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1. 来日外国人の日本研究 (3)

フィッセル

ヨハン・フレデリク・ファン・オーフェルメール・フィッセル(Johan Frederik van Overmeer Fisscher, 1800-1848)

オランダ商館員として文政3年(1820)から文政12年(1829)まで日本に滞在した。文政5年(1822)には商館長コック・ブロンホフ(Jan Cook Blomhoff, 1779-1853)に随行して江戸参府している。

Overmeer Fisscher, J. F. van: Bijdrage tot de kennis van het Japansche rijk.

Amsterdam: J. Muller, 1833. 1 v. <蘭-661>

  • Bijdrage tot de kennis van het Japansche rijk

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本書はフィッセルが帰国後に見聞と収集資料によってまとめた広範な日本研究である。15図ある挿絵は石版刷で、当館では手彩色本(<蘭-661>/天文方・蕃書調所旧蔵)と無彩色本(<貴-6512>/都築馨六旧蔵)の2本を所蔵する。前者は蘭書翻訳を担当した天文方の旧蔵書であることから、次項『日本風俗備考』の翻訳底本の可能性もある。

日本風俗備考

22巻  ハン-オフルメエル-ヒスセル著 杉田信(成卿)[ほか]訳 写 3冊 <210-302>

フィッセルのBijdrage tot de kennis van het Japansche rijkは、日本でも注目を集め、幕末に全訳されている。天文方山路諧孝(1777-1861)監修のもと、杉田成卿、箕作阮甫、竹内玄同、高須松亭、宇田川興斎、品川梅次郎が翻訳を分担した2章「蘭学者の活躍」参照。本書の各巻巻頭には彩色の図があり、彩色本を底本としたことが分かる。

シーボルト

フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold, 1796-1866)

ヴュルツブルク生まれのドイツ人。オランダ商館付医官として文政6年(1823)来日、長崎の鳴滝塾で多くの門人に西洋医学・博物学を伝授した。日本の科学的調査は、個人的関心でもあったが、シーボルトに課せられた任務でもあり、門人に日本に関するオランダ語論文の提出を課すなど、あらゆる方法で資料を収集した。その成果は『日本』『日本植物誌』『日本動物誌』等にまとめられている。シーボルト事件で国外追放になったが、安政6年(1859)には再来日した。

シーボルトの肖像
(『シーボルト肖像』<特1-3284>より)

Siebold, P. F. von: Nippon.

Leyden : bei dem Verfasser, 1832-[51] 3 v. <特4-26>

本書『日本』はシーボルトの日本研究の集大成。日本の地理、歴史、言語、宗教、美術、政治、経済など諸分野について、シーボルト自身による調査・収集資料と、日欧の既存の資料をまとめたもの。高野長英ら門人たちが提出したオランダ語論文も生かされている。ドイツ語で書かれ、一部はオランダ語、フランス語等に翻訳された。初版は1832年から1851年にかけて分冊形式で刊行され、その後も印刷されながら公刊されなかった部分がある。当館所蔵本には欠あり。

  • 「Nippon」(1コマ目)

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Siebold, P. F. von: Nippon.

2. Aufl. Wurzburg, Leipzig : L. Woerl, 1897. 2 v. <特1-0764>

シーボルト生誕100周年を記念して、息子たちにより改訂された『日本』第2版(縮約版)。初版に比べ小型になったが、初版では往路の途中までしか収録されなかった参府旅行記は、日誌として往復全行程が収録されている。この画像は、『シイボルト観劇図』(次項)に描かれた文政9年5月7日(1826.6.12)大坂での観劇の部分。このとき一行が見たのは、現在でも上演される『妹背山婦女庭訓』(近松半二ほか作)で、シーボルトは詳しい梗概を記している。

  • 「Nippon」(2コマ目)

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シイボルト観劇図并シイボルト自筆人参図

[江戸後期] [写] 1軸 <特1-3288>

2図を1軸に仕立ててある。上図は鶴岱筆(経歴未詳)。文政9年5月7日(1826.6.12)、シーボルトが参府旅行の帰途、大坂で芝居を見た際のもの。左側の黒い服を着た人物がシーボルトで、観劇の体験は『日本』第2版(前項)に記されている。絵の上部に、鶴岱が讃岐象頭山参詣の帰途、オランダ人一行に行き合せた旨が書かれている。当館はもう1種、岩崎常正筆のシーボルト像も所蔵する。下図は、シーボルト自筆の朝鮮人参図。白井文庫

物品識名

岡林清達稿 水谷豊文補・編 永楽堂 文化6(1809)跋刊 <寄別11-42>

補・編者の水谷豊文(1779-1833)は、尾張の本草学の中心人物。1826年シーボルトの江戸参府の際、尾張・宮(熱田)で面会して博物学の知識を交換した。豊文持参の植物画帖がリンネ式に分類されていることには、シーボルトも驚嘆した。その際、弟子の伊藤圭介(1803-1901)もシーボルトに会い、圭介は翌年長崎に留学する。本書はイロハ順に動・植・鉱物の和名約4,000種を列記し、漢名と簡単な説明を付したもの。この本には圭介とシーボルトの書き入れが随所にあり、二人の研究ぶりがうかがえる。なお、宮で圭介はシーボルトに魚類の鑑定も依頼し、シーボルトの書き込みの残る図国立国会図書館デジタルコレクションへ)がある。伊藤文庫

シーボルトへ所贈腊葉目録

伊藤圭介著 自筆 1冊 <寄別11-47>

伊藤圭介がシーボルトに贈った腊葉(押し葉標本)の目録。草部と木部に分けて和名のイロハ順に272の植物を収録。圭介が用意した冊子にシーボルトがペンで学名を記しており、巻末近くにはシーボルトの書簡もある。コリヤナギ(171番)は標本も貼付されている。圭介が贈った標本はシーボルト『日本植物誌』(次項)執筆の重要資料となった。伊藤文庫

Siebold, P. F. von: Flora Japonica : sive Plantae, quas in Imperio Japonico.

