令和5年度第1回 国立国会図書館活動実績評価に関する有識者会議 議事概要
1.開催日時
令和5年6月21日(水曜)15時30分から17時30分まで
2.開催形式
Web会議システムによるリモート開催
3.構成員
- (座長)糸賀 雅児(慶應義塾大学名誉教授)
- 只野 雅人(一橋大学大学院法学研究科教授)
- 田辺 国昭(国立社会保障・人口問題研究所所長)
- 呑海 沙織(筑波大学副学長、筑波大学附属学校教育局教育長)
4. 国立国会図書館出席者
片山副館長、山地総務部長、小澤総務部企画課長
5. 主な会議内容
令和4年度国立国会図書館活動実績評価(案)について国立国会図書館(以下「NDL」という。)から説明を行った後、有識者会議構成員(以下「有識者」という。)による意見交換を行った。意見交換の概要は、以下のとおりである。
事業分野1について
有識者:
関連指標の中で、指標3「国政課題に関する調査研究のアクセス数(インターネット経由)」が19%減と目立って減少しているが、なぜか。コロナ禍収束の影響があるのか。
NDL:
二点原因として考えられることがある。一点目は刊行物の中で『レファレンス』や『外国の立法』へのアクセス数が減っていること、二点目は新規刊行本数が若干減少していることである。一点目について、『外国の立法』は、平成30年度以降のアクセス数を見ると、令和2年度、令和3年度のアクセスが多く、令和4年度はそれ以前と同程度となっており、新型コロナウイルス感染症拡大期に利用が多かったという状況があったのかもしれない。『レファレンス』は、インターネット経由のアクセスが減っている一方で、国会関係者からのアクセスには減少傾向が見られないため、国政審議の上では重要なトピックを扱っているが、一般の方にはあまり関心を持たれずアクセス数が伸びないこともあるのかもしれない。インターネット経由のアクセスが前年度から減少したこと自体が直ちに問題になるということはないと考えている。
有識者:
コロナ禍でなぜアクセス数が増えたのか多少疑問はあるが、大体のところは理解した。今回の減少が直ちに問題となるものではないというのはそのとおりかと思う。
有識者:
『レファレンス』と『外国の立法』の想定される利用者は、一般的には国会議員に限らないということでよいか。想定されている利用者の利用が、過去3か年と比べ令和4年度は目に見えて減っている印象がある。どのような利用者を想定しているのか。
NDL:
調査及び立法考査局の刊行物自体は国会議員の役に立つようにということでテーマを選んで刊行しており、国会議員には紙の現物で配布し、国会関係者専用のイントラネットにも掲載している。一方で刊行物は国立国会図書館ホームページにも掲載しており、一般の方にも御利用いただいている。そのため、インターネット経由での利用は、国会議員の数と人口を考えると、圧倒的に一般の方がどう利用しているかに影響される。事業分野1「国会活動の補佐」の中にインターネット経由での刊行物へのアクセス数が計上されているが、これは直ちに国会活動の補佐の実情を示す指標というよりも、結果として一般の方がどの程度調査及び立法考査局の刊行物に関心を持ったかを示す指標という位置付けになっている。一般の方を意識してテーマを選んでいるわけではないため、一般の関心を惹かずアクセス数が伸びないことはあり得る。ただ、国会議員に役立つテーマが、結果として一般の方にとっても重要なテーマであることは大切だと考えている。
有識者:
アクセス数が減ったのは、国会議員の利用が減ったというよりは、外部からこのコンテンツにアクセスする一般の方の利用が減ったということだと理解した。それが、コロナ禍がやや収束してきたことが背景にあるかどうかまでは現時点では読み取れず、令和5年度以降の推移を見守る必要があるように思う。NDLがこうした刊行物を出版する意義は引き続きあるだろうし、ぜひ継続していただきたい。評価結果で指標3の減少についてあえて触れる必要はないというのが先ほどの御見解だと思うが、他の構成員の方はいかがか。特に御発言もないようなので、背景が理解できたところでこの会議では了承したい。
有識者:
指標4「政策セミナーの開催回数(オンライン開催を含む。)」について、脚注3にオンライン開催の外部参加者の延べ人数が書いてあるが、これは同時双方向型で参加された方の人数で、その後ろの「スライドショーを視聴可能としている」というのはオンデマンド型と考えてよいか。
NDL:
仰るとおりである。
有識者:
オンデマンド型のアクセス数は記録していないのか。
NDL:
ここでは取り上げていないが記録はしている。
事業分野2について
有識者:
