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第48回科学技術関係資料整備審議会議事録

日時:
平成19年9月26日(水)午後2時00分から午後4時00分まで
場所:
国立国会図書館 東京本館総務課第一会議室
出席者:
科学技術関係資料整備審議会委員 9名
朝倉均委員、有川節夫委員、沖村憲樹委員、倉田敬子委員、坂内正夫委員、塚原修一委員、土屋俊委員、名和小太郎委員、藤木完治委員
岡﨑俊雄委員、野依良治委員は欠席。
館側出席者 14名
館長、副館長、総務部長、調査及び立法考査局長、収集部長、書誌部長、資料提供部長、主題情報部長、関西館長、総務部企画課長、同部企画課電子情報企画室長、同部会計課長、主題情報部副部長、同部科学技術・経済課長
会議次第:
1. 開会
2. 国立国会図書館長挨拶
3. 新委員紹介
4. 委員長互選
5. 委員長挨拶
6. 報告及び懇談
 (1)デジタルアーカイブ事業の現状と課題
 (2)懇談
7. その他
8. 閉会
配布資料:
科学技術関係資料整備審議会 会議次第
科学技術関係資料整備審議会委員および幹事名簿
科学技術関係資料整備審議会 座席表
科学技術関係資料整備審議会規則
科学技術関係資料整備審議会議事規則
資料 デジタルアーカイブ事業の現状と課題(PDF: 287KB)

議事録:
1 開会
岡田主題
情報部長:
ただいまから、第48回科学技術関係資料整備審議会を開催いたします。
本日の審議会でございますが、昨年度までの長尾委員長が当館の館長に就任いたしました関係で委員長が空席になっております。そのため、委員長互選まで暫定的に幹事である私、岡田が進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
始めに、審議会の委員の異動についてご報告いたします。今回の第48回の審議会では、新たに九州大学理事・副学長の有川委員をお迎えしております。なお、本日は岡﨑委員と野依委員がご欠席でございます。
お手元に本日の資料をお配りしてございます。2枚目かと存じますけれども、本日の会議の次第がございます。とりあえずそれをご覧いただきつつお聞きいただきたいと存じます。
それでは、開会に当たりまして、長尾国立国会図書館長よりご挨拶申し上げます。
 
2 館長挨拶
長尾館長: 長尾でございます。今日はお忙しいところお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。いま、岡田幹事からもございましたが、私は以前この委員会の委員をしておりましたが、この4月からこちらの館長に任命されまして、場所が変わりまして、皆さまのご意見をお聞きする立場になったわけでございます。皆さまから忌憚のないご意見をお聞きしたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。私が委員を辞めたことで、空席ができましたので、当方で検討を進めさせていただきました。その結果、九州大学の理事・副学長をしておられます有川先生に委員をお願いしたのですが、先生は快くお引き受けくださいました。有川先生は皆さまもご存知のとおり情報科学全般に関して非常に広く深い学識をお持ちで、研究も素晴らしいものをなさってこられ、現在も九州大学の附属図書館長を勤めていらっしゃいまして、私どもにとりましては大変適格なる先生を委員にお迎えできたと喜んでいるわけでございます。
この審議会は、私も以前は知らなかったのですが、原子力資料の収集ということが戦後重要な問題として浮上しまして、それについて議論するために昭和28年に発足したということでございます。大変長い伝統を持つものでございますが、この間、社会情勢の変化があり、また科学技術関係資料も種々の変遷を遂げてまいりました。ということで、3年前に審議会の方から「電子情報環境下における国立国会図書館の科学技術情報整備の在り方に関する提言」というものをいただきまして、これに基づきまして、我が方で昨年「第二期科学技術情報整備基本計画」というものを策定して、明らかにしたわけでございます。
従来どおりの紙媒体の資料の収集、提供も大きな課題ではございますが、喫緊の課題として考えられますのは、この電子的に流通している科学技術情報の取り扱いでございます。その中では電子ジャーナルの問題も大きなテーマでございますけれども、もう一つ非常に重要な問題として、私どもの「電子図書館中期計画2004」において目標に掲げましたデジタルアーカイブの構築というものをいかに推進するかということがございます。
ご存知のとおり、ネットワーク上には、紙媒体になっていない電子情報だけのもので、優れたものが今日たくさん出てきております。各種ウェブサイト、論文等様々な種類のものがございますが、それらを日本の財産として長期保存をしていくことが私ども国立国会図書館に課せられた任務ではないかと考えているわけです。ただ、従来の納本制度の枠内でそれらを収集することはできないとはっきりしてきたわけでございまして、今後どういう法的根拠に基づいて収集していくのが良いかということが大きな課題になっているわけでございます。
本日は以上述べたことについて、先生方の色々なご意見をいただきまして、私どもの今後の進め方に関する参考にさせていただきたいと思っております。また、電子ジャーナル等の問題につきましてもご意見をお聞きしたいわけでございますが、一度に多くのテーマを扱うことはできませんので、また年が明けましてもう一度この会議を開催させていただきますが、その時などにご意見を伺う機会があるだろうと思っている次第でございます。
今回は、「デジタルアーカイブ事業の現状と課題」ということで私どもが最近努力してまいりました内容を報告させていただきまして、それを基に先生方のご意見をいただきたいと思っております。本日は、特にこれを決定する、というテーマを用意しているわけではございませんので、時間の許すかぎり貴重なご意見をいただければ大変ありがたいと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 
