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第39回納本制度審議会議事録
- 日時:
- 令和7年2月27日(木)10時30分~12時15分
- 場所:
- 国立国会図書館東京本館総務課第一会議室
- 出席者:
- 斎藤誠会長、田村善之会長代理、伊藤真委員、江上節子委員、江草貞治委員、奥邨弘司委員、小野寺優委員、柴野京子委員、仲俣暁生委員、中村史郎委員、根本彰委員、宮原博昭委員、山崎隆広委員
- 会次第:
-
- 委員の委嘱の報告
- 国立国会図書館長の挨拶
- 第18回代償金部会の審議経過報告
- 事務局からの報告(令和5年度資料収集状況、令和5年度出版物納入状況、令和6年度代償金予算及び令和5年度代償金支出実績、オンライン資料収集制度の運用状況)
- 根本彰委員からの話題提供及び懇談
- 今後の日程について
- 配付資料:
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- (資料1)納本制度審議会委員名簿
- (資料2)第18回代償金部会における審議の概要について
- (資料3)令和5年度資料収集状況
- (資料4)納入出版物代償金 予算額と支出実績(最近5年間)
- (資料5)国立国会図書館の資料(無体物)収集状況(令和5年度末時点)
- (資料6)令和5年1月以降におけるオンライン資料収集制度の運用状況について
- (資料7)有償オンライン資料の把握状況
- (資料8)オンライン資料の収集・利用方法
- (資料9)納本制度の課題―発足77年後の変化を見ながら―
- (参考資料1)第38回納本制度審議会議事録
- (参考資料2)国立国会図書館法(昭和23年法律第5号)(抄)
- (参考資料3)納本制度審議会規程(平成9年国立国会図書館規程第1号)
- (参考資料4)納本制度審議会議事運営規則(平成11年6月7日納本制度審議会制定)
- (参考資料5)国立国会図書館法によるオンライン資料の記録に関する規程(平成25年国立国会図書館規程第1号)
- (参考資料6)国立国会図書館法第25条の4第4項に規定する金額等に関する件(平成25年国立国会図書館告示第1号)
- (参考資料7)国立国会図書館法第25条の規定により納入する出版物の代償金額に関する件(昭和50年国立国会図書館告示第1号)
- 議事録:
- 会長:
- おはようございます。それでは、第39回納本制度審議会を開催いたします。委員の皆様にはお忙しいところ御出席くださいまして、誠にありがとうございます。本日は15名の委員中13名の方々に御出席いただいておりますので、定足数は満たされております。
なお、傍聴の方は、メモを取ることは差し支えございませんが、自由な審議を行うため、録音及び写真撮影については、御遠慮をお願いいたします。
それでは初めに、事務局から、配付資料の説明をお願いします。
- 事務局:
- [配付資料等について説明]
- 【会次第1 委員の委嘱の報告】
- 会長:
- それでは、会次第1に入ります。委員の委嘱について、事務局から報告があります。
- 収集書誌部長:
- 事務局から御報告いたします。資料1の通しページ1を御覧ください。今般、委員の交代がございましたので、新規に委嘱された方を御紹介いたします。
一般社団法人日本雑誌協会理事長の交代に伴いまして、堀内丸惠委員の委嘱を解いて、宮原博昭委員に委嘱いたしました。代償金部会への所属もお願いしております。
令和6年8月1日付けで、前任委員の補欠として委嘱させていただいたもので、納本制度審議会規程第4条第2項ただし書の規定によりまして、委嘱期間は発令日から令和7年6月30日までとなります。
御報告は以上でございます。
- 会長:
- はい、どうもありがとうございました。ただ今御紹介がありましたように、新たな委員をお迎えいたしました。どうぞよろしくお願いいたします。
- 【会次第2 国立国会図書館長の挨拶】
- 会長:
- それでは、会次第2に入ります。国立国会図書館長から御挨拶を頂きます。倉田館長、よろしくお願いいたします。
- 館長:
- 国立国会図書館長の倉田でございます。本日は、御多用のところ国立国会図書館納本制度審議会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。私は、昨年4月1日付けで、第18代国立国会図書館長を拝命いたしました。あわせまして、昨年1月1日付けで、山地康志が副館長に就任いたしております。両名ともども、どうぞよろしくお願い申し上げます。
館長就任以来初めての納本制度審議会でございますので、お許しを得まして、一言、御挨拶させていただきたいと思います。
法律に基づく納本制度等による資料の収集は、国立国会図書館の全ての活動の基盤でございます。我が国の文化的資産を蓄積し、国政審議に資するとともに、広く国民に図書館サービスを提供するという当館の使命にとって、必要不可欠なものでございます。
納本制度審議会の委員の皆様には、この納本制度等の改善及び適正な運用に関して、御指導、御鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。
長年の懸案となってまいりました、有償で配信されている電子書籍や電子雑誌といったオンライン資料の制度収集につきましては、令和5年1月から収集を開始いたしまして、2年が経過いたしました。オンライン資料について、有償無償を問わず全面的に法律に基づいて収集できるようになりましたのは、ひとえに、斎藤会長を始めこれまでの納本制度審議会の委員の皆様方の御尽力、御指導の賜物と感謝申し上げる次第でございます。運用の状況につきましては、後ほど事務局から御報告いたしますが、まだまだ課題が多いと認識しております。今後とも、出版に関係する各界の皆様の御理解と御協力を賜り、オンライン資料の着実な収集に努めてまいりたいと考えております。
私は、国立国会図書館長就任前は、慶應義塾大学において学術コミュニケーションの研究をしてまいりました。学術コミュニケーションの世界に関しましては、ほぼデジタル化が、完成とは申しませんが、非常にすごい勢いで進んでいるという状況でございます。このデジタル化の進展は、出版流通の全ての段階に及び始めているのではないかと思います。このデジタル化の波の中で、更にAI技術の進展も見られる中で、国立国会図書館の基盤を今後どのように整備、運用していくのかは、考えるべき課題が多いと考えております。
本日の審議会では、根本委員から納本制度の課題について話題を提供していただけると伺っております。デジタル社会への移行に納本制度がどのように対応していくべきか、間もなく80年を迎える納本制度の経緯を振り返りつつ、今後の制度の在り方について、話題が提供されるとのことでございます。今回の審議会では、この話題の提供をきっかけに、斎藤会長を始め、委員の皆様方から、国立国会図書館の今後の活動について、様々な期待を示していただけることを願っております。
納本制度の一層の充実、円滑な運用に向けて引き続き御審議を頂けますよう、重ねてお願い申し上げて、御挨拶とさせていただきます。本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。
- 会長:
- 倉田館長、どうもありがとうございました。
- 【会次第3 第18回代償金部会の審議経過報告】
- 会長:
- それでは、会次第3に移ります。第18回代償金部会の審議経過につきまして、部会長から報告があります。奥邨部会長、よろしくお願いいたします。
- 部会長:
- 令和5年9月1日、前回の納本制度審議会の後に開催されました第18回代償金部会の議決について御報告をさせていただきます。資料2、通しページ2を御覧ください。まず、互選によりまして私が代償金部会長に選出されました。続きまして、江上委員を部会長代理に私の方から指名させていただきました。御報告は以上になります。
- 会長:
- どうもありがとうございました。ただ今の部会長からの報告につきまして、何か御質問、御意見はございますでしょうか。よろしいですか。それでは、次に進ませていただきます。
- 【会次第4 事務局からの報告】
- 会長:
- 会次第4になります。事務局からの報告でございます。資料の収集状況等について、よろしくお願いします。
- 事務局:
- 令和5年度末時点の有体物資料の蔵書数、令和5年度資料別納入実績、令和6年度代償金予算及び令和5年度代償金支出実績について御報告いたします。
最初に、令和5年度末時点の有体物資料の蔵書数です。お手元の資料3、通しページの3ページを御覧ください。
有体物としております、図書、雑誌・新聞、その他非図書資料等の累積の蔵書数を示しています。その他非図書資料等とは、マイクロ資料や映像資料、録音資料等です。印刷資料である図書と雑誌・新聞の合計は約3,308万点です。その他非図書資料等を足しますと約4,753万点となります。
次に、昨年度、令和5年度の資料別納入実績です。
図書、雑誌・新聞、その他非図書資料等につきまして、最近3か年の納入数を示しております。昨年度について御報告いたします。
図書は、官庁出版物が2万7,471点、民間出版物が10万3,586点、合計13万1,057点が納入されました。官庁出版物の納入点数が減少傾向にありますが、これは資料の電子化が進展していることが影響していると考えられます。
雑誌・新聞は、官庁出版物が7万3,462点、民間出版物が26万6,835点、合計34万297点が納入されました。
