大学図書館における障害のある学生の支援 スライドは全34ページです。 スライド1 大学図書館における障害のある学生の支援 国際基督教大学 紀平宏子 kihira@icu.ac.jp 令和7年度 障害者サービス担当職員向け講座 2025年12月4日 スライド2 本日の概要 ①自己紹介 ②国際基督教大学(ICU) 概要 ③ICUの障害学生支援 ④ICU図書館の障害学生支援 ⑤おわりに スライド3 タイトルページ「①自己紹介」 スライド4 自己紹介 ICU教養学部 図書館バイトに勤しむ ICU大学院 行政学研究科修了 教育系出版社勤務 ICUに転職 図書館に6年勤務 CTL(学修・教育センター)に7年勤務 慶應義塾大学大学院 図書館情報学分野修了 2024年4月 図書館に異動 パブリックサービスグループ所属 スライド5 タイトルページ「②国際基督教大学(ICU) 概要」 スライド6 国際基督教大学(ICU) 1953年献学(建学)された日本で最初に生まれたリベラルアーツ・カレッジ 献学の理念: 「学問の横断的な基礎力と、社会に貢献できる資質と能力を養い、責任ある地球市民を育てる」 学部・学科 教養学部アーツ・サイエンス学科/約31のメジャー(専修分野) 大学院 アーツ・サイエンス研究科 学生数 学部生:2,902, 大学院生:204 教員数 176 教員対学部学生比率 1:16 (2025年5月1日現在) スライド7 国際基督教大学(ICU) 概要 授業、寮生活、課外活動など、全て日・英バイリンガルのキャンパスライフ 徹底した少人数教育 外国籍教員:日本国籍教員=1:2 世界的にも高い外国籍教員の比率 鍛えた語学で専門分野を学ぶICUの海外留学 スライド8 メジャー制度 31のメジャー(専攻分野)から1つまたは2つを選び、自分の専門として重点的に学んでいくICUの履修制度のこと 興味・関心の変化を前提とした自由な学び ・「メジャー間の境界は曖昧」という前提に立つ ・ICUでは入試形態や「理系」「文系」関係なく、どのメジャーも選択可能 ・一度決めた専修分野を変更することも可能 ・「学びたい分野が変わる」はICUではよくあること スライド9 メジャータイプ Single Major: 1つの分野をおさめる「シングルメジャー」 Double Major: 2つの分野をおさめる「ダブルメジャー」 Major / Minor: 2つの分野の比率を変えておさめる「メジャー・マイナー」 スライド10 タイトルページ「③ICUの障害学生支援」 スライド11 社会・法律の変化と学内支援の変遷 1970年代後半 障害学生受け入れ 2002年 特別学修支援室(旧SNSS)の原型が誕生 2007年 非常勤副手2名体制に 2008年 非常勤職員1名配置、週2オープン 2013年 特別学修支援室週5オープン、制度的支援開始 2021年 改正障害者差別解消法成立 2023年 合理的配慮提供義務化 2024年 学修アクセシビリティ支援室(LAS)に改称 現在 部署間連携体制の構築 スライド12 障害学生支援に関する基本方針 Standing by the principles of the Universal Declaration of Human Rights, ICU shall prepare and maintain an environment in which all students can learn on the basis of equal opportunity, without any discrimination, and with dignity. ICU shall secure opportunities for those with disabilities to participate in learning, teaching, research, and other related activities equally alongside those without disabilities. 本学は世界人権宣言の原則に立ち、すべての学生が機会の平等を基礎としていかなる差別もなく尊厳をもって学ぶことのできる環境を整備、維持する。本学は障害のある者が障害のない者と平等に学修、教育、研究及びその他の関連する活動全般に参加できる機会を確保する。 (2007年9月制定 / 2016年4月改定) スライド13 学生を支える支援体制 目指す支援のあり方 「点でなく面で支える支援」を目指す ・個別対応にとどまらず、組織的な連携体制へと発展させることで、より包括的・効果的な支援を実現する ・学修アクセシビリティ支援室(LASオフィス)が障害学生からの支援申請受付、配慮内容の決定、教員への通知を担う中心的な役割を果たしつつ、他部署との連携によって負担を分散させる 多部署連携 支援に対する考えを大学全体で共有し、教職員・各部署がそれぞれの担当分野を主導して具体的支援に落とし込む協働体制 〔図の説明 学修アクセシビリティ支援室(LASオフィス)を大学内の各部署が取り囲んでいる図 説明終わり〕 スライド14 生活・学修両面の支援 生活面の支援 ・アカデミックアドヴァイザー ・学生部長 ・学生サービス部 ・ヘルスケアオフィス ・人権相談員 ・宗務部 ・保安グループ etc. 学修面の支援 ・アカデミックアドヴァイザー ・メジャーアドヴァイザー ・教養学部副部長 ・学務部 ・学修・教育センター ◯学修アクセシビリティ支援室 ◯アカデミックプランニングサポート ◯ライティングサポート ・図書館 etc. スライド15 生活面の支援体制 1. アカデミックアドヴァイザー / 学生部長 2. 学生サービス部 ・学生グループ ・キャリアサポート・オフィス ・カウンセリングセンター ・ハウジングオフィス etc. 3. ヘルスケアオフィス 4. 人権相談員 5. 宗務部 6. 保安グループ スライド16 学修面の支援体制 1. アカデミックアドヴァイザー / メジャーアドヴァイザー 2. 教養学部副部長 3. 学務部 ・学部事務グループ ・教務グループ ・大学院事務グループ etc. 4. 学修・教育センター ・学修アクセシビリティ支援室 ・アカデミックプランニングサポート ・ライティングサポート etc. 5. 図書館 スライド17 学生を支えるゆるやかな連携のしくみ カウンセリングスタッフ・ミーティング(1954~) コンセプト:「カウンセラー/センターを置くのではなく、全教職員によるカウンセリングの全学的ネットワークを」 構成員:副学長、学生係、保健師、校医、牧師、寮母、寮のアドヴァイザー 学生の健康を考える会(1980~) カウンセリングセンター長と学生部長(教員)を議長とし、約15部署の代表職員で構成される 構成員:ヘルスケアオフィス、学修アクセシビリティ支援室、教務グループ、学生サービス部(寮・奨学金等の担当者)、アカデミックプランニングサポート、国際交流室、交換留学提携先大学の日本人スタッフ、1年次教育(語学・体育)主任、就職相談グループ、ジェンダー研究センター、図書館、副学部長 会の趣旨・ルール ・一人3~5分の報告 ・小さな気づきから深刻な事例まで ・学生の匿名性を厳守 ・解決<共有 スライド18 ユニバーサルな学修環境整備のための啓発活動 教職員の関心・問題意識を喚起するため、障害者支援に関わるテーマでFDセミナーを開催 2014 米国の事例に学ぶ障害学生支援―高等教育機関における合理的配慮の提供にむけて― 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 白澤麻弓先生 2015 合理的配慮が変える大学教育-恩恵から権利へ 東京大学大学院研究化付属バリアフリー教育開発研究センター 星加良司先生、飯野由里子先生 2016 ユニバーサルデザインの視点からの 障害学生支援の効率化―ICTを活用した視覚障害学生への 合理的配慮を中心に― 慶応義塾大学 中野泰志先生 2017 コミュニケーション障害から情報保障へ―高等教育における発達障害学生支援 東京大学先端化学技術研究センター 東京大学バリアフリー支援室 熊谷晋一郎先生 2018 発達障害学生に対する支援の在り方 富山大学 西村優紀美先生 2019 多様性って結局なに?インクルーシブな場づくりから見える社会の面白さ 東京大学先端科学技術研究センター ライラ・カセム先生 2020 アクティブラーニング型授業の苦手な学生へのサポート 国際基督教大学 布柴達男先生 2021 アカデミックアドヴァイザー・科目担当教員・論文指導教員としてできる障がい・慢性疾患のある学生へのインクルーシブでエンパワリングな関わり 青山学院大学 森脇愛子先生 2022 脳の「特性」を踏まえた学生支援――発達障がい・精神障がいのある学生と適切にかかわるために 中央大学文学部教授 山科満先生 2023 「合理的配慮とは何か」を問い直すー2024 年 4 月改正障害者差別解消法施行に向けて 京都大学 学生総合支援機構・准教授 村田淳先生 2024 心の壁を越えるには~障害者差別解消法改正を受けて私立大学に求められる対応~ おおごだ法律事務所 大胡田誠弁護士 スライド19 学修アクセシビリティ支援室(Learning Accessibility Services: LAS) 合理的配慮の例 ・試験および課題などの配慮の依頼 ・ノートテイク支援 ・教材の加工 ・移動支援・ガイドヘルプ ・代筆・タイピング支援 ・教室配慮 ・情報機器の貸出 ・学修アクセシビリティ支援室の使用 ICU図書館1F 〔図の説明 ICU図書館の館内図 説明終わり〕 スライド20 ICUの合理的配慮の提供プロセス 1. 