榎本武揚
明治11(1878)年7月29日
憎い南京虫の攻撃 海外
燭をもって枕を検ずるに、果して「ワンドロイス」歩き居るを見て急ぎこれを殺し、しかる后寝に就く。時に既に三時頃たり。やや久しくして夢甚煩悩なり。醒て見れば両瞼ホゝと腮[あご]のところを更に三、四ヶ所刺され居たり。予怒に堪へ兼ぬれども「ワンドロイス」のあるを見ず。
シベリア旅行が始まって、まず悩まされたのが「ワンドロイス」、すなわち南京虫の存在でした。榎本はニジニノヴゴロド(Нижний Новгород)の旅宿で、就寝した際に南京虫の攻撃を受け、夜もゆっくり寝られなかったようです。南京虫に対して怒りを覚えた様子が綴られています。