旧安田財閥の二代目御曹司
(やすだぜんじろう(にだいめ))
1879-1936(明治12-昭和11年)
初代善次郎の長男。幼名は善之助。大正10年(1921)に家督を相続して襲名。
書誌学に造詣深く、善本・稀覯本の蔵書家として知られるだけでなく、家蔵の稀覯書の覆刻などもした。
ほかに、「松乃舎」と「麻都能夜」(まつのや)がある。
「安田文庫」(やすだぶんこ):45x18mm
「松廼舎文庫」(まつのやぶんこ):75x19mm
集書活動は前後二期からなる。前期は松廼舎(まつのや)文庫、後期は安田文庫と称した。不運に両文庫は災禍で焼失している。
松廼舎文庫は、東京・本所横網町の安田家本邸内にあり、彼の号「松廼舎」が文庫名として使われた。江戸文学、殊に歌舞伎・能楽の珍本を主とし、広く名家の自筆本や短冊類にも及んだという。これら全ては関東大震災の劫火で邸とともに灰となった。
文庫の片鱗は、『松廼舎文庫蔵書展観目録』「松廼舎文庫の蔵書」(『木村仙秀集三』所収)で窺うことができる。
後期の安田文庫は古写経・古版本により力点がおかれた。古活字本は400点余に達している。この他にも絵入り通俗読み物・江戸絵図・書誌類などさまざまな名品を揃え、質量ともに全国屈指の善本文庫に発展した。
昭和11年(1936)秋に急逝し、文庫活動は杜絶した。享年58歳。
遺された蔵書は、東京・平河町の旧安田邸内の仮書庫にあったが、昭和20年(1945)3月末の大空襲でほとんどが失われた。蔵書の一部分は、石田茂作著『安田文庫古経清鑒』、川瀬一馬著『増補古活字版の研究』などに紹介されている。
『実業の世界 32(2) 2月号』(実業之世界社 1935-02-01)【Z3-512】