ヘブラーの活字一覧Typenrepertorium der Wiegendruckeに記載された活字を統計的な側面から見てみましょう。インキュナブラ目録ISTCで特定される印刷者についてTypenrepertoriumにある活字を合計しますと約4,600に上ります。同じ父型または母型が別の印刷者へと移る場合がありますので、この数字は重複分を含んでいますが、インキュナブラ時代に大体1,100の印刷者が4,600種の活字フォントを用いて27,000点のインキュナブラを印刷したことになります。
活字の79%はゴシック体でローマン体は19%ほどです。この二大書体のローマ字のほか、ギリシア文字、ヘブライ文字、キリル文字 (グラゴール文字) の活字が作られましたが、合計でも100に満たない数です。ゴシック体はイタリアとドイツでほぼ同数の約1,200種が使われ、フランスでは約700種が使われました。ローマン体で印刷したのはほとんどがイタリアの印刷者で、ドイツ・フランス・スペインの印刷者が若干利用しました。イギリスやネーデルランドの印刷者はローマン体をほとんど、あるいは全く利用しませんでした。
使われた活字の大きさについて見てみますと、ゴシック体はさまざまな大きさの活字が使われ、20行の高さが40mmのものから420mmのものまで広がっています。なかでも20行の高さが90-99mmのものが最も多く使われ、20行の高さが70-99mmのものが全体の45%を占めています。一方、ローマン体は大きさが集中し、20行の高さが60mmのものから140mmのものまでが使われました。一番多く使われたのは20行の高さが110-119mmのもので、ゴシック体に比べて大きめの活字が利用されました。
ゴシック体はサイズもさまざまですが、書体もヴァラエティに富んでおり、地域による特色があります。ここではヘブラーの活字分類におけるMの形のパターンと活字のサイズ、その活字をよく使った地域の関係を見てみましょう。ゴシック体活字で一番多く使われたMの形のパターンはM49()で、全体の1割近い390種の活字が M49 です。この形は小さい活字 (20行の高さが70-79mm) で主に用いられ、イタリア・ドイツ・フランスの印刷者ともよく利用しました。次によく使われた形が M88()で、もう少し大きな活字 (20行の高さが90-99mm) で用いられ、主にイタリアの印刷者が利用しました。以下、 M99 、M91、 M32がよく使われ、特に M32()は大きめの活字 (20行の高さが110-119mm) で利用され、フランスの印刷者がよく用いました。一方、 M91()はイタリアの印刷者がよく利用しました。また M60()はより大きな活字 (20行の高さが180-189mm) で使われ、主にドイツ・フランスの印刷者が利用しました。