第2章 日本に紹介されたアメリカ大統領の著作

第2章では、日本に紹介されたアメリカ大統領の著作を取り上げます。
自伝や演説集など、歴代のアメリカ大統領の著作は史料として数多く残されていますが、その中で日本に紹介されたものも少なくありません。古くは明治時代に第3代大統領トマス・ ジェファソンの『議会典例』が元老院によって翻訳されており、最近では『マイ・ドリーム: バラク・オバマ自伝』など、現大統領(第44代)のバラク・H・オバマの著作がいくつも刊行されています。
世界恐慌や第二次世界大戦、米ソの冷戦など、歴代のアメリカ大統領は数多くの難題に対処してきましたが、彼らの決断・行動は、時として日本を含めた世界中に影響を与えました。多大な影響力を持ち、それ故に重責を担うアメリカ大統領が何を考え、どう行動したのかを、我々は今日その著作から垣間見ることができます。この章では、主に日本語に翻訳された著作を中心に、できる限り原著も紹介する形でご紹介します。

ジェファソン, トマス(Thomas, Jefferson:1743-1826)[第3代:1801-1809]

議会典例 / 遮発爾遜(ジェファルソン)著 ; 元老院訳 〔東京〕 : 元老院, 1890 【BU-2-7】

A manual of parliamentary practice / Thomas Jefferson New York : Clark & Maynard,   1873, [c1840] 【328.3-J45m】

『議会典例』は、第3代大統領トマス・ジェファソンが記したA manual of parliamentary practiceを元老院が翻訳した資料です。著者の表記は「遮発爾遜(ジェファルソン)」となっています。選挙や議院の秩序、両院間の修正など、議会政治の基礎が簡潔に解説されています。

リンカン(リンカーン), エイブラハム(Abraham, Lincoln:1809-1865)[第16代:1861-1865]

ゲッティスバーグ宣言 / Abraham Lincoln著 東京 : 凸版印刷, 1965 【Y99-27】

「人民の人民による人民のための政治」(government of the people, by the people, for the people)というフレーズで有名なリンカンのゲティスバーグ宣言の豆本であり、その大きさは縦3.5mm、横3.5mmです。日本の凸版印刷によって刊行された「トッパン・マイクロ・ブック」シリーズの一つであり、出版当時は世界最小の本とされていました。内容は英文で記されています。

グラント, ユリシーズ・S(Grant, Ulysses S.:1822-1885)[第18代:1869-1877]

自著克蘭徳一代記 : 一名・南北戦争記(前編 1,2後編 3-5) / グラント著 東京 : 精文堂, 1886,1888 【27-32】

Personal memoirs of U. S. Grant ... / Grant, Ulysses S. New York : C. L. Webster & Co, 1885-86 【43-5】

南北戦争で北軍の将軍として活躍し、第18代大統領に就任したグラントによる回顧録です。晩年に借金を背負ったグラントは、出版社から高額な報酬で回顧録を書くよう提案され、借金の返済と家族のために回顧録の執筆を引き受けました。このときグラントは喉頭がんを患っており、回顧録を書き上げてすぐに亡くなっています。原文のPersonal memoirs of U. S. Grant ...は第70章までありますが、邦訳の『自著克蘭徳一代記』は前編の1~5のみが刊行されており、第39章までを翻訳しています。

ローズヴェルト, セオドア(Theodore, Roosevelt:1858-1919)[第26代:1901-1909]

ルーズヴェルト氏の日本觀 / ルーズヴェルト[著] ; [澁澤榮一][訳] [出版地不明] : [澁澤榮一], [1920] 【A99-ZU-H52】

日露戦争を調停した功績によりアメリカ大統領として初のノーベル平和賞を受賞したセオドア・ローズヴェルトの日本観について記した資料です。訳者は第一国立銀行や王子製紙の創立に関わるなど、多くの業績を残した実業家渋沢栄一です。同書では第一次世界大戦における日本の活躍を評価するなど日本に対して好意的な見方を示しており、友好的な日米関係の必要性を説いています。原題はWhat the Japanese stood for in the world war であり、巻末に英語の原文を付しています。