その他非図書資料等は、官庁出版物が5,540点、民間出版物が2万4,825点、合計3万365点が納入されました。令和4年度と令和5年度に官庁出版物の納入点数が多かった主な理由としましては、光ディスクの資料が多く納入されたということが考えられます。令和4年度には、『衆議院予算委員会要求資料』という資料がCD-ROMで約2,200枚というかなりまとまった数で納入された例もございました。
令和5年度末時点の有体物資料の蔵書数及び令和5年度の出版物納入実績につきましては、以上でございます。
続きまして、今年度、令和6年度の納入出版物代償金予算及び令和5年度の代償金支出実績について御報告いたします。お手元の資料4、通しページの4ページを御覧ください。
今年度の代償金予算額は、3億4,757万円でございます。これは、昨年度から4,990万6,000円の減額となっております。
次に、昨年度の支出実績ですが、3億1,375万1,916円でございます。
参考といたしまして、支出実績の資料別の内訳を示しております。令和5年度は、図書が50%、雑誌・新聞が26%、その他非図書資料等が24%となっております。
令和4年度と比較しまして、代償金予算の執行額はやや少ない状況となっております。令和2年度から令和3年度までは新型コロナウイルス感染症の影響等により出版物の納入が減少しておりました。令和4年度以降は新型コロナウイルス感染症の影響等は以前ほどではありませんでしたが、出版点数が総じて減少傾向にあることについては継続している状況です。
なお、代償金制度の運用につきましては、当館の収集書誌部におきまして、高額で販売実績の少ない資料を中心に厳正な審査を行い、引き続き適正に進めております。
御報告は以上です。
- 会長:
- はい、どうもありがとうございました。続きまして、オンライン資料の収集制度の運用状況について報告をお願いします。よろしくお願いします。
- 事務局:
- まず、オンライン資料収集制度の運用状況の前提としまして、当館における無体物の資料の収集状況を御報告させていただきまして、その上で、オンライン資料収集制度の運用状況について御説明いたします。
それでは最初に、無体物の収集状況を御報告いたします。お手元の資料5、通しページ5を御覧ください。無体物としておりますのは、インターネット資料とオンライン資料のグループです。
左側にありますインターネット資料は、ウェブサイトを収集したもので、事業・サービスとしてはインターネット資料収集保存事業、WARPと申しますが、これに当たります。国、地方公共団体等の公的機関のウェブサイトは制度に基づいて収集しております。また、民間のウェブサイトにつきましては、許諾に基づいて収集しておりまして、例としましては、公益法人、私立大学、学協会、政党、国際的・文化的イベント、震災・災害関連のサイトなどです。令和5年度末の時点で、公的機関は約0.6万サイト、民間は約0.8万サイト、合わせて約1.4万サイトを収集しております。その下の約25.7万件という数字は、ある時点で収集したウェブサイトの断面の数です。例えば、当館のサイトは年間12回、つまり12件の個体を収集しておりまして、収集を開始した平成14年8月以来、約260件の個体を収集しています。約25.7万件といいますのは、このようにしてWARPによって様々なサイトから収集した個体の累積件数です。収集したデータの量としましては、約3.1PBに上ります。令和5年度の収集実績としましては、新たに174サイトからの収集を開始しまして、全体で約1.9万件、約377TBを収集しました。
続いて右側のオンライン資料ですが、これは電子書籍・電子雑誌等に該当するものです。収集のルートが二つございまして、一つは、下向きの矢印で示しました民間の電子書籍・電子雑誌等をオンライン資料収集制度に基づいて収集するものです。もう一つは、下段中ほどの「抽出」と書かれた右向きの矢印で示しました、インターネット資料として収集したウェブサイトから、電子書籍・電子雑誌等に相当するものを抽出するものです。これらを合わせまして、令和5年度末の時点で、公的機関のものを約62.6万点、民間のものを約90.7万点蓄積しております。令和5年度の収集実績は、公的機関が約3.2万点、民間が約2.6万点でした。このオンライン資料の点数の数え方でございますが、基本的に単行書や雑誌の各巻号の単位で数えておりますが、論文集や雑誌の各論文・記事が1ファイルで流通している場合は、そのファイル単位で数えております。
続きまして、インターネット資料とオンライン資料の収集状況の推移を御報告いたします。お手元の資料5、通しページ6を御覧ください。
左側、インターネット資料につきましては、平成14年度に収集を開始してからの収集対象のウェブサイトの数とデータ量の推移をグラフにしてお示ししております。収集対象は、学協会などの未収集の民間ウェブサイトに対して許諾依頼を行うことで、毎年度増加しております。一方、データ量につきましては、国の機関であれば毎月、地方公共団体であれば3か月に一度といったように各収集対象に対して定期的に収集を行っておりまして、収集したデータ量も着実に増加しているところでございます。
なお、参考としまして米国議会図書館のウェブアーカイブとの比較を吹き出しで示しております。米国議会図書館では、議会関連のウェブサイトの包括的な収集と主題に基づく選択的な収集を行っておりますが、令和5年4月時点の収集の起点となるURLの数が14,594起点、データ量は3.7PBと公表されております。一般に、ウェブサイトの収集は、収集プログラムを用いまして、ウェブページの中のリンクをたどりながらウェブサイト全体を収集するという仕組みになっております。収集の起点というのはこの収集のスタート地点となるウェブページのことでして、多くの場合はそのウェブサイトのトップページとなっております。先の資料で当館における収集状況として御報告した約1.4万サイトは、ある機関が複数のウェブサイトを公開している場合、それらをまとめて1サイトと数える場合がありますため、起点となるURLの数とは一致しません。米国議会図書館の収集状況は、収集の規模感をつかんでいただくための参考としてお示しするものでございます。
続きまして、右側のオンライン資料ですが、WARPからの抽出を開始した平成22年度からの累積の収集数の推移をグラフにしてお示ししております。平成29年度からは公的機関と民間機関のそれぞれの収集数を記録しておりますので、グラフの色を分けております。平成29年度に大幅に収集数が増加しておりますのは、国立情報学研究所が運営していた学協会向け論文電子化・公開サービス(NII-ELS)の終了に伴いまして、約60万点の論文のファイルを収集したためです。平成30年度以降も、公的機関のものと民間のものそれぞれ着実に収集数が増加しております。
続きまして、令和5年1月以降におけるオンライン資料収集制度の運用状況について、御説明申し上げます。お手元の資料6、通しページ7を御覧ください。
最初に、有償のオンライン資料の登録状況についてです。この表の左から三つ目の「登録点数」という列を御覧ください。全面的な制度収集を開始した令和5年1月からの累積で、令和7年1月20日時点で有償のオンライン資料数は1,716点登録されております。
発行主体別の内訳を見ますと、上から順に出版社23社から1,272点、私立大学や学協会52団体から187点、その他20の法人・団体から57点、個人37名から200点となっております。
また、右側に移りまして資料のフォーマットを見てみますと、PDFが1,183点、EPUBが533点となっております。
さらに、右側の刊行日につきましては、制度収集の対象となる令和5年1月1日以降に刊行されたものだけではなく、それ以前に刊行された有償のオンライン資料も提供していただいております。
前回の審議会で御報告した令和5年7月31日時点の登録点数等と比較しますと、登録点数は1,082点、提供者数は74名増加しております。
次に、収集除外とした有償のオンライン資料の状況についてです。制度上、文化財の蓄積及びその利用に資するという収集目的の達成に支障がないと認められる場合には、収集対象から除外しております。
収集除外とする理由の1点目は、既に納本された紙の図書や雑誌と同一版面であるというものです。出版者から申し出いただいたものを個別に確認して同一版面かどうかを判断しておりまして、令和7年1月20日時点で1,592点を同一版面であるとして収集除外としております。
収集除外とする理由の2点目は、いわゆるリポジトリに収録されているものです。現在、これによって除外となっているものは、民間では電書連・機関リポジトリの収録資料のみで、令和7年1月20日時点の収録点数は102,312点です。
注3にございますとおり、これは一般社団法人デジタル出版者連盟(電書連)が令和4年5月から運営しているものです。電書連には令和6年10月時点で59社が加盟しておりまして、これら加盟社の電子書籍データが蓄積されております。当館と電書連との間で、令和4年12月に覚書を締結しまして、この電書連・機関リポジトリの収録資料は長期間にわたって利用可能であり、消去されないと認められるものとして、収集除外といたしております。
注4に記載しておりますが、リポジトリ収録資料のメタデータは当館の統合的な検索サービスであります国立国会図書館サーチで検索可能となっておりまして、その点数が先ほどの102,312点でございます。
