 |
二〇・一〇・九
自主的即決的施策ノ緊急樹立ニ関スル件（試案）政一
国際情勢ハ帝国ノ国際管理実現ノ方向ニ向ヒツツアリ帝国ノ前途愈々多難ニシテ対米相互信頼感ヲ鞏化シツツ我方ノ自主的発意ニ依リ日本ノ変革更生ヲ具体的ニ実現スルコト焦眉ノ急務ナリ然ルニ降伏後ニ於ケル事態ノ進展ヲ観ルニ事実ハ右喫緊ノ要請ヨリ距ルコト遠ク進駐軍ハ「ポツダム」宣言及「降伏後ニ於ケル米国ノ初期ノ対日方針」等ニ体現セラレ居ル日本統治ニ関スル方針大綱ヲ綱領トスル革命勢力タルノ感アリ帝国ニシテ速ニ聯合国側ノ日本統治方針大綱ノ意図スル所カ平和主義ト合理主義ヲ基調トスル民主主義日本ノ建設ニ在ルコトヲ明確且徹底的ニ把握シ日本ノ変革更生ノ主体性ヲ恢復シ自発的ニ統治制度ヲ初メ政治、経済、文化等各般ノ分野ニ亘リ急速ニ施策要綱ヲ樹立シ之ヲ強力ニ遂行スルニ非ラサレハ事毎ニ進駐軍側ヨリ命令ヲ与ヘラレ、受動的ニ之カ実施ヲ余儀ナクセラレ政治経済ノ革新案ハ極端ニ走ルノ結果トナルヘク斯クテハ唯ニ施策ニ中正ヲ失フノミナラス国家トシテ自主権ノ全面的喪失ヲ招来シ勢ヒノ趨ク所終戦決定当時「ポツダム」宣言ノ降伏条項ヲ受諾スルニ決シタル際ノ帝国ノ意図ハ没却セラレ降伏後ノ独逸ト択フ所ナキ状態ニ立到ルノ惧レ極メテ大ナリ
仍テ別紙要綱ニ拠リ緊急ヲ要スル施策ヲ即決的ニ確立シ之ヲ聯合軍側へ連絡シテ其ノ協力ヲ求メ全力ヲ尽シテ之カ実施ニ邁進スルモノトス
自主的即決的施策確立要綱
一、最高指針
（1）彼我双方ニ依ル「ポツダム」宣言ノ降伏条項ノ恪遵ト国際正義ノ厳守ヲ期スヘキコト
（2）対米協調ニ徹シ相互ノ理解ト信頼感ヲ増大シ帝国更生ノ基礎ヲ強化スヘキコト
（3）変革更生ニ至ル万般ノ政策ハ進歩主義ヲ基調トシ民主主義、平和主義、合理主義ニ基ク政治経済ノ社会化ニ重点ヲ指向シ国民大衆ノ生活確保ヲ第一義トスヘキコト
（4）変革更生ノ断行ニ当リ飽ク迄自主性ト主体性ヲ失ハス且ツ日本民族国有ノ美点ト好マシキ伝統ヲ常ニ其ノ基底ニ厳存セシムヘキコト
二、綱目
（1）降伏条項ノ厳守及国家生存権ノ確保
（イ）「ポツダム」宣言等ニ掲ケラレアル降伏条項ヲ忠実ニ履行スルト共ニ聯合国側ニ依ル右条項ノ範囲逸脱ヲ防止スルコト
（ロ）徹底的日米協調ニ依リ米国ノ協力ノ下ニ円滑ニ国内革新ノ実行ヲ図ルコト
（ハ）帝国領土ノ割譲ノ合理的解決ヲ図ルコト
（ニ）聯合国側ノ支援ヲ得テ差当リハ国民経済維持上少クトモ最低限度ノ必要ヲ確保スルコト
（2）統治制度及統治組織ノ改革
（イ）皇室制度ノ合理化ヲ図ルト共ニ大赦、皇室財産ノ御下付等ヲ行ヒ国民ノ皇室ニ対スル信仰ヲ新タニシ以テ国体ノ護持ヲ完カラシムルコト
（ロ）憲法ヲ改正シ之カ運用上民主主義精神ニ依ル輔弼制度ヲ確立スルモ大概ハ時ニ応シ能動的ノモノタラシムルコト
（ハ）内大臣府、枢密院等ノ民主化ニ依ル□高政治ノ公開ヲ図ルコト
（ニ）選挙法及貴族院令ノ民主主義的、進歩主義的改正ヲ行ヒ急速ニ総選挙ヲ行フコト
（選挙法ノ改正案ハ審議会ニ一ケ月ノ期限ヲ附シ主要点ノ改正案ヲ完了セシムベク要スレバ暫定的改正ニテモ可ナリ）
