アマゾンのアグロフォレストリ
アマゾン河口近くの大都市ベレンの南方250km、パラー州のトメアスーで、1970年代以降日系農家が、環境負荷の小さい独自の熱帯農法を実践し、事業として成功し、世界的な注目を集めている。
トメアスーは、戦前期日本の鐘紡が出資した南米拓殖株式会社が開発した移住地(戦前期はアカラ植民地と呼ばれた。)で1929年(昭和4)以来、日本人が入植した。しかし、熱帯農業の知識がなかったため、主作物と想定していたカカオの栽培に失敗し、経営に行き詰まり、悪性のマラリアも蔓延したこともあり、退耕者が相次ぐ結果となった。
戦後は胡椒の栽培が普及し、1950年代前半には胡椒の国際相場の高騰で胡椒長者が出現した。ところが、1960年代後半からフザリウム菌などによる病害のために胡椒栽培は壊滅的な打撃を受けた。胡椒の病害を避けるため、汚染されていない土壌を求めて、トメアスーを去って行く人が相次ぐ一方で、とどまる人たちは、胡椒に代わる作物を探し、自宅の庭先でさまざまな作物の試行錯誤が続いた。
その結果、焼畑後まず、米、豆類、かぼちゃ、トマト、葉物野菜などの一年生の短期作物を植え、次いで胡椒、パッションフルーツなどの多年生の中期作物を植え、短期作物が雑草を抑えている間にそれらが生長し、部分日陰と防風効果をつくり出したころに、株間か列間に果樹と有用高木樹種(ブラジルナッツノキ、マホガニー、パラゴム、など)の苗を植えこむ。こうすると、中期作物が5~6年で枯れるころには、果樹が実をつけ、有用樹が10mほどに生長している。高木はやがて材木として出荷される。こうして、畑から絶え間なく収穫があるよう組み合わせる農法をあみ出した。組み合わせの仕方は無数にある。
アマゾンの原始林が完全に焼却された状態から、数十年から数百年をかけてまた元の原始林に戻るまでの、自然の植生の遷移を模倣した形で作物を組み合わせて栽培し、そのサイクルを繰り返していくところから、この農法は、学術上、遷移型アグロフォレストリと呼ばれている。
「原始林は、数百年の間にすべての植物を総合した有機共同体の姿」(坂口陞「アマゾン農業と日本の国際協力」)であるが、この農法によると、高木樹種植付け後25年たった畑では同地域の熱帯雨林の原生林の半分から3分の2もの植物地上部バイオマス(単位面積の生物体の総量)があるという。
現在、アマゾンでは、森林を伐採し牧場開発が進んでおり、環境破壊の元凶となっている。トメアスーのアグロフォレストリでは、耕地一筆25haの農業収入が同じ地域の1,000haを超える牧場に匹敵し、その牧場の雇用は2~3人の牧童のみなのに対して、25haの耕地一筆で常雇換算10~20人分の雇用を創出する。また、ひとつの畑に多数の作物を植えることにより、一つの畑から絶えず生産があり、かつ、農地の区画ごとにさまざまな作物の組み合わせで栽培することで、経済的にも安定的な収入を得ることができる。ブラジルの連邦や地元州政府では、焼畑をして転々と土地を移らずに定着するこの農法を非日系の小農にも奨励している。
日系人は、かつてジュートと胡椒の栽培に成功し、アマゾンの熱帯農業に貢献したが、この農法によりアマゾンをはじめとする熱帯林の保全と農業の両立に対し、多大な貢献を行うとしている。
【参考文献】(<>内は当館請求記号)
- 山田祐彰「日系人のアマゾン農業開発とアグロフォレストリー」(西澤利栄、小池洋一、本郷豊、山田祐彰『アマゾン:保全と開発』 東京 朝倉書店 2005 <EG325-H17>)
- 山田祐彰「アマゾンの21世紀(4・最終回)アマゾン熱帯林とアグロフォレストリー」(『地理』48(6) (通号 574) [2003.6] <Z8-372>)
- Japanese immigrants agroforestry in the Brazilian Amazon: a case study of sustainable rural development in the tropics, by Masaaki Yamada. A dissertation presented to the Graduate School of the University of Florida in partial fulfillment of the requirements for the degree of doctor of philosophy. University of Florida, 1999
- Scott Subler and Christopher Uhl, Japanese Agroforestry in Amazonia: a case study in Tome-Acu, Brazil, in Anthony B. Anderson, (ed.), Alternatives to deforestation: steps toward substainable use of the Amazon rain forest. 1990 Columbia University Press <RB351-A8>
- 坂口陞「アマゾン農業と日本の国際協力」(友松篤信〔ほか〕編『国際農業協力論:国際貢献の課題と展望』 東京 古今書院 1994 <DE71-E269>)