最後に、今後の提供促進に向けた取組についてです。まずは、出版者の方々に制度を知っていただくということが全ての始まりとなりますので、周知・広報を引き続き行っております。昨年12月には一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)が運営されている出版情報登録センター(JPRO)のメーリングリストで加盟各社様に納入の広報をさせていただきまして、その結果として新規の納入のお申出を多数頂いているところでございます。
あわせまして、出版者からの提供を促進するための取組を進めております。令和3年3月に頂いた答申でも触れられていたものですが、受入証明を発行したり、オンライン資料を提供していただいた出版者の求めに応じて、資料の複製物を提供したりするという手続の準備を行っております。
御報告は以上となります。ありがとうございました。
- 会長:
- どうもありがとうございました。事務局から今の二つの報告に関連して、なお二つ、補足説明があると伺っておりますので、お願いいたします。
- 事務局:
- まずは、有償オンライン資料、電子書籍・電子雑誌の把握状況についてです。資料7、通しページの8ページを御覧ください。ただ今の報告でも御説明申し上げましたが、令和5年1月以降の有償オンライン資料の把握状況を一枚にまとめたものがこの図でございます。図の一番外枠の、制度収集の対象となる、公衆に利用可能とされた有償オンライン資料の点数の把握というところは、正直なかなか難しいところでございますけれども、点数が判明しているというところでは、図の青色の枠、JPO出版情報登録センターに登録された電子書籍の点数が、令和7年1月20日時点で約12万点となっております。こちらに対しまして、図のオレンジ色の枠、当館が収集できた点数は約1,400点です。図の紫色の枠、納本された紙の書籍と同一版面であることによる納入免除の申出点数は約1,600点となっております。合わせて約3,000点です。一方で、図の緑色の枠、収集除外となる電書連・機関リポジトリに収録された電子書籍は、約10万点となっております。少なくとも電書連・機関リポジトリに収録されていない約2万点の資料につきましては、当館で収集しなくてはならないところですが、同一版面による納入免除の申出を合わせましても約3,000点にとどまっている状況でございます。制度の周知を一層強化する必要がございますので、これまで当館による説明会の開催や出版団体等を通じて広報を行ってきましたけれども、これらに加えて、出版社への個別説明も開始いたしました。江草委員にお力添えを頂きながら、現在事務局で個別に出版社を訪問し、制度の御説明と納入のお願いをするとともに、制度の運用上の課題等についてヒアリングを行っているところでございます。これまでヒアリングしたところですと、出版社の皆様が当館にオンライン資料を送信するという作業が負担になっていることが確認できましたので、オンライン資料につきましても、例えば紙の資料と同様に、電子取次業者による当館への一括納入代行の仕組みを作るなどといった負担軽減策についても検討しなくてはならないと考えております。また、現在はJPOに登録された電子書籍というところで点数を把握していますけれども、今後は、こちらのJPROデータ以外の出版情報の把握にも努め、収集対象をより広範に捉えることができるよう調査を続けたいと考えております。
次に、オンライン資料の収集・利用方法について御説明いたします。資料8、通しページ9ページを御覧ください。こちらは、前回の第38回納本制度審議会で、委員からオンライン資料の収集・利用方法の全体像が見えにくいという御指摘を頂いて、検討事項とさせていただいたものでございます。こちらの図は、民間のオンライン資料についてお示ししております。図の左上にありますオンライン資料の出版者から、制度収集の対象となるオンライン資料を当館に提供いただくと、右のデジタルアーカイブに登録されます。一方でオンライン資料が左下にあります電書連・機関リポジトリや学術機関のリポジトリ等に提供された場合は、当館の制度収集からは除外されます。これに対して、図の右下の一般利用者の方につきましては、国立国会図書館サーチを通じてコンテンツの所在情報が発見可能となっております。国立国会図書館サーチでは、メタデータ連携が行われ、媒体種別や所蔵保管主体を問わず、日本の出版情報の総体が可視化されており、コンテンツにナビゲートいたします。資料の所在に応じて、例えば国立国会図書館で持っているものは、当館のデジタルコレクションで閲覧していただいたり、所蔵が当館にないものでも、電子書店やリポジトリ等を通じて閲覧していただくということになります。
補足は以上となります。
- 会長:
- どうもありがとうございました。これまでの報告、それから今の補足も含めまして、多岐にわたっておりますが、全体を通じて、資料の納入状況、それからオンライン資料の収集状況を合わせまして、何か御質問がございましたら、よろしくお願いいたします。どなたからでも御発声いただければと思いますが、いかがでしょうか。
- 委員:
- よろしいでしょうか。
- 会長:
- はい、よろしくお願いします。
- 委員:
- 取りまとめありがとうございました。先ほどの通しページ8の資料の中で、収集が行われていない2万点の部分について出版社に個別に説明をしていらっしゃるということなのですけれども、そういった出版社の傾向といいますか、例えば中小規模であるとか、どういうジャンルに偏っているとか、何かそういったことがあれば教えていただきたいと思います。
- 事務局:
- 回答いたします。先ほど資料7で御説明しましたけれども、納入対象の除外となっている電書連・機関リポジトリというところに収録されている書籍を発行している会社が、基本的には大手の出版社となっておりますので、2万点を出している出版社の規模としては中規模、小規模です。分野に関しましては、当館がまず今個別にヒアリングをしているところは、専門書、学術書を多数出している出版社ですけれども、全体としてどういう傾向があるかというところまでは把握できていないというのが現状でございます。以上です。
- 委員:
- ありがとうございます。
- 会長:
- ありがとうございました。
- 委員:
- よろしいですか。
- 会長:
- はい、どうぞ。
- 委員:
- 私は電書連の理事もしており、電書連は、やはり入るには結構な会費がいるのですね。そこに入っている人たちはこのリポジトリの方に全部自動的に登録されますからよいのですけれども、会費を払いたくないという方とか、払えない方というのが存在しているわけです。それを各個、国立国会図書館がフォローしていくのもよいのですけれども、例えば会費の助成金を出したり、そういうことをしていくとリポジトリで全部集まるということも可能にもなりますから、その辺も検討していただければよいかなと思います。私は日本雑誌協会に入っていますけれども、雑誌協会より電書連の方が会費が高いということも、結構な壁になっているのではないかと思います。以上です。
- 会長:
- ありがとうございました。そのほかに全体を通じていかがでしょうか。よろしいですか。それでは、また後の方で時間がありましたら、何かお出しいただければと思います。
- 【会次第5 根本彰委員からの話題提供及び懇談】
- 会長:
- それでは、会次第5に入ります。先ほど倉田館長からもありましたように、本日は根本委員から、納本制度の課題につきまして話題提供をしていただきます。それでは、根本委員、よろしくお願いいたします。
- 委員:
- こういう機会を与えていただいてありがとうございました。この委員を務めて10年になりますが、その前から国立国会図書館の納本制度については関心を持って見てきておりますので、以前からの研究関心と、審議会に所属してみての感想も含めて、課題と私が感じることについて御報告申し上げます。
まず、資料の目次、11ページ目です。このような感じで全体のお話をさせていただきます。
12ページ目です。我々は納本制度審議会に入っているのですが、納本制度審議会規程にここが何をするかということが書いてあるわけです。納本制度と言っているものの対象は、一つは国立国会図書館法の第10章、第11章に規定する出版物の納入に関する制度です。先ほど有体物という言葉がありましたが、私はこの場で有体物とか無体物という言葉を聞いたのは初めてのような気がします。法律用語であるようですので、その表現を用いると有体物である出版物の納入が規定されています。それから第11章の2に規定するインターネット資料です。これも先ほど御説明がありました。次に、第11章の3に規定するオンライン資料。以上の3種類があって、二つ目と三つ目が無体物ということになります。我々の任務はこれらに関する制度の改善と適正な運用に資することにあることを確認させていただきます。
13ページ目です。ここから先ほどの出版物の納入、特に納本制度と言っているものについての概要を見ておきたいのですが、第24条、第24条の2、第25条の三つが納入者による分類ということになっていると思います。第24条が13ページ目の規定で、黄色いところだけ読みますが、国の諸機関により又は国の諸機関のためということが書いてあって、目的として公用又は外国政府出版物との交換その他の国際的交換の用に供するということが書いてあります。国の機関の資料の国際交換とかもあるので30部という非常に多数の納入部数が書いてあります。各号に九つの項目が並んでいます。ここには非常に古めかしい言葉が並んでいるわけですが、これは法律ができた頃のものがそのまま残っているようです。1の図書から8の蓄音機用レコードまでは多分そういうものだと思います。9がデジタル資料が話題になってからのもので、途中で法改正があって9が加わっています。ここには、有体物で電子的なもの、CDとかDVDとかそういった類いのものが含まれると思います。あと、6の映画フィルムについては、法律ができた翌年に、附則で納入免除とする改正がありました。なので映画フィルムは納入免除になったままになっています。比較的近年になって国立映画アーカイブが設置され、独立行政法人国立美術館の一つの館になっていますが、それ以前から近代美術館フィルムセンターで映画についての収集保存をしております。ただし、法的な納入規定に基づいているわけではありませんので、全体像というものは本当のところは分からないという状態です。
