館長挨拶
就任のご挨拶
この4月に、国立国会図書館長に就任いたしました。これまで皆様からいただきました国立国会図書館に対するご支援とご協力に心から感謝申しあげます。
国立国会図書館は、国会図書館として国民を代表する国会議員の職務を補佐することを第一の役割としながら、日本唯一の国立図書館として、広く国民すべてに知識へのアクセスを保証する任務を担う機関です。
国会議員の職務への補佐であれ、国民への情報提供であれ、その土台となるのが日本における知の基盤の構築です。昭和23(1948)年に設立されて以来、国立国会図書館は日本国内で出版された図書、雑誌、新聞、官公庁資料、地図等について、納本制度を中心に、関係者のご理解も得ながら、網羅的な収集と永続的な保存に努めてまいりました。平成12(2000)年以降は電子図書館サービスとして、国内出版物のデジタル化、インターネット情報の収集・保存にも着手してまいりました。現在は2021年から2025年までのビジョンである「国立国会図書館のデジタルシフト」に基づき、デジタルコレクションの拡充と市場でのアクセスが困難なものに関するユニバーサルなアクセスを進めております。
社会におけるデジタル化をはじめとする情報技術の進展は急激なもので、これまで印刷物を中心としてきた知識や情報の流通は、電子書籍や電子雑誌だけでなく、インターネット上の情報を含むものへと変化してきています。これは印刷物という情報を固定させるメディアから、常に更新、変更がなされるデジタルメディアへの変化と捉えることができます。常に流動することを本質とするデジタルメディアをいかに保存していくべきかについて、現状では正解はありません。またデジタルメディアは複製や編集が容易で、最近話題になることの多い生成AIの普及も相まって、簡単に事実とは異なる情報を流すことが可能になってきています。
これまで国立国会図書館が築いてきた紙の印刷物を中心とするコレクションは、情報の信頼性を検証していく基盤ともなりうるものであり、日本の文化資源として次世代に確実に継承していかなければなりません。同時に、急激に変化するメディア環境に対応した知の基盤をいかに構築していくかも模索する必要があります。知の基盤とは単に情報を収集・保存することだけを指すものではないと考えます。収集した情報は利用されなければ意義は半減します。必要な人に必要な情報が提供できる体制、特に経済的、身体的、さまざまな社会的要因で、知へのアクセスが妨げられることがない体制を整備することが必要です。さらに、さまざまな人々が今後も情報や文化資源を生み出すことを可能とする環境を醸成することも知の基盤の構築においては考えていかなければならない課題といえます。
現状は困難な課題が多く、このような知の基盤の構築は果てない壮大な夢といわざるをえませんが、その理想に向かってあせらずたゆまず、国立国会図書館全職員で歩みを進めてまいりたいと思います。なにとぞご指導ご鞭撻賜りますようお願い申し上げます。
令和6年4月
国立国会図書館長 倉田 敬子