3 新委員紹介
岡田主題
情報部長:
今期新しく委員をお願いいたしました、九州大学理事・副学長の有川委員に、ひと言お言葉を頂戴できれば幸いです。
有川委員: 有川でございます。先ほどは長尾館長に過分なご紹介をいただきまして恐縮しております。微力でございますけれども、一生懸命務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
 
4 委員長互選
岡田主題
情報部長:
それでは次の議事に移らせていただきます。先にお話した事情によりまして、現在は委員長が選出されておりません。ここで委員の皆さまに委員長の互選をお願いいたします。慣例に従いまして、最も当審議会のご経験が長い名和先生に、選出の手続きを進めていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
名和委員: ただいまのご説明にありましたように、委員長選出をお願いいたします。どなたかご意見、ご推薦いただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
土屋委員: 私としては、新委員になっていただいた有川先生を推薦したいと思います。理由としては、この名簿だと理事・副学長と書いてありますが、先ほど長尾館長からのご紹介にもあったように、図書館長を10年近く務められて、特にこの10年間の国立大学附属図書館全体の電子化、電子ジャーナルの導入、機関リポジトリの構築等の主要な展開のリーダーシップを取られてきて非常に図書館事情にお詳しいということがまず一点です。
もう一点は、やはりこれも長尾先生からのご紹介にあったことですが、情報科学、情報技術に関しての造詣が大変深く、また先端的な研究にも、おそらくいまなお従事していらっしゃるということです。
以上のような理由から、このようなテーマの審議会の委員長としてご指導いただく、リーダーシップを取っていただくには最適ではないかと考えますので、推薦したいと思います。
名和委員: ただいま土屋先生から委員長に有川先生をご推薦いただきました。皆さま、いかがでしょうか。
委員一同: 異議なし。
名和委員: ありがとうございます。それでは有川先生、よろしくお願いいたします。
(有川委員、委員長席に着席)
 
5 委員長挨拶
有川委員長
(以下、委員長)
ご推挙いただきました有川でございます。長尾館長よりある時にお電話いただきまして、この審議会の委員に就任することを依頼され、お引き受けしたわけでございます。先ほどからご紹介いただいておりますように、大学ではございますが、図書館長を長く務めさせていただいておりますので、館種の異なる図書館で勉強させていただくいい機会だろうと考えてお引き受けしたわけでございます。新任で、正直申しまして委員長というのは荷が重過ぎるというふうに感じておりますが、ご指名でございますので引き受けさせていただきます。皆さま方のご審議とご協力を得ながら、国立国会図書館の発展のために少しでも貢献できればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
まず議事規則に則りまして、委員長が不在の場合に本審議会を円滑に運営するための委員長代理をお願いすることといたします。名和先生にお願いしたいと思いますが、いかがでございましょうか。
委員一同: 異議なし。
委員長: 名和先生、どうぞよろしくお願いいたします。
 
6 報告及び懇談
<報告>
委員長: 本日はお手元の資料に記載がございますように、報告と懇談ということになっております。まず、国立国会図書館からの報告としまして、「デジタルアーカイブ事業の現状と課題」につきまして簡単にご報告いただくとともに論点を整理していただきまして、それに関しまして先生方からのご意見を頂戴したい、というように思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
田中
電子情報
企画室長:
先生方に議論いただくための材料といたしまして、「デジタルアーカイブ事業の現状と課題」について簡単に報告させていただきたいと思います。
(報告略。資料「デジタルアーカイブ事業の現状と課題」参照)
<質疑及び懇談>
委員長: 「デジタルアーカイブ事業の現状と課題」ということにつきまして、ご説明をいただきました。そして最後に科学技術情報流通・蓄積の観点からの論点ということで大きく3点にわけて整理していただいております。ただいまの報告をベースにしながら、皆さま方から、この「デジタルアーカイブ事業の現状と課題」について、ご質問、ご意見、ご提案などを出していただきたいと思っております。まず、ただいまのプレゼンテーションに関しましてご質問等ありましたらよろしくお願いします。
土屋委員: 言葉の問題になってしまうのですが、表紙にある「デジタルアーカイブ事業」と、3ページの「デジタルアーカイブ」と、5ページにある「デジタルアーカイブシステム」というのは、どのような関係になっているのですか。
田中
電子情報
企画室長:
表紙の「デジタルアーカイブ事業」というのは、従来電子図書館事業と呼んでいたものです。その主要な部分がデジタル資源のアーカイブであるということで、現在は当館の行っている電子図書館関係事業全体をそのように呼んでおります。次に、3ページの「デジタルアーカイブ」についてですが、これは事業全体ではなく、アーカイブそのものを作るというその具体的な部分を指して、一般名詞として使っているものです。最後に5ページの「デジタルアーカイブシステム」ですが、これは正式には「国立国会図書館デジタルアーカイブシステム」という名称の、デジタルアーカイブを実現するためのシステムを具体的に指しておりまして、固有名詞です。同システムは、平成17年に構築を開始し、同21年に構築が完了する予定となっております。