次に行きます。第24条の2では、地方公共団体の諸機関により又は地方公共団体の諸機関のためという規定がありまして、目的等は前の第24条と一緒です。国と地方公共団体は大体一緒に扱われています。それから第25条は国及び地方公共団体以外の者と非常に幅広いところが対象になっています。目的として文化財の蓄積及び利用に資するという言葉が書かれています。文化財については、後でまた少し説明したいと思っています。第24条の2と第25条の納入対象出版物は第24条と同じです。我々の納本制度についての議論は、この第25条の運用に関するものがほとんどだったと思います。
次に行きます。15ページ目、インターネット資料の記録というところです。大きく言えば納入に関する制度の一つということになりますが、第25条の3ということで別に規定されております。館長は、公用に供するため、第24条及び第24条の2に規定する者、先ほどの国、それから地方公共団体がここで想定されているわけですが、これらが発行したインターネット資料が、先ほどから御説明がありましたWARPという仕組みで集められるような規定がここに書かれてあります。細かいところは省略いたしますが、電子的に収集していく形を採っているわけです。それが、インターネット資料の規定です。
それから、次にオンライン資料です。それが第25条の4ということで、先ほどもあった第25条と同じ対象者ですが、第24条と第24条の2に規定する者以外がオンライン資料というものに該当するものを出したときに提供しなければならないという規定になっております。先ほどの御説明を聞くとこの全体像の中でごく一部しか入っていないように見えるわけですが、それ以前にオンライン資料とは何か、一体どの範囲のものを想定しているかというところは、実は非常に難しい問題があると思います。オンライン資料というのは電子的なものなのですが、ここでは、図書又は逐次刊行物に相当するものという言い方をしておりまして、先ほどの13ページにあった国立国会図書館法第24条の規定の中で言えば1と3ですね、図書と逐次刊行物、これがここのオンライン資料の対象になっています。だから、他のものは納入の規定では対象にはなっていないということです。このことをここで確認させてください。ここまでが制度の概要です。法規的な部分です。
資料の17ページに進みます。ここ20年と書きましたが、実は1990年代から、この電子図書館的なものを作っていこうという議論がNDL内部で始まっておりました。これについてはいろいろ館内の方、あるいはOB・OGの方が書かれた本等にも出てきています。ここで重要だと思われることは、第一に、何度かにわたって部分的に変わっていますが、2009年から2021年にかけて、著作権法を改正して、保存のため、資料の滅失を防いだり、絶版等資料のデジタル送信をするために、資料のデジタル化を可能にしたということです。これは、非常に強力な規定です。余り一般的には知られていませんが、国立国会図書館は集めた資料は全てデジタル化することが可能という規定になっているわけです。これを元にして今のデジタルコレクション等も作られています。もちろん、これだけではないのですが、ここでは著作権法を改正しているというところが非常に重要です。それから二番目、これは先ほどのインターネット資料の収集を可能にした法改正です。これが2009年です。このNDL法というのは国立国会図書館法のことですが、これを改正し、著作権法も改正しています。それから三番目にオンライン資料の収集を可能にするため、やはり2012年に、NDL法と著作権法の一部改正を行いました。これは収集のところですが、4と5はデジタル化された資料の公衆送信を可能にした改正です。著作権法を改正して、2012年には図書館等への公衆送信、それから一番新しいこの2021年に登録利用者への公衆送信を可能にしました。これもいろいろ話題になっているところで、非常に強力な規定だと思いますが、このように改正されてきたということを押さえてください。
大きな話になりますけれども、18ページ目、NDLの国政上の位置付けです。法的なものを見ておきますと、国会法という法律があって、その中で第130条、議員の調査研究に資するために別に定める法律により、国会に国立国会図書館を置く。これは戦後改革の中で、国立国会図書館を非常に積極的に位置付けたということです。GHQの方針もあり、こういう形を採っています。特に立法府を強化するという考え方が強かったということでこうなっています。ただ、実際にその後できた国立国会図書館法では、規定の仕方としては、資料を収集して国会議員の職務の遂行に資するということと、それから行政及び司法の各部門に対し、更に日本国民に対して、この法律に規定する図書館奉仕を提供することを目的とする。つまり、国会議員に対するものと、それから行政、司法、国民というものを一緒にして、それに対して図書館奉仕を提供するということにしています。ところが、法的な規定の中で、私は改めて調べてみたのですが、著作権法と視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律というところで、全部で14か所に「国立国会図書館」が出てきています。行政的なという言い方が法学的に正しいのかどうかは私にはよく分かりませんけれども、立法府に所属しながら図書館的なサービスをするためには、どうしても行政的な仕組みというものを使わざるを得ない。これは国の機関はどんな所でもそうなのかもしれません。つまり三権分立というのは別の議論で、実際のところは三つの作用が全部あって混淆しながら動くということなのだと思います。ともかくこのようになっているということを確認させてください。この二つの法律は重要なのですが、特に著作権法は、今、デジタルトランスフォーメーション等を議論するときに非常に重要な法律として捉えられています。この中で特に国立国会図書館が資料を自動的に、予算が許す限りなのでしょうが、デジタル化することを可能にする規定が置かれているということです。
次に19ページ。納本制度の目的ですが、先ほども公用という言葉を使っていました。これは法律にあるもので、国会議員の職務ということとか、先ほどの行政及び司法の各部門とか、国民に対する業務などがあります。この公用の中に図書館運営のための基本業務というものが含まれているのだろうと思います。これは、資料収集とか、組織化、つまり目録を取ったり分類したりということですね、それから書誌を作成する、これは全国書誌編纂も含まれます。更に統計を作ったりとか、等々の様々な業務が含まれます。こういうものも公用のうちに考えてよいのではないかと思います。あと国際交換もあります。
そのほか、第25条にあった文化財の蓄積及びその利用ということなのですが、文化財というものが何かということは様々な解釈があり得ると思います。今、ネット上にあるものを全部集めるべきだという、それは文化財なのだというような、広い意味での解釈もあり得ますが、先ほどもアメリカの議会図書館は選択的に主題を限定してネット上のものを集めているという御報告がありましたが、この辺についてはいろいろ議論が必要なところかなと思います。ただ、私が思うに、まず、この文化財の蓄積、利用ということで、先ほどの全国書誌の作成業務があることが重要です。国立国会図書館法の第7条において、日本国内で刊行された出版物の目録又は索引を作成し、これを提供するという規定があるわけですが、これを図書館界の用語で全国書誌といいます。つまり、納入と全国書誌作成は密接な関連があるということです。あと資料の保存、これも図書館の業務としては極めて重要で、デジタル化もこの資料保存というものを目的としてやっているわけです。デジタル化は資料保存でもあるわけですが、それと同時に先ほどのように公衆送信のベースでもある。ですから、文化財としての資料の納入制度を考えるには全国書誌や資料保存機能の意義を意識することが必要であろうと思います。
次に20ページですが、これは『国立国会図書館年報』にあった統計で、先ほども御説明がありましたが、細かいところの数値をここに挙げてみました。余り細かいことは説明しませんが、電子的なものになるのだと思いますが、映像資料とか録音資料とかもこれだけ集めています。あと機械可読資料。これは中のカテゴリーが難しいのですけれども、コンピュータプログラムやゲームソフトのようなものが含まれます。あと地図、楽譜等も一応集めてこれだけ入っているのですが、これが一体全体像をどこまで反映しているのか、本当に日本で出ている資料全体のどのくらいの割合になるのかということは分からないのです、どこもそれをカウントしていないので。逆に言えば国立国会図書館が集めているものが、国という単位で広い意味での出版物がどのくらいかということをこういう形で示しているわけです。先ほどの全国書誌作成はそういうことを示す機能を持っています。
