令和6年度書誌調整連絡会議報告
国立国会図書館では、書誌調整に関する情報の共有や意見交換を目的として、「書誌調整連絡会議」を毎年開催し、関係機関と協議しています。令和6年度は、2025年3月18日(火曜日)に、「典拠データの現状と将来」をテーマとしてオンラインで開催しました。
以下に、会議の内容をご報告します。当日の配布資料も掲載していますので、あわせてご覧ください。
令和6年度書誌調整連絡会議 出席者
- 伊藤 美歩
- 株式会社トーハン図書館部データベースグループアシスタントマネジャー
- 大向 一輝
- 東京大学大学院人文社会系研究科准教授
- 木村 麻衣子
- 日本女子大学文学部日本文学科准教授
- 小島 歩
- 人間文化研究機構国文学研究資料館管理部学術情報課メタデータ係長
- 阪口 幸治
- 国立情報学研究所学術基盤推進部学術コンテンツ課学術コンテンツ整備チーム係長
- 阪下 清香
- 早稲田大学図書館資料管理課長
- 酒見 佳世
- 慶應義塾大学メディアセンター本部リソースマネジメント担当課長
- 佐藤 眞一
- 東京都立中央図書館サービス部資料管理課課長代理(目録管理担当)
- 高橋 安澄
- 株式会社図書館流通センターデータ部長
- 橋詰 秋子
- 実践女子大学文学部図書館学課程准教授
- 渡邊 隆弘
- 帝塚山学院大学教授
(以上、五十音順)
(国立国会図書館)
- 竹内 秀樹
- 収集書誌部長
- 小柏 良輔
- 収集書誌部収集・書誌調整課長
- 大柴 忠彦
- 収集書誌部主任司書
- 幡谷 祐子
- 収集書誌部国内資料課長
- 水戸部由美
- 収集書誌部逐次刊行物・特別資料課長
- 伊藤 りさ
- 収集書誌部外国資料課長
- 岡田 悟
- 収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐
- 村上 一恵
- 収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐
- 田中 亮之介
- 収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐
- 小野塚由希子
- 収集書誌部収集・書誌調整課主査兼書誌調整係長
所属および肩書きは、会議開催当時のものです。
開会挨拶
竹内秀樹(収集書誌部長)
今回の会議は、「典拠データの現状と将来」をテーマに開催する。典拠データを総合的に扱うのは平成22年度以来となる。当時、国立国会図書館では、典拠データ全体のウェブ提供が課題となっており、その後、2012年には「国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス」(以下、Web NDL Authorities)の本格提供と、バーチャル国際典拠ファイル(以下、VIAF)への参加を通じた国際的な提供を開始した。2021年に策定した「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」(以下、書誌計画2025)では、典拠データの拡充に重点を置き、取組を続けているところである
一方で、国内の図書館においては典拠データの活用が十分ではないとの指摘がある。また、昨年度の書誌調整連絡会議では、関係機関との連携協力による典拠データの共有が大切であるという意見もあった。
今回の会議で、典拠データの意義を再確認し、今後の課題を明らかにできれば幸いである。次期書誌計画の策定においても参考にしたく、活発な意見交換が行われることを期待している。
典拠データの動向,課題と展望
木村麻衣子(日本女子大学文学部日本文学科准教授)
日本の主な典拠データの種類には、著者名(個人、家族、団体)、件名(主題、個人、家族、団体、著作)、著作がある。典拠コントロール作業は目録作業の中に明確に位置付けた形で示されてこなかったが、典拠データ作成、典拠データと書誌データのリンク形成、典拠データの更新・維持管理を含むと考えるのが妥当であろう。また、現在の典拠データ作成作業の核心は、主題分析と、実体間の関連分析である。異名同実体の集中、同名異実体の識別などのこれまでの機能に加え、実体間の関連付け等によって他の実体の発見を支援すること、人手で作成した信頼のおける情報源であることが典拠データの新たな付加価値となっている。
日本における課題としては、館種毎に異なる典拠ファイルを使用するため網羅的な典拠コントロールが出来ていないこと、図書館内外においてその重要性や効能への無理解から典拠コントロールが根付いていないことなどが挙げられる。
典拠コントロールのメリットを最大限享受するには、網羅的に典拠データを作成し、相互利用のために幅広く共有することが必要である。また、典拠データを活用した質の高い検索を実現するためには、目録作成に関わる図書館員だけでなくOPACを開発するベンダーも対象に含めた、典拠コントロールの啓蒙が必要である。
国立国会図書館における典拠データ―これまでの拡充の取組と将来像―