名和委員: 「国立国会図書館デジタルアーカイブシステム」と競合するようなシステムは、現在世の中に存在しないのでしょうか。あるいはすでに計画されているということはないのでしょうか。
田中
電子情報
企画室長:
もちろんデジタルアーカイブを機能としているシステムというものは様々な機関で構築されていると思いますが、少なくとも日本国内で見る限り、長期保存を主目的にしたデジタルアーカイブのシステムというのは、おそらく当館が現在構築中のものだけではないかと思っております。
沖村委員: それに関してなのですが、科学技術振興機構でも実はデジタルアーカイブを構築していまして、保存を目的にしております。学術雑誌のJ-Stageという電子ジャーナル発行を支援し公開するためのシステムがありますが、そのアーカイブサイトであるJounal@rchiveがそれに当たります。Jounal@rchiveでは、日本科学界の代表的な学術雑誌を、保存目的で創刊号から電子アーカイブ化しています。Jounal@rchive は、J-STAGEに収録されている最近の雑誌データとも相互にリンクしています。
ところで、一点質問があります。6ページに「法制度化の検討」とあるのですが、これは具体的にはどういうものですか。
田中
電子情報
企画室長:
すでに紙の出版物では法的強制を伴った形での収集の制度というものがあるわけですが、デジタルインターネット情報資源について、納本制度と同じではないにせよ、何らかの形で制度構築ができないかということで、この数年間検討してきたものです。ただ、実際にはいくつかの課題がありまして、現在はその条件を精査している段階です。具体的には、その収集の範囲、法的義務を課す範囲、収集の対象、といった諸問題について現在検討を進めております。
委員長: 法制度に関しまして、もう少し具体的なイメージをいただけますか。
吉永総務部長: 法制度につきましては、納本制度審議会からいただいた答申を基に、ここ2年ほど特別に体制を作りまして、色々な検討を行ってきました。大きな枠組みとしては、インターネット情報(ネットワーク系電子出版物)についても何らかの法的な枠組みを作って収集する、表層ウェブに存在する情報についてはクローラーで収集し、データベース等深層ウェブに存在する情報については個別に送信を受けて収集する、という形を目指しているところです。ただ、その収集範囲や提供方法をどうするかということになると様々な問題があります。インターネットで提供するか、あるいは館内でのみ提供するのか、収集や提供に必要な著作権制限をどのような形で課すのかなどのことについて、目下検討を進めているところです。
インターネット情報を包括的に収集することに対する疑義ということもあります。インターネットの世界には、児童ポルノをはじめ様々な違法情報が存在していますが、そのようなものまで当館が収集し、インターネットで提供する結果になってもよいのか、という問題があります。そのようなことを考えても、網羅的に収集することは難しいのではないかと考えておりまして、基本的には、国、地方公共団体等の作成情報、あるいは学術的なものから収集を進めていくということを想定して、現在法制度の検討を進めているところです。
またそれと同時に、国民各層に広報していこうと考えております。この審議会もその一つなのですが、様々な場で当館が考えている制度についてご説明し、ご理解をいただきながら、事業を進めていこうと考えております。
委員長: ありがとうございました。先ほどは長期保存ということを目的としたデジタルアーカイブということに関しましては、国立国会図書館が唯一だろうということに対しまして、科学技術振興機構の沖村先生から少し反論も出ましたが、その点、長期保存ということでは必ずしもないかもしれませんが、国立情報学研究所での事情はいかがでしょうか。
坂内委員: 国立情報学研究所でも学術誌約700誌について、初号からのアーカイブが完了しています。
委員長: 以上のお話でも分かるように、デジタルアーカイブということについては、目的は多様であろうと思いますが、大学等も含めた各種機関で様々な取組みが為されていると考えてもいいのではないかと思います。ただ、先ほど法制度の話も出ましたが、その運用の仕方には国立国会図書館と他機関の間に大きな違いがあって、そのことが国立国会図書館のデジタルアーカイブ事業の特徴を成すものなのではないかと思います。
名和委員: 法制度のことなのですが、著作権が一番問題になるということはそうだろうと思うのですが、それとは別に、スクリーニングの問題があると思います。これは表現の自由等が絡むわけで、国立国会図書館が行うわけですから、かなり慎重にことを運ばなくてはいけないということがあろうかと思います。
また、これはすでに法制度に関するご検討の中で議論されていることかもしれませんが、現在、Googleは色々な国で訴訟をやっております。そして、これももうお調べかもしれませんが、国によって判断が異なります。例えば先ほど、クローラーで収集するという話もありましたが、勝手に収集することはけしからんというようなことが裁判で出ているような国もあります。つまりオプトインとオプトアウト、どちらの考え方を採るかということだろうと思います。さらに著作権のあるもの、ないものでまた判断は異なってくるかと思いますが。
それから、インターネット情報(ネットワーク系電子出版物)を包括的に収集することに対する疑義ということで、先ほど児童ポルノをお示しになりましたが、学術論文で考えた場合に、例えばバイオテロなどに関するものはどうするのか、ということも考えた方がよいと思います。
坂内委員: インターネット上の重要な情報をアーカイブしなければならない、ということは理解できるのですが、それを実際に行ったらどれくらいのスケールになるのか、定量的な検討は行ったのでしょうか。インターネット上のものですから、内容は刻一刻と変わっていくわけですが、量的な点で、本当に可能かどうかという視点をお持ちかどうかということをお聞きしたいわけです。この類似例としては、アメリカのNational Security Agencyが安全保障関連の情報を世界中から収集しているアーカイブというのがありますが。