次に21ページ。これはもう説明がありましたのでお分かりと思いますが、インターネット資料とオンライン資料です、これは色分けしてありまして、オンライン資料に該当するもの、電子書籍とか電子雑誌に当たるものが黄色い色です。累計と新規の数のところに、マーカーをしました。あとWARPのところでも、色分けして、タイトル、データ数、データ量を、数え方が難しいので分けて書いてあるのですが、先ほど御説明があったと思いますけれども、こういう形でお示ししました。これは御覧いただければと思います。
次に22ページ、デジタルコレクションです。国立国会図書館のデジタルコレクションが話題になっておりますが、先ほども御説明しましたように、許諾を取らずにデジタル化が可能になっています。これがどういう形で提供されているかということを示しています。左側ですね、青いところがインターネットで完全公開されているもので、それからオレンジ色が図書館や個人送信のものです。利用するには登録する必要があるわけですが個人にも送信できるものです。緑色は館内だけの提供が行われるものです。こういう形で今あるということです。あと右側はインターネット資料ですね。これもこういう形で増えている。これも先ほど説明がありました。
23ページですが、評価というほど大げさでもないのですけれども、私が見てこの納本制度が今どういうふうに動いているかを見ておきます。まず第24条と第24条の2、それからインターネット資料で、政府、国、それから自治体関係も含めて、そもそも国の資料を集めて、あるいは地方公共団体も含めてですが、政府系の資料を国立国会図書館に集約するという考え方がありました。今でも各省庁の図書館、支部図書館という言い方をしていますが、そこは国立国会図書館と連携し、ネットワークを組んで集めるという仕事をしています。そういう意味では、ここでやっていることが広い意味での情報公開に関わり、国のものを開くという役割を持ちます。ただ、ここにグレイと書いてありますが、一体公文書なのか、政府刊行物なのかという辺りの区別とかは実は非常に曖昧だろうと思います。WARP等で集めているものはここで規定しているものの一体どういうものに当たるのか、本来提供するべきものはどういうものかというところは実は余り分かっておりません。
同じことは民間出版物の方でも言えまして、紙のものは一括納入代行制度という形で動いているわけです。この場も、基本的には民間の出版界の方々と学識経験者が集まってこういうものをどう作って、どういう仕組みにするかということを考えていく所だと思います。これの有効性ということですが、先ほども御説明がありましたように、オンライン資料については、民間リポジトリのものは納入されないという形になっている。これは民間リポジトリの仕組みがきちんと動いていればよいわけだけれども、国がこういうものを責任を持って集めて保存するという考え方とどういう関係になるのかということは、今後とも議論していく必要があるのではないかと思います。特に今、紙の資料とオンライン資料と同じものがある場合は余り問題がないけれども、オンライン資料に全体的に切り替わった、つまり電子書籍に変わったときに、今のままだと入らなくなるのではないかと思います。そのような場合に国立国会図書館で文化財の保存ができないことがないように、長期的に考えてどうなのかということについて議論が必要かもしれません。あと文字系ネットメディアと書きましたが、今、オンライン資料と言っても、実は文字系のもので、私もこの間翻訳したものをオンラインでPDF公開し国立国会図書館に納入したのですけれども、このようにオンライン資料として、PDFファイルを作ってアップすればそれでもう出版となります。これは誰でもできてしまうわけです。そういう意味で無数のオンライン小説とか、オンラインコミックが出ていますし、オンラインジャーナリズムもあります。昔雑誌で出ていたようなものが今オンラインで提供されている、こういうものをどうするのか、国立国会図書館は本来、本質的にはこういうものを文化財として対象にしていたのではないかと思うのですが、そういうものをどう考えたらよいかという議論が必要だと思います。それから四番目に、文字以外の出版物、広義の出版物で、地図、楽譜、映像系、音声系。映画をどうするかということはまた別の議論も必要です。YouTube等、こういうものがネット上に無数にあるわけで、これらをどう考えていったらよいかということです。このような辺りを議論したらよいと思います。
その議論をするために次の24ページ、参考資料を作ってみました。これは非常に大雑把で、全体をきちんと反映しているわけではないのですが、横軸に範囲、これはインターナショナル、ナショナル、コミュニティやアソシエーションといった小さい組織、プライベートを取り、縦軸に公開性ということで、オープン、パブリッシュ、グレイ、クローズドを取ってマトリックスを作ってみました。図書館はクローズドのものも集める可能性はあるのです。国立国会図書館の憲政資料室等で、かつてクローズドだったものがそこに集まってきて、整理して公開するということもあります。この図の中で国立国会図書館が何をどういうふうに集めてきているかというと、一番中心的には納本資料とある真ん中のナショナルな範囲のパブリッシュされたものということですが、ナショナルもパブリッシュも曖昧な概念です。今や何がナショナルかよく分からなくなってきています。だからかつてそれがはっきりしていた時代に作った規定がどこまで有効かということを考えていただくために図にしてみました。ここには、オンライン資料やインターネット資料も位置付けてあります。例えば図書館界全般としては余り喜んで扱っていないような運動系資料というものがあるのです。運動系資料というのは例えば、公害問題があったときの関係者の資料を集めてどこかの研究室とか資料室等で持っているような資料のことです。そういうものをどうするかということです。国に関わるものとして先ほどの憲政資料室の資料なども、運動系という言い方は違いますけれども、政治的な資料としては、こういうものの一つかもしれません。これは御参考までに。
最後に25ページですが、納本制度の在り方をめぐる課題と書きましたが、一つはここ20年くらいの動きを作り出したのは、この平成11年の納本制度調査会、当時は調査会と言っていたのですが、その答申です。これに基づく評価を行う必要があるということです。それから二つ目に文化財、こうして見ると本当に文化財とは何なのかと、昔はある程度明確に合意があり、出版物になって本として出ていれば文化財として扱ってよいということだったかもしれませんが、今は本自体が曖昧になっているわけで、保存すべき文化財とはどういうものかということを考える必要があります。それから三つ目、デジタルコンテンツが文化資源だけでなく経済資源になっているということの重みです。例えば国立国会図書館のデジタルコレクションなども、教育学習資源、研究資源、文化資源として非常に有効であり、無料で提供していますから経済資源的にもなっているかもしれません。そういうことを先読みして、どういうものをどういう形で出していくかを考える必要があります。つまり経済等にも与える影響は小さくないからこういう審議会があるのです。ですから国がやることと民間でやるべきこと、様々な腑分けがもっと必要であると同時に、国立国会図書館は今の国のデジタルトランスフォーメーションの中でコンテンツをきちんと持っていることが強みになっているわけで、そういう重要な機関として国の中で位置付けがかなり明確になってきつつあるのかなと思います。そういうことをどれだけ踏まえるかということです。それが四つ目です。それから納本制度審議会の課題としては、今挙げたようなことはかなり幅広いものなのですけれども、これまでの議論はどちらかというと民間と国立国会図書館の関係でどうやって納入をうまくしてもらうかということが中心だったと思います。それだけでよいのかということが気になるところです。そういう意味で外国のこういう資料の納入の制度について考えておく必要があって、意見交換等も必要なのかなと思います。
以上、私の方から説明させていただきました。ありがとうございました。
- 会長:
- ありがとうございました。制度のこれまでの沿革からこれからの課題につきまして、非常に包括的に話題提供いただきまして、ありがとうございます。今の根本委員からの話題提供につきまして、意見交換、懇談を行いたいと考えます。ただ、時間が限られておりますので、申し訳ありませんが、お一人1~2分程度で、根本委員の意見発表に関連しながら御意見を頂ければと考えます。順番としてはまず会長代理の田村委員にお願いして、その後は名簿順ということでしょうか、五十音順ということでございましょうか、それで御自由に御意見を、今日の全体につきましてでも結構ですので、せっかくの機会でございますので、よろしくお願いいたします。それでは田村委員、まずお願いいたします。
- 委員:
- 大変詳細な御報告をありがとうございました。大変勉強になりました。私の方から若干、気が付いたことを幾つか申し上げて口火を切らせていただこうと思います。まず文化財問題を考えるとき、あるいは納本問題全部を考えるときには、元々この制度ができたときの出版と、現在のそれがネットの方に移行していること、この出版とネットの性質の違いを踏まえる必要があるかと思います。当然のことながら出版には、今日有体物の話がありましたけれども、伝統的な出版で考えますと大変なコストが掛かりますから、相対的にいうと点数が少ないということがあり、ある意味では、市場に出ているものは全部集めようと思えば集めることが一応できました。大変でしたけれども。そのようなことが前提の制度が出来上がっていくわけです。それに対して、ネットは今日も先ほどから根本委員からも様々な指摘がありましたとおり、大変数が多い。数が多く、しかもコストが安く出せるということは、質もばらばらで、ものすごく良いものもありますけれども、そうではないものも含めてばらばらにあるということが大きな課題で、それを全部集めるというコストベネフィットのバランスが、出版のときとネットのときとで大きく違っているということがあります。そうなってくると、他方で文化財という観点だけから申し上げますと、従来は投資ができる人、一定のお金がある人だけが、限られた人たちだけが世の中の文化に影響を与えることができた。今はネットによって誰でも影響を与えることができる。そういう素晴らしい時代になっているのです。だから文化という側面から言ったら、文化財であることは間違いないと思うのです。そういう意味では、集められるのであれば集めた方がよいに決まっているのですけれども、しかし、他方でベネフィットがコスト割でいくとかなり低下し、その分逆にコストの方が大きくなっているといった問題があるので、結局そちらのコストの問題を考えないと最終的な解は出てこないのだろうと思います。
その上で幾つかの視点を提供します。まずコスト的なことも考えますと、やはり民間との役割分担というのは一つの考え方で、現在そういう仕組みで出来上がっているのだろうと思いました。でも、他方で、根本委員からも御指摘がありましたけれども、ちょっと失礼かもしれませんが、あくまで相対的に、安定性という観点から言えば、やはり国立国会図書館と民間リポジトリの間には違いがあると言わざるを得ません。そのときに例えば何かの理由で民間リポジトリの方が消失する、あるいは止まるといったことがあるときに、バックアップがないという状態については、何とかならないかという気もいたします。他方で、民間リポジトリのせっかくうまくいっているものを害してはいけないので、うまい役割分担が必要かなとは思います。そういう意味ではエマ―ジェンシーに備えた何らかのバックアップ体制というものがあった方がよいのだろうと思います。あともう一つ、民間との役割分担で言いますと、今日も御報告がありましたけれども、ビジネスとしての電子書籍は今非常に有望な市場として挙がっていますので、こちらの方で大々的にそれと競争関係にあるような事業を作ると、逆にかえって文化の発展を阻害しますので、当然のことながら、今までの、出版権はありましたけれども、役割分担を念頭に置きながら、余りビジネスを阻害しないような仕組みが必要です。それが正に著作権問題だということで、私の専門になっているわけです。
最後に私が申し上げたいのは国際的な役割分担です。今まで出版ですと有体物ですから、地理的にここまでが日本の国立国会図書館の業務といった役割分担が自ずからあったのですけれども、ネットの時代ははっきり言って、サーバーの所在地は無意味ですから、どこからでも提供できる。しかし、逆に言うと、ただでさえ大変な作業を世界各国がみんな重複してやるのは無駄ですから、やはり役割分担というものが必要になってくる、今は多分その役割分担は何となくされているのだろうと思うのですが、本当は国際的な協調が必要ではないかと思います。以上です。
- 会長:
- どうもありがとうございました。そうしましたら、伊藤委員いかがでしょうか。
- 委員:
- 収集対象となる、書店などで販売される本ではなくて、私の念頭に置くのは、例えば、いろいろな会社の企業史、30年史とかそういうものが出版されて、これは関係者に無料で配られています。こういうものは収集対象になるのでしょうか。事実関係だけ教えてください。
- 会長:
- はい、どうぞ。
- 事務局:
- そういうものも対象になっております。
- 委員:
- 送れば預かってくれるのですか。
- 事務局:
- はい、蔵書といたします。
- 委員:
- 企業の社史とか、社内の会報みたいなものはどうですか。送れば預かってくださるのですか。
- 事務局:
- はい。
- 委員:
- ありがとうございます。そういうものをもっと送ってもらうような形で広報することが必要なのかなと思います。あるいは、会社によっては事件や事故の事後の措置の回復のための過程を記録して今後に残すために本にされています。そのようなものを対象として広げていくとよいと思いました。そういう意味では、各会社の社内報なども文化を知る上で有効な資料として大切なのかなと思いました。
あと、例えば展覧会の図録なども、大変参考になる良いものがたくさんあります。これらも送ってくれたら国立国会図書館で預かって閲覧対象にしてくれます、収集してくれますということをもっと広報することが大切なのかなと思いました。
それから、デジタルの関係ですけれども、デジタルについても例えば「小説家になろう」とか、そういうふうな形でデジタル発信の文化が発展しています。あるいは、出版社でいうと、漫画本などについて、紙の漫画雑誌などに載せるのはお金が掛かるからやれないけれど、デジタルでの漫画については発信するという形で若手を育成しているようなスキームがあります。そういうものも是非収集しておいていただけたらなというのが思いであります。
また、文化財とはどこまでが対象かという、さっきのお話ですけれども、例えばゲームソフトはどうでしょうか。フランスではゲームソフトも収集対象にして納本義務みたいなものを課して、国立図書館に行けば実際に「閲覧」という形で、機械を使ってゲームソフトを利用することができるようなスキームができていると聞いております。ただ、ゲームソフトは文化ではないみたいな思いがあるのかもしれませんけれども、それも正に大切な文化であって、そういうものも是非コレクションしていただくような仕組みを作っていただくことが必要なのかなと思って聞いておりました。
- 会長:
- どうもありがとうございました。そうしましたら、江上委員お願いいたします。
- 委員:
- 根本委員の資料を拝見したときに、最初は全然もっと違う観点かなと思いました。私自身が社会学や職業社会学、男女の雇用問題を専門としてやってきたのですけれども、それは実際に産業社会の中で大きく波動するもので、その間、企業の法律の改正や企業のアドバイスとかそういったことも多くやってまいりました。特に、今日根本委員のお話を伺ってある共感を覚えたのは、産業界、企業のことですけれども、この20~30年、コーポレートガバナンスということが世界的にも広がってきているわけです。これは企業が単に利益のために活動するのではなくて、やはり企業の使命というものが、利益を作り出して成長してそれを社会に還元していく、そして人々の生活を豊かにすると、それから国家の力を強くするということがありますが、やはりそれだけではないと。環境、社会の利益にどういうふうに貢献するかという、社会的な環境、今で言えば環境問題への貢献、社会的な貢献、いろいろな側面があります。それから人権問題、そういったことから、あと利益を上げていく産業で、金融関係、それから株式、これだけ豊かになったので株式が非常に発達しています、そういう中でゆがんだ形での金融産業というものが出来上がってきてしまっているのではないか。かつて大蔵省が一つであったのを財務省と金融庁に分けた、それはそれなりに大きな活躍をしているのですけれども、彼らの本来やるべきことというのが、今かなり揺れているというようなことがあります。そういう中で、今日、国立国会図書館というものが一体、誰に何を供与するのか、そしてそれが国家の力あるいは国家の安定をどう支えていくのか、そして歴史的にそれを検証する機能をどこまで果たしているのかということについて、今日根本委員のお話があったと思います。大変共通した問題だなと、言ってみれば、根本委員が国立国会図書館の重要な取締役となられたような目でお話を頂けたのではないかなという気がいたします。
これ以上話すと長くなりますので、私自身は、国鉄の民営化、NHKの問題、労働省の雇用の政策のこと、そのようなことも全部踏まえて、社外の企業の取締役としてこのような発言をしたり、それから大学では主に社会学の観点から、男女の均等問題、職業の在り方の問題、そうしたことをしてまいりました。とりあえずは以上です。
- 会長:
- どうもありがとうございました。続きまして、江草委員お願いいたします。
- 委員:
- 私も一ユーザーとして国立国会図書館を使わせていただきますし、デジタルコレクションも大変便利に有効に使わせていただいております。今日の御指摘の中で、一番考えるのは、収集の対象をどう考えるか、文化財をどういうふうに捉えるのかということです。昨今AIが登場し話題になったことですが、AIが登場したことによって、収集・保存している文字の資料の利用価値が一挙に大きくなってきたのかなと感じております。AIの学習対象になることで収蔵しているものの価値が出てくる、ある種石油とかレアメタルにも比すような、戦略資源としての価値も出てくるのではないかと思います。そういうふうにみなすこと自体がよいのかどうかという議論も必要だと思うのですけれども、そのようなことから考えて、何をどこまで収集するかということを考えてみるのも一つの視点としてはよいのかなと思った次第でございます。以上でございます。
- 会長:
- ありがとうございました。奥邨委員お願いいたします。
- 委員:
- はい。根本委員からお話を伺って、納本制度の目的というものが文化財の蓄積と利用にあるということを改めて認識しました。普段の審議では、どちらかというとこの収集つまり蓄積の方に重点が行ってしまうわけなのですけれども、やはり両方考えていかないといけないのだということを思いました。
