江戸時代の博物サークル

描かれた動物・植物―江戸時代の博物誌―

学問が興隆すると専門家が生まれ、また各階層からアマチュアの研究家が輩出します。江戸時代後期には博物学の同好会も発生しました。そして、会読や研究会、蔵書の貸借など、博物学の知識や見聞の交換が頻繁に行われるようになりました。

木村蒹葭堂の肖像画

本草学の同好会の代表的なものに、江戸の赭鞭会しゃべんかい、名古屋の嘗百社しょうひゃくしゃなどがあります。赭鞭も嘗百も、赤い鞭を持って百草を打って嘗めたという、神農(本草学の神様)の行動に因む名称でした。

赭鞭会は大名や旗本の集まりで、主な会員は、前田利保、馬場仲達、武蔵石寿、飯室庄左衛門、設楽貞丈、関根雲停です。主な活動は天保年間(1830-44)でした。
嘗百社は尾張藩士や医者の集まりで、社中には水谷豊文、大窪昌章、伊藤圭介などがいました。同社はシーボルトとの交流が深く、積極的に西洋の知識を取り込もうとした点が特徴です。正確な設立年は不明ですが、文政(1818-1829)の頃から明治に至るまでの長期間にわたって活動しました。
また鉱物学の方面では、『雲根志』の木内石亭を主宰者とする弄石社がありました。安永・寛政(1772-1801)頃に活動しています。

さらに師弟関係・同門・同好会を超えた学問的交流が盛んになり各種産物を展示交換する物産会が開かれるようにもなりました。研究対象は文献の中にあるのではない、実物を見ようという動きです。
江戸では、宝暦7(1757)年平賀源内の企画で師の田村藍水が会主となり、薬種を展示交換する日本初の薬品会やくひんえを湯島で催しました。この薬品会は毎年開かれますが、動植物など生き物を扱う展示品の関係で会期は短く、出品数もさほど多くはありませんでした。
大坂では、宝暦10(1760)年関西で初めての薬品会が戸田旭山により開催されます。『文会録』は、その薬品会の出品記録です。この『文会録』は図を附しており、各地の同好者に物産の実際を見せる編集をしている点で画期的でした。
宝暦十12(1762)年江戸の東都薬品会では、さらに、全国30ヶ所の産物取次所を設けて組織的に出品物を集めるという方法が採られます。同士の勉強会的なものから大きく脱皮し、ネットワークが全国におよびました。
京都や名古屋でも同様に、持ち回りから特定の会場で、不定期から定期開催に、関係者のみから一般公開へ、という流れを見ることができます。
こうして各地域に大小様々の同心円からなる博物学サークルが形づくられました。

こうした博物学サークルの中心のひとつに木村蒹葭堂けんかどうがいます。彼は津島如蘭と小野蘭山に本草学を学び、田村藍水や戸田旭山とも親交があり、江戸・大坂での薬品会・物産会にも出品していました。その彼が自身の書室である蒹葭堂を開放し収集した資料を心ある人たちに提供したことは注目に値します。恒久的な施設を持つことにより、博物学サークルはついに現在の博物館にも似た役割も持ったといえます。彼の交友範囲は多方面に及んでおり、この蒹葭堂は、地元大坂の人ばかりでなく全国の博物学者たちにとってサロンのような場所となりました。

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