「サンパウロ州我移民ノ裏面具報之件」 外務省文書(ブラジル国移民関係雑件 3.8.2.80) <MT R.731>
サンパウロ州我移民の裏面具報之件
明治四十四年九月
公第八三号
明治四十四年八月二十一日
在伯
臨時代理公使 藤田敏郎
外務大臣侯爵小村寿太郎殿
サンパウロ州我移民の裏面具報の件
第一、第二回移民中虚偽の家族多きことは、屡々及具報候処、模範耕地と称するグワタパラ耕地には日本人副支配人在勤し、特種の待遇を与へ、移民各自大に満足就業すべき筈の処、家内不和合の結果種々の紛擾を生じ、右副支配人も大に当惑致候趣にて、別紙の私信送付致越候。右は実情を奏したるものと被存候に付、御参考の為め供高覧候。将来移民の渡航を御許可相成候場合には、厳重に家族の関係を精査可致様取扱人等に対し御示達相成度切望致候。此段申進候。敬具
伯国サンパウロ州グワタパラ耕地に於ける本邦移民の近状
前略
客歳七月着伯せし第二回本邦移民にしてグワタパラ耕地に入耕せし我移民六十家族は、昨年
然るに移民の健康状態回復すると仝時に、第二の難題は移民家族の動揺起りしことなり。元来当国内地の耕地が外国移民に対する待遇の良否は別問題として、第一、第二回の日本移民が予想外の不結果に陥り、伯国人をして日本移民の真価を疑ふに至らしめたる第一の責は移民会社之の負はざるべからずと思はる。本耕地に来りし移民六十家族中真正の家族は其三分の一に満たず。其他は殆んど混成家族と云ふべく妻と称するも名義のみにて実は一名の男子と一名の女子個々別々なるものより成立し、養子の年齢が養父の年に殆んど仝年なるものあり甚だしきは名義上とは云へ当地と本国とに両妻を有する奇観を呈する者もあり。
右の次第なれば家内の和合する理由なく、彼等の収入は人数に依りて等分し、之を各自の収入と定むるも、素と
日雇の独身者中には外来の通信によりて心動き退耕する者甚だ多く、彼等の中には多額の負債を踏倒して逃亡する者あり。拙者の迷惑を蒙むること少なからず。
如斯情態に在る我移民は将来好成績を挙ぐること殆んど絶望なりと云ふべく、本耕地の如き我移民を収容せる耕地中秀逸の評ある良耕地なるにも不拘、如斯不成績なるは必竟移民会社が誠実に移民を選択して真正なる家族を送らざりし結果と思はる。拙者は仝胞移民に対して及ばずながら尽すべき丈を尽し、事柄によりては外国移民に比し殆んど破格の特典を与ふることに斡旋したるも、上述の如く思はしき結果を得る不能。甚だ遺憾に不堪。
然し自分の義務を果したるものとの自覚もあれば、来る農期の終りに退職せんと欲し、今日より之が準備に着手しつつあり。後任者には現今の日本人監督二人を推薦する考なり。云々後略