蓄積と利用ではやはり視点が違っていて、まず蓄積については、私は基本として「あまねく」ということが非常に重要になってくるのだと思います。特に電子化も進んできますと、いろいろなものが「はかなく」なります。しかも文化というものは基本的に「はかない」部分もございますので、したがって、「あまねく」収集していく、蓄積していくということが必要だと思います。
一方、利用の方は様々なステークホルダーがありますので、ステークホルダーへどういう影響を与えるかを調整しながら利用することが必要です。蓄積は「あまねく」だとしても、利用は別段「あまねく」認める必要はないと思います。そこのバランスがあるのだと思います。ステークホルダーの中には、もちろん著作者、出版社、それから利用者があります。更に現代では、特にジャーナリズムの関連では、記述された対象者について、そのプライバシーであったり、名誉であったり、個人情報であったりについて、報道などの時点では問題がなかったのだけれども、文化財として蓄積したことによって、いろいろ問題が出てくる可能性があります。したがって、この辺も含めて、利用については慎重に考えていくべきなのだろうと思います。
また、利用の部分では、先ほど、メタデータ連携についてのお話が出ていたのですけれども、これを、例えばAI技術を用いてより利用しやすくしていくということが考えられます。例えば、今でしたら、どの本に何が書いてあるかということを知っていないと結果的には検索ができないわけですけれど、正にAI技術を利用しまして、対話型で進めていくことによって、本当に欲しい情報がどこにあるのかということを検索しやすくしていくことができます。なお、私は、収集しているもの全部をAIの学習の対象にしましょうということを申し上げているわけではありませんし、全部をネットで提供しましょうと申し上げているわけでもありません。そうではなくて、例えば、国立国会図書館の中で利用するときに、メタデータが分からないと検索できないということではなくて、AIに対話型で、自分の疑問をぶつけたら答えを返してくれて、その繰り返しの中で、段々と本当に欲しい情報にアクセスできる、そのようなことも含めて、利用の方も、バランスを考えながら、そして技術も導入しながら、進めていくということが必要なのかなと思いました。以上です。
- 会長:
- どうもありがとうございました。そうしましたら、小野寺委員お願いいたします。
- 委員:
- 大変数多の問題がありますけれども、これからのことを考えますと、課題の中で一番気になるのは、保存すべき文化財をどう考えるかということだろうと思います。更に言うならば、文化若しくは出版物というものをどこまでの範囲として捉えるかということだろうと思います。とりわけ有償オンライン資料について、取次を通さないものが今後恐らく増えていくだろうと思います。昨日朝、記事になりましたけれども、Kindle Unlimitedで、吉本ばななさんや村上春樹さんを騙って、恐らくは生成AIが翻訳をしたり、書いたであろうものが出版物として出されています。それを少なくともAmazon、Kindleは出版物として捉えて流通させていたわけです。恐らく今後、こういったものがどんどん出てくるだろうと思われますので、それを出版物として捉えるかどうか、また、保存すべき文化財をどう考えるかということを非常に大きなテーマとして考えなければならないと思います。先ほども話がありましたようにあまねく集めるということが基本的なスタンスだと思いますけれども、そのライン、線引きをどう考えるのかということが非常に大きな課題だろうと思っております。以上です。
- 会長:
- どうもありがとうございました。そうしましたら、柴野委員お願いいたします。
- 委員:
- はい。平たく言ってしまうと、知的な財産、知財のリソースというものを前提とした上で、どう国と民間が整えていくのかということが、国立国会図書館の大きなテーマの一つとなるのかなと思って伺っておりました。バランスの問題はあるかと思いますけれど、やはりその中で、これまでの公共物ということで根本委員はおっしゃいましたけれども、商業出版物をどのように扱っていく、どのくらいの形でどういうことであれば取り込みが可能なのかということはやはり継続的に考えていく必要性があると思っています。電子出版物であれば、民間のリポジトリにあるものが期限をある程度設けられるのかどうか、あるいは館内であれば少し自由な形で利用が可能なのであろうか、この話というのは先般の絶版等資料の公衆送信が可能になったということと接続していくのだと思います。ですので、どの時点でそれが可能になるのかということを踏まえながら議論を進めていくことができれば、多分業界ともうまく線引きができるのかなと思います。その中で、保留になっている雑誌の問題というものも残っているかなと思っています。
それからもう一つは、先ほどから出ている収集の話ですが、紙の本については取次が代行しているということになっていますけれども、それができていない電子出版物について、例えば電子取次にそれを委託することが妥当かどうかというような検討もあり得るかと思いました。
三つ目として、先ほどからお話が出ているAIの話で、テキスト化についてです。テキストをどの程度利用できるようにするのか、つまり物だけではなくて、それが検索可能になっていく、あるいは参照可能になっていくようなものを、どのように使えるのかという問題です。本当に素晴らしいと思っているデジタルコレクションのOCRの公開ですが、これはものすごく重要なことだと思っております。ずっと待ち望んできたことができるようになってきましたが、そのことが先ほどの公開性という問題とも関わってきます。AIというものがこの数年で圧倒的に進んでいくというときに、日本語で参照され得るものの質の担保が重要になってくると考えています。特に英語テキストに比べて圧倒的に日本語のテキストが少ないわけです。ほぼ日本国内でしか生成されていないわけで、それがどの程度のものがどのような形であり得るのかということが大きな問題になっていくのかなと思います。以上です。
- 会長:
- ありがとうございました。そうしましたら、仲俣委員お願いいたします。
- 委員:
- 文藝家協会で、例えば今回の吉本ばななさんのAI生成著作物の問題についてはまだ議論が始まっていません。国立国会図書館に納本された文学作品が全ていわゆるビッグデータになって、AIの学習対象にすることが文藝家にとってどういう意味を持つのかということに関しては、この場を借りてお話しするような意見の集約ができていませんので、持ち帰りたいと思っています。
それ以外に個人的な立場で話し合いたいことが3点あります。先ほど根本委員から法改正として2009年からの著作権法改正のお話がありましたけれども、そもそも思い出してみると、2009年というのはグーグルブックサーチが登場して、出版界、著作者も含めて、どうやったらそれに対抗できるかというところから議論が始まったように思います。つまり納本の問題というのは片方では国立国会図書館の問題でもあるのですけれども、同時にGAFAのようなプラットフォームに対抗できるプレーヤーが日本で探したら国立国会図書館しかないというところから始まったように思うのです。その後15年間大変役割が増大してきて、つまり、YouTubeとかGoogleとかAmazonとか、あらゆるプレーヤーに対して、果たして国立国会図書館が同じカウンターパートとして今後やっていけるのだろうかといったくらいの大きな課題があるのではないかという印象を持ちました。
それから個人的には私は15年間オンラインジャーナルをずっとやっていまして、『マガジン航』というものをやっていますけれども、ここ数年は記事の更新が止まっております。今は個人のパブリッシャーなので、これまでのアーカイブを残せるなら、早くやめたいのですね。やめたいのですけれども、やめると消えてしまうのでアーカイブしてほしいと思っています。つまり国立国会図書館が民間のウェブジャーナルを収集してくだされば、安心してやめられるというプレーヤーが結構いるのではないかと思います。広告収入を元にした営利事業としてのオンラインジャーナルはどんどん無くなっているのです、テクノロジー系のジャーナルの幾つかはもう無くなってしまいました。そういったものをどうしたらよかったのかということを考えていました。
それから今回一番刺激的だったのは、最後にお示しいただいた参考の図の公開性と範囲の4原則のチャートのところです。私は昨年、一昨年からスモールパブリッシャーを始めて、正に取次を通さない小さな出版活動を始めているのですけれども、この図でいうところの運動系資料に相当する、かつてミニコミと呼ばれた領域が、今御存じのように、文学フリマ、東京アートブックフェア、デザインフェスティバル、コミティアの漫画を含めると膨大な数になります。正にエフェメラルな出版物がたくさん出ています。文学フリマは今年の春は東京ビッグサイトで開催されて、入場者1万人で参加者は4千人です、つまり少なくとも4千以上の出版物がそこでパブリッシュされていました。文学フリマは日大芸術学部が一応アーカイブしているので、献本された物は物として納められていますけれども、当然それはまだ書誌データとかも含めたメタデータは全然ないと思います。ですのでこの運動系資料、グレイでコミュニティベースのものは現時点でも結構多いのですけれども、これからますます肥大化していくときに、エフェメラルなものを基本的にはこれから全部集めていくということを是非やってほしいと思うのですけれども、じゃあ実際どうやってやるのだろうというところも含めて、非常に大きな問題提起だったと思います。以上です。