Lugduni Batavorum, 1835-70. 3 v. <別-3>

  • Flora Japonica : sive Plantae, quas in Imperio Japonico

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シーボルトとツッカリーニ(Joseph Gerhard Zuccarini, 1797-1848)の共著『日本植物誌』(第2巻は遺稿をミクエル(Friedrich Anton Wilhelm Miquel, 1811-1871)が増補校訂)。シーボルトがケンペルとツュンベリーを記念して出島に立てた碑(長崎市出島町・出島和蘭商館跡内に現存)が扉絵になっている。美麗な図版の多くは川原慶賀(次項)が描いたものを元にしており、世界最初の本格的な日本植物画集ともなっている。なお、当館所蔵本はテキストと無彩色の図版(2冊)と、ほぼすべて彩色されたもう1組の図版(1冊)とが組み合わされている。シーボルトは苗や種の輸入業も行い、日本植物の園芸的価値を欧州に知らしめた。

慶賀写真草

2巻 川原慶賀著 川原盧谷校 大坂 河内屋喜兵衛[ほか] 天保7(1836)刊 2冊 <499.9-Ka768k>

  • 「慶賀写真草」

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絵師川原慶賀(1786生)はフィッセルやシーボルトなど出島オランダ商館員に協力して多数の作品を描いた。本書には、シーボルト『日本植物誌』図版と共通する図を多く見ることができる。花の開花期等の説明のほか、学名、薬効を記す。花や実の断面図があるのが西洋の植物図鑑的である一方、色の説明が「タイシャスミ」「生ヱンジクマ」等、絵具と塗り方なのは、旧来の絵手本を思わせる。

Siebold, P. F. von: [Collection of autographs, 1821-1865]

1821-65. 13 sheets. <貴-6711>

シーボルトによる、ドイツ語8通、オランダ語5通の合計13通の書簡。自著『日本』『日本植物誌』『日本動物誌』の配本に関するものも含む。

シーボルト事件

文政11年(1828)、シーボルトが5年の任期を終えて帰国する際、日本地図等の禁制品を持ち出そうとしたことに端を発したのが「シーボルト事件」である。シーボルトは国外追放、再渡航禁止処分となり、地図を渡した高橋景保は死罪(実際には判決前に獄死)になるなど、関係者50数人が処罰された。

日本図

[伊能忠敬原図] [高橋景保編] [文政10(1827)頃]写  3舗 <寄別13-66>

伊能忠敬が作成した日本地図の写し。蝦夷図、東日本図、西日本図の3図から成る。高橋景保が部下に作成を命じ、シーボルトに渡したもの。細密に描かれ、大部分の地名は読みやすいようにカタカナで記されている。景保が国禁の地図をシーボルトに渡したのは、ロシア提督クルーゼンシュテルンの『世界周航記』等をシーボルトから得るためだった。19世紀初頭から、日本の沿岸をロシア、イギリス等の船が侵犯する事件が続いており、最新の世界事情を知ることは国益に資すると考えての行為だったが、判決は死罪という厳しいものだった。本図には、幕府による押収後、昌平坂学問所で所持していたことを示す「昌平坂」「編脩地志備用典籍」の印記がある。

[蝦夷図]

[高橋景保作] [文政9(1826)頃]写   1枚 <寄別13-65>

本図には「此図を此儘に写取遣候義に御座候」という付箋がある。嘉永4年(1851)にシーボルト『日本』の付図として刊行された「江戸宮廷天文学者高橋作左衛門の原図による蝦夷島・日本領クリル」図とも内容がほぼ一致することから、高橋景保がシーボルトに渡した図の原図と考えられている。やはり「昌平坂」「編脩地志備用典籍」の印記がある。

御制禁と不存犯候蘭人申渡方之儀評議

(『御仕置例類集』茶表紙後集18所収)写 <817-3>

御書物奉行天文方兼高橋作左衛門外壱人御仕置之儀ニ付評議

(『御仕置例類集』茶表紙後集24所収)写 <817-3>

当館は町奉行所の記録類を中心とした江戸幕府の行政文書を所蔵している(旧幕府引継書)。そのうち『御仕置例類集』は、江戸幕府の最高裁決機関である評定所一座が評議した結果をまとめた刑事裁判判例集であり、シーボルト事件関係の文書も含まれる。「御制禁と不存犯候蘭人申渡方之儀評議」は長崎奉行からの伺いで、シーボルトへの判決を評議したもの。初めて来日し、地図の持ち出し等が国法で禁じられているとは知らなかったのだから、次の便船で帰国させ、再渡航禁止を申し付けるとある。「御書物奉行天文方兼高橋作左衛門外壱人御仕置之儀ニ付評議」は町奉行からの伺いで、高橋景保は死罪、長男の小太郎も処罰する(実際には遠島)という評議結果が書かれている。

Tuckey, J. K.: Aardrijkskunde voor zeevaart en koophandel.

Rotterdam: J. Immerzeel, 1819. 5 v. <蘭-269~273>

英国海軍中佐・探検家James Kingston Tuckey(1776-1816)の著作『海洋地理学と統計』(Maritime geography and statistics)のオランダ語版。「チュケイ地理書」と称されているもの。シーボルトから高橋景保に贈られた。見返しにはシーボルト自筆の「医学博士フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトより江戸王室天文台の敬愛するグロビウス君へ記念として贈る 1826年5月」という内容のオランダ語識語がある。「グロビウス」(Globius)はドゥーフが命名した景保のオランダ名。蕃書調所旧蔵。

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