令和5年度書誌調整連絡会議報告
国立国会図書館では、書誌調整に関する情報の共有や意見交換を目的として、「書誌調整連絡会議」を毎年開催し、関係機関と協議しています。
令和5年度は、2024年3月1日(金曜日)に、「全国書誌サービスの現状と将来」をテーマとしてオンラインで開催しました。
以下に、会議の内容をご報告します。当日の配布資料も掲載していますので、あわせてご覧ください。
令和5年度書誌調整連絡会議 出席者
- 伊藤 美歩
- 株式会社トーハン図書館部データベースグループアシスタントマネジャー
- 大向 一輝
- 東京大学大学院人文社会系研究科准教授
- 木村 麻衣子
- 日本女子大学文学部日本文学科准教授
- 阪口 幸治
- 国立情報学研究所学術基盤推進部学術コンテンツ課学術コンテンツ整備チーム係長
- 善波 敦子
- 東京都立中央図書館サービス部資料管理課課長代理(目録管理担当)
- 高橋 安澄
- 株式会社図書館流通センターデータ部長
- 渡邊 隆弘
- 帝塚山学院大学基盤教育機構教授
- 和中 幹雄
- 元・大阪学院大学国際学部教授
(以上、五十音順)
(国立国会図書館)
収集書誌部
- 竹内 秀樹
- 収集書誌部長
- 上保 佳穂
- 収集書誌部副部長収集・書誌調整課長事務取扱
- 川鍋 道子
- 収集書誌部司書監兼外国資料課長
- 大柴 忠彦
- 収集書誌部主任司書
- 竹林 晶子
- 収集書誌部主任司書
- 幡谷 祐子
- 収集書誌部国内資料課長
- 水戸部由美
- 収集書誌部逐次刊行物・特別資料課長
- 山田 牧
- 収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐
- 村上 一恵
- 収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐
- 大迫 丈志
- 収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐
- 小林 久美子
- 収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐
- 田中 亮之介
- 収集書誌部収集・書誌調整課書誌サービス係長
関西館
- 上綱 秀治
- 関西館電子図書館課長
- 田中 俊洋
- 関西館電子図書館課課長補佐
- 原 聡子
- 関西館電子図書館課オンライン資料収集係長
所属および肩書きは、会議開催当時のものです。
開会挨拶
竹内秀樹(収集書誌部長)
国立国会図書館は、令和6年1月に全国書誌データの新たな検索・提供サービスを開始した。この機会をとらえ、今回は、「全国書誌サービスの現状と将来」をテーマに開催する。
平成12年度の第1回会議のテーマが「電子情報時代の全国書誌サービス」であり、当時、国立国会図書館は、全国書誌の提供媒体を冊子体からインターネット上での提供に切り替えると報告していた。その後、およそ四半世紀の間に、情報環境の変化に応じて、全国書誌の提供方法も検索システムからのデータ提供を主軸とする形に変わってきた。また、オンライン資料収集制度の開始にあわせ、平成26年3月に「全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)」の提供を開始した。
今回の会議で、全国書誌サービスについて、意義を再確認し、また、今後の課題を明らかにできれば幸いである。活発な意見交換が行われることを期待している。
全国書誌サービスと書誌コントロールの過去・現在・未来
和中幹雄(元・大阪学院大学国際学部教授)
20世紀後半の国際的な書誌コントロールでは、その枠組みの一部として全国書誌サービスが存在してきた。日本の書誌コントロールは、独自路線を進んできた面があるが、その中で、国立国会図書館は全国書誌サービスを提供し、一定の役割を果たしてきた。リニューアルされた国立国会図書館サーチは、広義の全国書誌サービスの提供といえる。
