明治期に活躍した文学者

「近代日本人の肖像」には多くの文学者が掲載されています。ここでは明治期に活躍した文学者を簡単に紹介しましょう。

坪内逍遥は、近代日本最初の本格的文学論『小説神髄』を著し、小説においては人間心理を忠実に写し取るべきことを主張し、江戸以来の戯作や当時流行した政治小説とは一線を画す写実的な小説を目指しました。二葉亭四迷の『浮雲』は近代文学の嚆矢とされます。四迷は本作で口語体を選び取ることでより写実的な小説を書こうとしましたが、「言文一致体」が確立し、日本文学のスタンダードとなるのはもう少し後のことです。それまでは、例えば森鴎外は漢語混じりの文語体で『舞姫』を著していますし、当時人気の大衆作家であった尾崎紅葉も、井原西鶴を彷彿とさせる文体で著述しています。

「言文一致体」が一般化した明治40年代には、島崎藤村田山花袋正宗白鳥徳田秋声らが優れた自然主義小説を発表しました。彼らは「現実暴露」を標榜し、近代人の苦悩を、主観を極力排して客観的な文体で描こうとしました。こうした自然主義のあけすけな表現から一歩距離を置き、詩情あふれる文章で近代人の苦悩を書いた夏目漱石の姿勢は「余裕派」とも称されます。「余裕派」とは高浜虚子の短編小説集『鶏頭』に漱石が寄せた文に登場する表現で、人生に対し余裕をもって臨む立場を示します。

以上、紹介した人物の代表作は各人物のページから読むことができるので、本紹介を手掛かりに、近代日本作家の作品を読み進めていただければ幸いです。

    参考文献