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トップ > 刊行物 > びぶろす > 77号(平成29年7月)

びぶろす-Biblos

77号(平成29年7月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412
4. 【特集:海と図書館】
知られざる魚類博物画家 ~伊藤熊太郎アーカイブズ~

東京海洋大学附属図書館 馬場 真紀子

はじめに

伊藤熊太郎アーカイブズ」とは、魚類博物画家・伊藤熊太郎が残した、水産動物画のデジタルアーカイブです。2017年3月に東京海洋大学附属図書館(以下、「当館」という。)が公開し運営しています。

1.魚類博物画家・伊藤熊太郎

伊藤熊太郎は、明治から昭和にかけて活躍した魚類博物画家です。写真が未発達だった時代、魚類図鑑や学術文献のために多くの魚類画を描き、魚類学の発展に貢献しました。大きな業績のひとつは、1907~1910年、アメリカのアルバトロス号の海洋調査(フィリピン)に同行し多数の画を残したことです。描かれた画は、スミソニアン博物館に収められ十数枚がウェブ上で公開されていますが、まだまだおびただしい数の画が眠っているといわれています。

これらの業績も含め、生没年や生涯、人物像も不詳で、日本ではほとんど知られておりません。画については、"繊細なる筆致と絢爛なる色彩は眞に迫り寫實の妙を極め動物の標本圖としては誠に模範的"1、"科學的正確ナル原色版"2等とあるように、科学的正確さ、精緻さ、かつ、美しさが非常に高く評価されており、アートとしての鑑賞にも堪える美しさです。

なお、伊藤について当館の調査は、ヴィクター・G・スプリンガーに拠るところが大きく、詳細は参考文献3をご参照ください。

2.『水産動物彩色図』と『水産動植寫生稿』

「伊藤熊太郎アーカイブズ」の原画は、当館所蔵の『水産動物彩色図』(標題は目録担当者による)(全1,261枚)と『水産動植寫生稿』(標題は表紙による)(6帖)です。本学の前身である水産講習所が、1927~1931(昭和2~6)年にかけて数回にわたり購入・受入しました。図書原簿によると、昭和2年の取得額が895円となっており、現在の価値に換算すると一式数十万~数百万円と推測されます。昭和初期にこのような高額で購入したということは、博物画を教育資料や標本図として評価していたからではないかと考えられます。

購入後、長らく学内の魚類学研究室や水産資料館で保管されていましたが、紙資料であるため、図書館での整理・保存が適切であるという判断のもと、図書館へ移管され桐箱に保存されてきました。

このようないわゆる一点もののオリジナル資料は、一般の図書とは異なり、保存環境の維持もさることながら、目録作成にも相当の調査を要します。この彩色図も例にもれず、「伊藤の画である可能性は高い」としていたものの、それ以上の手がかりがなかなか掴めず、確認がとれたのは、後述のとおりごく最近になってからです。

3.展示からデジタル化・公開まで

当館では、2016年夏、企画展示「図鑑で楽しむ江戸前の海」と、作家・博物学研究家の荒俣宏氏の講演会を開催しました。その際、作者不詳として展示していた彩色図が荒俣氏の目に留まり、氏自身の丹念な調査が行われました。『日本重要魚類図集』4掲載の図と解説を参考に、原画と照合し、描写の特徴や筆致から、ほぼ間違いなく伊藤の手による画であると確認いただきました。

日本でこれだけまとまった数の伊藤の博物画が確認されたのはおそらく初めてで、明治期以降の魚類博物画の国内有数のコレクションといえます。そのためこれを広く紹介するべく、第二期展示として「幻の魚類博物画家・伊藤熊太郎」を開催し、原画の一部をデジタル化、公開するに至りました(伊藤熊太郎アーカイブズ)。

エビスダイ【活き活きとした眼、光沢のある鱗の描写はまさに超絶技巧】

それまで、情報が少なく資料の活用も難しかったのですが、博物学の豊富な知識をもつ荒俣氏の知見により調査が進みました。このことで、自機関で所蔵する資料の調査や利活用、公開などについて、改めて考える契機ともなりました。

4.今後の課題

今回、展示のための調査は行いましたが、伊藤の人物像はまだわからないことが多く、引き続き情報提供を呼びかけています。原画のデジタル化もまだ全体のごく一部であり、今後アーカイブとして充実させていきたいと考えています。

博物画の使命は「種の同定ができること」です。原画に描かれた生物は、中には種の特定が困難なものもあり、科学的根拠のため研究者の協力が欠かせません。原画には、魚類のほか貝類、甲殻類、軟体動物、サンゴなどの水産動物、海藻などの水産植物も描かれており、魚類図以外も調査が必要です。

また、デジタル化に関しては当然のことながら、有効活用のため発見可能性を高める機能やメタデータの整備も必須となります。

展示のアンケートでは、「興味深かった、原画の精緻さと美しさに驚いた」などのコメントとともに、伊藤についての研究や、明治期における博物画の意義・位置付けなどの研究が進むことを期待する声も多くありました。

このたび、彩色図と写生稿が確認されたことで、写生(スケッチ)から原画として仕上げ図鑑に掲載され出版、という流れを追うことができるようになったのも収穫で、博物学研究へ資することが期待されます。

以上のように課題は山積みですが、貴重なコレクションを所蔵する機関として、今後も継続的な調査ができるよう、多方面との協力体制等を築ければ、と考えています。

(ばば まきこ)

  1. 田子勝弥『日本魚介図譜』第1輯,田子勝弥編,芸艸堂,1929.4,序.[国立国会図書館請求記号:487.5-Ta147n]
  2. 伊谷以知二郎『日本水産動植物図集』上,大日本水産会編,大日本水産会,1931,序文.[請求記号:425-38]
  3. ヴィクター・G・スプリンガー「スミソニアン博物館に秘められた魚類画 : 海を渡った日本人画家、伊藤熊太郎」『アニマ』平凡社,13(11),1985.11,p.38-40.[請求記号:Z18-934]
    Springer, Victor G.「Kumataro Ito, Japanese Artist on Board the U.S.Bureau of Fisheries Steamer Albatross During the Philippine Expedition, 1907-1910」『Marine fisheries review』61(4),1999,p.42-57.
  4. 『日本重要魚類圖集』海老名謙一編,楽水会,1931.9.[請求記号:423-455] ※編者の海老名は、戦前、伊藤の原画を所蔵していた魚類学研究室の教官であった。

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