、しかもいろんな人が参加してインタラクティブな活動が行われていく中で何かが起こっている。それ全体を何らかの形で固定して保存するというもの。あるいはもっと変わっていくかもしれないが、そういうものを類型化する試みは不可能か。
専門委員:  前回も言ったかもしれませんけれど、これまで出版者、何らかの意味での出版当事者がスクリーニングを行ってくれていたわけです。実際には雑多な情報が日本中にあふれている、しかしその中でわざわざ印刷機を回して出すに値するものを選別するというのは出版者、編集者が行う作業ですね。それが印刷されると国立国会図書館に入るわけで、言ってみればどこからが収蔵すべき出版物であるか、日本中に分散している出版社や編集者が分散処理で判断をしてくれていた。このため、国立国会図書館は収集すべきか否かをあまり意識せずとも実行できた。
 仮に小委員長がおっしゃったように類型化して考えますと、法律には必ず境界領域が発生します。これまで印刷物は形が決まっていまして、一応判断ができた。デジタル情報の時代は、メディアから離れてコンテンツが存在するわけですから、グレーゾーンが非常に広くなってきて、類型化をしてこういったものを国立国会図書館が集めますと定義したところで、必ず実務上困難な事例が相当現れてきて、実行困難な状況になる。そこで何らかの基準で、これは収集すべきでないと切ったときに切っていいのか、入れたときになぜ入れるのかというようなトラブルが相当出てくる。これを法で仕切れるというのは相当怪しいのではないか。
 私が一つ言いたいのは図書という形からいくと、何を集めるのかをもう一回出版者の方にやっていただくのが一番すっきりする、そういう感じを持っています。だから類型化してここからは集めますということを例示したとしても、おそらく意味を持たないだろうという印象を私は持ちます。他の先生方、何かいいアイデアがございますでしょうか。
専門委員:  確かにこれまで出版社はすごい機能を果たしていて、流通する情報をコントロールしてきた。本当は今度も同じようなフィルターができた方が後から使う側にとっても好ましい。考え方として、要は従来の出版物に関して誰でもが入手できる情報を図書館は網羅的に収集する機関だった、だからインターネットで一般にアクセス可能な情報をすべて集める、というふうに対応するしかないのかなと思う。
専門委員:  集める時に持ってこられるから集めましょう、持ってこられないから集めないというのではなく、まず集めてみる。そして残せるものは残す。将来、集めたものを類型化することもできるのではないか。
委員:  ネットワーク系電子出版物について、全部収集はとても無理であるが、技術的に可能なものと本来収集すべきものと両方ある。おっしゃるように、どう決めても判断に困るものが出てくるということは分かります。しかし、何かやれるものを探すのがこの小委員会の役目なのかなと思います。それでもどういうものを収集すべきかということは、切り分けがとても難しい。
小委員長:  ちょっと角度を変えてみますと、今個人が持っている本は平均してたぶん数百冊、国会図書館の蔵書の数はその10万倍、100万倍のオーダーです。先ほど少し言いましたけれど、あと10年、20年の間に個人が持てるデジタルデータが数百テラになるとき、その時点で今と同じ比率で国会図書館がテラの100万倍、エクサバイトを持てるだろうか。今の時点で、インターネット上のすべてのデジタル情報が数エクサバイトという量だそうです。今くらいの能力が出るとすれば、全部集めるのも夢ではないというくらいの膨大な収集・蓄積能力を各国の図書館が持てるはずなのですね。だから、相当集めることができ、ほとんどは自動的にできる。ためておくディスクのお金や場所もそうたいしたものではない。
委員:  蓄積は問題ないが、その膨大なデータをどう利用していくかの問題が残るのではないか。先ほどお話がありましたが、デジタル・コンテンツにはいろいろな形があるので、ウェブ・パブリッシングを中心にしてあり方を整理する必要があるのではないか。国会図書館はペーパーメディアすべてを集めてはいない。デジタル・コンテンツについてもそれぞれについて納本制度に組み込むのにふさわしいかという議論が必要である。
事務局:  今お話があったような進め方で結構だと思います。私どもの方でも次回に向けてあらかじめ皆様方にそういう問題提起をさせていただき、皆様方から御意見をいただければ、10月のときにそれを反映した議論を進めることができるのではないかなと思います。私どもも努力いたします。
小委員長:  膨大な調査をするということではなく、発想を変えて見てみるとネットワーク上のものをこういうふうにまとめられるかもしれないということですね。
専門委員:  これまで図書というのは物理的な実体があって、それが物としての所有権が譲渡された場合、所有権が移った人間がどういうふうに使用するかについては物理的な限界とか、歴史的に普通こういうふうに使うものだという一定の合意があったわけです。だから所有権が移転されれば後はそれを図書館が自由に書籍として使う範囲で合理的に使ってよいことが前提になっていた。ところがネットワーク系のコンテンツでは、情報そのものになるために物理的制約がない。そうなると著作権は要するに支分権の束という理論的な原初状態に戻ってしまい、細々とした用途に対して、いろいろと著作権者が口を出せる状況になってくる。今のところ著作権法によってどういう権利があるのかということになっていますけれど、将来これがどんどん広がっていく可能性がある。
 そうなると、これは私の推測ですけれど、収集は勝手にやっていい、使用のときに、著作権者が存在するかどうかすらも怪しいわけですが、いちいち著作権を持っていると言われている人に対して、この用途はいいですかと伺わなければならないことになりかねない。そうなると結局、これは国立国会図書館に入れてもいいと合意したものしか使えないという状況になっていく。要するに、自分がこれは国立国会図書館に入れたいと思うものは国会図書館に登録してください、それ以外については国立国会図書館は集めないということになっても、利用の観点からはイコールの状態になるのではないか。
 そうなると、今データセンターと言われているようなインターネット上のサービスがあって、企業の重要書類などの定期的なバックアップサービスをやる業界があります。それとまったく同じになるのではないか。先ほど図書館という形がどうなるのかという話がありましたけれど、国会図書館は公費で日本国民全員に対して、一定のバックアップストレージを提供するという事業をやることになるのかという印象を持ちました。
 