小野塚由希子(収集書誌部収集・書誌調整課主査兼書誌調整係長)
国立国会図書館では、書誌計画2025の取組として、個人名典拠データへの関連する識別子の記録拡充や没年追記、著作典拠データやジャンル・形式用語典拠データの拡充を進めている。また、2025年4月から、これまで件名使用のみであった家族名典拠データの著者使用を開始する予定である。
その一方で、メタデータ作成の効率化やコスト削減が課題となっている。次期書誌計画の検討を見据えた選択肢として、国立国会図書館が作成する典拠データの範囲を超えて、より広い範囲を典拠コントロールするための国内機関との機械連携アイデアや、国立国会図書館での紙資料と電子資料のメタデータ一元管理に向け、現在、書誌作成時に行っている主題分析作業などを著作典拠データ作成時に移行することでカタロガーの高度な判断を書誌データ作成から著作典拠データ作成にシフトするアイデアについて、報告者私案として提案する。
NACSIS-CATの典拠データの現状と今後の展望について
阪口幸治(国立情報学研究所学術基盤推進部学術コンテンツ課学術コンテンツ整備チーム係長)
オンライン共同分担目録方式であるNACSIS-CATでは、典拠データ作成は参加館の選択事項だが、参加館の尽力により、著者名典拠データは、1年あたり約3.2万件の新規作成を維持しており、書誌データから著者名典拠データへのリンク率は全体の2/3となっている。また、著作典拠データは、1年あたり約1,000件を新規作成しており、作成対象は音楽作品が特に多い。音楽学部がある大学の参加館が著作典拠データを多く作成していると思われる。
日本目録規則2018年版(以下、NCR2018)適用後に、著作典拠データの対象として「その他識別する必要があると判断した著作」を作成できることになったことから、日本語訳タイトルが複数ある外国語著作や、複数の表現形または体現形を持つ著作などについて今後の拡充を期待したい。また、著者名典拠データをCC BY 4.0で公開しているほか、VIAF、CiNii Research、CiNii Booksに提供しており、CiNii Researchでは科学研究費助成事業データベース(KAKEN)の研究者番号との名寄せ表示を行っている。今後、このような活用事例を増やしていきたい。
有識者による報告:典拠データの将来像
典拠データの将来像?
渡邊隆弘(帝塚山学院大学教授)
未知の資料を発見する「集中機能のための典拠コントロール」は、近代目録法の歴史において、FRBR以前から引き継がれてきた、図書館目録の本質であり、図書館のメタデータの「付加価値性」を担っている。他国に比して立ち遅れていた日本でも、近年は主要なデータ作成機関でその重要性に対する認識の合意はできてきているように思われる。しかし、作業コストの制約等から、集中機能を果たすに十分な網羅性をもっているとはいえない。 著作典拠データについて、全著作・全表現形のデータ作成作業は困難と思うが、運用の対象範囲が限定的なままではOPACの改良などに活用できないため、書誌データから著作・表現形の属性を自動生成する「FRBR化(FRBRization)」(注)を併用できないか。また、館種ごとに別々に書誌コントロール作業が行われていることが、典拠データの相互運用性にも困難をもたらしており、大きな問題である。
つながる典拠 2.0
大向一輝(東京大学大学院人文社会系研究科准教授)
典拠の将来像としては、資料の結節点から社会の結節点に変わっていくものと考える。典拠データが、資料を探すためのものとしてだけではなく、分野・ジャンル・コミュニティを越境するための知識体系として、また、社会・経済活動を支える基本情報として、認知されるような取組を進めることで、典拠データ作成にコストをかけることへの理解が得られるのではないか。
また、典拠データは、書誌データとは異なり更新され続けるため、一つの組織が作り続けるのは現実的ではない。図書館外のデータとどう組み合わせていくかを考え、そのリンク情報を定期的に確認していく作業を典拠データ作成の流れに組み込む必要がある。
人物・組織については、典拠データとして必要な情報だけではなく、KAKENで科研費報告書から抽出して表示している各年度に応じた所属情報のように、そのときどきのコンテキストを踏まえた検索・情報提示についての需要が高い。
現代文化の統一タイトルについて、同じ「作品」でも「ゲーム」「マンガ」「アニメーション」といった流通形態の違いによって情報に分断がある可能性がある。流通形態に細分化した情報をまとめた“「作品」の全貌が分かるような情報“を誰かが作る必要があるのではないか。
典拠データの将来像:著作典拠を中心に
橋詰秋子(実践女子大学文学部図書館学課程准教授)
図書館が作成する情報資源メタデータが有する、他メタデータにない強みは2つあると考えている。1つ目は、件名標目などの統制語による主題の組織化であり、2つ目は、著作、表現形、体現形、個別資料といった実体を関連付けることである。これはどちらも、典拠コントロールによって実現される機能である。著作の典拠データは、体現形単位の書誌レコードを著作単位で集中化させる場面で使われる。英国図書館(BL)のOPACは、著作のデータを用いてFRBR化(注)を実現している。