指標15「索引誌当該号の受入れから雑誌記事索引のデータ校了までに要した日数」について、未達の原因は委託業者が人員整理を行い、人員が減った中で従来どおりの業務を委託したために処理が追い付かなかったことだと理解した。その点は令和4年度の実績としては仕方ないと思う。一方で、委託業者の人員が回復せず令和5年度以降も影響が出続けるようであれば問題である。人員の回復状況や、ほかにも委託できる業者があるのかについて、回答できるようであればお願いしたい。
NDL:
例年、12月上旬の5日間を調査対象期間に設定し、当該期間に校了した記事書誌データを対象にサンプルを採り、データ校了までの期間を計上している。御懸念のような恒久的な人員減ではなく、サンプル調査の期間にたまたま一時的な人員減があったためこのような数値となっている。年度を通しての雑誌記事索引の作成件数は前年度並みを維持している。契約で作業内容について合意しているため、恒久的に人員が減少するという状況にはならないと考えている。
有識者:
調査期間の割振りの影響が大きいので、ほかによい指標を設定できないかと説明を聞いて思った。
有識者:
サンプル抽出の場合に、サンプルの抽出日の設定又はサンプルの抽出方法に問題があると感じた。指標そのものとしては雑誌記事索引のデータ校了までの日数でよいと思うが、サンプル抽出の方法を見直すなり、今のように極めて特殊な事情があるのであれば、また別の日をサンプル抽出してもよいのではないか。
NDL:
調査時期については担当部局と調整して決めているものであり、内部の話ではあるが、決裁を得た上で調査を実施することもありやや変更しづらい面があった。また、調査をやり直すとなるとそれなりの負荷が原課にもかかってしまう。ただ今回はそこがやや硬直的な対応で、実態を適切に反映できていない実績値となっている点は率直に認めなければならない。今後そうした事態があった時には、事態を把握できた時点で、調整が可能かという点も踏まえて適切なサンプリングの時期を考えたい。
有識者:
今後いろいろ検討してほしい。
有識者:
事情は理解した。この指標に限らず、ほかにもサンプル抽出で算出している指標はある。それぞれ適正にサンプリングされているかの吟味が、場合によっては説明として必要かもしれない。
有識者:
指標9「国内出版物の納入率」の③「官庁出版物(国)」と④「官庁出版物(地方)」について、いずれも高いパーセントで推移しているのは結構である。一方で、確かに地方の出版物は100%集めるのは難しいと思うが、国の出版物は比較的集めやすく、所蔵が確認できているなら督促すれば提供してもらえるのではないか。何か提供してもらえない理由があるのか。
NDL:
発行側で残部がなくなってしまい、NDLに納入されないままになってしまうことがしばしばある。入手できなかった出版物の中には機密資料のためNDLに納入されないものもあるかもしれないが、脚注10に記載のとおり納入率の分母は原則として国の支部図書館の所蔵データを基にしており、機密性が高い資料はそもそも支部図書館でも所蔵していないと思われるので、100%から欠けている部分について機密扱いによる例は多くはないだろう。支部図書館に所蔵があることが明らかなものについて、どう埋めていくかは今後の課題である。
有識者:
確かに100%は難しいとは思っていたが、理由について、開示できない資料があり納入されないということなのかが気になっていた。必ずしもそうではなく、印刷物ベースとなっており部数が足りないことが一つの要因ということか。
NDL:
NDLに所蔵がなくても、支部図書館に所蔵がある以上は、何らかの形で一般の方も利用可能な場合が多いとは思う。ただやはり、収集が必要だと分かったタイミングでは残部がなく、NDLの所蔵資料にできない場合があるのは課題である。今はデジタル資料として刊行される場合もあり、そのような形態で所蔵の欠落を埋めていくことも今後重要になってくるだろう。
有識者:
脚注10を見ると、国の諸機関の図書館の所蔵データを基にしているとあるが、納入率の分子は支部図書館も含めたNDL全体ではないということか。
NDL:
指標の分子はNDLの中央館(東京本館、関西館、国際子ども図書館)の所蔵数である。中央館にはなく支部図書館だけに所蔵がある資料があり、それがこのデータで100%にならない、欠けている数%の部分である。
有識者:
つまり支部図書館の所蔵の中に中央館にない資料があることで、99%や98%といった数値になっているということか。
NDL:
御理解のとおり、この指標はNDL中央館、つまり3施設における所蔵状況を表している。
有識者:
事情は理解したが、逆にこの指標が適切なのか若干疑問に思った。
有識者:
