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(参考)
法学博士 里見岸雄 稿
大日本帝国憲法改正案私擬
日本国体学会
大日本帝国憲法改正案私擬
法学博士 里見岸雄
第一章 国体
第一条 大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第二条 皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ継承ス
第三条 皇位ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
第四条 天皇ノ身体及名誉ハ之ヲ冒涜干犯スルコトヲ得ス
第二章 政体
第五条 主権(又ハ国権)ハ国家ニ帰属シ統治権ハ天皇之ヲ固有ス
第六条 天皇ハ国ノ元首ニシテ主権ヲ総攬シ(又ハ国権ヲ総覧シ)此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ
第七条 国民ハ(天皇ノ臣民ニシテ)統治権ニ服シ此ノ憲法ニ依リ自主的ニ大政ヲ翼賛ス
第八条 国家ノ根本機関ハ政府、帝国議会、選挙院、司法裁判所、会計検査院、行政裁判所、憲法審議院、国体審議会、官公吏監視委員会及国事裁判所トナシ法律ヲ以テ構成ヲ定メ各独立シテ天皇ニ直隷ス憲法審議院長ハ国事裁判所長ヲ兼ヌルコトヲ得
第九条 摂政ハ天皇ノ名ニ於テ統治権ヲ行フ摂政ヲ置クハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ル
第三章 大権
第十条 天皇ハ祭祀並ニ儀礼ヲ司ル
第十一条 天皇ハ国務大臣ノ奏聞スル所ニツキ、或ハ裁可シ或ハ修正シ或ハ拒否ス
第十二条 天皇ハ政府又ハ国務大臣ヲ問責ス
第十三条 天皇国民ノ救済ニ関シ特旨ヲ以テ立法セントスルトキハ政府ニ命シ法律案ヲ議会ニ提出セシム コノ法律案ハ特ニ奉勅タルコトヲ明カニシ単ナル政府提出案ト区別ス
第十四条 天皇ハ官吏ヲ任免ス
第十五条 天皇ハ栄典ヲ授与ス
第十六条 天皇ハ大赦特赦減刑及復権ヲ命ス
第十七条 天皇ハ教学ノ大本ヲ指導シ且ツ之ヲ奨励ス
第十八条 天皇ハ天災若クハ非常ノ災害並ニソノ他ノ事情ニ基ク国民ノ困窮ニ対シ特ニ救済ヲ命スルコトアルヘシ
第十九条 天皇ハ帝国議会ノ開会ニ際シ臨幸ス 天皇親臨スル能ハサルトキハ勅命ヲ以テ皇族臨席ス
第二十条 天皇ハ法律上並ニ政治上ノ責ニ任セス
第四章 臣民権利義務
第二十一条 日本臣民タルノ要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
第二十二条 日本臣民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ応シ均ク官吏ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得
第二十三条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ依リ請願ヲ為スコトヲ得
第二十四条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ依リ選挙被選挙ノ権利ヲ有ス
第二十五条 日本臣民ハ職業ノ自由ヲ有スソノ自由ヲ制限スルハ法律ヲ以テスルヲ要ス
第二十六条 日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ居住、移転及旅行ノ自由ヲ有ス
第二十七条 日本臣民ハ思想、信仰、学問、芸術ノ自由ヲ有ス但シ風俗ヲ壌乱シ国体変革ヲ主張スルコトヲ得ス
第二十八条 日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕、監禁、審問、処罰ヲ受クルコトナシ
第二十九条 日本臣民ハ拷問ヲ受クルコトナシ
第三十条 日本臣民ハ法律ニ定メタル司法裁判所ノ裁判ヲ受クルノ権ヲ奪ハルルコトナシ
第三十一条 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外其ノ許諾ナクシテ住所ニ侵入セラレ及捜索セラルルコトナシ
第三十二条 日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルルコトナシ
第三十三条 日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
第三十四条 日本臣民ハ此ノ憲法ニ服従スルノ義務ヲ有ス
第三十五条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ依リ納税ノ義務ヲ有ス