日本では、NCR2018により著作の典拠コントロールが本格的に開始されたが、著作という実体やその重要性が十分認識されていないという点で課題がある。国立国会図書館には、日本の古典作品や多言語で出版されたマンガやアニメなどの日本の著作を対象にした著作典拠データの拡充、他の典拠データ作成機関との連携協力体制の確立を期待したい。さらに、典拠データの作成・提供を館外向けサービスとして位置付けて、目録以外の情報システムや図書館外の情報サービスで利活用を促進してほしい。目録外や図書館外の利活用を進めるには、典拠データへの永続的識別子の付与拡充や、Linked Open Data(LOD)を活かしたユースケースの作成・紹介が有用だろう。
- (注)FRBR化(FRBRization):FRBRの概念モデルを既存の書誌データで構成された情報システムに適用させること。これまでに様々な適用法が提案されてきたが、現在では、「体現形」単位で作成された書誌データを、その上位実体である「著作」や「表現形」の単位でグループ化して検索結果画面で提示する機能を指して、FRBR化と呼ぶことが多い。これにより、OPAC等において、異なる版や翻訳などの書誌データを「著作」に集中させ、それぞれの関係を明確にし、利用者が求める情報をより直感的に検索・発見できるようにする。
自由討議
典拠データの作成と活用の現状
- 典拠データを作成する機関として、活用には課題があると認識している。これから図書館やベンダーと情報交換を密にしていきたい。
- 慶應義塾大学メディアセンター本部では、2023年度から3年間のプロジェクトとして、慶應義塾の創設者である福澤諭吉の著作典拠データを作成しLODで公開する取組を進めている。2年目の今年度は、MARC形式の著作典拠データを作成して書誌データとリンクさせるところまで終了し、それらの著作典拠データをLOD化して公開する方法を検討している。LODの取組として、永続的識別子を重視しており、国立国会図書館には、作成した福澤諭吉の著作典拠データを国立国会図書館の典拠データに含め、国立国会図書館典拠IDを付与して公開したいとの希望を伝えている。
- 【国立国会図書館】著作典拠データ数が61件という規模であれば、機械的な連携よりも、国立国会図書館で該当の著作典拠データを作成し、それらに慶應義塾大学メディアセンターの典拠IDを記録しリンクする方が効率良いと考える。今年度、近代日本文学作品の著作典拠データ拡充を検討し始めたところであり、時間がかかるかもしれないが、実現に向けて協力していきたい。
- 大学図書館職員として典拠コントロールが研究支援とも考えられ、着手する必要性を感じた。あらゆる情報源の中で、信頼性のあるつながりとして、典拠コントロールは意味のあることだと思う。一方で、目録作成業務の委託化が進んでおり、典拠コントロールをどのように進めるかは新たな課題である。また、デジタル・ヒューマニティーズについて自機関で取組を始めたところであり、LODがデジタル・ヒューマニティーズにもつながることが分かり、勉強になった。
- 国書データベースの運営機関として、さらに役立つデータを増やしていきたい。また、NACSIS-CATにも図書の書誌データを搭載しており、今後は典拠データなどでも貢献できればと考えている。
- 【質問】漢籍の典拠データを参照できる他機関のデータベースがあればご教示いただきたい。現在は、京都大学の漢籍データベースなどを検索することが多い。
- 【回答】漢籍の著作典拠データを参照できるデータベースは少なく、まれに、有名な中国古典であれば国立国会図書館の著作典拠データが存在することがある。漢籍の著作典拠データの作成が求められる。
- 【質問】国書データベースは基本的には、作品でまとめられるような、いわゆる図書を対象としているが、文書や一点ものの写本で1点1著作となるような事例では、著作でまとめるとかえって利用者の便に悪い場合がある。典拠コントロールしつつ、利用しやすい情報の結び方をご教示いただきたい。
- 【回答】必ずしもすべての情報資源に対して、図書館の著作・表現形・体現形・個別資料の枠組みが有効に働くわけではなく、ケースバイケースである。同じデータベースで扱うのであれば、図書館のモデルに寄せて入れるしかないが、別に分けるのであれば、むしろ博物館や文書館の組織化のやり方が参考になるように思う。
- 日本では著作典拠データ作成の経験があるカタロガーが少ないという話題があった。本来、作成した典拠データは使われて初めて価値があるものだが、作成機関としては作るだけで精一杯な状況であり、著作典拠データの有効活用については、今後の課題と認識している。
コミュニティ、ユースケースと情報公開