指標13「東京本館で受け入れた和図書の受入れから書誌データ校了までに要した日数」の達成について、3か年平均基準型という目標値の設定の仕方は理解しているが、書誌データ作成におけるベストプラクティスと比べた場合、この数値はどのくらい適切と考えているか。
NDL:
全国書誌を何日で提供できるかは昔から難しい問題だが、今は30日以内の提供を一つの目標としている。実態は30日より十分小さくできているが、何がベストプラクティスかは非常に難しい。現状でのベストプラクティスとして、この指標の実績値である15日や16日程度が実現できているとしか言えない。もっと短くできないかという改善については常に検討しているが、現在の資源でできるおおむね最善の努力を図っている。
有識者:
もっと早くできないかという趣旨の質問ではなく、指標としてベンチマーキングなども取り入れられる領域があるのではないかと思いお尋ねした。
有識者:
ベンチマークとしては3か年平均基準の数値を設定しているということだろう。指標13「東京本館で受け入れた和図書の受入れから書誌データ校了までに要した日数」の業務で外注している部分はないのか。あるいは、例えば外部のMARCデータを活用しているということであれば、NDL側の努力だけで短縮できるものなのか。
NDL:
職員プロパーではない部分が大きく二つある。一つは受け入れた段階での予備的入力であり、先ほどの雑誌記事索引と同じように外注を入れている。もう一つは外部情報の利用であり、具体的には民間販売されているMARCを使っている。官庁資料については外部情報が利用できず自力で作成するしかない。業務委託して予備入力してもらっている部分は助かってはいるが、自力で目録を採らないといけないところが必要な日数として大きい。NDLとしても官庁資料の書誌情報を丁寧に作るのは非常に大事な役割だと考えている。
有識者:
NDLの業務とはいえ、今や部分的にはいろいろなところでアウトソーシングしていると思う。あるいは、外部の情報源に依拠しつつNDLとしての業務を行っているということもあるのだろうと思う。そうした事情で指標の達成状況も微妙に変化することがあるということで、そのあたりは場合によっては定性的に、評価結果に文章で織り込まれれば、説明責任は果たされるように感じた。
有識者:
指標19「資料保存対策を行った資料点数」は25%増と、前年度の実績を大きく上回っている。この要因はおそらくマイグレーションだと思う。脚注16を見ても、マイグレーションは令和3年度から開始していて、この点数が伸びているようにも見受けられる。今後NDLとしてもマイグレーションは増やしていく、あるいは実態として増えていく方向なのか。
NDL:
マイグレーションの実施点数としては、令和4年度はフロッピーディスク440点、光ディスク164点、USBメモリ47点等である。そのほか、デジタル化資料の保存用画像について、外部委託によるLTOへのマイグレーションなども実施している。今後についても計画的に進めていく必要があると考えている。
有識者:
NDLの掲げるデジタルシフトの観点からも、マイグレーションを進めていかないと、物理的には資料が残っていても内容にアクセスできず、国家としての知的財産の結果的な損失にもつながりかねない。令和4年度の評価はこれでよいが、今後評価の指標としてマイグレーションの項目を別建てする方向も考えられるのではないかと意見を述べておく。
事業分野3について
有識者:
指標32「視覚障害者等用データ送信事業」の①「新規データ数」について、内訳としては音声データが多いと以前聞いた記憶がある。一方で、デジタルコレクションでテキストデータが提供されるようになるなど、読上げソフトを用いたテキストデータの利活用も進んでいるように思う。約3,700件の内訳は、従来から変わっている部分があるか。
NDL:
御推察のとおり、全体のストック値としては音声データが非常に多い。もともと音声データを好む障害者の方が多く、以前はカセットテープなどであったが、近年は音声データを構造化した音声DAISYが多くなった。当館が製作しているものも以前は大部分がそうであった。その上で、最近はスクリーンリーダーで読み上げることが可能であるため、テキストデータがよいと考える障害者の方が増えている。当館でも、令和3年度にテキストデータの製作を本格的に開始しており、好評を頂いている。ストック値としては、全文テキストデータ約247万件を抜きにすれば音声DAISYが引き続き多いのが事実であるが、徐々にテキストデータにも力を入れてきている。当館だけでなく参加機関からもデータを提供していただいているが、データ提供館でもテキストデータを提供してくれる館が増えている。
有識者:
長期的な見通しとしては、テキストデータの方が増えていくので、見かけ上は数字が減っていても、利便性は大きく向上していると捉えてよいか。
NDL:
全文テキストデータ約247万点について、未校正のデータではあるが、多方面から評価を頂いており、特にスクリーンリーダーで読み上げることに慣れている方にとっては飛躍的な進歩であると評価していただいている。今後もテキストデータの提供は重要と考えている。約247万点という数値は今回の指標には表れていないが、令和5年度評価の枠組みでは、全文テキストデータを含めた数値も参考指標として設定している。
有識者:
今後、指標の扱い方を考えていく必要はないか。
有識者:
テキストデータの数が膨大なので、それも今後は参考指標として出した方がよいとは思う。見かけで減っているとどうかという気になるが、おそらく実態はずいぶん異なると思うので、内訳として出してほしい。
有識者:
令和6年度以降の枠組みということになると思うが、この項目に限らず、内容が時代とともに変わってきている指標もある。場合によっては、内訳を出したり、ある部分を特出させたりすることも必要になるかもしれない。
NDL:
令和6年度の枠組みについてはまた御議論いただくが、その際にはもう少し細かい採取を検討することもあり得る。
有識者:
指標20「利用者登録」の①「利用者登録数」が71%増とあり、インターネット上で利用者登録の手続きを可能にしたことで、まさにデジタルシフト、手段のデジタル化が功を奏したと思う。他方、指標28「デジタル化資料送信サービス(図書館向け及び個人向け)」について、③「図書館向けデジタ化資料送信サービス承認館からの閲覧件数」は26%減、④「図書館向けデジタ化資料送信サービス承認館からの複写件数」は33%減となっている。個人送信が始まったから図書館送信の利用が落ちていると考えてよいか。また、今後もこの傾向が続くと考えているか。
NDL:
因果関係を明確に述べることはできないが、推測としてはやはり、図書館に行かなくても個人のデバイスで利用できるようになったことが、図書館送信の利用減につながったと考えている。その上で、図書館に行って支援を受けながら使いたいという方もいて、複線的に提供していくことが引き続き重要であると考えている。指標としては、まだ予測はできないが、個人送信の利用が伸びるにつれて、図書館送信は低減傾向が続くかもしれないとは思っている。ただ、利用が低減しても引き続き重要な価値を持ち続けるサービスであると考えている。
有識者:
同感である。
有識者:
両者は並行して推移を見守ることになると思う。さらに今後は、個人向けに著作権が切れていない資料の公衆送信も始まるので、デジタル化資料の送信だけでなく遠隔複写自体もデジタルで行われていくことになる。このあたりの数値は相互に関連して変化するだろう。
有識者:
事業分野3「情報資源の利用提供」は指標が多く、どう読むべきか今一つ分からない。NDLはデジタルシフトを掲げているものの、NDLに行かずに全ての情報を見られるという状況を目指しているようには見えないし、それが良いともあまり思えない。関連指標には指標29「館内利用」のように来館での利用に関する指標もあれば、先ほどの指標28「デジタル化資料送信サービス(図書館向け及び個人向け)」のようにリモートでの利用に関する指標もある。どちらも増やすというのは難しい面もあるように思うが、両者のバランスをどのように考えているのか。指標をどのように設定し、評価していけばよいのかにも直結する重要な部分であるので、今後のNDLのデジタルシフトについての考えも含め聞きたい。
NDL:
コロナ禍を契機として、デジタル化の大型補正予算が付き、個人送信が実現できたこと自体はNDLのサービスとしてプラスになったと思っている。NDLは首都圏の方には便利であるものの、それ以外の方にとっては資料にアクセスしづらかったのが、ずいぶん改善された。ただ、デジタル化して便利に使える資料は一部であり、来館しないと利用できない資料も多く存在する。指標29「館内利用」の「①館内利用者数」は、コロナ禍で入館制限をしていた令和3年度に比べて31%増になっているだけで、コロナ禍以前の時期と比べると7割程度にとどまっており、コロナ禍を契機にNDLに来館しなくなった層が存在する。コロナ禍が終わった後の来館利用者の姿がどうなるかはしばらく注視していきたい。その際、NDLに来なくても地元の公共図書館で資料が調べられる人は公共図書館に行くという流れが大切であり、NDLだけが使いやすくなるのではなく、公共図書館や大学図書館と合わせて図書館全体がうまく機能を果たし、その関係を一般の方々にも理解してもらうことが大切だと考えている。