フーヴァー, ハーバート・クラーク (Herbert, Clark Hoover:1874-1964)[第31代:1929-1933]

アメリカ個人主義論 / ハーバート・フーバー著 ; 井川忠雄訳 東京 : 有朋堂書店, 1924【523-106】

American individualism / Herbert Hoover Garden City, N.Y. : Doubleday, Page & Co., 1923 【323.4-H769a】

世界恐慌に直面した第31代大統領ハーバート・C・フーヴァーの著作です。アメリカの個人主義について「精神的方面」・「経済的方面」・「政治的方面」等から解説しています。同書は世界恐慌発生前に記されたものですが、個人主義重視の立場から政府の経済界への介入には慎重な姿勢を示しており、政府の役割としては機会均等を破壊する力を抑えながら国民の創造能力を維持していくことが重要と述べています。

ローズヴェルト, フランクリン・デラノ(Franklin, Delano Roosevelt:1882-1945)[第32代: 1933-1945]

我等の行く道 / フランクリン・D.ルーズヴェルト著 ; 大道弘雄譯 大阪 : 朝日新聞社, 1934 【660-126】

On our way / Franklin D. Roosevelt. New York : John Day Co., c1934. 【特9-01357】

世界恐慌のさなかに大統領に就任したフランクリン・デラノ・ローズヴェルトの著作です。ローズヴェルトは公共事業の実施や銀行・通貨の統制を特徴とするニューディール政策を取り、政府が経済にある程度介入することで恐慌の解決を図りました。同書は大統領の在任中に公表された資料であり、ニューディール政策の根本的定義やテネシー川流域管理協会の設立、投資証券売却に対する連邦政府の管理等について解説しています。

トルーマン, ハリー・S(Truman, HarryS.:1884-1972)[第33代:1945-1953]

トルーマン回顧録 / 堀江芳孝訳 東京 : 恒文社, 1992 【A99-U-E37】

Memoirs by Harry S. Truman. / Harry S. Truman Garden City, N.Y : Doubleday, 1955- 【923.173-T867】

第33代大統領トルーマンの回顧録です。前任のフランクリン・デラノ・ローズヴェルトの急死を受けて大統領に就任した1945年4月から、大統領を退任した1953年1月までの期間を収録しています。戦時中についてはポツダム宣言や日本に対する原爆投下、戦後についてはベルリン封鎖やNATOの創設、朝鮮戦争などが取り上げられています。

ニクソン, リチャード・ミルハウス(Nixon, Richard Milhous:1913-1994)[第37代:1969-1974]

ニクソン回顧録 第1~3部. / 松尾文夫,斎田一路訳 東京 : 小学館, 1978-1979 【GH118-84】

RN : the memoirs of Richard Nixon. / Nixon, Richard M. New York : Grosset & Dunlap, 1978. 【GK471-13】

ウォーターゲート事件で辞職した第37代大統領ニクソンの回顧録です。『ニクソン回顧録』はRN : the memoirs of Richard Nixonの邦訳ですが、原文のすべてを訳しているわけではなく、部分的に要約・割愛している箇所もあります。
邦訳は「栄光の日々」、「苦悩のとき」、「破局への道」の3部構成になっており、ウォーターゲート事件については第2部・第3部で詳細に記述されています。

レーガン, ロナルド・ウィルソン (Reagan, Ronald Wilson:1911-2004)[第40代:1981-1989]

わがアメリカンドリーム : レーガン回想録 / ロナルド・レーガン著 ; 尾崎浩訳 東京 : 読売新聞社, 1993 【GK484-E9】

An American life / Ronald Reagan. New York, Tokyo : Simon and Schuster, c1990.  【GK484-A44】