将来の全国書誌サービスが備えるべき機能は、連携機関を含む統合検索と典拠検索の両方で構成される。国立国会図書館が提供している狭義の全国書誌と、国立国会図書館サーチのような連携機関の書誌データを含む広義の全国書誌をつなぐためには、関係機関との連携協力による典拠データの共有が重要であり、米国の名称典拠ファイルの共同作成プログラム「National Authority Cooperative Program」(以下、NACO)(米国議会図書館ホームページへリンク)におけるFunnelプロジェクトが参考になる。また、国立国会図書館典拠データのVIAFにおける同定の正確性を高めるなど、典拠データの信頼性確保に努めてほしい。(注1)
- 注1資料中の例示「紫式部, 平安中期」については、典拠データに米国議会図書館典拠レコード管理番号(LCCN)を追加し、VIAFでの同定が改善したことを確認している。(国立国会図書館)
全国書誌の促進―IFLA 書誌分科会の取組―
村上一恵(収集書誌部収集・書誌調整課課長補佐)
国際図書館連盟(以下、IFLA)による全国書誌促進の取組を報告する。各国の全国書誌を相互に交換して国際的な書誌情報の集積を目指す「Universal Bibliographic Control」(以下、UBC)がIFLAのコアプログラムでなくなった後、IFLA書誌分科会では、「UBCに関するIFLA専門家声明(2012)」(IFLAホームページへリンク)を公開し、UBCの価値を再確認した。また、「デジタル時代の全国書誌のためのコモンプラクティス(2022)」(IFLAホームページへリンク)、「全国書誌登録簿」(IFLAホームページへリンク)等を通じて、全国書誌の促進に取り組んでいる。UBCは今後も必要だが、時代に合わせて手段を変えていく必要があるだろう
全国書誌データ提供サービスの現状
田中亮之介(収集書誌部収集・書誌調整課書誌サービス係長)
国立国会図書館が提供する「全国書誌」は、「全国書誌データ」の提供へと変わってきた。国立国会図書館の全国書誌には納本制度等により収集した有形の資料を対象とした「全国書誌」と、収集したオンライン資料を対象とした「全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)」がある。2024年1月にサービスを開始した「全国書誌データ検索」(国立国会図書館サーチへリンク)「全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)データ検索」(国立国会図書館サーチへリンク)等、さまざまな方法で全国書誌データを提供している。
有識者による発表:全国書誌サービスの将来像
全国書誌サービスに思うこと
渡邊隆弘(帝塚山学院大学基盤教育機構教授)
日本の全国書誌について、利活用の観点では速報性が積年の課題である。また、未知資料の網羅的な発見という観点では、典拠コントロールの充実が重要である。全国書誌の網羅性向上のために統合検索は重要だが、統合検索だけでは集中機能の実現に万全ではない。国立国会図書館自体の典拠コントロールの拡充に加え、他の図書館と協働して、地域資料などの書誌データを国立国会図書館による典拠コントロールに組み入れるような仕組みづくりなどが考えられる。
全国書誌について
木村麻衣子(日本女子大学文学部日本文学科准教授)
日本の全国書誌のカバー率や、件名標目の細目の扱い、全国書誌の中での典拠データの位置付け、国や地域間での単位の調整が難しい著作の典拠形アクセス・ポイントのあり方などについて、まだ課題がある。カバー率向上には積極的に取り組んでほしい。また、国立国会図書館件名標目について、細目を付与することによって主題を十分に表現することが重要だが、細目付きの件名標目がそれぞれ別典拠となってしまい、主標目が同じでもまとめて検索できないなど、細目付きを含めた件名標目によって効果的な検索を行うには課題がある。
つながる書誌2.0
大向一輝(東京大学大学院人文社会系研究科准教授)
情報技術が進展することで、断片的で大量の検索結果の中から、認知しやすい情報の一定の塊をもつことが重要であることがわかってきた。書誌情報については、出版行為の「いつ・どこで・誰が・何を」を記録するタイムスタンプとしての役割が重要となってきている。永続的IDを用いて外部の情報を書誌へリンクする仕組みの整備、書誌の内側にある論集の各論文単位のデータの作成や、書誌の枠組みを超え著作単位で出版行為の変遷を追えるデータの作成など、目的志向を持ったデータの設計を試行できるとよい。これからの全国書誌には、つながる書誌のプラットフォームとして、情報をつなぎ合わせる仕組みを作り、未来を先取りする形で見せていくことを期待している。