学生→LASオフィスに相談 学修アクセシビリティ支援室のスタッフとニーズの確認 2. 必要書類の提出 ・医師の診断書/カウンセラー等専門家の所見 ・障害学生支援申請 ・これまでに受けた支援等を説明する文書など 3. LASスタッフと協議 内容確認と具体的な実施方法の相談 例: 課題の締め切り延長、試験時間の延長、別室受験等 4. LAS→教員に連絡 配慮依頼を送付 ※遡っての配慮はできないため、学期初めの早い段階での申請が望ましい 基本的枠組み 障害のある学生が、障害のない学生と平等に教育を受けられるようにするための調整や代替策。ただし、提供者(教員や部署)に過度な負担をかけないことが前提。 捉え方 ・「授業の本質的な要素」や「成績評価の基準」の変更は求められていない ・障害のある学生のために、アカデミック・インテグリティの基準を下げる必要はない ・障害の有無にかかわらず、すべての学生は同じ達成基準を満たす必要がある ・ただし、授業内容そのものではなく、評価や査定の方法については、調整や代替策を求められる場合がある 判断材料 ・学生にとって遂行が困難な課題がある場合、 その課題が「コースまたはプログラムの必須要素」であるかどうかを判断 ・もしその課題が必須であり、代替課題ではコースの達成基準を満たせないと判断された場合、 代替課題を設定する必要はない →アカデミックな質を保ちながらの支援実現 スライド21 LAS利用者数推移 〔図の説明 LAS利用者数の推移 説明終わり〕 スライド22 タイトルページ「④ICU図書館の障害学生支援」 スライド23 ICU図書館の障害学生支援 〔図の説明 「学修面の支援体制」の中の「図書館」が強調されている 説明終わり〕 スライド24 ICU図書館の障害学生支援 〔図の説明 ICU図書館ウェブサイトの「サポートの必要な利用者」ページの紹介 説明終わり〕 スライド25 LAS登録学生の障害種別割合 〔図の説明 LAS登録学生の障害種別割合 説明終わり〕 ・ICU図書館では現状、視覚障害学生のサポートでLASと連携 ・視覚障害学生への検索補助もおこなっているが、これは実質的に通常のレファレンス対応と変わらないため、本講義ではテキストデータ化にスポットを当てて解説 スライド26 過去の支援と体制の見直し 過去の支援 場当たり的な対応 ・支援対象学生からの利用希望ベースでの電子ブックの購入・受け入れ ・知見の蓄積が十分でなく、対応に時間を要する LASの荷重負担 ・図書館側の対応に時間がかかるため、結果的に支援室スタッフが業務を代行 課題: 恒常的で体系立った協働体制が構築できない 見直しの背景 ・2021年に改正障害者差別解消法成立 ・私立大学においても2023年までに合理的配慮が義務化 ・LAS対応の限界(人数の増加、多岐にわたる対応) →担当分野の明確化・体系化が急務に スライド27 テキストデータ化フロー 1. LAS: 学生からの利用希望を受け、図書館に入手依頼 2. 図書館: 版元に連絡→交渉→データ入手(図書館が出版側との窓口となることに) 3. LAS: 学生が利用しやすい形にデータ加工(テキスト・点字・音声化など) 4. 利用者 スライド28 体制見直し後の主な対応事例 資料ジャンル: 理系洋書の翻訳本 出版元概要: 社団法人(職員数約150名)、出版冊数約5,000 データ形式: epubファイル 資料提供方法: 出版元のDropboxで共有 誓約書: 不要 入手までの期間: 2週間 備考: 版元内部での調整(制作部門との連携)が難航 資料ジャンル: 理系専門書の翻訳本 出版元概要: 中規模出版社(社員数約80名)、出版冊数約5,600 データ形式: PDFファイル 資料提供方法: 出版元のSharepointで共有 誓約書: 要 入手までの期間: 1週間 備考: 確認書には学生本人の住所とサインが必要 資料ジャンル: 学術系文庫本 出版元概要: 大規模出版社(社員数約1000名)、出版冊数約160,000 データ形式: テキストファイル 資料提供方法: CD-ROMで郵送 誓約書: 要 入手までの期間: 3週間 備考: 利用終了後、要・全データ削除、CD-ROM返送。