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第一部 学ぶ ~古典の継承~

伊勢物語・源氏物語 2

源氏物語

『源氏物語』は平安時代末頃から、和歌をよむ際の基本的教養として重視され、古典として扱われるようになった。鎌倉時代初期にはいろいろな系統の本文が存在しており、それらを校合し定本を作ることが図られ、注釈も発生した。最初は作中の引き歌や出典の考証から始まり、しだいに語句や文章の解釈もされるようになった。これらは講義により弟子に伝えられ、聞書が筆記された。室町時代には、三条西家を中心とする公家の注のほか、連歌師による注釈も作られている。
写本で伝えられた『源氏物語』は、近世には出版されるようになり、啓蒙的な注釈書も刊行されて、誰でもこの物語を味わうことができるようになった。
こうして『源氏物語』は、文学、芸能、美術のあらゆる方面に大きな影響を与えた。

5 〔源氏物語〕 げんじものがたり

  • 54巻 〔江戸時代前期〕写 54冊 16.0×17.4cm <WA21-26>

枡形本で装訂は綴葉装。1巻を1冊にあて、表紙中央に題簽を貼り、巻名を記す。見返しには金銀の切箔を散らし、本文は亀甲、墨流し、市松模様等の料紙を用いる。さらに草木、霞などの下絵を金銀泥で描いた丁もあるなど、美麗な意匠をこらした本である。東久邇ひがしくに宮家旧蔵と伝える。

枡形本
ほぼ正方形の冊子本。

6 〔源氏物語〕 げんじものがたり

  • 54巻 〔慶長年間(1596-1615)〕刊 54冊 25.4×19.2cm <WA7-263>

古活字版。『源氏物語』の最初の刊本とされ、平仮名活字を使用した本としてももっとも初期のものといわれる。他に知られる伝本は、阪本龍門文庫および実践女子大学図書館の所蔵本のみ。両者とも欠本があるのに対し、展示本は全冊揃いで、保存の良い美本である。ただし、「夕顔」全冊と「蛍」「野分」「柏木」に補写がある。料紙や筆跡はもとの刊本とよく似ていて、刊年に近い時期の補写と考えられる。

7 源氏抄 げんじしょう

  • 正徹著 文明11(1479)正広写 2冊 28.3×22.5cm <WA16-142>

『源氏物語』の注釈書。書名は外題げだいによる。著者の奥書によれば原題は「一滴集」。正徹60歳の永享12年(1440)に成った。展示本が唯一の伝本で、正徹自筆本を第一の弟子正広しょうこう(1412-94)が書写したもの。朱墨で合点、濁点等を記す。巻末に永享12年7月の正徹の本奥書、文明11年5月の正広の書写奥書がある。ただし、本奥書には三帖、正広の奥書には五帖とあるが、現状は2冊本である。正徹は『源氏物語』に詳しく、将軍足利義政にも講義している。

外題
表紙にある書名。内題に対する語。表紙に直接書かれたものと、題簽に記されたものとがある。
書写奥書
書写の際に、その経緯、日付等を記した奥書。

8 源氏物語聞書 げんじものがたりききがき

  • 宝永2(1705)写 25冊 30.8×22.6cm <WA21-13>

『源氏物語』の注釈書。書名は内題による。題簽は「覚性院抄」。一般には「覚勝院抄かくしょういんしょう」と呼ばれる。書中の記述から、元亀2年(1571)頃の成立かと考えられている。本文を段落ごとに記し、注釈を書き入れ、さらに行間や上部にも多くの注がある。源氏の注釈書で、本文を全文掲げる形式のものは少ない。「覚勝院」については、大覚寺覚勝院の僧ともいわれるが、著者、成立過程とも未だ明らかでないところが多い。展示本は、「初期稿本系」とされる穂久邇ほくに文庫所蔵本とほぼ一致する。第25冊に、一関藩主田村建顕たけあき所持の本を写したとの仙台藩主伊達吉村(1680-1752)の奥書がある。第1、2冊にはところどころに付箋、第2冊の「帚木」には青墨の書き入れがある。印記「伊達伯観瀾閣図書印」。

9 岷江入楚 みんごうにっそ

  • 55巻 中院通勝著 寛永20(1643)飛鳥井雅章写 55冊 27.4×20.7cm <WA18-17>

『源氏物語』の代表的注釈を集大成したもの。細川幽斎(1534-1610)の勧めにより着手、約10年を費やして、慶長3年(1598)6月完成した。書名は宋の黄庭堅の詩句に基づき、長江の源流である岷江が下流の楚に入り大河になるように、初期の簡単なものから始まった注釈が、後世に到り膨大なものになったことを表わす。幽斎の命名である。通勝は伯父三条西実枝さんじょうにしさねきに源氏を学んだので、三条西家歴代の注を多く採用し、自説も併記する。展示本は著者自筆本の写しで、三条西家伝来。第55冊末に飛鳥井雅章あすかいまさあき(1611-79)の奥書がある。

10 〔源氏小鏡〕 げんじこかがみ

  • 3巻 〔元和年間(1615-24)〕刊 3冊 28.2×20.0cm <WA7-61>

古活字版。『源氏物語』の梗概書。書名は通称による。展示した古活字版には書名はなく、伝本により異名も多い。著者は花山院長親かざんいんながちか(号は耕雲。?-1429)とも伝えるが明らかでなく、南北朝時代の歌人・連歌作者二条良基にじょうよしもと(1320-88)の関与が推定されている。連歌の実用書として作られ、あらすじとともに、物語中の語で連歌に用いられるものを掲げる。連歌師の間で源氏は必須の教養になっていたが、原文でなく、このような簡便なダイジェスト版によることが一般的だったらしい。本書は中でも江戸時代まで最も広く読まれ、写本、版本は非常に多い。展示本は、版本としては慶長年間の嵯峨本に次ぐもので、本文は古い系統に属するとされる。