自由討議
典拠データ拡充と関係機関との連携
- 今後、典拠検索の有効性を重要視して、まずは国立国会図書館内でレファレンス部門や調査部門と連携して、分野ごとに関連する識別子を調査して記録する取組を進めてほしい。将来的にはより広く、米国のNACO におけるFunnelプロジェクトのように各分野の専門家・専門の目録作成者を集めて典拠拡充の取組を進めてほしい。そのほか、機械同定で典拠データを増やしていく取組も考えられる。また、典拠データの有用性について、認識を広めてほしい。
- 地域資料等の書誌データの他機関との連携による典拠コントロールにおいては、専門図書館との連携もよいかもしれない。
- 【国立国会図書館】典拠データ拡充については、当館の「国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2021-2025」に沿って他機関の識別子の入力拡大を進めているところである。最終的には、Web NDL Authoritiesをリンクトデータのハブとして活用していただくような将来像を考えている。他機関と共同での典拠コントロールについては、今後の課題と考えている。
納本制度による資料収集と全国書誌の網羅性(カバー率)
- 【国立国会図書館】取次データ以外にも、複数の出版情報を利用し、未収資料情報の収集に努めており、これらの情報をもとに、出版者に納本を依頼している。また、随時特定のジャンルについて重点的に納本依頼を行っているところである。
当館に送付された資料のうち、納本対象であると判断したものは、図書館資料として受理し、書誌データを作成している。
[当館に送付された資料について]「個人情報」であっても機密扱いに該当しない場合など、一概に規定できず、個別に判断する必要があると考えている。
納本パンフレットを出版者に送付しているが、特に今年度は、制度をよりご理解いただけるようパンフレット改訂(納本のお願い(民間出版物向け、国の諸機関・独立行政法人等の出版物向け、地方公共団体・公立大学等の出版物向け))を行った。また、中央省庁に対しては支部図書館ネットワークを活かして納本制度の研修等を行い、地方自治体には出張して担当者に直接説明するなどしている。地方自治体出版物の納本を促す広報動画も作成して当館ホームページに掲載している。 - 【国立国会図書館】[付録の絵本のタイトルからの検索について]付属資料に固有のタイトルがあった場合、必要に応じて一般注記として記録している。国立国会図書館サーチでは、一般注記をキーワード検索できるため活用いただきたい。
- 納本が多いと整理が大変になる一面もあると思うが、積極的に納本してもらうよう呼び掛けていく努力が必要だと思う。
- 【国立国会図書館】全国書誌の網羅性を高めるための従来の国際的な指針は、各国・各地域で納本制度を確立し、網羅的に収集した資料に基づいて作成した書誌を「全国書誌」として提供するというものであった。国立国会図書館も現在は、基本的には、その形で進めている。別の考え方として、納本制度だけによるのではなく、国立国会図書館サーチや「国内の電子書籍・電子雑誌書誌データ検索」画面のように他機関のデータと連携して提供していくという形があるといえる。
つながる書誌・全文検索時代における書誌
- プラットフォーマーとしての国立国会図書館の完成度が上がってきている。完成度が上がったジレンマとして、我々の思考が規定されてしまい、今の形が最善のように思えてしまう。何が足りないかという情報をプラットフォーマー側から出して、連携機関に協力を促し、コミュニティを活発にする仕組み・演出があるとよりよいのではないか。
- 今私たちが行っていることの現在地が、発表を聴いてよく分かった。また将来の視点をこの場で共有したことで、今、悩んでいることが問題として認識できた。悩んでいた点の一つに件名標目の細目の問題がある。国立国会図書館の今後の取組に期待したい。学術書の論集などの図書には、同じ悩みを持っている。また、最近運用を始めた著作典拠について、時系列などの履歴が残る重要性について共感した。
