『大阪朝日新聞』 明治30年8月9日 欄外記事
巴西移民(佐久間氏談) 東洋移民会社[1字判読不可]佐久間貞一氏は移民渡航中止の事に関し打合の[1字判読不可]一昨夜、東京より神戸に来り、海岸通四丁目の同社出張所(中居方)に在り。氏の談に一両日前海外よりの受電は単に財政上の恐慌に遇へる為め契約を中止したしとの申込みに過ぎず。然れば当会社に於ても迷惑ながら之を見合せざるべからず。勿論巴西国の移民雇主は暫時其の人を秘するも屈指の会社にて彼我倶に将来の[1字判読不可]を期すべきに爰に蹉跌を見たるは事情已むを得ざるものありてならん。
元来巴西は共和国なるを以て毎年選挙の期に際せば挙国上下動乱するを例とし、本年も八、九月は其選挙期なれば随つて何事にも変動を来したるならん。本社が巴西国へ移民を送らんとの計画は夫の吉川氏存命の頃より吉佐移民会社の手にて之を計画し一面政府の力を藉り今日にて実四年の星霜を経たり。
土佐丸の如きも夫の戦争以前に於て全く巴西移民用として買入れたるものなりしも、事未だ容易に運ばれず。四年を経たる今日頃日素志の漸く実行を期せるに当りて又も蹉跌し前後三回に及べり。然れども目的は始終一貫を期し将来の国富を企図すべき事業なるを以て一旦茲に募集人員を解く事あるも重ねて時期を見合し渡航せしめんとす。今回の移民は千五百名、内熊本にて募れるもの七百名は六日門司にて乗船せしめん手筈にて、土佐丸は彼地に廻航したりしも乗船を見合せさしめ、同船は本日(八日)神戸に帰着すべし。尤も郵船会社と協議の上七日之を解約したり。土佐丸に就ては移民搭載の為に別に船室を構成したるが最早解約の上は直ちに之を撤回すべし。
本社の損害は同船傭費のみにても前後五十日間を計算せば一日千円とするも随分莫大なり。然れども此際巴西の雇主へは殊更要求せざるべし、今回の移民は広島、山口及岐阜県のものなりしが未だ当地(神戸)へ来らざる以前なりしを以てせめては不幸中の幸福といはんか。但し今回募集の移民に対する解約其他の事に関しては今猶協議中なり云々