「“日本禍”をさけび 公然トレス協会を支持 アマゾン・コンセツソンの紛糾化を謀る」 『聖州新報』 昭和11年5月23日
ア・ノータ紙の迫撃急
“日本禍”をさけび
公然トレス協会を支持
アマゾン・コンセツソンの紛糾化を謀る
『聖州新報』昭和11年5月23日
さきに黄禍論を説いて日本人のアマゾン植民を危険視した、アノータ紙は、更に二十日発行の紙上で社長ゼラルド・ローシヤ氏の筆にかかる日本禍(ペリーゴ・ジヤポネース)なる論説を掲げ公然トレス協会支持を発表してアマゾンコンセツシヨン問題の紛糾をはかつて居るが、われわれの注意す可き点が少くないから左に大要を訳載する
ゼラルド・ローシヤ氏はその日本禍論の劈頭に於て千九百十二年マデイラ・マモレー鉄道布設当時の麻州よりボリヴイア国境方面にいたる探検記を叙し、リベラルタよりベニー河方面に出でたるところ次の如く述べて居る
ベニーで驚いた事は、そこで真に模範的の一日本植民地を発見した事であつた、その地の日本人は太平洋より這入り込み、アンデスを攀ぢラ・パスにいたり、此処よりポトシに行つたのである、ポトシからは徒歩でアンデス山系を下り、ベニ河の航運箇所にいたり、筏によつてリベラルタに達したものである、アンデス山系の峻険を通じて行はれた絶対無人境の旅行が如何に困難であるかと言ふ事は全く想像外にある、数ヶ月の時日を要する真に危険極る旅行であるが、千九百十二年十家族の日本人はゴムの他何物も産出しない無人の地に農業植民として腰を下す可くかかる旅行を敢行したのであつた
そこでわれわれの解しかねたのは、南米大陸の真只中にかくも孤立して居る植民者の使命であつた、但し予はその後の出来事によつてそれ等植民者が日本政府の派遣したパイオニーであつて彼等は将来に於て行はれる移民資料の聚集にあるものだと言ふ結論を得た
その後他の日本人等はパラー州のグランデウーに植民し[、]土地の住民とは全く孤立して居た
現在日本人はその過剰人口をアマゾンに送るため百万エクターレスのコンセツシヨンを獲得せんとして居るが[、]独特の民族的精神を持つ百万の日本人がアマゾン河口に植民する事は南米大陸の一大危険を意味する[、]われ等はアマゾンの河口がアンチーリヤスの海やパナマ運河に甚だ近接して居ると言ふ事を忘れてはならぬ[、]人皆無のアマゾンの広大なる地積には日本人の発展に均勢す可き内国分子がないのだ、かくて数百万の黄色人種が南米の心臓部に於て如何なる北米の反動にも対抗し得可き戦略的地点に腰を下す事となるのである
リベラルタで見た日本人の植民者は日本が南米に対して深謀を有せる事を物語るものでそれがため日本は参謀本部の指定せる地方に植民す可き厳命を与へて当該の分子を太平、大西の南洋より侵入せしめたのである
イグアツペよりサンパウロを通じて麻州方面に向つてボリヴィアに向ふ日本の侵入線を注視するものは南部方面にもまた日本人が土地を購ひ、大西洋より太平洋にいたる既定線上に定着せんとせる事を知るであらう
と荒唐無稽の憶測を公然茲で立てた上更に筆を転じ
東京の近郊にはアマゾン行の植民を養成する学校がある、また伝ふるところによるとサンパウロには植民者の子弟を指導する学校、書籍店、教育総務局がある
と説くまでは多少あたつて居るが
日本人の土地の売買ひや、一切の取引はブラジル当局には御構ゐなく領事館に於て行はれて居る
と言ふ虚構の事実を公然述べて居る点は度し難きものであり、ローシヤ氏は更に
予は人種的偏見には反対ではあるが、祖国愛のあるブラジル人なら日本移民の組織的侵入を重視せぬものはなからう、彼等は日々かたまり、国内に偏居し、未来のブラジル国民創造に協力する他人種[に]同化乃至は混交すまいとして居る
と排日家一流の筆鋒を見せ、次でトレス協会の「愛国青年」や排日軍人支持を明確に声明し次の如く結んで居る
日本は予定の計画なくしては何にもやらない、日本人には集合体の運命が奔弄さるる時には個人は何の価値もないのだ、日本人にして若し過剰人口を除く以外何の意向もないならば、その植民者を彼等の自由にまかし他人種の如く同化せしむ可きである、だがブラジルには既に宗教、国語、習慣を異にし統整された二十六万の日本人が居る、従つて近き将来に於てそれが日本帝国発展の野望の根拠となる事が出来るであらう、荒木将軍は先づ支那を征服し次で日本は世界を征服すると言つたが支那の征服は事実上実現されて居るのである