もう一つあるのですが、それぞれ著作権の問題はあるにしても、ともかく法制度上、懸命に作り上げたデータベースをすべて納めなければならない、ということになると、データベースを自前で作成する機関を絶やしてしまうという事態を招いてしまうのではないでしょうか。つまり、国立国会図書館が、それぞれのデータベースについてインセンティブ、権利をきちんと担保したうえで、善意に基づき収集しようという協調型のシステムを作り、その中である種のコントロールをしていくということであれば理解を得やすいと思うのですが、国立国会図書館はすべてを収集しアーカイブしなければならない、国立国会図書館にはすべて提供しなければならない、ということであれば、各機関の理解は十分には得られず、摩擦が生じることになるのではないでしょうか。例えばアメリカでこういう類の提案を出したとしたら、かなり多くの機関から反発を受けることになるのではないかと思います。実際にインターネット上の良いデータが収集可能となるように、以上のような点を考慮した設計図が必要なのではないかと思います。そのような点についてどの程度考慮されているのか、先ほどのご報告では理解しにくく、かなり膨大なことをされようとしているな、という印象を受けました。
科学技術振興機構、国立情報学研究所、あるいは各大学の機関リポジトリ等は、まだ始まったばかりで、2~3年前にはほとんど存在しなかったわけです。大学の機関リポジトリは、2~3年前から国立情報学研究所と各大学が学術コンテンツを協同で構築しようということで少しずつ進めてきて、現在57大学で構築中です。国立大学法人化以降のこの時代に、大学の活動をアピールしていかなければならない、ということがインセンティブとして働いて、かなり進みつつあるというところです。そのような状況の中で、すべて召し上げという印象を与えるとよくないのではないかと懸念します。やはり情報は作成した機関でアップデートし、蓄積していくというのがインターネットの社会での自然な流れではないかと思います。また一方で、最終的にはどこかの機関がきちんとアーカイブするという仕組みもやはり重要だと思います。そのあたりについて、ご検討はされているのでしょうか。
委員長: いま名和先生、坂内先生から、いくつかの大事な点を出していただいたと思います。
一つは名和先生から、スクリーニング、あるいは選択権というようなことから考えますと、表現の自由にも絡んできて相当厄介な問題がある、割り切りが難しいところが当然出てくるわけですが、そういうところに足を踏み込むことになってしまうということ。
また坂内先生からは、何でもアーカイブしようとすると、膨大な量になるわけですが、それはどのようにして蓄積しておくのかということ。それから、納本という言葉遣いが、インターネット社会でも妥当であるかという問題もあろうかと思いますが、そのような制度が、一般のデータ、情報を作っている側に、召し上げられるという感覚を与え、自主的な作成意欲を殺ぐというようなことにも繋がっていくのではないかということ。
以上のうち、例えば量的な問題につきましては、先ほどのご報告の中の4ページでは、ウェブサイトの収集について、闇雲に行うということではなくて、ある程度明確な定義が設けられていますが。
長尾館長: この問題については、館内でまだ議論が終わっていないので、いまから私が申し上げるのは全く個人的な意見です。
インターネット情報(ネットワーク系電子出版物)というのは、その全体が、日本の文化的な側面の重要な記録だと思うのです。やはり国立国会図書館として行うべき仕事というのは、理想的には、日本の色々な文化活動のために、それをきちんと記録して残していく、ということではないかと考えています。ただ、それをすべてアーカイブしておくとなると膨大な量になりますし、著作権問題を始めとする様々な問題があるので、まずは限定的なところから着手するしかない、ということになるわけですが。
アーカイビングは色々な機関が行っておられますが、そのようにきちんと行われている機関のものまで我々が取り込む必要はないのではないか、と思っております。ただそのような各機関に、アーカイビングについて、長期保存、あるいは永久保存というように、どこまで長期的な保証を持っていただけるのかということは重要だと思います。もう今後続けていくことはできない、アーカイビングは終了である、というような場合には、やはり国立国会図書館に移管していただくべきではないかと思いますが、それが確約されているのであれば、必ずしもいま収集しなければならないということにはならないと思います。ですから、坂内先生が仰ったように、各機関と連携しながら収集していく、という方向性がよいのではないでしょうか。
ただ、インターネット情報は日々変わっていきますから、現時点のものを持っているだけではやはり十分ではないわけです。一年前、半年前、あるいはさらに前のものが、どのように経時的に変化してきているかということまできちんと保存するということも、物理的に可能な範囲で努力する必要があるのではないかと思います。その観点で考えた時に、様々なウェブサイトが経時的変化をきちんと残していっていただけるかというと、やや疑問だと思います。そのような配慮は面倒だと仰るところについては、国立国会図書館でアーカイブしてもいいのではないかと思います。
委員長: 長尾館長にまとめていただいたような感じでございますが。
朝倉委員: 国立国会図書館が基本的に何を行うかということをまず決めて、例えば国立情報学研究所が収集しているものとはリンクで結べばいいわけですし、科学技術振興機構で収集しているのものとも同じことをすればいいわけです。そして最終的に各機関が機能しなくなった時には、国立国会図書館が強制的にそういう情報を収集できる、という法律、制度を整備しておけば、資料の散逸はなくなるのではないかと思うのです。今後も様々な機関が作成し続ける情報のすべてを国立国会図書館で収集することは非常に難しいと思うので、まず基本的なものを収集して、それに加えて色々なところとリンクで結んで、というのがいいのではないかと思うのです。もちろん最初の頃は著作権の問題等がありますから、情報の制限が加わるかもしれませんが。
