米国議会図書館の障害者サービス部門(NLS)の視覚障害者等向けサービス
筆者は、2014年3月まで、障害者サービスを行う図書館を支援する部署である関西館図書館協力課に在籍し、国立国会図書館の障害者サービスの今後のあるべき姿を考える立場にいました。このため、海外の国立図書館が提供する障害者サービスの動向に関心があったところ、2014年3月に米国議会図書館(以下、議会図書館)の障害者サービス部門、視覚障害者および身体障害者のための全国図書館サービス(National Library Service for the Blind and Physically Handicapped 以下、NLS)を訪問する機会を得ました。本稿では、この訪問記録をもとに、NLSのサービスの沿革と現在のサービスの内容について紹介します。
NLSの沿革
1931年に、全米の視覚障害者が利用することのできる図書を提供することを議会図書館の任務として定めた法律が成立したことを受けて、NLSが設立されました。この年、NLSは、全米に視覚障害者サービスを提供するための図書館ネットワークを組織しました。19館が加入したそうです。1934年には点字図書に加え、録音図書の提供を開始しています。
NLSの図書館ネットワークは発展を続け、1970年代には、ワイオミング州とノースダコタ州を除くすべての州に広がりました。1995年にはノースダコタ州の図書館が参加し、現在ではワイオミング州以外のすべての州のほか、ワシントンDC、プエルトリコ、バージン諸島の図書館も参加しています。この図書館ネットワークを通じて、視覚障害者等はNLSが製作する点字図書や録音図書を利用することや、NLSから供給を受けた再生機器の貸出しを受けることができるようになりますので、現時点ではほぼ米国全土がNLSの視覚障害者等サービスの対象となっているといえます。
録音図書製作の変遷
NLSは最初、SP盤で録音図書を製作していました。それが1950年代にはLP盤になり、その後はカセットテープ(写真1)になりました。このカセット・テープは、一般用のものに比べて再生速度を半分にしており、このため、通常の90分のカセット・テープに3時間分の録音が可能です。
写真1 カセットテープ
NLSは、このカセット・テープを長く使用していましたが、1990年代末から2005年にかけて新たな媒体となるデジタルメディアを調査しました。DAT(Digital Audio Tape)、CD-ROM、HDD、フラッシュメモリが調査対象となり、最終的にUSBを用いたフラッシュメモリであるUSBフラッシュドライブ(USBメモリ)(写真2)が採用されることになりました。
写真2 USBフラッシュドライブ(USBメモリ)
下の写真3はUSBフラッシュドライブ専用の再生機器です。NLSが製作する録音図書は暗号化されているため、この専用再生機器以外の機器では再生できないようになっています。29時間の連続再生ができ、15段階の速度調整も可能になっています。1台160ドルとのことです。
写真3 専用再生機器
NLSは、この専用再生機器を買い取り、図書館ネットワークを通じて利用者に無期限で貸し出すことで、障害者サービスを展開しています。貸し出した機器の台数は、全米で50万台に上ります。
録音図書の提供
NLSは、毎年2,000タイトル分の録音図書を製作し、それを複製したUSBフラッシュドライブを140万個製作して提供しています。2009年以来15,000万タイトル分を製作し、USBフラッシュドライブ550万個を貸し出しているそうです。
また、2004年度以降は、BARD(Brailleand Audio Reading Download)というデータベース1 を構築し、点字図書や録音図書のデータのダウンロードサービスを行っているほか、2013年9月からは、iPhone用のBARD Mobile2 のサービスを開始しています。ただ、BARDを利用しているのは、まだNLS利用者全体の15%にとどまるとのことでした。
おわりに
この訪問により、議会図書館における障害者サービスの歴史の長さと、そのスケールの大きさを実感することができました。最後に、お忙しい中、来訪の対応をしてくださったNLSの方々に心から感謝申し上げます。
(南 亮一 みなみ りょういち 関西館文献提供課長)