「邦人小学校停業問題」 『伯剌西爾時報』 昭和3年11月29日 ほか
- 「邦人小学校停業問題」 『伯剌西爾時報』 昭和3年11月29日、12月6日、12月13日
- 「各地小学校の公認手続き」 『伯剌西爾時報』 昭和5年7月31日
- 「未公認学校の悩み」 『伯剌西爾時報』 昭和11年11月20日
邦人小学校停業問題
『伯剌西爾時報』昭和3年11月29日、12月6日、12月13日
(上)
一
誰もが理解してゐる
二
乃ち
三
所が爰に一つの問題は、右に云ふが如く好意を有つ日本人小学教育に対し、インスペトール・ジエラール・デ・エンシノ[注 教育監督官]が、過日ノロエステ線巡廻の際、小学校にして、日本人教師に依り日本語で教授を為すものの総てに停業を命じたのであるが、一体之は如何なる理由に依るものであるか、吾人は此の場合之を明かにし、今後邦人の児童教育問題に関し、
四
只漠然と云へば、教育は個性の発達を計ると共に、人格の養成を為すものだとも云へやうが国家として国民教育を為さんとする場合は、さうした微温的な教育では満足は出来ない。殊に伯国の如く、世界各国人の寄集まりの場所に於ては、国民の相続者たる児童の教育に、何か其処に一定したる鋳型を設け、それに依つて国民教育の基礎を定めない限りは、国家として組織立つた発展が遂げ得られないものとし、伯国は遂に法律を作り十歳以下の小供には、外国語を以て教授すべからずと規定したのであるから、若し之に反するものがあるならば、情に於ては気の毒であつても、学校の閉鎖停業等は、政府当局の処置としては、寧ろ当然と云はざるを得ないのである。
五
それに今回、邦人小学校停業の理由中に、伯国小学校として伯国人の教師もなく、且つ十歳以下の児童に日本語を以て教授するは教育令に反するものなるが故一時之れを停業せしむるも『来年二月頃には正教員を配置すべく手配りを為す』との一項目もあるさうだから、今回の小学校停業問題に関しては、インスペトール・ジエラール・デ・エンシノと我が同胞側との孰れに無理が多かつたかなぞの詮議は暫く止め、同胞側は、教育令の規定する処に従ひ児童に伯国教育を施し、日本語教授は他の方法に依つて為すべきを考ふるを道の得たものとする。
(中)
一
吾人の瞬時も忘れてはならぬことは、伯国に於ける児童教育は、伯国の法規に基き伯国教育を為さねばならぬと云ふことである。故に若し校舎を建て公認を受けたが、正教員を送つて貰へぬとか、若くは送つて貰つても其の教員が落付かぬとか云ふ場合は、変則ではあるが、代用教員採用の規定に従ひ、伯国に生れた伯国人にして、伯国の教育を受けた教員向きの人物を見出し、インスペトール・デ・エンシーノの許しを得て、それを教員に据え、以て教育を継続すべきである。
二
所が是れまで我が同胞の採れる方法なるものを見ると、或る場所では校舎を建てたが、其の筋へ正教員派遣の申請もせず、最初から日本教師を聘して日本語教育を施してゐるのがあり、また或る場所では正教員の派遣を申請したが、政府教務部の都合で正教員を派遣しないことのある時は、之を良い口実に日本教師のみを聘し、単一日本語教授を為して事足れりとするが如くであるが、これでは視学官あたりから、日本人は最初から自分等の
三
それならば何うすれば可いかと云ふに、何もそれは難かしい事ではない。つまり吾々は、伯国に在る我が児童には、必ず伯国教育を施すと云ふ方針の下に教育に関する事項は大小総て最寄り在勤の視学官に相談し、正教員の派遣を申請する手続は何うするか、申請しても送つて貰ひ得ない場合は何うするか、また送つて貰つても、其の教員が落付かぬ場合は何うするか、代用教員を聘するには何う云ふ手続を踏まねばならぬかを、一々指図を受て
四
過日ペンナへ出掛けて視学官に面談したと云ふ、粟津氏を通訳としての岡田教育研究会委員長の話なるものも、児童教育の根本問題に触れず、只現在の儘授業を継続する歎願的態度に出たのが、却つて籔蛇となつたを吾人は遺憾とするが、これと云ふも我が同胞識者の間には、伯国に在る我が児童の教育なるものを、必ず伯国教育令に基き、伯国教育を為さねばならぬと云ふ方針に出でず、日伯双方に
五
よつて吾々は、今度の学校停業問題に鑑る処があり、伯国に在る我が児童に対しては、伯国の教育令に基き、伯国教員教授の下に、伯国の教育を授けることを、成るべく速かに且つ端的に実行すべきであると共に、在伯の我が児童に、伯国教育を授けることの
(下)
一