それから、例えば江戸時代の色々な古い情報、庶民の生活についてのそれなどは、公式の文書には載っていないわけです。そのようなことについては、例えば色々な人の日記などから情報を得られるわけで、これを現代に移して考えれば、いまはいかがわしく見えるものも、100年後、200年後にはその時代を表現する非常に重要な情報になることもあると思います。そのようなものをどのように収集していくかということが問題なのではないかと思います。
倉田委員: デジタルアーカイブ事業について、非常に幅広いところをすべて網羅しようというお考えは非常によく理解できるのですが、ウェブサイト単位のアーカイブ、著作物単位でのアーカイブ、これまで国立国会図書館が継続的に行ってきた貴重書等のデジタル化、CD-ROM等のパッケージ系の電子出版物という、現状では文脈も現在までの経緯も相互に異なるものが、一緒にされているのがやや分かりにくいと感じました。もちろん最終的には、それらが全部一定の方向で、ある種のアーカイブとして何らかの形で統合されることが最も望ましいとは思うのですが、その統合というところをあまり強調されてしまうと、誤解を生じさせてしまうのではないかと危惧します。先ほども、納本制度に関するお話は、伺っていて、話が少し違うのではないかと思いました。
私としては、より詳しく伺いたいのは、むしろ長期的保存ということです。その点に関しましては、科学技術振興機構でも国立情報学研究所でも、もちろんそれなりのお考えはあるのだろうと思うのですが、やはり50年、100年というスパンでデジタルのものを保存していくことを考えた時には、いまなお技術的に大変大きな問題があり、それについて解決はまだほとんど見えていないと思うのです。現時点で解決策はないところで、暫時的にとにかく決めなくてはいけないわけです。デジタル情報の長期的な保存の具体的な方法、あるいは枠組みについて何かお考えがあれば、それは国立国会図書館が独自に行っていける分野の一つで、指導的な役割を果たすことができるものなのではないかと思うのですが。
藤木委員: 私は、国立国会図書館の基本的な役割ということに関するいままでのお話をお聞きしていて、やはり長期保存という点は、他機関のアーカイブなりデータベースにはない独自の役割なのではないかと思いました。ただ、長期保存ということの意味合いを、もう少し突き詰めて考えてみる必要があるのではないかとも思います。長期保存とは、あらゆるデータベースが仮に存在しなくなったとしても、国立国会図書館単独ですべてを保存しておくというような極めて厳密な意味での長期保存なのか、あるいは国立国会図書館が、日本あるいは世界のどこかにこの情報が存在しているということを確保しているという意味での長期保存なのか。後者の状態、つまり国立国会図書館独力で保存を行うというのではなく、世界のどこかにこの情報が存在しているということを確認している、という状態も一種の長期保存である、という考え方もあると思います。
報告等をお聞きして、国立国会図書館ではおそらく、長期保存なのだからということだと思うのですが、本の収集ではすべて現物がこの建物の中にあるというのと同様に、データそのものがこの「デジタルアーカイブシステム」の中にあるということが、理想的な状態として暗黙のうちに前提されているのではないかと感じました。それで、先ほど長尾館長が仰ったのとは少し異なるのではないか、と内心で比較していたのですが、国立国会図書館としては、そのどちらを目指すのでしょうか。どちらを目指すかで、おそらくコストも大幅に異なってきますし、制度的にも相当枠組みが異なってくるだろうと思うのです。長期保存について国立国会図書館自身として行うべきものと、周辺の機関の力を借りて行う部分、その切り分けについて議論をしっかりやってみてはどうかと思いました。
委員長: 非常に大事な議論が為されていると思います。確かに長期保存については、それぞれの機関で取り組んでいらっしゃるわけですが、その長期の意味合いが機関により多少異なっているのではないかという気がいたします。また、先ほど朝倉先生から、様々な機関が長期保存を行っているが、それらが機能しなくなった時、あるいは機関自体が存在しなくなった時には国立国会図書館に全部預ける、ということを保証しながら続けていってはどうかというお話がありました。分担して長期保存という仕事を行っていくということも大事なのですが、一方で非常に強固な組織と非常に脆弱な組織があるという現実もあるわけです。その脆弱な組織に非常に重要な情報が存在するということがありうるわけですが、その機関が収集あるいはメンテナンスを中止する時にはどこかの機関に預ける、それが最終的には国立国会図書館である、という道筋が確立されていることは非常に重要なことだろうと思います。
組織というものはいま、予算の問題あるいは制度の問題で、日々激動しています。行政の世界では、市町村合併で存在しなくなってしまうことがありますし、大学も廃校になるところが出てくる、また出版の世界でも統合、廃刊ということがあるわけです。そのような現状を国全体としてどのように見ていくか、ということがありますし、またもう少し大きく考えるのであれば、国際的にもアーカイブの分担ができている、全世界的に見るとしっかりしたものが何セットか揃っている、という状況を作っていることが必要なのではないかと思います。以上のような論点については、「第二期科学技術情報整備基本計画」を策定なさる時のプロセスでも十分議論していただいたようですが、今後さらに、もう少し具体的に考えてみる必要があるのではないかという気がいたしております。