デジタル化の推進についても、コロナ禍以前は1968年までに刊行された図書だったのが、令和5年度作業分で1995年まで到達する。そうした中で、出版者の側から、絶版等の調査をもっと慎重に行ってほしいといった声も挙がっている。NDLにとっては、出版者の経営が厳しくなり、図書館の存在そのものの基盤となる出版活動が脅かされることは一番避けるべき事態である。利用者の目線での利便性だけを追求し、出版界にとって図書館の在り方が利用者に寄り添いすぎることになってはいけないという難しいバランスの中で、デジタル化のスピード感も考えないといけないと思っている。御質問に対して整理された回答ではないが、コロナ禍を経て変化した来館利用者像とリモートでの利用者像との間で気を付けないといけない点を模索している状況である。
有識者:
コロナ禍によって来館が一時的に中断したのが徐々にかつての状況に戻りつつあるのと、デジタル化が進みリモートアクセスが可能になってきた中で、利用実態がどのようになっていくかは、もう少し細かい調査を行っていかないといけない。マクロな数値だけを見て、増えた、減った、吸収されたといった推測だけで議論するのは危うい。今提起された点は重要な点であり、NDLの将来の在り方を考えていく上では、今後もう少しきめ細かい調査データに基づいて方向性を見出していく必要があるように思う。また、NDL内部の利用動向の変化だけではなく、NDLと他の図書館の間の利用動向の変化も見極めていってほしい。個人的には、NDLだけが繁栄するのではなく、国内の公共図書館や大学図書館もそれぞれの役割を果たし、利用者を増やしていくことが大事だと思う。そのあたりの協調路線をもう少し考えていきたいところであり、これは事業分野4にも関わることになる。
有識者:
指標31「イベント」の脚注30で、オンライン開催についてはリアルタイム配信以外の動画配信を各指標から除くこととしたとある。一方で、オンデマンドのサービスも重要だと思うが、オンデマンドのものは評価としてどこかに反映されているのか。
NDL:
事業分野4にはなるが、遠隔研修については指標34「図書館員向け研修(集合研修/遠隔研修/講師派遣)」で捉えている。
有識者:
オンデマンドで見られるイベントの回数も指標にしてもよいのではないか。
NDL:
重要な観点であり、今後検討する必要があると考えている。指標31ではリアルタイム性を重視し、オンデマンド配信の動画をイベントとは捉えていないが、オンデマンド配信を評価の中で取り上げることについては引き続き検討していきたい。
有識者:
今後オンデマンド配信をイベントの指標に含めるとすると、今回除いたものをまた含めることになるのではないか。
NDL:
以前はオンデマンド配信をそれ以外と合算し、分けられない形で扱っていた。オンデマンド配信を捉えることも重要ではないかとの御指摘ということで、イベントとは別に扱う方向で検討する。
有識者:
理解した。
事業分野4について
有識者:
指標39「レファレンス協同データベース」について、③「データへのアクセス数」は33%減である。①「累積データ数」と②「参加館数」が増えているのに対し、アクセス数が約3分の2に減少している背景や要因は分かるか。
NDL:
令和4年度にクローラによるアクセスを抑制・遮断する措置を行ったことがアクセス数の減少に寄与した可能性がある。特定のクローラによるアクセス集中が発生し、リソースの使用率の高騰が頻発したことがあり、当該クローラについてはアクセス頻度を抑制した。また、特定のクローラによる攻撃性の高いアクセス集中もあり、こちらも使用率の高騰が頻発したため、アクセスを遮断した。おそらくこれらの対応がアクセス数減につながったものと考えている。
有識者:
そうであれば、令和2年度や令和3年度は、そのようなクローラによるアクセスがあり増えていた面もあるのか。
NDL:
クローラを遮断した令和4年度にこれだけ減少したということは、それまでの実績値にクローラによるアクセスが入っていたのではないかと推測はできる。クローラによるアクセスはシステムによって制御の仕方が様々であり、なるべく除外するようにはしているが、指標の数値に含まれてしまうことはあり得る。
有識者:
致し方ないことだとは思う。話は少し変わるが、レファレンス協同データベースは生成AIが学習データを集めるのに恰好のデータベースであるような気がする。良い目的で利用されるのであればよいが、生成AIが図書館に今後どのような影響を及ぼすのかは大きなテーマであり、部分的には図書館のレファレンスに取って代わる面もあるものの、データの信頼性には乏しい場合もある。政府は今後、知的財産権の問題、データの信頼性・正確性などについて慎重に対応する方針のようだが、NDLとしてそのあたりの感触はどうか。