然らば日本語は何うするか。伯国に生れ、若くは伯国で成長した日系の児童には、全然日本語を教ふるの要なきか。否、
二
現に伯国に於ても其処に看る処があり、十歳以下の小学児童には、伯国語単一教育を強制するも、それ以上、中等教育に於ては、仏、英、独、
三
然し日本語は今日の場合、伯国では中等教育の正科とも、随意科ともなつて居らぬから、官立若くは州立の学校では教授を受け得まいが、私立学校としてなら、十歳以上の児童にして伯国語の教育を受けた者、若くは受けつつある者には、日本語を教ふることは、何等
四
所が実際問題として、一方に小学校を造つた上、又他に私立学校を
五
尤も規則から云ふならば、伯国小学校とした校舎は、何処までも伯国小学校の校舎でなければならぬから、之を私立学校の校舎として兼用することが、出来るか何うかに付き疑義生じないでもないが、元々小学校の校舎と云つても、日本人の醵出した金で建たものであるとすれば[、]政府としても、それまで杓子定規で許さぬとも云ふまいから兎に角日本語を教授する塲合は小学校の外に私立学校を設くるの許可を受け、且つ小学校々舎借受けの手続を踏み、同一校舎を二重に使用する事とせば総て問題は解決するのである。但し呉れ呉れも忘るべからざることは、伯国の教育令を遵奉すると共に、其の地在勤のインスペトール・デ・エンシーノの諒解を求めて、感情や、誤解や、中傷やで問題の起きざるやう、予じめ意を用ゆることである。
各地小学校の公認手続き
『伯剌西爾時報』昭和5年7月31日
カフエーランヂア督学官の管轄内では、近来邦人経営の小学校が漸次合法的な公認小学校として、更に邦語を科し得るやうに手続きしたものに、リンス学園を始め、ゴヤンベー、第三アリアンサ、平野植民地小学校等があるが、是れ等の内全然私立のもあり郡立亦は州立のものに附属的に邦語の教育を授け得るやうしたものもあるし、尚ほ其の外一、二手続中のものもある、此の情勢は法治国民としての邦人の誠意を伯国官憲に認めさすると共に、今後日蔭者としての邦人小学校が、公然認可された学校として授業出来得るやうになることは、邦人児童教育上の一大進歩と見らるべく、是れにつきカフエーランヂア駐在の督学官シルビオ・バアロス氏は往訪記者に語る
『教育に対する日本人の熱心は大いに認めるが、稍々もすると全く不合理な教え方と経営の方法とで、適当な官憲の注意をも無視するやうな事もあるので督学の職掌柄干渉もし取締もやつてはゐるが、是れと云ふも伯国教育令の定むる所に従つて最善の成績を挙げ、無学を
と、而して其の手続きは、リンス学園父兄会青木理事まで相談あれば書類一切を纏めて呉れる事になつてゐる。
読者と記者
◆未公認学校の悩み
『伯剌西爾時報』昭和11年11月20日
記者様、第二世教育問題に対し度度御高説を承るやうですが、現在の状態にて果して? 私達の植民地の学校も此度入植者の増加と共に学童も殖え、今までの学校にては狭き為め建築補助金を下付して頂いて立派な校舎が建ちました。然し先生に資格なき為(大変良い先生でしたけれどブラジルに新しい方)公認手続も行はれず、此度の問題にて先生はお辞めになりましたと、申しまして有資格の先生に来て頂くにも未公認校にては来て下さる方もなく百名に垂ん垂んとする児童と立派な校舎とを其儘に放任してゐる様な状態です。私の小供等も何も知らず「お母様先生はいつ来て下さるのですか」とか「僕達は何時になつたら学校に行けますか」と問はれる都度返答に窮し、子供のいじらしさに遂い涙が出ます。
記者様、普及会としても日本へ事情を能く申され、有資格の先生には未公認学校にても公認学校と同様、総ての点に同等の優遇をなさつたならば(優遇費及び講演会費下附)私達の学校にも、良い先生が来て下され、早く公認の手続が出来て立派な学校になりはしないでせうか、子供の可愛いのは何処の親御でも同じ事でせうが、毎日小供の萎れた姿を見るにつけ
実際泣かされました。あなたのお手紙には、学齢の児童を持つ母にして小供にせがまれても
其の手続は日本や領事館へ頼つたとて仕方がありませんから、教育普及会か又は同会部会かに委員を派して早速州政府教育課の方へ手続すべく
そして又有資格の教員に就きましても、学校を公認に建直す手続を為すと共に有資格教員の詮衡を教育普及会の方へ申込んで置きますなら、これも得られる事は請合ひです、兎に角手続は早いほど良いのですからあなた方から御地学校関係者に右の次第を早速お頼みなさるが何よりも必要な事です。 (記者)