びぶろす-Biblos:80号(平成30年4月)|国立国会図書館―National Diet Library

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びぶろす-Biblos

80号(平成30年4月)

びぶろす

  • 発行:国立国会図書館総務部
    (National Diet Library)
  • ISSN:1344-8412

2. 【平成29年度国立国会図書館長と行政・司法各部門支部図書館長との懇談会】
特別講演「機関リポジトリの思想と実践」(国立情報学研究所特任研究員 尾城孝一氏)の要旨

国立国会図書館総務部支部図書館・協力課

平成29年11月27日、国立国会図書館東京本館において、標記懇談会が実施された。今回は、公的部門の情報発信が紙からデジタルへと比重を移している現状を踏まえて、国立国会図書館からは、片山信子関西館長(当時)が当館のデジタルアーカイブについて、デジタルコレクションを中心に報告を行った。

支部図書館からは、中井雅之支部厚生労働省図書館長が、同館の概要と取組について報告し、EBPM(証拠に基づく政策立案)1について問題提起がなされた。

特別講演では、尾城孝一国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター特任研究員から、「機関リポジトリの思想と実践」と題した講演が行われた。以下、その要旨と質疑の一部を紹介する。

I 講演要旨

1.機関リポジトリとは

機関リポジトリとは、「大学及び研究機関等において生産された電子的な知的生産物を保存し、原則的に無料で発信するためのインターネット上のサイト」と定義される2。ほかに「大学とその構成員が創造したデジタル資料の管理や発信を行うために、大学がそのコミュニティの構成員に提供する一連のサービス」3という説明もある。こちらも一般に広まっている考え方である。

機関リポジトリの設置目的は、大きく2つある。(1) 学術誌に掲載された査読済みの学術論文を著者が自主的に保存・公開すること(いわゆる「セルフ・アーカイブ」で、「グリーンオープンアクセス」(グリーンOA)ともいわれる)、(2) 大学内の学術資料(紀要論文、学位論文、研究報告等)を保存・公開することである。

研究者にとっては、自らの論文や著書の発信のチャネルとして利用できること、自らの研究成果の可視性を高めることができること、大学などの機関による一元的管理と長期保存の保証が得られるというメリットがある。また、大学は、教育・研究の成果を保存し発信することによって、社会への貢献や説明責任を果たすことができる。さらに、学内外の研究者・一般利用者にとっては、研究成果へ簡単にアクセスできるというメリットがある。

2.機関リポジトリ小史

ここで、日本の機関リポジトリの歴史を簡単に振り返りたい。

国立情報学研究所(以下「NII」)は、2004年に機関リポジトリ構築ソフトウェア実装実験プロジェクトを開始し、この年に千葉大学が日本で初めての機関リポジトリの運用を開始した。翌2005年から2012年にかけて、「学術機関リポジトリ構築連携支援事業」(後述)を開始し、これを契機に機関リポジトリに取り組む大学が急増した。

2012年にはJAIRO Cloud(後述)がサービスを開始し、小規模図書館でも機関リポジトリの導入が可能になった。

さらに2013年には文部科学省の省令である学位規則が改正され、博士論文のインターネットでの公開が義務付けられた。このため、学位論文を機関リポジトリで登録・公開するという動きが定着してきた。

そして2016年にはオープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)(後述)が設立された。

3.NIIの支援事業

機関リポジトリを日本に定着させるために、NIIでは (1)機関リポジトリの構築とコンテンツの拡充、(2)先導的なプロジェクトの支援、(3)学術情報流通コミュニティ活動の支援という3つの領域を設定して、大学の図書館に業務委託をして国内の機関リポジトリの構築と連携を支援してきた。

JAIRO Cloud

JAIRO Cloudは、クラウド型(SaaS4型)のリポジトリ環境を提供するサービスである。NIIがネットワークやハードウェア、ソフトウェアの管理を行うことで、大学等の機関は、コンテンツの収集と公開に注力できる。JAIRO Cloudはシステム管理が不要であり、独自のシステム構築が難しい小規模の大学図書館も、あまり時間をかけずにコンテンツを公開することができる。

学術機関リポジトリデータベース(IRDB)

機関リポジトリのメタデータ流通基盤として、国内のリポジトリからメタデータを収集する学術機関リポジトリデータベース(IRDB)という統合データベースを作っている。NIIのCiNiiや国立国会図書館サーチ、その他国内外の検索サービスに集積したメタデータを配信することによって、日本のリポジトリに蓄積されたコンテンツを発見しやすくなる仕組みを作っている。

4.日本の機関リポジトリの現状

国内で機関リポジトリを公開している機関の数は現在800を超え、アメリカを上回り世界一の数と言われている。

登録コンテンツは日本全体で200万件以上あり、内訳は紀要論文が約半分、続いて学術雑誌論文、学位論文などが上位を占めている。また、階層クラスタリングによる機関リポジトリの類型化や、アクセス統計からも、日本のリポジトリは紀要論文、学術雑誌論文、学位論文が中心であることがわかる。

なお、査読済みの学術論文のうち、機関リポジトリに登録されているものの割合は全体の約6%にとどまるため、先述のリポジトリの2つの設置目的のうち、査読済みの論文のオープン化(グリーンOAへの貢献)はまだまだ開拓の余地がある。その一方で、これまであまり流通してこなかった学内の紀要論文や学位論文の保存・公開には大変貢献しているといえる。

5.オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)

オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)は、2016年に誕生した、大学図書館を中心に500以上の図書館が参加する会費制のコミュニティである。

大学図書館とNIIの連携協力の枠組みの中に位置づけられた組織であり、5つの重点的目標を定め、オープンアクセスに関する活動(基盤の安定的運用、先端的機能の開発、国際連携)を進めている。総会の下に置かれた運営委員会のほか、作業部会が3つとタスクフォースが4つある。

JPCOAR 組織体制図

6.オープンサイエンスへの展開

オープンサイエンスとは、公的研究資金を用いた研究成果について、論文等の文献情報だけではなく、根拠となった研究データ等もアクセス・利用可能にし、イノベーションの創出につなげていくことである。研究不正防止のため、文部科学省や日本学術会議、東京大学などが研究データの管理・保存・開示に関するガイドラインや指針を作成している。

内閣府が出した国内のステークホルダーの役割相関図5を見ると、図書館やNIIに対する研究成果の収集、共有データの保存・管理基盤としての役割への期待が大きいことが伺える。

日本のオープンサイエンスは、国や政府レベルの政策は先行しているが、大学や研究機関の現場はまだこれからである。機関リポジトリへの研究データまたはデータベースの登録はわずか2%に留まっており、そのほとんどは千葉大学学術成果リポジトリ(CURATOR)の植物のさく葉標本の画像データである。とはいえ、手をこまねいているわけではなく、JPCOARは次のような活動を進めている。

    ・研究データ管理の基礎を学ぶ教材を作成し、無料のオンライン講座として開講する
    ・維持管理ができず消えつつあるデータベース(人文社会系)を機関リポジトリで救済するためのデータベースレスキュープロジェクトを実施する
    ・研究データに対応したメタデータ要素を拡充する
    ・大学等でオープンアクセスの方針を策定する際の手引きを作成し、広く公開する

オープンサイエンスの基になる研究データを管理するためにはシステム基盤が必要だが、各機関で個別に開発するのは非効率的である。このため、NIIは平成29年度から、共通で使える研究データ基盤の整備を進めている。

研究ワークフローと研究データ基盤の役割

研究者が研究上作成したデータを管理する「データ管理基盤」、文献を拡充してデータを図書館の職員が公開する「データ公開基盤」、「データ検索基盤」(現在のCiNiiにデータの検索機能も追加して実現する)である。

この3つの基盤を通じて、研究者の研究活動をサポートできるインフラ作りを目指しており、実証実験、試験運用を経て平成32年度に本格運用する想定である。

最後に、研究データのロングテールと機関リポジトリの守備範囲について紹介する。

研究データと機関リポジトリ

データセットの容量と数量の関係をグラフにすると、グラフの左側には、大型の実験装置やセンサーから生み出されるビッグデータが並ぶ。これらは分野ごとに管理する仕組みが出来上がりつつある。また、その右には大学等の機関で管理されているコレクションデータがある。今後の問題は、グラフのうちテールにあたる部分である。個々のデータサイズは小さいが数が多い。この未整理で公開されていない多様なデータが、機関リポジトリの守備範囲に当たると考えられる。

7.まとめ

日本の機関リポジトリは大きな潜在力を持っている。800以上の機関がリポジトリを公開し、200万件以上のコンテンツが登録されている。また、JAIRO Cloudのような基盤的なシステムがあり、メタデータの流通基盤も整備されている。さらに、データを扱う基盤をNIIで開発中であり、加えてJPCOARという500以上の大学図書館等が参加するコミュニティがある。このような国は日本だけであり、この潜在力をうまく発揮していければ、オープンサイエンス時代の新しいリポジトリができるであろう。

Ⅱ 質疑応答

講演後、参加者と講演者との間で活発な質疑が行われた。一部を紹介する。


(参加者)政府で統計改革、その一環としてEBPMを進めようという動きがある。統計改革、EBPMを進めていくに当たってはデータを活用して政策展開を行っていかねばならないが、自前では限界があるため既存の研究成果の有効活用を考えねばならない。その中で、機関リポジトリをEBPMにも活用できるのではないかと感じた。上記のような事は、JPCOARではどのくらい意識され議論されているのか、また、先生の感想を伺いたい。


(講師)NIIは大学共同利用機関法人のため、大学のサポートがミッションである。JPCOARも、現状は大学の図書館を中心とした協会のため、これまでの議論の中では行政情報・行政統計等はコンテンツとしてあまり意識してこなかった。逆に言えば、今後のリポジトリの活用法の一つとして、行政情報等も上手くリポジトリに集約して発信していければよいと個人的には考えている。可能性としては、大学図書館だけではなく、行政・司法の支部図書館の方々と一緒にリポジトリの活用を考えていくという道も十分にありうるのではと思う。

(しぶとしょかん・きょうりょくか)

  1. 編集注:証拠に基づく政策立案 (Evidence Based Policy Making)
  2. 科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会. 学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について(その1), 2012年7月.
  3. Lynch,Clifford A.Institutional repositories : essential infrastructure for scholarship in the digital age.ARL Bimonthly Report.(226) 2003, pp.1-7.
  4. 編集注:SaaS(サービスとしてのソフトウェア、Software as a Service)とは、事業者がハードウェアからアプリケーションまでの全てを運用管理し、利用者にネットワークを通じてアプリケーションの機能を必要に応じて提供する仕組みのことである。
  5. 内閣府国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会. 我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について~サイエンスの新たな飛躍の時代の幕開け~エグゼクティブ・サマリー, 2015年3月.

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