【本文】
拝啓 貴翰拝誦仕候。全く御同感の事ばかりにて、しかも微力如何ともする能はず日夜煩悶懊悩致し居る次第、御憐察被下度候。仏印進駐は松岡前外相すら極力反対したる所、しかも刀折れ矢尽きて前内閣当時の御前会議にて決定を見、新内閣成立の時は已に海南島に集結をいたし居り、矢は弦を離れたる形にて、もはや如何ともする能はず、但し日米国交調整の見地よりすれば、蘭印なればとも角、仏印なれば大して故障なかるべしとの見透しが、陸海軍共一致したる見解にて、此見透しが誤り居り、今回の如き結果となりし事、遺憾至極に存居候。【封筒表】
山梨県山中湖畔旭丘 有田八郎殿 親展【封筒裏】
東京 近衛文麿