-課金の可否について-
小委員長:  個人が持っているバックアップを国が使わせてもらう立場になるのではないか。常時双方向の高速接続があるのが当然日常的なものになる。その上で今言われたように商業出版物はコンテンツについては最初に流しておく。全部送っておいて読むときに料金を課する。あるいは内容を改変することに関して特定の契約を作って許諾するとかですね。そういったことが、それぞれの電子的情報の中に付加的情報として盛り込まれていて行われる。
専門委員:  暗号化しておいて鍵をかけておく。国会図書館はその鍵だけ集めておけばよいということになるのでしょうか。
事務局:  今の課金の問題等は現在の納本制度とまた別の観点の話になってしまいますので、そこまで言及することはできません。確かに先ほどのお話にありました民間等がバックアップの会社的なものを運営しているということは知識として持っております。ただこれと同じように国会図書館が課金し、ある情報についてはいくらというようなことをでき得るかということが法の一律性の面から懸念されます。
小委員長:  図書館が課金するということはやはり厳しいだろう。しかし、国会図書館が提供すべき機能が何かは議論していかないといけない。
委員:  いろいろ整理した上でそういう議論をすべきだろう。フルテキストを提供するのか、ゲートウェイか。課金するのか、課金を伴う場合はユーザ自己負担なのか。網羅的収集も選択的収集に切り替えざるをえないのか。それらが納本制度に馴染まなければ別の制度ということになるだろう。購読の方法等で切り分け、納本制度で可能かどうか議論するべきであろう。なお、もし再度新しい形で分類を作られる場合には、資料にある「国立国会図書館インターネット資源選択的蓄積事業」での蓄積の手法などについても参考資料として出していただきたい。
事務局:  蓄積事業について議論の材料にということでしたので、紹介します。審議会で検討していただく一方で、実際の方法について実験を始めなくてはいけないということで、インターネット資源の蓄積実験事業を立ち上げようとしています。現在システム構築中で、電子雑誌と行政情報のウェブサイトをまずはターゲットとして収集を開始する計画になっており、現在、許諾契約の書式を固めております。次回以降、実際にお目にかけることもできるかと思います。計画書についてもできておりますので、資料としてお送りできるかと思います。
 
-国立国会図書館の使命について-
小委員長:  このような作業が行われることを前提として、収集ということの意味が変わってくるとすれば、改めてライブラリーとは何か、あるいはライブラリアンは何をするのかということですね。日本のライブラリーにはライブラリアンはあまりいないけれど、例えばアメリカの大学の研究図書館であれば、ライブラリアンと一緒にリサーチをするわけですね。そういう機能を提供してくれることが非常に重要で、国会図書館のポータルサイトにいけばそういう機能が提供されていて、それをもとにして自分はこれを読もうということを決める。納本制度から外れますが、こちらの方が公共サービスとしてはありがたいことかもしれない。
専門委員:  資料を拝見して、収集したことによって国会図書館にどういう責任が生じるか。また、収集しないことによって100年後、国会図書館にどのような責任が問われるかということを思いました。
小委員長:  メモで随時お出しいただければありがたい。
 