NDL:
生成AIについては、NDLは目下勉強中である。デジタルコレクションにある約247万件の全文テキストデータを、生成AIでの学習に使いたいという働き掛けが既にある。ただ、著作権との兼ね合いもあり、NDLとしては現時点では提供できず、もう少し状況を見定めてからということにしている。レファレンス協同データベースについては特段の働き掛けはないが、考え方は同様である。
有識者:
検討中であり、公式見解を出すには時期尚早だということで承知した。今後はどうしても、良くも悪くもそれらを視野に入れた図書館運営を考えていかなければならないと思う。
重点事業に係る事業分野①及び②について
有識者:
指標38「ジャパンサーチ」に関して、②「累積データベース数」などは増えている中で④「ページビュー数」だけが減っているが、要因は分かるか。
NDL:
先ほどのレファレンス協同データベースとは異なり、ジャパンサーチについてはクローラの影響ではないと考えている。Googleが検索結果の表示の仕組みをアップデートしたことにより、表示順位が下がり、ジャパンサーチへのオーガニックサーチ、すなわち自然な検索で至るアクセスが減少している。検索エンジンに対する最適化、SEO対策等は考えられるものを実施しているが、大きな成果はなかなか得られていない状況である。ジャパンサーチが一つの範例としているEuropeanaでも、同様にページビュー数や訪問者数の減少が見られるようである。短期間での増加は難しいが、検索エンジンに対する最適化を継続しつつ、情報発信を行い、ギャラリーの拡充や広報の強化を行うことで少しずつ成果が挙がってきていると考えている。例えば、以前はジャパンサーチにアクセスしてすぐに離脱するという直帰率が比較的高かったが、今はサイト内で回遊する割合が高いというデータもある。
有識者:
我々が想定しているような利用形態以外に様々な使われ方があり、必ずしも単純に文献や情報を得るためだけではないアクセスが増えているようである。アクセス数やページビュー数の総数を見るだけでは、そうした多様なデータ活用が見えてこないので、そのような数値を単純に評価に使ってよいのか疑問に思えてきた。令和4年度の評価としてはこれでよいが、そのようなマクロな数値の増減に一喜一憂するのは必ずしも適切ではないようにも思う。どのような使われ方をしているのか、サンプル抽出でもよいので、どこかで分析するとよいのではないか。そのような分析なしでは、NDLのデジタルシフトの大きな方向性を見誤ることにならないか、少し気になっている。データ収集の限界もあり、現時点ではこのような評価でもよいとは思うが、背景にあるものを説明してもらえると事情が分かってきたので、評価結果の文章に説明を盛り込めると、今後に向けて貴重な素材になっていくのではないかと感じた。ここ10年でサービスの在り方も大きく変わっており、評価の在り方も変わらざるを得ないように思う。
有識者:
今の指摘は重要な点であり、共感している。指標39「レファレンス協同データベース」の③「データへのアクセス数」が33%減となったことについて、備考としてクローラによるアクセスを遮断した旨を書かなくてよいのか。定性的に文章で補足すればよいのではないかという御指摘と併せて考えを聞かせてほしい。
NDL:
システムリプレース等がありカウント方法が変更されたものについて、脚注で触れているものもある。レファレンス協同データベースについても、表現を検討した上で脚注を付すことは可能かと思う。
有識者:
これまでも、数値の説明だけでは不十分な場合は文章で補足し、その背景にある事情などを説明することはあったと思う。事業分野2の指標15「索引誌当該号の受入れから雑誌記事索引のデータ校了までに要した日数」の未達成について、部分的に民間委託している業者で人員が確保できなかったために日数を要したというのも、評価結果の根拠・説明に記載がある。このような例があるのだから、達成できなかったものの要因が分かっているのであれば、補足して書いてもよいように思う。
NDL:
評価指標については、未達成の場合評価結果の中で説明することとしているが、参考指標でも、大きく変動しているものについて明確に説明できることがあれば脚注を付すべきではないかという御提言と受け止めた。特に本日御指摘いただいた点について対応する方向で検討したい。
有識者:
それでよい。
有識者:
それでは、令和4年度国立国会図書館活動実績評価(案)について、基本的には原案を了承したい。ただ部分的には、何人かの構成員から御指摘があったように、背景のようなものを文章で説明できるようであれば、差し支えない範囲で補足していただきたい。