2 関孝和・関流

江戸時代の数学に方法論的な革新をもたらした関孝和(?-1708)の著作と、彼の数学の基礎を与えた中国数学書の翻刻、そして関の数学の成果を直接引き継いだ世代の算書を紹介する。

関孝和の著作

1 解見題
関孝和編 写 1冊 <140-203>

本書は関流の間で重視された和算書で、関孝和の主要な業績と見なされる三つの著作をまとめて呼んだ「三部抄」の一つ『解見題之法』である。(他の二つは『解隠題之法』と『解伏題之法』である。)

内容は、平面図形数種と立体図形数種の面積や体積を求める方法を述べたものである。初等的な図形がほとんどであるが、螺線に似た「湾背」という曲線の取扱いが例外的に難問となっている。

2 算脱之法
関孝和編 写 1冊 <140-204>

3 算脱験符
関孝和編 写 1冊 <244-76>

本書は関流の中で「七部書」の一つとして重視された和算書。内容は数学遊戯の2章「算脱之法」「験符之法」からなる。

前半「算脱之法」は『塵劫記』にも取り上げられている「継子立て」という数学遊戯を一般化して例示したもの。後半「験符之法」は、やはり『塵劫記』で「初製目付字」として紹介されている遊戯の一般化である。数学遊戯的な題材からも数学の問題を抽出し、一般化する着眼点は大いに評価される。

異本2種を掲載した。

4 括要算法 4巻
関孝和遺編 荒木村英閲 大高由昌校訂 武江 升屋五郎右衛門ほか 正徳2(1712)刊 合2冊 <112-63>

関孝和の没後、その弟子である荒木村英のもとに伝えられた算術の内容を、新たにまとめなおして刊行されたのが本書『括要算法』である。全4巻。

第1巻目には数論のいくつかの例題、第2巻目では有限級数の和の問題からベルヌーイ数を導き、第3巻目では正多角形に関する問題を収録し、最後の第4巻目では円周率の導出などをまとめている。

いずれの内容も当時としては高度な難問を扱っており、関孝和の面目躍如と言うべき算術書となっている。残念ながら、本文には算法そのものに対する説明らしい説明はほとんどなく、問題に対する結論のみが記されている。後世、数多くの和算家によって『括要算法』の解説書が書かれているのも故無しとしない。

中国数学書

5 新編算學啓蒙
朱世傑著 建部賢弘訳注 洛陽 柳枝軒茨木方道 元禄3(1690)刊 6冊 <140-198>

1299年に著された朱世傑『算学啓蒙』を、江戸時代の日本で注釈を付けて和刻した書。冒頭の「総括」部分を欠いている。注釈を付けているのは関孝和に学んだ和算家・建部賢弘(1664-1739)である。

中国においてそろばんによる計算が普及する以前、算籌(さんちゅう・一種の計算棒)を用いて解かれていた数学の問題を集大成したものが本書である。初等的な算術から、当時最も難しい問題を取り扱った天元術(2次以上の方程式を取り扱う術)まで網羅されている。

そろばんが普及した後、本家の中国でこの書は忘却されてしまったが、朝鮮半島に残ったものが江戸時代の日本に伝来し、再評価されることになる。江戸時代の日本においてこの『算学啓蒙』は3回も翻刻されている。天元術を日本に紹介することになったのも本書であった。(建部による注釈付き版は3回目の翻刻にあたる。)関孝和はこの天元術を拡張することで、和算の基礎を構築している。日本・朝鮮・中国を包含する数学史において、『算学啓蒙』はこのように重要な位置を占める数学書である。

関流の継承

6 諸方根源
写 1冊 <140-184>

一部の書誌情報には本書を「松永良弼著」として紹介しているが、本書に編著者名の記載はない。

内容は初等幾何学的なもので、正四面体四角錐など、立体図形の体積を求めるための公式の導き方がまとめられている。関孝和以後、一般的となった「傍書法」という数式の表記法を用いて、それぞれの公式を導いている。初歩的な内容であるが、和算の基本的な知識を知る上では有用な一書である。

7 方円算経
松永良弼著 写 3冊 <140-108>

著者の松永良弼は、荒木村英に和算を学び、磐城平藩内藤氏に仕えた人物(生没年不明)。代表的な著作に『精覈算法』などがある。関孝和の到達した数学をさらに洗練したものに深めている。

本書『方円算経』は、関孝和、建部賢弘が手がけた円理(円周率の算出など)と角術(正多角形の理論)を再度整理し、新たな観点から公式群として紹介したもの。次の世代の有馬頼徸(1714-1783)も類似の内容を『方円奇巧』としてまとめているが、その前段階の成果として位置づけられる。

展示本は奥州水沢の藩校、立生館の旧蔵書である。

8 起元解 2巻
関孝和著 写 合1冊 <112-64>

奥書によると、本書は関孝和が著したものとして関流内に継承されていた。だが、現時点ではこれが本当に関孝和の著作であるかどうかは分からない。18世紀末の和算家である藤田貞資(1734-1807)以後、関流の和算家はこの『起元解』を重視し、多くの和算家が筆写している。(必ずしも「一子相伝」として伝えられたものではないらしい。)

本書の内容としては、球の体積の求め方円周率の求め方弓形の弧の長さを求める方法などが解説されている。関孝和前後の世代の和算家が取り組んだ難問を集大成したものである。特に円周率の値を求める方法は、多くの和算家が取り組んだもので、関孝和が先鞭を付け、次の世代の建部賢弘、松永良弼らがそれに続いた。

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