第三十六条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ教育ヲ受クルノ義務ヲ有ス
第三十七条 日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ依リ国家公共ノ為必要アルトキハ政府ノ命スル勤労ニ服スルノ義務ヲ有ス勤労ノ時間及報酬ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五章 帝国議会
第三十八条 帝国議会ハ天皇ノ委任ニ依リ立法権ヲ行ヒ歳入及歳出ノ予算ヲ議決シ且ツ行政ヲ監視ス
第三十九条 帝国議会ハ東院西院ノ両院ヲ以テ構成ス
第四十条 東院ハ東院議員選挙法ノ定ムル所ニ依リ選挙セラレタル議員ヲ以テ組織ス
第四十一条 西院ハ職能代表議員選挙法ノ定ムル所ニ依リ選挙セラレタル議員及華族代表議員選挙法ニ基キテ選出セラレタル議員ヲ以テ組織ス 詳細ハ法律ヲ以テ定ム
第四十二条 何人モ同時ニ両議院ノ議員タルコトヲ得ス
第四十三条 両院ハ各々政府若クハ国務大臣ニ対シソノ責ヲ問ヒ又ハ不信任ヲ議決スルコトヲ得 両院一致シテ不信任ノ表決ヲセラレタル政府ハ総辞職スヘシ但シ東院ノミ不信任ノ表決ヲ為セルモ政府ノ所信正シト思考スルトキハ政府ハ一回ニ限リ東院ノ解散ヲ行フヘク天皇ノ裁可ヲ受クルコトヲ得此ノ場合ニハ直チニ総選挙ヲ行フモノトシ四箇月以内ニ議会ヲ招集スへシ
第四十四条 両議院ハ政府ノ提出スル法律案ヲ議決シ及各々法律案ヲ提出スルコトヲ得
第四十五条 両議院ノ一ニ於テ否決シタル法律案ハ同会期中ニ於テ再ヒ提出スルコトヲ得ス
第四十六条 両議院ハ法律又ハ其ノ他ノ事件ニ付各々其ノ意見ヲ政府ニ建議スルコトヲ得但シ其ノ採納ヲ得サルモノハ同会期中ニ於テ再ヒ建議スルコトヲ得ス
第四十七条 帝国議会ノ会議ハスヘテ公開トシ秘密会ヲ禁ス議会ヲ傍聴セントスル者ハ別ニ定ムル所ニ依リ許可セラルヘシ
第四十八条 東院ハ予算ヲ先議ス
第四十九条 両議院ハ各々其ノ総議員三分ノ一以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開キ議決ヲ為スコトヲ得ス
第五十条 両議院ノ議事ハ過半数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第五十一条 両議院ハ各々天皇ニ上奏スルコトヲ得
第五十二条 両議院ハ臣民百名以上ヲ代表スル者ノ呈出スル請願書ヲ受理シ議事ニ附スヘシ
第五十三条 両議院ハ此ノ憲法及議院法ニ掲クルモノノ外内部ノ整理ニ必要ナル諸規則ヲ定ムルコトヲ得
第五十四条 両議院ノ議員ハ議院ニ於テ発言シタル意見及表決ニ付院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ但シ議員自ラ其ノ言論ヲ演説刊行筆記又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公布シタルトキハ一般ノ法律ニ依リ処分セラルヘシ
第五十五条 両議院ノ議員ハ現行犯罪又ハ内乱外患ニ関ル罪ヲ除ク外会期中其ノ院ノ許諾ナクシテ逮捕セラルルコトナシ
第五十六条 議会ハ毎年定期ニ自働的ニ集開ス緊急ノ場合ニハ天皇ノ裁可ヲ経テ政府 臨時議会ヲ招集ス会期ハ政府及議会ノ合議ニ依リソノ都度之ヲ定ム
第五十七条 帝国議会ノ開会閉会ハ議会自ラ之ヲ行フ
第五十八条 両院ハ常任委員会ヲ設ケ政府ノ緊急命令案ヲ審議セシメソノ他議会ノ権限ヲ仮行セシム
第五十九条 国務大臣及政府委員ハ何時タリトモ各議院ニ出席発言スルコトヲ得
第六十条 政党ハ法律ノ定ムル所ニ依リ公認セラル
第六章 国務大臣及政府
第六十一条 国務大臣ハ国務総理大臣及国務各大臣ニ分ツ国務総理大臣ノ候補者ハ勅問ニ依リ国民投票ヲ以テ奉答選出ス最高得点者及次点者ヲ当選者トシ当選者ノ中勅旨ヲ以テ親任ス国務各大臣ハ国務総理大臣ノ奏請ニ依リ親任ス
第六十二条 国務大臣ハ政府ヲ組織ス
第六十三条 国務総理大臣ハ政府ヲ統轄シ国務各大臣ノ首班トナル
第六十四条 国務各大臣ハ各省大臣ヲ兼ヌルモノトス但シ無任所大臣ハ此ノ限リニアラス
第六十五条 国務大臣ハ大権事項ニ関シ天皇ヲ輔弼シ国務ニ関スル詔勅ニ副署ス但シ祭祀ハ此ノ限リニアラス
第八章 司法
第八十条 司法権ハ天皇ノ委任ニ基キ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ
第八十一条 裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルルコトナシ懲戒ノ条項ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第八十二条 裁判ノ対審判決ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律ニ依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ対審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得
第八十三条 行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリト思惟スル者ハ別ニ定ムル法律ニ依り行政裁判所ニ訴訟スルコトヲ得シム
第九章 財政会計
第八十四条 新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ但シ報償ニ属スル行政上ノ手数料及其ノ他ノ収納金ハ前項ノ限ニ在ラス
国債其ノ他予算ニ定メタルモノヲ除ク外 国庫ノ負担トナルヘキ契約ヲ為スハ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ
第八十五条 国民一般ヲ対象トスル消費諸税ハツトメテ之ヲ抑制シ叩リニ加重スヘカラス
第八十六条 徴税ニ当リテハ臣民ノ名誉ヲ重ンシ税務吏ノ不当ナル威嚇ヲ加フルコトヲ禁止ス
第八十七条 国家ノ歳出歳入ハ毎年予算ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ予算ノ款項ニ超過シ又ハ予算ノ外ニ生シタル支出アルトキハ後日帝国議会ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第八十八条 予算ハ前ニ東院ニ提出スヘシ
第八十九条 皇室経費ハ現在ノ定額ニ依り毎年国庫ヨリ之ヲ支出シ将来増額ヲ要スル場合ヲ除ク外帝国議会ノ協賛ヲ要セス
第九十条 既定ノ歳出及法律ノ結果ニ由り又ハ法律上政府ノ義務ニ属スル歳出ハ政府ノ同意ナクシテ帝国議会之ヲ廃除シ又ハ削減スルコトヲ得ス
第九十一条 特別ノ須要ニ因り政府ハ予メ年限ヲ定メ継続費トシテ帝国議会ノ協賛ヲ求ムルコトヲ得
第九十二条 避クヘカラサル予算ノ不足ヲ補フ為ニ又ハ予算ノ外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツル為ニ予備金ヲ設クヘシ
第九十三条 公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因り政府ハ帝国議会ヲ招集スルコト能ハサルトキハ国令ニ依り財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第九十四条 帝国議会ニ於テ予算ヲ議定セス又ハ予算成立ニ至ラサルトキハ政府ハ前年度ノ予算ヲ施行スヘシ
第九十五条 国家ノ歳出歳入ノ決算ハ会計検査院之ヲ検査シ会計検査院ハソノ検査報告ヲ帝国議会ニ交付ス帝国議会ハコノ報告ニ基キ政府ノ責任ヲ追究又ハ解除ス
第十章 其他諸機関
第九十六条 選挙院ハ法律ノ定ムル所ニ依り両院議員選挙、地方議員選挙、並ニ国民投票ヲ司ル国民投票ハ国務総理大臣候補者ノ選定、政府並ニ国務大臣ニ対スル不信任、帝国議会ノ議決ニ対スル否認、両院議員ニ対スル不信任等其他法律ノ定ムル所ニ依り、国民ノ意思ヲ徴スルモノトス勅命若クハ政府、帝国議会及ヒ一定数ノ国民代表ノ請願ニ基キ選挙院之ヲ司ルモノトス
第九十七条 憲法審議院ハ法律ノ定ムル所ニ依り各国家機関ノ憲法違反ニ係ル事項ヲ調査シ、憲法問題ノ疑義ヲ決ス
第九十八条 国事裁判所ハ法律ニ依り政府若クハ国務大臣ノ重大ナル失政ニ関シ裁判ス憲法問題ニ関シテハ憲法審議院ノ議決ニ遵フ
第九十九条 国体審議会ハ国体問題ニ関シ重大ナル紛議ヲ生シタルトキ之ヲ審理解決ス会長ハ皇族トシ国務総理大臣副会長ニ任ス委員ハ官民中ヨリ国体問題ニ造詣アル者ニツキ政府之ヲ任命ス
第百条 官公吏監視委員会ハ法律ノ定ムル権限ヲ以テ官公吏ノ行為ヲ監視シソノ本分ヲ尽ササル者、涜職行為アル者国民ニ対シ不親切傲慢ナル者等ヲ摘発ス長官ヲ委員長トシ公選ヲ以テ定ム
第十一章 補則
第百一条 此ノ憲法ノ条項ヲ改正セントスルトキハ勅命ノ外政府又ハ帝国議会ノ発議アリ上奏裁可ヲ得タルトキ之ヲ帝国議会ノ議ニ付スヘシ此ノ場合ニ於テ両院ハ各々其ノ総員三分ノ二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス
第百二条 皇室典範ノ改正ハ帝国議会ノ議ヲ経ルヲ要セス皇室典範ノヲ以テ此ノ憲法ノ条規ヲ変更スルコトヲ得ス
第百三条 憲法及皇室典範ハ摂政ヲ置クノ間之ヲ変更スルコトヲ得ス
参考 華族ハ一代毎ニ爵位ヲ降シ将来ハ皇族男子ノ臣籍降下スル場合ニ限り華族ニ列セシムルモノトス |