グワタパラ耕地の日本移民の近況

As condições de vida do imigrante japonês em Guatapará

Situations of Japanese immigrants in the Guatapara plantation

グワタパラ耕地の近況について同耕地平野運平副支配人からの手紙を引用した報告書。テキスト化にあたり句読点を補った。

サンパウロ州我移民の裏面具報之件
                     明治四十四年九月

公第八三号
   明治四十四年八月二十一日
             在伯
              臨時代理公使 藤田敏郎
   外務大臣侯爵小村寿太郎殿

   サンパウロ州我移民の裏面具報の件
第一、第二回移民中虚偽の家族多きことは、屡々及具報候処、模範耕地と称するグワタパラ耕地には日本人副支配人在勤し、特種の待遇を与へ、移民各自大に満足就業すべき筈の処、家内不和合の結果種々の紛擾を生じ、右副支配人も大に当惑致候趣にて、別紙の私信送付致越候。右は実情を奏したるものと被存候に付、御参考の為め供高覧候。将来移民の渡航を御許可相成候場合には、厳重に家族の関係を精査可致様取扱人等に対し御示達相成度切望致候。此段申進候。敬具

   伯国サンパウロ州グワタパラ耕地に於ける本邦移民の近状
前略
客歳七月着伯せし第二回本邦移民にしてグワタパラ耕地に入耕せし我移民六十家族は、昨年ママ実採取の終了する迠は諸事順境に経過し、此分ならば第一回移民よりは余程の好成績を挙ぐるならんと予期したるに、昨年末より本年一二月に掛け本邦移民中マラリア熱に襲はれたるもの数十名に達し、受持の咖啡ママ園は雑草繁茂すれども除草すること不能、薬価は重み負債は増加し而かも二十余名の死亡者を出すに至り、一時は非常の逆境に陥りしも、三月下旬より次第に健康回復し、今期採取期には一人の病者なき迠に一同壮健になりたり。

 然るに移民の健康状態回復すると仝時に、第二の難題は移民家族の動揺起りしことなり。元来当国内地の耕地が外国移民に対する待遇の良否は別問題として、第一、第二回の日本移民が予想外の不結果に陥り、伯国人をして日本移民の真価を疑ふに至らしめたる第一の責は移民会社之の負はざるべからずと思はる。本耕地に来りし移民六十家族中真正の家族は其三分の一に満たず。其他は殆んど混成家族と云ふべく妻と称するも名義のみにて実は一名の男子と一名の女子個々別々なるものより成立し、養子の年齢が養父の年に殆んど仝年なるものあり甚だしきは名義上とは云へ当地と本国とに両妻を有する奇観を呈する者もあり。

 右の次第なれば家内の和合する理由なく、彼等の収入は人数に依りて等分し、之を各自の収入と定むるも、素と咖啡ママ園の労働は日給制にあらずして、一家族共仝して労働に従事し年末に至りて始めて其収入を得るものなれば、之を労働日数又は労働力に依り分配すること頗る困難なり。之ぞ日本移民の苦情を惹起せる原因なりとす。例ママば夫婦者と養子とより成る三人家族ある此家族の収益金を三等分し養子は其一を所得するとせんか、最初の内は甘じて受取しも其内一人疾病の為め休業するか又は夫婦の間に子供出来たる場合には直ちに収入分配の争論を惹起する順序にて、本耕地に於ける大多数の移民は上述の経路を踏み来りたり。

 ママに於て拙者(平野副支配人)は一策を案じ不和なる家族中の異分子を悉く日雇に使役し(一時は六十名の多きに達したるも目下は三十人内外)、日傭賃は二ミル五百レイスの規定なるに不拘、特に三ミルを支払ひたるに、豈計らんや、夫婦者より苦情出でたり。即、彼等の所得は日給者の収入より少額なりと云ふにあり。家内は益々分裂し遂には不経済をも顧みず各自に自炊を為し孤立生活をなす状態となれり。

 日雇の独身者中には外来の通信によりて心動き退耕する者甚だ多く、彼等の中には多額の負債を踏倒して逃亡する者あり。拙者の迷惑を蒙むること少なからず。

 如斯情態に在る我移民は将来好成績を挙ぐること殆んど絶望なりと云ふべく、本耕地の如き我移民を収容せる耕地中秀逸の評ある良耕地なるにも不拘、如斯不成績なるは必竟移民会社が誠実に移民を選択して真正なる家族を送らざりし結果と思はる。拙者は仝胞移民に対して及ばずながら尽すべき丈を尽し、事柄によりては外国移民に比し殆んど破格の特典を与ふることに斡旋したるも、上述の如く思はしき結果を得る不能。甚だ遺憾に不堪。

 然し自分の義務を果したるものとの自覚もあれば、来る農期の終りに退職せんと欲し、今日より之が準備に着手しつつあり。後任者には現今の日本人監督二人を推薦する考なり。云々後略