- 典拠データ作成機関の連携は重要である。様々な機関で情報交換をするコミュニティを作り、そこで中心的な役割を果たす機関が必要であり、それは国立国会図書館になるのではないか。典拠データ作成に関わる人材の減少もあり、図書館、民間MARC作成機関も含めて、皆で対応しなければ典拠データの相互運用性は確保できない。
- 【国立国会図書館】典拠データの連携について、改めて重要性を認識した。NCR2018の導入にあたり、国立国会図書館では著作典拠データを中心とした実務者同士の情報交換会を始めている。今後はデータ連携に関しても、前向きに検討を進めたい。
- 【国立国会図書館】Web NDL Authoritiesの活用事例・ユースケースとして、今年度、米国議会図書館のリンクトデータサービスから、米国議会図書館管理番号(LCCN)を記録している国立国会図書館名称典拠データへのリンクが実現した。また、国立国会図書館件名標目の関係性を可視化したサイトや、ウィキペディアンの方々による活用事例も把握している。ただし、国立国会図書館では、2019年4月以降、書誌データと典拠データの利用に関して営利目的も含め申請不要としたため、利活用事例の把握が難しくなっている。情報収集の必要性を感じているところである。
- 活用が進んでいることは素晴らしいが、それが知られていないことに問題がある。様々な取組がホームページ等で見つけにくいことも問題だと思う。
- 【質問】図書館の典拠データの可能性を、ウェブ上のデータを使いたい図書館外のユーザーに気付いてもらうには、どのような領域に、どのような手法で利活用を進めるのが効果的か。
- 【回答】没年調査ソンはよい取組と考える。データに手を加える対象は典拠データではあるが、関わる人の動機は著作権処理が明確になり、情報がオープンになるというメリットであり、貢献を実感できることのインパクトは、非常に大きい。
また、国立国会図書館の報告にあった、個人名典拠データへの様々な外部識別子の記録は例えば研究評価への活用等が考えられ、よい取組だと思う。KAKENの番号やORCID、国立国会図書館典拠IDなど、識別子の番号管理は、大学の研究支援部門のタスクと思っており、連携対象の一つとして考えられる。実は典拠データの整備について、典拠データの管理を目的としない人たちと協力、連携できる分野は思ったよりも多く、それらに積極的にアプローチすることで、全体でデータを良くしていけると思う。 - アイデアソンやハッカソンのように、ユースケースを作るための機会を準備することも必要だと思う。典拠データはデジタル・ヒューマニティーズと親和性が高いと思うので、例えば日本デジタル・ヒューマニティーズ学会でワークショップを行うことはできるのではないか。典拠データを研究に使用し新しい知見が生まれると、インパクトのある有用性を示すユースケースになり得る。
国立国会図書館の取組だとジャパンサーチを活用したハッカソン等が参考になるように思う。 - 【国立国会図書館】昨年度の書誌調整連絡会議で指摘のあった、図書の分担執筆部分の典拠コントロールの課題については、下位の著作までの典拠コントロールが作業負荷の観点から難しいと考えていたが、外部識別子の記録を充実させることが研究者支援につながる可能性を示唆していただき、励みになった。これからも国内機関との識別子による連携を充実させたい。
図書館界を盛り上げたい気持ちはあり、関係機関と協力しつつ、国立国会図書館から需要を掘り起こすことは、これから考えていきたい。 - 昨年度の書誌調整連絡会議で「Name Authority Cooperative Program」(NACO)のような典拠共同作成プログラムを提案したが、運営コストの観点から難しいことも理解する。作成された典拠データを連携する取組を積み重ねていくことも有効と思う。
件名標目の普及
- 件名標目は非常に厳しい状況にある。「基本件名標目表」(以下、BSH)を継続することは難しいと思うので、図書館全体で「国立国会図書館件名標目表」(以下、NDLSH)を使うという方向性が考えられる。本文からキーワードを抽出すれば件名標目は不要という主張が主流になると、コスト面で抵抗し続けることは難しい。件名標目が付与された書誌データの価値を一般ユーザーに伝えることが困難な現状では、件名標目を維持することが難しくなることを危惧している。
- 件名標目については、NDLSHが典拠データとしてきちんと保持されていることが重要な財産であると思う。そして、件名典拠データについても、図書館の外でも活用されることが理想であり、必要なことだと思う。
- TRC MARCでは、BSHを基礎に、新主題については、NDLSHにあれば優先的に採用、無ければTRCで新設しており、結果的に折衷的な件名典拠ファイルになっている。図書館の現場で、分類は排架で使われるため活用されるが、件名標目の活用は減っていると思う。ただTRC MARCでは子ども向け資料に件名のようなキーワードを非常に細かい粒度で付与しており、こちらは活用されている。件名標目が、全体の主題に対して数件程度付与される形だと、粒度として需要に合っていないことも考えられる。