- 会長:
- ありがとうございました。そうしましたら、中村委員お願いいたします。
- 委員:
- 貴重な取りまとめありがとうございました。大変よく分かる資料だったと思います。こういう機会なので、新聞業界の抱える課題について、お話しさせていただきたいと思います。御存じのように新聞は、紙で発行したものを国立国会図書館にお届けするという形で長い間やってきました。納本制度の中での新聞の取扱いは若干歴史的に微妙なところもありますけれども、基本的には紙の新聞を届ければ、日本で発行されている新聞の内容は、国立国会図書館に保存されるということになっていると思います。新聞社がデジタルで記事を発信するようになったのが日本では大体30年前くらいからなのですが、当初は紙の新聞で出している記事のごく一部を、ある種無料サービスとしてデジタルで提供するという形だったのですけれども、30年経って大きな進化を遂げています。新聞社にもよりますが、朝日新聞とか日経新聞とか、そういったところはもう、デジタルで、オンラインで発信している記事量の方が圧倒的に多く、逆に紙はごく一部が載っているというような状況になっています。かつ、そのデジタル版で出している記事は、動画もあれば音声もあれば、それからいろいろな有識者の皆さんのコメントとかも日経もやっているし、朝日新聞もやっているのですけれども、そういったものを含めて新聞が提供するジャーナリズムの言論空間というものを構成しています。
これ全体をどういうふうに残していくかということは、現段階では電子版の新聞は収集対象になっていませんけれども、これを後世にどう伝えていくかということは、大変難しい問題になっています。かつ、プラットフォーマーの台頭で、ニュースが無料で消費されるという大きな問題があり、更に生成AIが登場してきたというところで、例えば仮に図書館にアーカイブして、丸ごと利用してもらえるようになったとすると、各新聞社がやっているデータベースなどの事業に影響するということももちろんありますけれども、そこから生成AIに食われてしまうということが起きると、新聞社にとっては今でもかなり打撃を受けているのが、根本的に大きな打撃を受けるというようなことにもつながります。我々も総論として新聞社が発信しているものは残していかないといけない、後世の歴史の記録としても残していかないといけないと思っているのですけれども、この残し方あるいは公共での利用のされ方というところには、なかなかいろいろな課題があるなというのが現状です。協会の中でも著作権法の問題とか知財の考え方の問題とかいろいろなところに関わってくるので、ここのところずっと議論を重ねていて、関係機関ともいろいろな交渉をしているというのが現状です。私からは以上です。
- 会長:
- どうもありがとうございました。そうしましたら、宮原委員いかがでしょうか。
- 委員:
- 時系列的に改めて見ていくと、いろいろなことも思い出しながら、すごくよく分かりました。特に出版界が電子化するときにちょっと迷っているときに、うちの学研もそうですけれども、あれで一気に行こうというふうになったのをすごく記憶しております。ただ、はっきり今の段階で、絶版の部分に関してはよいのですけれども、絶版ではない部分までも配信されるのではないかというところの危惧を出版業界は持っていますので、そこがクリアできないとちょっともう一歩というところは難しいのかなと思います。
国自体が30年失われた中、国立国会図書館はこの30年すごくいろいろなことに挑戦されているなと、私は初めてなのでびっくりしました。30年も停滞している団体がある中で、電子化を含めて取り組まれているのは素晴らしいなと思います。それと大事なのはこれから78年目以降どうやっていくかというところで、余りクローズアップされていないですけれども、収集とか利用という形で出ていますけれども、利用よりもやはり活用というところにこれから78年目以降は行ってほしいなと思います。子供たちの学力は間違いなく低下しているし、ピーク時260万人いた子供たちが今80万人を切っている、私のときで160万人でした。学力テストという、OECDのPISAがやっている部分でいうと、上位にはもう入れなくなって、5位とか6位とか3位というところになっている。一番大事なこの分野の日本人の知力というか、知性というか、そういうものはやはり本とか雑誌とか新聞が握っていると思うので、その辺りのところを収集してその後利用というか、活用というところまで行かないとこの国は滅びていくなというのは現場で実感しています。小学校の子供たちも35万人不登校と言われていますけれども、絶対60~70万人はいるでしょうし、高校のサポート校も25万人と言われていますけれども、不登校の数を数えていないですから、サポート校の数だけですから、とんでもないような国になっていくし、犯罪も増えていくし、ただそういったときに知性を上げていく役割というのはやはり国立国会図書館が担っていってほしいので、収集と利用プラス活用というところに次の78年目以降は是非行ってもらいたいなと思います。以上です。
- 会長:
- ありがとうございました。そうしましたら、お待たせしました。山崎委員いかがでしょうか。
- 委員:
- 本日は大変貴重なお話をありがとうございました。非常に啓発され、勉強になりました。私自身メディア論や出版研究を専門にしておりますので、文化をいかにアーカイブしていくかということは大きな関心事です。今日根本委員のスライドにもありました、保存すべき文化財をどう考えるかということは、本当に大きな問題だと思います。私自身は文化を考える上では、できる限り網羅的に、そして国際的に、共通した形でアーカイブしていくべきだと考えておりますが、そのためには著作権など制度上の問題、(収集やデータ変換、保管などに要する)コストの問題、技術の問題、相互共通化、標準化の問題等々、様々にクリアしていかなくてはいけない問題があって、そういった意味においては国立国会図書館のプレゼンス、果たすべき役割というものが今後ますます大きくなってきているのだなということを実感しております。
それに関連して、日本の場合は、いかに民間の出版社と協働していくかということが重要かと思われます。これまでいろいろな辞典、事典であるとか、そういった知の集積ということに関して、日本の出版社が果たしてきた役割は他の国と比べても非常に大きいものだと思いますし、その連携の形をいかに作っていくかということが重要かと思います。
また、アメリカのインターネットアーカイブの例などを見ると、伊藤委員からも御発言がありましたけれども、やはりゲームの存在もとても重要で、これから考えていかなくてはいけない領域かと思います。形が一定ではないゲームというものをどういうふうにアーカイブしていくか。ソーシャルゲームなども常に変わりゆく、可塑的なものですから、そういったものをいかにアーカイブしていくかということが、今後考えていくべき課題なのであろうと思いました。以上です。
- 会長:
- はい、どうもありがとうございました。更に相互の意見を交換できればよろしいとは思うのですが、全体の予定の時間も来ておりますので、また何かお気付きの点がありましたら事務局にお寄せいただくということもできます。根本委員、どうもありがとうございました。それでは、今お出しいただいた意見を踏まえまして、また事務局の方で今後の納本制度の在り方についての検討を進めていただければと考えます。
- 【会次第6 今後の日程について】
- 会長:
- それでは、次、会次第6、今後の日程ですけれども、事務局から説明をお願いいたします。
- 収集書誌部長:
- 今後の日程につきまして、定刻を過ぎておりますので、簡単に御説明いたします。
まず、オンライン資料の制度収集につきましては、本日進捗を御報告したところでございますけれども、引き続き、制度の定着に向けて取組を進めてまいりたいと思います。
次の審議会は、次年度の第2四半期以降を予定しております。具体的な日程につきましては事務局から改めて御相談をさせていただきます。
現在の第13期納本制度審議会の任期は、本年6月末までとなっております。委員の皆様には、真摯に御議論いただきまして、誠にありがとうございました。お陰様で、長年懸案となっておりました有償等オンライン資料の制度収集も、課題はございますが、進み始めております。
また、本日は根本委員から国立国会図書館の収集制度につきまして、大局的な視点からの問題提起を頂きまして、また、それを基に、委員の皆様から大変示唆的で有益な御意見を頂きました。大変有り難く存じます。委員の皆様の御意見を基に今後の審議事項を整理してまいりたいと思っております。
今後とも、御指導、御鞭撻賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。事務局からは以上でございます。
- 会長:
- ただ今の説明につきまして、何かございますでしょうか。よろしいですか。そうしましたら、予定されました議題、報告は以上で終了しましたが、なお何か御質問、御意見などございますでしょうか。よろしいですか。事務局もよろしいですか。
- 【閉会】
- 会長:
- それでは、以上をもちまして、第39回納本制度審議会の会次第は全て終了いたしました。本日はこれにて散会といたします。なかなか寒暖定まりませんので、委員の皆様の御健勝をお祈りいたします。どうもありがとうございました。
- (12時15分終了)
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