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(秘)
(美濃部博士稿)
第一 憲法改正ノ基本問題
一、憲法ノ改正ハ憲法ノ特定ノ条項ノ修正、削除又ハ追加ニ止ムベキヤ又ハ其ノ全部改正即チ全部ニ亙ル新憲法ノ制定ニ及ブベキヤ。
若シ現在ノ政治上ノ必要ニ応ズル為ナリトセバ、特定ノ条項ノ改正ヲ以テ足レリト為スベキモ、果シテ其ノ必要アリヤ否ヤハ疑問ナリトス。
新日本ヲ建設シ民心ヲ一新スル為ニハ寧ロ其ノ全部改正ニ著手スルヲ可トセザルヤ。
二、憲法ノ改正ニハ降伏ノ結果トシテノ現在ノ状態ヲ基礎トスベキヤ又ハ将来国家ノ独立ヲ回復シ得ベキコトヲ期シ独立国タルコトヲ基礎トスベキヤ。
若シ現在ノ状態ヲ基礎トスベシトセバ、陸海軍、外交、戒厳、兵役ニ関スル第十一、十二、十三、十四、二十、三十二ノ各除ヲ削除スルヲ要スルト共ニ、第一条ヲモ「日本帝国ハ聯合国ノ指揮ヲ受ケテ 天皇之ヲ統治ス」トイフガ如キ趣旨ニ修正スル必要アルベシ。
寧ロ現在ノ状態ハ一時的ノ変態トシテ考慮ノ外ニ置キ、独立国トシテノ日本ノ憲法タラシムベキニ非ズヤ。
第二 憲法ト皇室典範トノ関係
皇室典範及其ノ下ニ於ケル皇室令ハ純然タル皇室家法タラシメ、第二条第十七条ヲ修正シテ皇室典範中実質上憲法ニ属スル条項ハ之ヲ憲法中ニ併セ規定スルヲ可トセズヤ
第三 天皇ノ大権
天皇ノ大権ニ関スル条項中考慮ヲ要スベキモノニハ陸海軍等ニ関スル前掲諸条ノ外左ノ各条アリ。
(一)第八条 緊急命令ノ大権ハ存置スルヲ可トスベキモ(イ)緊急命令ガ議会ノ承諾ヲ得タルトキハ法律ノ効力ヲ有スルコト(ロ)緊急命令ヲ以テ法律ヲ廃止変更シタル場合ニ於テ若シ其ノ命令ガ次ノ議会ノ承諾ヲ得ザルトキハ法律ハ当然其ノ効力ヲ回復スベキコト(ハ)次ノ議会開会前ニ政府ガ緊急命令ヲ廃止シタル場合ニ於テモ其ノ緊急命令ハ次ノ議会ノ承諾ヲ要スルコト(ニ)次ノ議会ノ開会中ニ承諾又ハ不承諾ノ議決ヲ見ルニ至ラズシテ閉会シタルトキハ不承諾ト看做スコトヲ明示スルヲ適当トスベシ。
(二)第九条 独立命令ヲ廃止シ、法律ヲ執行スル為ニ又ハ法律ノ委任ニ依リ命令ヲ発シ又ハ発セシムルモノトスルヲ可トスベシ。
(三)第十三条 条約ハ公布ニ依リ法律ノ効力ヲ有スルコトヲ明示スベシ。
(四)第十五条 爵及位ヲ存置スベキヤ否ヤハ疑アリ。
寧ロ爵位ハ之ヲ廃止シ栄典大権ハ勲章、褒章、記章ニ止ムルヲ可トセズヤ。
(五)第三十一条 削除
第四 臣民ノ権利義務
一、臣民ノ義務ニ関シテハ兵役、納税ノ如キ個々ノ義務ヲ列記スルコトヲ改メ、包括的ニ「臣民ハ此ノ憲法及法律ニ服従スル義務ヲ負フ」トイフガ如キ趣旨ノ規定ヲ設クルヲ可トスベキカ。
二、臣民ノ権利ニ関シテモ包括的ニ「臣民ハ法律ニ依ルニ非サレハ其ノ自由及権利ヲ侵サルルコトナシ」トイフ趣旨ノ一箇条ヲ設クルコト。
三、法律ヲ以テモ侵スコトヲ得ザル自由及権利ニ付テハ別ニ其ノ規定ヲ設クルコト。
第五 帝国議会
一、議会ノ一院制トニ院制ノ可否ハ攻究ヲ要ス。
二、仮ニ二院制ヲ取ルトシテモ貴族院ノ名称及構成ヲ如何ニスベキカハ慎重ノ考慮ヲ要ス。
三、議会ノ権限ニ関シテハ大体現行ノ儘ニテ不可ナシト思考スルモ大臣問責ノ権ニ付テハ尚考慮ヲ要ス。
四、議会ノ会期ニ付テハ十分ノ考慮アルベシ。
五、二回以上ノ反覆解散ヲ禁止スル規定ヲ設クルノ可否。
第六 国務大臣及枢密顧問
一、内閣制度ニ付憲法中ニ規定ヲ設クルコトノ可否。
二、内閣ト議会ノ信任トノ関係ニ付テハ特ニ規定スル必要ナシト思考スルモ尚研究ヲ望ム。
三、国務大臣以外ノ者ガ国務ニ付 天皇ヲ輔弼スルコトヲ禁止スル規定ハ之ヲ設クル必要ナシト思考ス。
四、枢密院ハ之ヲ廃止スルヲ可トスベキカ。
第七 司法
司法ニ付テハ別ニ述ブベキコトナシ。
第八 会計
会計ニ関シテハ十分ノ研究ヲ要スルモ別段ノ意見ナシ。
第九 補則
憲法ノ改正ニ関シテハ議会ノ発案権ヲ認ムルヲ正当トナスベシ。 |