土屋委員: ただ、大きな枠組としてインターネット情報(ネットワーク系電子出版物)という言い方が、10年昔の言い方だと思うのです。つまり、90年代の半ばくらいからインターネットというものが非常に一般化してきていましたが、10年前の平成10年頃というのは、まず学術機関が、次に民間の機関が、そして個人がウェブサイトを立ち上げ始めた時期に当たります。国立国会図書館は、その頃にはすでにそのような情報の保存ということについて構想をお持ちで、そのこと自体は評価に値すると思います。しかし、その後10年間経った現在では、ウェブサイト自体の構造が全く変わってしまっています。例えば現在の出版社で、自社のサーバにアクセスさせるというところは少数派で、多くの場合はキャッシュサーバというものを、世界中の主要な都市に配置して利用しているわけです。そのような現状を考えると、もはや現物がある、あるいはないと問うこと自体の意味は何かということを考え直すべき時期に来ているのではないかと思います。
電子ジャーナル、電子ブックというものは、90年代の後半には得体の知れないものだったと思うのです。私自身、そのようなものになぜお金を払うのか、という議論をしていた記憶があります。ところがそのようなものも、10年が経過した現在ではある程度納得のいく制度になりつつありますし、さらに5年、6年が経過すればなおさらだろうと思います。そのように時代が変わり、概念が変わっていっている時に、ウェブサイトの収集等について、10年前の枠組に依拠して議論するのは、滑稽ですらあるのではないかと思うのです。大変よくできている、5年前であれば評価に値した構想であっても、現在の状況にどのように翻訳すべきか分からない、ということでは意味がないと思うのです。
委員長: 先生方、非常に闊達に議論していただいておりますので、その議論の中から重要な論点が浮かび上がってきていると思います。それを受けて、次回くらいにまとまってくるのではないかと思います。
かなり以前ですが、国立国会図書館では、CD-ROMをどう扱うかという問題に取り組まれていたと思います。それまで印刷物だけだったのが、CD-ROMというものが出現したわけです。それは納本等という既存の制度に馴染む性質のものではありましたが、国立国会図書館ではその時に新たなメディアへの取り組みを経験なさっている。そして次にはウェブサイトということで現在ちょうど議論しているわけですが、土屋先生は、ウェブサイトというものの概念が少し変わりつつあるのではないかと仰いました。SNSであるとか、様々なタイプのものが出現してくるという状況の中では、構想を作りそれに基づく計画を何十年もかけて進めていく、と言った途端に、収集すべきものの中心が別のところに移ってしまっているということにもなるだろう、という警告であったと思います。しかし一方では、そのような変化の速度にもかかわらず、国立国会図書館の本来的な役割から考えれば、大事なものは大事で、アーカイブしていかなければならないということもあるはずだと思います。そのあたりをどう特徴づけていくのか、どう均衡させていくのかというのは、非常に難しい問題だろうと思います。
それから先ほど長尾館長から、インターネット情報は日本の文化のスナップショットである、というお話がありました。そういうものをアーカイブしていくことを考えた時に、まず量的な問題が出てくると思いますが、それだけでなく、どういう間隔でそれを行うかという問題、また技術的な問題等、様々な興味深い問題が出てくると思います。すべてを収集するというのではなくて生きたものとしてある一定の期間を捉えるというようなことは、技術的にも非常に面白いことになっていくのだろうと思います。
土屋委員: 非常に単純な質問をさせていただきます。「国立国会図書館デジタルアーカイブシステム」のハードディスクというのは、どの程度の大きさなのでしょうか。
田中
電子情報
企画室長:
平成21年度の稼動開始の時点でのハードディスクの容量は、現時点では60テラバイトを想定しております。つまり、本当に厳選したウェブサイトのみを収集するという想定とご理解いただければよろしいかと思います。
土屋委員: そうですか。例えば現時点で、機関リポジトリを全部合わせるとどの程度の規模になるかと考えてみますと、1万論文という規模を画像で収集しているものが数サイトあり、ほかは数千というところだと思います。1万論文という規模のものが2~3年で50サイト程度になったと仮定して、一論文が1メガ程度とすれば、機関リポジトリだけでも500ギガという計算になります。以上から見ても、60テラというのは規模的にはやや小さいのではないかという印象を持ちました。毎年の予算で規模を拡大していけるのかもしれませんが。
もう一点、細かい質問ですが、いま委員長からもご指摘があった、パッケージ系の電子出版物をメディア変換してデジタルアーカイブシステムに搭載するというのは、例えば第4版広辞苑の電子版が、少なくとも来館すればそのシステム上で見られるということでしょうか。
田中
電子情報
企画室長:
現時点では、利用環境、利用条件等とセットにした形でパッケージを作り、コンテンツをマイグレートして保存するということを想定しています。ただし、再生環境がどこまで用意できるかはまだ非常に難しいものがあろうかと思います。
土屋委員: 少なくとも、例えば広辞苑の電子版が、デジタルアーカイブシステムの上で見られるということでしょうか。
田中
電子情報
企画室長:
個別タイトルについてお答えはできませんが、保存したものの中には、見られるものもあることになります。ただ、利用環境を構築することがあまりに困難なものについては、環境条件は残っているが実際にそれを利用するための条件まで全部復元することはできない、というものも出てくるのではないかと考えております。ただその場合も、すべてを記録として残しておくという意味はあるということです。
土屋委員: 記録として残るが読むことはできない、ということですか。パッケージ系電子出版物をそのままで残しておいても70%は読むことができない、と結論づけた報告書がありますが、その残りの読むことができる30%の方をメディア変換して残すということですか。
田中