-日本国内発行に関して-
専門委員:  先ほどの小委員長のストレージ容量が上がっていくという話に関連して、世界中のオンライン・データを集めることはシステム的に可能ですか。世界を完全に網羅して、地球エミュレータというようなものを開発することもよいのでしょうか。
小委員長:  可能というのは制度的に可能ということですか。技術的にはどちらかというと日本のものしか集めない方が難しいのではないですか。
専門委員:  ワールド・ヒストリーということはないのでしょうか。
事務局:  お答えになるかどうか分かりませんけれども、国立国会図書館の仕事として我が国の出版物は全部集める、外国の出版物については国立国会図書館の機能に必要なものを集めるという二本立てになっています。アメリカの議会図書館は世界の出版物を全部集めるというコンセプトで集めています。
 インターネットの世界の中でそういうことをやる必要があるのかという問題だと思います。それぞれの国がそれぞれの国の出版物を収集する責任を持って分散をして収集し、それをお互いが利用できれば問題ないのではないか。あらゆる資料について、集め、将来にわたって利用を保証することは技術的には可能かもしれませんけれども、それをやる必要があるのかなと思います。今私どもが考えているのは、出版がどこなのかについて、ドメインの問題とか、日本語の問題とか、いくつかの切り分けをしましたけれども、その中で限定的にやっていくのがまず妥当かと考えております。
小委員長:  そのうちネットワークそのものがグローバルになってくると、集める側も国際的あるいは超国家的機構になるのではないでしょうか。
委員:  サーバをサンフラシスコに置くインターネット・パブリック・ライブラリーは首相官邸のホームページなどもかなり集めている。
委員:  法的義務としてやる場合は、何らかの日本との関連を言わないと現実には難しいのではないか。
委員:  館の設置法の目的規定との関連ではないでしょうか。
専門委員:  一番コストがかかるのは、あるタイプの情報がどこに分類されるかを人間が考えるコストで、それを考えると、すべてやる方が安上がりだということがよくあります。下手に自分で分類していくよりもすべてデータベースに入れて後で検索をかけた方が楽だということです。そういう意味で、今ここで一生懸命限界領域を画したり、国境について考えたりするよりも安上がりではないかと思ったので、そういうことが可能かどうかを伺ったわけです。
事務局:  まず法的な枠組みという問題でいきますと、やはり国内に反映される規定ということでありますので、初めから自由に収集が行われるのではなく、おのずと日本国内での物事となるのが納本制度というものでございます。その辺がまったく自由と考えるならば法的な枠組みを考えること自体がなくなります。
 
-収集によって保存する義務が生じるか-
専門委員:  納本制度を考える際に、収集したらそれを保存する義務は生じるものなのでしょうか。それについても、ビットストリームのまま置いておけばよいのか、それとも元の状態で読める状態にしておかないと責任を果たしたことにならないのでしょうか。
事務局:  これがお答えとして妥当かどうか分かりませんけれども、紙媒体のことでお話ししますと納本制度で集まった資料は長期的に保存するという言い方をしております。また、たとえ出版物であっても簡易なものなど当館の収集目的に合わないものはそもそも図書館資料としての受入れをしないことにしております。それと同じ文脈で考えられるかは別問題ですけれども、内容によっては当館の機能に照らして必要ないものは捨てるということはあり得ると考えております。
 
6. 今後の進め方について
小委員長:  それでは議論は尽きないと思いますけれど、とりあえず次に行きたいと思います。平成14年度の小委員会の進め方について、全体で3回予定されています。なかなかこの場で実質的な議論をしてそれで終わるということは不可能で、その間に特に事務局中心にいろいろ仕事を進めていただかなくてはいけないのですけれども、今日の意見を踏まえて、次回では具体的な収集の方法の検討に入りたい。ですから、メモ、メールで意見も伺いながら、次回は収集方法に関連して検討すべき事項について皆様の考えを改めてお示しいただき、検討する。そのためにも御意見があれば、事前に出していただけるとありがたい。
事務局: 〔今後の予定等について説明〕
小委員長:  他に特になければ、今日の第1回の委員会はこれで閉会といたします。日程の調整は事務局でお願いします。どうもありがとうございました。
(閉会)

このページの先頭へ