はじめに

和算ということばをご存じでしょうか。江戸時代以前にわが国で独自に発達した数学のことを、西洋数学と対比させて和算と称しています。明治以降、学校教育で西洋数学が教えられるようになると、日本固有の和算は表舞台から消えました。しかし、和算は西洋数学と比べても、決して見劣りしない優れたものでした。

ねずみ算や鶴亀算など入門的な問題から、連立方程式、円周率、三角関数をはじめとする代数・幾何の高度な問題まで、和算はさまざまな数学問題を取り扱いました。実用的な問題も多く、農林漁業や商業など人々の暮らしに直接役立つ知識として重視され、武家社会のみならず、庶民にも普及していきました。江戸時代の社会の発展に和算が果たした役割は、決して小さくなかったと言えるでしょう。

和算の発達した江戸時代には、和算関係の書物も数多く出版されました。当館が所蔵するものも少なくありません。これらの書物の中では、西洋数学でも取り上げられる数学の概念が、西洋数学とは全く異なる用語や記号で表現され、西洋数学とは異なった切り口から問題が解かれていきます。西洋数学の表記法との違いは、一見するだけでも興味深く、美しく描かれた図形は見る人を楽しませてくれるでしょう。

この電子展示会は2部構成となっています。第1部では、和算の歴史、関孝和に代表される和算家の系譜などをわかりやすく解説し、あわせて、数学の理解を深めるための「コラム」や「腕試し問題」も掲載しました。第2部の「和算資料ライブラリー」では、当館が所蔵する主な和算関連資料の全文画像を、解題とともに掲載しました。

西洋数学とは一味違う和算の世界をじっくりとお楽しみください。

※この電子展示会の解説部分の執筆は、佐藤賢一・電気通信大学准教授と折田洋晴・当館主題情報部司書監(執筆当時)によるものです。

それぞれの執筆箇所は以下のとおりです。

執筆箇所
第1部第1章~第6章佐藤賢一
第1部コラム折田洋晴
第1部腕試し問題折田洋晴
第2部国内で所蔵されている和算資料折田洋晴
第2部国立国会図書館で所蔵する和算資料折田洋晴
第2部和算資料ライブラリー佐藤賢一

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