電子情報
企画室長:
そうではありません。パッケージ系電子出版物はいずれすべての再生利用環境が失われてしまうというその前提で、いまはその利用環境利用条件等セットの形でコンテンツそのものをともかくアーカイブしておく、ということです。国立国会図書館として、そのすべてを復元して利用可能にする、というところまではすぐには手が及ばないかと思います。
土屋委員: 将来は読めるようになるのですか。
田中
電子情報
企画室長:
条件をきちんと記録していけば、すべてを再生するということも、いずれは可能であるかもしれないというところです。ともかくいまは残しておくことが大事なのではないかと考えております。
土屋委員: 時代が経てば経つほど、再生は難しくなりそうな気がするのですが、どうなのでしょうか。例えば昔、CP/MというOSがありましたが、その上で再生するようなものも読めるようになるのですか。
和中関西館長: 土屋先生も仰るとおり、時代が経てば経つほど再生が難しくなるという現実はあります。その点については我々にも危機意識がありまして、平成14年度から3か年かけて、パッケージ系電子出版物の長期的な再生可能性について調査を行いました。その結果、時代を経たものについては再生がかなり難しいということが判明しました。それを受けて、現在はまずフロッピーディスクについて、将来的に利用可能とするための作業を進めています。先ほどからデジタルアーカイブシステムの運用を開始すると申し上げている、3年後の平成22年度までには、フロッピーディスクを基本的にはすべてマイグレーションあるいはエミュレーションして利用可能にしたいと考えております。我々は、すべての資料についてすぐに利用可能な状態を目指せるとは考えておりません。パッケージ系電子出版物の再生可能性については、調査研究をまず行ったわけですが、その結果を受けて、それに関するガイドラインを作りたいと考えています。そして今後は、国立国会図書館だけがパッケージ系電子出版物に関する作業を進めるのではなく、ガイドラインを始めとする様々な情報をすべて公表することで、他機関で調査研究、あるいはマイグレーション等の作業を行っていただけるような仕組みを作っていきたいと考えております。
先ほど長尾館長が申し上げたことの補足になるのですが、確かに電子図書館構想というものが、1998年に作ってから現在まで、国立国会図書館だけで進められてきた、という面はあると思います。そしてその進め方は、現在の環境下では適切ではないのではないかとも思います。様々なほかのアーカイブ機関と、役割をどのように分担するかということを話し合う会合を、何とか今年度中に持ちたいと思っています。それに関連して申し上げますと、国立国会図書館では「デジタルアーカイブポータル」というものを作りました。まだ小規模なポータルですが、これによりプロトコル等の標準化を進めることで、様々な機関でアーカイブを進めていくための仕組みができればいいなと考えているところです。
いまネットワーク系電子出版物に係る機関間の役割分担についてお話しましたが、パッケージ系電子出版物のマイグレーション等についても同様のことを考えております。
名和委員: マイグレーションに関連してお聞きしたいのですが、これまでの古いメディアに関わるハードウエアとかソフトウェアとかマニュアルというのはどこかできちんと保存されているのでしょうか。そういうものを保存することを、国立国会図書館として考えていらっしゃるのでしょうか。
土屋委員: マニュアルは納本されているのですか。
田中
電子情報
企画室長:
一部はあるのではないかと思います。
長尾館長: 納本されているものもあるし、されていないのもあるのではないかと思います。
和中関西館長: なお、電子資料課が所蔵している一万枚のフロッピーディスクについて、調査を進めてきております。その作業により利用不可と判明した資料については、今後対応を考えなければならないと思っております。
土屋委員: 先ほどお話に出た、パッケージ系電子出版物の長期的な再生可能性に関する調査の中で、資料が利用不可だった原因として、パスワードを聞くのを忘れた、あるいはメタデータにパスワードのフィールドがなかった、というものがあったと思うのですが、そのあたりはもう改善されたのでしょうか。
坂内委員: アーカイブに関連してなのですが、国立情報学研究所には、大学の先生が定年になった時に、その先生がそれまで維持していたデータベースの維持・管理を行ってほしいという要望がかなり寄せられます。これにはかなり大きいニーズがありましたので、一時受入データベースという事業を国立情報学研究所で行っていたことがあるのですが、結果的には破綻しました。かなりの容量のディスクを使って、コストをかけて維持・管理を行っても、やはりあまり使われない、付加価値を引き出すということが十分にはできないというのが現実でした。データというのは、それをマネージしていてアップデートしていた当事者から離れると、もう血が通わなくなって死んでしまうということがあるわけです。
また、アーカイブというのは大事なのですが、どこの機関も予算の獲得に苦労しているという現実があります。そのような現状の中で国立国会図書館に期待したいことは、国としてのアーカイブシステム構築の中心的役割を果たすことです。アーカイブシステム構築は、日本としてこれだけの情報は蓄積していかなければならない、という範囲を決めて、国としての投資を確保して、それをコストパフォーマンスを考えつつ配分していく、というように進めるものだと思います。当然この前提として、藤木先生からもお話があったように様々な機関による連携、ある基準を設けて、自機関では維持しきれなくなったら国立国会図書館なりほかの機関が吸収をして、ともかく国内のどこかには存在するようにしていく、というような連携があります。この際、重複のないように効率よくアーカイブを実現していくための大きい設計図を描くことが重要だと思います。そのような現実的なアーカイブシステムの構築を、国立国会図書館が中心となって進めていくべきだと思うのです。