第40代大統領ロナルド・ウィルソン・レーガンの回想録であり、生い立ちから大統領退任時までの期間を収録しています。レーガンはアナウンサー・俳優を経て大統領に当選した経歴の持ち主ですが、この回想録ではアナウンサー・俳優時代のエピソードから大統領在任時の出来事まで幅広く振り返っています。大統領在任中の出来事としては、INF条約(中距離核戦力全廃条約)の調印やソ連のゴルバチョフ大統領とのモスクワ首脳会談等が取り上げられています。

クリントン, ウィリアム・ジェファソン(Clinton, William Jefferson:1946-)[第42代:1993-2001]

マイライフ : クリントンの回想 / ビル・クリントン著 ; 楡井浩一訳 東京 : 朝日新聞社, 2004 上巻【GK421-H7】・下巻【GK421-H8】

My life / Bill Clinton. New York : Knopf, 2004 【GK421-B15】

第42代大統領クリントンの回想録であり、生い立ちから大統領退任までの期間を収録しています。同書で取り上げられる事柄は多岐に渡り、経済政策や環境問題から人生哲学・政治哲学、音楽的関心、読書傾向にまで言及されています。クリントンの妻ヒラリーも自伝『リビング・ヒストリー : ヒラリー・ロダム・クリントン自伝』(早川書房 2003  【GK421-H5】)を記しています。

オバマ, バラク・H(Barack H. Obama:1961-)[第44代:2009-]

マイ・ドリーム: バラク・オバマ自伝 / バラク・オバマ著 ; 白倉三紀子,木内裕也訳 東京 :  ダイヤモンド社, 2007 【GK473-J1】

Dreams from my father : a story of race and inheritance / Barack Obama. New York, Tokyo : Kodansha International, 1996 【GK473-A10】

第44代大統領バラク・H・オバマの著書であり、その生い立ちから青春時代までが回想されています。著作はほかにも『合衆国再生 : 大いなる希望を抱いて』(楓書店 2007  【A11-U-J1】)、『「対訳」オバマ演説集』(朝日出版社 2008 【YU51-J729】)、『オバマ語録』(アスペクト 2007 【A11-U-J2】)などが翻訳刊行されています。

コラム大統領と推理小説

アメリカ大統領やその親族の手による自伝・回顧録は数多く刊行されていますが、彼らが記したものはそれだけではありません。中には推理小説も書かれています。ここでは、アメリカ大統領とその親族によって書かれた推理小説をご紹介します。

トレーラー殺人事件の謎 / アブラハム・リンカーン著 (『探偵たちよスパイたちよ』 p.159-169 1981 【KE173-54】)

「トレーラー殺人事件の謎」は第16代大統領リンカンが書いた推理小説です。野崎孝による邦訳が『探偵たちよスパイたちよ』に収録されています。

大統領のミステリ / フランクリン・D.ルーズヴェルト他著 ; 大社淑子訳 東京 : 早川書房,  1984 【KS141-116】

当時現職の大統領であったフランクリン・ローズヴェルトが元となる謎を提供し、それをS・S・ヴァン・ダイン、E・S・ガードナーといった当時の作家達が完成させた推理小説です。7人の作家による連作形式になっています。

ホワイトハウスの冷たい殺人 / エリオット・ルーズベルト著 ; 斎藤伯好訳 東京 : 講談社, 1987 【KS169-E12】

第32代大統領フランクリン・ローズヴェルトの息子エリオットによる小説です。フランクリン・ローズヴェルトや英首相チャーチルが登場します。

ホワイトハウス殺人事件 / マーガレット・トルーマン著 ; 平尾圭吾訳 東京 : 早川書房, 1980【KS172-78】

第33代大統領トルーマンの娘マーガレットによる推理小説です。マーガレットにはこのほか、『ジョージタウン殺人事件』(講談社 1987 【KS172-E6】)、『FBIの殺人』(サンケイ出版 1986 【KS172-150】)、『ファースト・レディ : 「大統領と妻」たちの隠された真実』(講談社 1996 【GK21-G23】)といった著作もあります。

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