- 【国立国会図書館】細目を新たに設定した件名標目について、設定以前の書誌データに遡って細目を付与出来ていない場合がある。また、主標目と細目付きの件名標目が別典拠となってしまう点について、件名細目の構造上の問題に起因するため、機械的な解決が難しい。今後の課題である。
- 書誌データにおけるタイムスタンプという位置づけや、書誌の内側にあるターゲットと外側にあるターゲットという整理の仕方について、全文検索が可能になってくる時代の書誌の役割という長い間の命題に対して、考えを整理する上で大変参考になった。また、日本独特の問題として、館種によって、データやシステムが分かれてしまうという状況がある。今後も、国立国会図書館とも連携しつつ、解決策を考えていきたいと考えている。
- [書誌の内側にあるターゲットとしての]内容細目の著者について、典拠コントロールを行っている。ただし、内容細目として採用するのは、独立性の高い論文集のみで分担執筆までは行っていない。研究者の側からみると足りないだろうと認識している。
- 【国立国会図書館】国立国会図書館では、内容細目の著者の典拠コントロールは行っていない。今後の課題である。
- かつて、国立国会図書館のレファレンス部門で内容細目を網羅した『全集・叢書細目総覧』というレファレンスブックを出していたことがある。書誌データ連携とあわせて参考になるのではないか。
- 館種ごとに書誌データが分かれているという状況について、今後、改善していきたいと考えている。別の論点として、今後、電子書籍・電子雑誌のメタデータが増えていくだろうと考えているが、これらのメタデータは、出版者由来のメタデータをそのまま提供していて、図書館員は編集していない。国立国会図書館では、電子書籍・電子雑誌をどのように整理しているのか伺いたい。
- 【国立国会図書館】国立国会図書館で整理している電子書籍・電子雑誌は、オンライン資料収集制度に基づいて収集している。各出版者から電子書籍のファイルと簡単なメタデータを送信いただく形で収集している。これを職員が1点ずつ確認して書誌を作成している。
PDFファイルの情報源を確認して書誌データを作成しているという理解でよい。ただ、今、納本されているものは、紙の資料をPDF化したものが多いため、PDFの中での情報源が紙の奥付のままの場合もある。必ず、頒布しているページを見比べて、資料本体を優先しつつ、より確からしい情報を確認しながら記録している。 - 日々書誌データ作成に追われる中で、私たちが付与している件名標目や典拠がどれくらい使われているかというのが見えにくいところである。今日の発表を聞き、意義を再確認できてよかった。国立国会図書館に所蔵のない地方の行政資料について、私たちが日々作っている書誌データが国立国会図書館を通して連携し、全国の図書館で使っていただけると、自分たちの作業が役に立ち、書誌作成に人員が必要であることを明示できてよいと感じた。
- 書誌データにおけるタイムスタンプの話があったが、書誌情報を1つの塊とみるならば、IFLA図書館参照モデルにも「体現形表示」(注2)という、データの記録順序を気にせず書名と著者と出版者をまとめて1つのデータ要素とする考え方がある。記述に関しては、引用文献レベルの情報、あるいは、出版者が作成したままの情報でよく、その情報に個人や団体のIDを付与して関連付けていくという書誌データ作成の時代が来るのではないか。つまり、検索は全文検索でよく、書誌階層が違うものはそれが分かるようにAIが結果を振り分けてくれる。また、これが雑誌記事索引をどうするのかという問いの一つの答えになると思う。
- 書誌データの「記述」が不要だとは思わないが、典拠データなどとつながっている書誌データを作ることが重要であると考える。国立国会図書館では典拠データをオープンにしているので、これをもう1歩進めて、関係機関と協働して典拠データ自体を作っていく仕組みがあるとよいと思う。
- 注2IFLA図書館参照モデルで設定された、データ要素を区別せずつなげて転記することができる体現形の属性。米国議会図書館では、2020年、MARC 21フォーマットに「体現形表示」に対応する881フィールド(米国議会図書館ホームページへリンク)を新設した。