アーカイブというのは構築にかなりコストがかかります。科学技術論文あるいは特許というものであれば理解は得やすいのですが、それ以外の情報となると理解を得ることは難しく、予算の獲得も難しいわけです。ですから、国全体で協力して事業を進めることが重要なのです。
土屋委員: コストがかかるというだけではなく、コストパフォーマンスが悪いということもあります。
坂内委員: パフォーマンスというものにあまりとらわれ過ぎず、大所高所から、文化的な、見識の高い視点でアピールするのが、国立国会図書館の役割ではないでしょうか。
名和委員: そもそも図書館というもの自体が、コストパフォーマンスが悪くてもよいものではないのでしょうか。
土屋委員: ただ大学図書館は、いわばコストパフォーマンスがいいところにシフトしているわけです。つまり場所は学生のために使う、研究の資料というのは電子的に導入する、というように、ほぼ方向性は定まっていると思うので、やはりパフォーマンスが取れているということは事実だと思います。ほかの館種の事情は分かりかねますが。
坂内委員: もちろんパフォーマンスは 様々な協力をして最大限追求していかなければいけません。しかしアーカイブ自体の重要性をアピールして国民各層の理解を得ることも、同様に重要だと思います。
委員長: コストの問題というのは、普通に言っているものとは異なり、もう少しロングレンジに、文化的なことなども考慮しながら判断しなければいけないのだろうと思います。
坂内委員: そのとおりだと思います。そして文化的なことというのは、なかなか投資が行われないのが現実です。
沖村委員: いま坂内委員が仰った件に関連するのですが、Googleは慶応義塾大学附属図書館とアーカイブ事業を進めています。そして、科学技術振興機構も先日東京大学附属図書館と同様の協定を締結しました。小宮山宏総長が仰るには、同館には蔵書が830万冊あるそうですが、これをアーカイブするなどということは、現在の機構の予算では何年かかっても実現できない話なのです。
それと比較して考えますと、国立国会図書館のこのデジタルアーカイブ事業というものは、図書のほかにあらゆる情報を含んでいます。中でも特にウェブサイトのアーカイブというのは困難を含んでいると思います。例えば新聞のアーカイブを行おうと思ったら、分刻みで紙面が変わっていくわけです。そのようなことまでを含めて行おうということなのでしょうか。もしそうだとすると、この事業をきちんと行おうと思ったら、桁が違うコストがかかるはずです。以前にもこの審議会で申し上げましたが、実はデジタルアーカイブの問題は「第3期科学技術基本計画」でも取り上げられています。ですから、やはり総合科学技術会議か省庁など、国全体で一度きちんと議論して、国としてどのように取り組むかというグランドデザインを策定することが必要だろうと思います。こう言っては失礼かもしれませんが、国立国会図書館の現在の予算だけでできる規模ではないと思います。
委員長: 非常に貴重な、活発なディスカッションをいただいていると思います。ただ、残念ながら時間があまり残されておりませんので、そろそろ議論を終わりにしなければなりません。本日は、非常に大事な方向、ポイントについてご指摘をいただいたと感じております。本来、委員長としてのまとめは必要なのかもしれませんが、最後に坂内先生と沖村先生からかなりまとめに近いようなことを言っていただきましたので、私の方から繰り返すことは控えたいと思います。
坂内委員: ただ、過去も類似の議論が為されていて、それが現在のデザインにあまり反映されてきていないようなので、是非反映をしていだくようにお願いします。
委員長: それに関しましては、例えば、本日いただいた「デジタルアーカイブ事業の現状と課題」の中に本日の議論などもうまくまとめていただいて、常に現状と課題が列記されているような形を取っておけばいいのではないかと思います。技術的な問題とか、制度的な問題、法的なことも含めまして、非常に深い問題提起がなされたと思っておりますので、それらについて、例えばいま申し上げたような形で整理していただき、目に見えるようにしていただければと思います。私の印象では、確かに過去に類似の議論はあったのですが、それは本日為されたものとは少し異なっていたのではないか、と思っております。今回は、いくつか具体的に、他機関との連携について話が出ましたし、情報工学的なこと、あるいは情報処理の問題等技術面においても共同で取り組む必要がある、という話も出ていたと思います。
 
7 その他
委員長: 懇談の方はこれで終わりたいと思います。ありがとうございました。今年度の今後の予定について、岡田幹事の方からお願いいたします。
岡田主題
情報部長:
次回の審議会でございますが、今年度中に、もう一度開催させていただきたいと考えております。具体的な議事内容につきましては追って連絡を差し上げます。
次に委員の先生方の任期でございますが、すでに事務局からご連絡しているところでございますが、倉田先生、塚原先生、土屋先生につきましては11月1日付けで再委嘱させていただきたいと存じます。改めてどうぞよろしくお願い申し上げます。また本日ご出席いただいたそのほかの先生方につきましては、すでに9月1日付けで再委嘱させていただいております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。なお野依先生でございますが、10月末日までの任期となっておりますが、現在大変ご多忙で先生ご自身の強いご希望がございまして、本任期をもって退任されることとなりました。併せてご報告申し上げます。
以上でございます。
 
8 閉会
委員長: ありがとうございました。不慣れな進行ではありましたが、非常に質の高い議論がいただけたと思っております。委員の先生方に感謝申し上げます。それでは本日はこれにて終了とさせていただきます。

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