（ホ）内閣各省ノ統合簡素化ヲ行フト共ニ官制及官吏任用制度ヲ根本的ニ改革スルコト
（ヘ）検察制度ニ附着スル封建的残渣ヲ一掃スルコト
（ト）国民経済ノ諸条件ノ変移ニ応ジタル地方行政区劃ノ改正ヲ行ヒ且ツ地方自治制ヲ強化スルコト
（3）文化政策ノ刷新
（イ）神社神道ニ於ケル政治性ヲ払拭シ神道カ極端ナル国家主義ト神話的日本選民思想ノ源泉タルヤノ疑ヒヲ一掃スルコト
（ロ）広ク東西ノ古典ノ翻訳乃至註釈普及ヲ図ルコト
（ハ）大学教育ニ真理探究ノ自由ヲ認メ又個ノ完成ヲ目標トスル全学校ノ再編成ニ関シ基本的方向ヲ闡明シ□□ノ根本的改正ヲ速カニ完了スルコト
（ニ）思想、宗教、文化等ニ関スル政府ノ統制ヲ廃スルト共ニ右ノ分野ニ於ケル民間諸団体ニ残存スル軍国主義的、封建的性格ヲ一掃スルコト
（ホ）文化ノ中心ヲ首府ノミニ限定セズ地方的ニ分散スルコト
（4）国民大衆ノ生活確保
（イ）権威アル食糧需給計劃ヲ樹立シ配分制度ヲ合理化スルノ具体案及住宅政策ヲ確定シ即時実施ニ□スコト之ガ為ニ統制ヲ活用スルコト
（確定案ハ之ヲ聯合軍側ニ提示シテ必須食糧ノ輸入等ニ付所要ノ援助ヲ得ルニ努ムヘシ）
（ロ）生産ノ増加ヲ図ルト共ニ劃期的ナル財政施策ヲ実施シ購買力ノ□□ノ為ノ凡ユル方法ヲ尽シ以テ「インフレーシヨン」ノ進行ヲ阻止スルコト
（精密ナル数字ニ基ク明確ナル具体案ヲ速カニ聯合軍側ニ提示シテ支援ヲ得ル様措置スヘシ）
（ハ）封建的農村経済組織ヲ打破スルト共ニ農業経営ニ近代的技術ヲ導入シ之カ多角化ヲ図ルコト
（ニ）伝統的手工業ヲ存続助長スルコト
（ホ）修理経済ノ急速復活ヲ促進スルコト
（ヘ）産業立国ノ重点ヲ農業ニ置クヘキヤ工業ニ置クヘキヤニ依ル人口ノ再配置ヲ図ルコト
（5）国民経済ノ社会化
（イ）労働組合、農民組合、消費者組合等ノ結成ヲ促進シ一般ニ組合運動ノ活溌化ノ為ノ措置ヲ講スルコト
（ロ）社会保険制度ノ拡充強化ヲ即時実施スルコト
（ハ）企業経営等ニ対スル干渉ヲ止ムルコト
（ニ）財産税及高度ノ累進課税ヲ課スルコト
（ホ）富ノ再分配、企業独占ノ打破、産業支配権ノ社会化ヲ計リ且右ハ大財閥ノ解体ト並行セシムルコト
（6）輸入資金ノ造成及失業者ノ吸収
（イ）聯合国側ヨリ原料ノ提供ヲ得テ完成ノ品トシテ之ヲ給付シ輸入資金ノ獲得及賠償ノ一部充当ヲ図ルコト
（ロ）輸出ノ可能性ニ関スル調査ヲ速カニ完成シ輸出可能物資ノ外貨ヘノ換価及輸出産業ノ操業ヲ再開スルコト
（聯合軍側ト連絡シ所要ノ援助ヲ得ル様努ムヘシ）
（ハ）失業対策トシテ土木事業、「ダム」建設等ヲ即急実施スルコト
（註）前記諸項目ハ自発的、即決的ニ着手スルヲ要シ然ラスシテ徒ラニ時機ヲ失スルニ於テハ聯合国側ヨリ先手ヲ打タレ実施命令ノ□□□□ルヘク□□□□□カラスト看取セラルル場合ハ部分的軍管理ノ実施ニ至ル公算モアリ□イテハ占領政策上 天皇及帝国政府ヲ活用セントノ当初ヨリノ米側ノ意嚮ハ放棄ヲ余義ナクセラレ其ノ結果帝国ノ運命ハ危機ニ陥ルニ至ルコト予見ニ難カラス
|