「なかなか止まぬ円札買い」 『日伯新聞』 1939年4月15日 ほか
なかなか止まぬ円札買ひ
人情だとは言ひ乍ら
知らず知らず非愛国的行為
心せよ! 在留同胞
『日伯新聞』 昭和14年4月15日
海外に於ける円紙幣の買入れに対し過日母国大蔵省より総領事館を通じ、その非愛国的行為であることを指摘、在留同胞の注意を喚起すると共に帰国者所持の円紙幣に厳重な監視の眼を向け、その出所を飽くまでも追究するやうになつたことは既報の通りであるが、未だにそれが何故に悲愛国的行為であるかが呑み込めず円紙幣の買入れを行つてゐるものが相当あるやうな悲しい状態である、右について某消息通は次のやうに述べてゐる
海外に於ける円紙幣の買入れが何故に悲愛国的行為かといへば、つまり
円紙幣は主に支那を経て海外に流出したもので、それが供給過剰のために円為替とは関係なしに暴落してる訳である、一方在留同胞にしては「円紙幣が安く手に入るから買ふんだ」と人情としては尤もな話だが、これを国家的見地より考へて見ると、一度海外に出た紙幣が巡り巡つて再び帰つて来ただけの話で何んの足しにもならないのである
こういへば在留同胞は次のやうに考へるかも知れぬ
紙幣だつてお金に違いないじやないか、それを持つて帰るのに日本にとつてそれが何んの足しにもならぬといふことはなからう
と、ところがである
紙幣は即ち紙幣であつて紙でしかない、日本にあつてこそ百円紙幣は百円の値打ちがあるが、対外的には何んの値打ちもない、つまり紙幣で海外から物資を買入れることは出来ないのである、一度海外に流出した円紙幣を再び御苦労さんにも持つて帰ることは、まあ紙クズに等しいものを持つて帰るやうなもので決して日本を富ますものではないのである
おまけに海外に流出した円紙幣が供給過剰のため円為替と関係なしに暴落することが我が対外為替にも重大な悪影響を及ぼし、国を挙げて興亜に邁進する祖国に於ける戦時経済の根幹をなす為替政策に甚大なる障碍を与へるといふに至つては、これを非愛国的行為といはずして何ぞやといひたい位だ
なほ海外に於ける円紙幣の買入を非愛国的行為と知つてか知らずにか、円紙幣を持つて帰国、それを為替に組んで海外に送金、円紙幣と円為替との差額による不当の利益で往復の旅費その他を稼がうなどといふ不心得者もあるやうであるが、これでは日本にとつて何んの足しにもならぬ円紙幣を持ち帰つただけに止らず値打ちのない円紙幣によつて日本の富を海外に放出することになり二重に非愛国的行為を敢えてしたことになるのである、心せよ在留同胞!
告 示
円紙幣所持者の届出に関する件
『伯剌西爾時報』 1940年1月21日
海外市場に流出せる円紙幣の購入並に之れが携帯輸入は帝国の対外為替政策遂行上に大なる支障を来す所以なれば従来我当局に於ては之れに対し取締を加へ来り殊に本年七月一日以降は二百円を越ゆる金額携帯帰国の場合には大蔵大臣の許可を要することと相成居る趣は周知の通りなる処在留邦人中には将来本邦へ携帯帰国の目的を以て円紙幣を購入蓄積せる者尠からざるやに認められ我政府に於ては今般之れが適当処置の為此際一律登録せしむる事となりたるに付ては本邦紙幣の所持者は本人又は代理人に於て昭和十五年(一九四〇年)二月末日迄に右紙幣持参所管領事館に出頭係官の指図を受け所定の形式に従ひ紙幣入手に関する事項詳細申告相成様致度し
昭和十四年十二月二十五日
在サンパウロ帝国領事館
在リベロン・プレート帝国領事館分館
在リオ・デ・ジヤネイロ帝国領事館
在バウルー帝国領事館
在サントス帝国領事館
在ベレーン帝国領事館