別の学生がデータ利用希望の場合、再度申請 資料ジャンル: 文系専門書 出版元概要: 小規模出版社(社員数約10名)、出版冊数1,000 データ形式: テキストファイル 資料提供方法: メール添付 誓約書: 要 入手までの期間: 1ヶ月 備考: 書籍版購入が条件(購入証明は図書館側で確認) 資料ジャンル: 理系専門書 出版元概要: 小規模出版社(社員数約10名)、出版冊数1,500 データ形式: テキストファイル 資料提供方法: メール添付 誓約書: 要 入手までの期間: 2週間 備考: 一度謝絶。著者が本学教員であったため教員を通じて再依頼し、データ作成料・使用料として3,000円を支払う条件で許諾を得た。点訳後のデータ破棄・複製禁止が条件。 資料ジャンル: 文系専門書 出版元概要: 小規模出版社(社員数約20名)、出版冊数3,000 データ形式: PDFファイル 資料提供方法: 出版元のfirestorageで共有 誓約書: 不要 入手までの期間: 1週間 備考: 障害のある利用者に限り、期間の制限なく、また今後も他の学生による利用が可能。 スライド29 浮かび上がった課題 依頼側も提供側も最適なプロセスが確立できておらずやりとりにパワーがかかる 1. データ形式・提供方法が統一されていない ・翻訳作業にはテキストデータが最適だが、担保されていない ・データ提供方法がクラウド、メール、物理メディアなどばらつきがある 2. 提供条件やデータ取扱指示に差がある ・誓約書の提出有無や翻訳後データの取扱基準が出版社によって異なる ・提供の可否が人的要素に左右される場合も 3. 費用発生の有無がケースによって異なる ・無償対応から有償対応まで幅がある ・依頼側に専用の予算枠がないため、費用負担部署や会計費目の調整が個別に必要となる 4. データ入手までの日数にばらつきがある ・「大規模出版社=フローが確立している」わけではなく、社内調整に時間を要する場合もある ・小規模であるからこそワンストップで対応が進むケースも スライド30 図書館としてできること データ提供プロセスの改善アクション 1. 出版社との交渉プロセスを標準化 ・依頼手順、データ管理ルールをテンプレート化 ・データ提供依頼時に、出版社ごとに違いの多い点についてあらかじめ確認を行う ◯データ形式 ◯翻訳後のデータ取扱 ◯データ利用期限 ◯他学生の利用可否 等 2. 対応履歴のナレッジ化 ・よくやり取りする出版社との連絡履歴・担当者情報を共有データベース化 ・交渉経緯・出版社ごとの対応傾向を蓄積し、今後の迅速対応につなげる スライド31 利用学生ができること 積極的なアクションがスムーズな支援につながる 1. 早期からの動き出しと計画性が鍵 ・出版社対応に時間がかかるケースを踏まえ、早めの依頼を徹底 ・LAS面談やアカデミックプランニングサポート(学生の履修計画にアドヴァイジングを行う担当部署)等を活用し、丁寧・確実な履修計画立案を行う 2. 良い意味で「図々しく」 ・「依頼回数の増加が出版社のフロー確立・スピード感アップにつながる」「翻訳データは後輩学生の活用や、彼らの履修選択肢増加に役立つ」と捉え、遠慮せず依頼を出す +教員ができること 早めの授業計画の共有 ・自由度が高くカスタマイズ性の高いICUのメジャー制には決まった履修ルートがない →いつ、どの授業を支援対象の学生が履修するかわからない ・早い段階で授業計画を学内共有してもらうことが、学生の学びの自由度を上げる スライド32 タイトルページ「⑤おわりに」 スライド33 理想の支援体制のイメージ 1つの部署の網で全てを掬おうとせず、多層的なサポートで網の目を細かくしていく 〔図の説明 多層の網が重なる図 説明終わり〕 [生活面の支援] ・学生部長 ・学生サービス部 ・カウンセリングセンター ・ヘルスケアオフィス ・人権相談員 ・宗務部 ・保安グループ [学修面の支援] ・アカデミックアドヴァイザー ・メジャーアドヴァイザー ・教養学部副部長 ・学務部 ・学修・教育センター ◯学修アクセシビリティ支援室 ◯アカデミックプランニングサポート ◯ライティングサポート ・図書館 スライド34 タイトルページ「ご清聴ありがとうございました」