「日本よりのヨタ通信を取締れ」 『伯剌西爾時報』 昭和8年4月20日
日本よりのヨタ通信を取締れ
又々葡字紙に排日記事現れる
『伯剌西爾時報』昭和8年4月20日
去る八日東京電報として某通信社から各葡字新聞に配付掲載された対伯日本移民問題は、各方面に亘つて意外な反響があつた即ち従来多額の補助金迄費して伯国に送つてゐる日本移民を、軍部が主となつて満洲に送るやうに考慮中であると云ふ意味であるが、之は距離の上からも、又日本の国策上からしても伯国に送る以上に有利である為め、と報じてゐたヨタ電報には在伯の我官憲を初め移民関係者が少からず当惑させられたところである。
果せる哉我リオ大使館より事実の真相発表に先立つて、去る十二日リオ市のア・ナソン紙は二行抜の見出しで『日本人の侵入』と云ふ題下に排日記事を掲げ『伯国に於ける日本人移植民地の躍進的増加により事態は我官憲の注意を喚起するに至るであらう』と述べ、日本移民は人種的及び政治的の二重の危機を招致するものであると論じてゐる
即ち日本人が政治的及び愛国的の崇高なる思想を具備せる優秀なる素質を有することには何人も異論を挟まぬ処であり、寧ろ之は吾々の亀鑑として之を模倣すべきであらうが、然し乍ら人種的見地よりして観れば、吾人は日本人とは何等同一の類似の素質を有するものにあらずして、彼等は伯国人と肉体上、精神上根本的に相反する型体を備へてゐる、従つて大多数の日本人の入国は、伯国内の正常なる融合を攪乱するものであるのみならず、又彼等は他人種と絶対に結合せず特殊人種の総集団地を為し、他と離れて孤立の状態にあると評し、更に転じて政治的見地からして、国内各地に於ける日本人移植民地の組織に言及し、特にアマゾン地方の集団地は伯国の主権の確保の見地からしても恐威であるにも拘らず、前政府の当局者はこの国家の死活にも関すべき利害問題に付て極めて無関心であつたと難じ、此点に付ては特に現政府の当局者が真面目な調査を為すべきであると御丁寧に勧告してゐる
何れにしてもこのヨタ電報の影響するところは大であるから関係当局ではかかる不祥事の再び起らざる様対策を講ずべきである