史料にみる日本の近代 -開国から戦後政治までの軌跡-

宣言

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宣言

同士諸君、今や我が国は歴史的一大転換を為さんとしてゐる。この時に当り我等は勤労大衆の組織結合体として、日本社会党を結成し、旧き日本に巣喰ふあらゆる勢力の牙城を衝き、我等が偽瞞の面皮を剥ぎ嘘喝の舌根を抜いて文化の薫り高き平和国家、新しき日本を建設せんとして起上ったのである。我が国既往の政治及び経済が如何に勤労国民大衆の犠牲に於て、一部特権階級の恣意に委ねられてゐたかは、この度の敗戦の事実と共に遺憾なく国民の前に暴露されつつある。統帥権独立の錦旗を擁して正常なる立憲政治の運営を阻害し、或は自ら政治の推進力なりと僣称して、遂には大東亜戦争といふ国家破滅の大罪を犯した軍閥が、嘗てその名誉と信義と廉潔とを誇りたりと雖も、今、国の内外より戦争責任追及の声大いに挙がる時「我こそ戦争責任者なり」と自ら名乗る者を一人として出さざる事実と、終戦時に於ける彼等の貪婪厭くなき悪業とは、彼等の言行が嘘偽と偽瞞の累積にして、国家破却の元兇たり国民虐使の張本人たることを立証して余りあるであろう。

軍多年の積悪は<耳(みみへん)+応(おう)>て自ら墓穴を掘って崩壊し去ったが、軍勢力と結託して拙劣無計画なる統制を行ひ、国民生活を不当に窮乏化したる官僚群は未だ非違を改むるの状なく、晏如として旧地位に留まる者大多数を数ふ、而して国家新体制と呼称して政党を解体し、大政翼賛の名の下に議会の謀殺を企てたる政治家群、及び之れに追従して専ら自己の保身栄達に汲々たりし議会人の明動暗躍、その跡を絶たざるは今日の現状である。すべて、これらは戦時利得の前に跳躍せる財閥資本家の狂暴なる搾取機関たる資本主義機構を舞台として演出されたのである。
 かかる際我等は政治的節操を重んじ、信念に生き、理想に忠実なる血盟の同志として信を中外に布き、旧時代の残滓勢力と果敢なる闘争を展開せんとするものである。吾我はこの闘争を通じて国民の全般的自由を獲得し、議会の権威を恢復して責任政治の基盤を固め、以て民主々義への大道を拓かねばならぬ。而して更に努むべきは、日本経済を平和的に再編成し、国民の生活を一日も速かに安定せしめることである。
経済の健全なる復興と国民生活の安定とは、社会主義計画経済に依るにあらずんば断じて行ひ得ないことを確信す。誤れる官僚統制に苦しむ国民を、自由経済の好餌を以て懐柔せんとするは、国民を欺くものである。又極端なる観念的平等観を以て生活を律し、自由と平等とを同時に約束する者は、国民に虚偽を約束するものである。吾等は厭くまで社会民主々義の大旗をかざして、吾我の理想に向つて勇往邁進することを誓ふ。
 然し我等の前途は決して坦々たるものではない。又吾等の力を過信して増上慢になってはならない、現に吾等の享有せる自由が自ら闘ひ取ったものでないことを想ふとき、吾等の打樹てんとする民主々義、吾等の実現せんとする社会主義の基礎は、未だ充分に用意されてはゐない。国民の個々人が個性の完成に目醒め、相互に人格を尊重し、社会の連帯性を自覚して教養豊なる人間となることが根本要件であることを忘れてはならない。かかる国民の結合にして初めて真の文化国家たり得るのである。而してこの事実を備へることによって初めて世界の信頼を博し、道義に基く国際的関係を取戻すことも出来る。
同志諸君、既に民主々義革命の歯車は廻転し始めた。やがて社会主義革命の歯車とがっちり組合って、新日本建設の一大運動は前進する。
 吾等は過去に於て充分発揮し得なかった力を、此際此処に凝集して運動の中心勢力たらしめ、吾々団結の力を以て、内には国民安堵の理想郷を実現し、外には人類が地球を廻って輪踊りする平和郷を創らうではないか。
 日本社会党の門扉は広く天下に開放されてゐる。
 同志諸君、来って吾等と共にこの歴史的偉業に協力せよ。
 右宣言す。
昭和二十年十一月二日 日本社会党
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