熱エネルギーの利用
~蒸気機関からガソリンエンジンまで~
火力、電力、水力等のエネルギーを継続的に動力に変換する装置を原動機という。中でも熱エネルギーを利用するものが「熱機関」だが、これは次の2つに分類できる。
※電力を動力源とするものは「電気エネルギーの利用」参照。
- 1.外燃機関
- 燃料の燃焼より発生した熱が媒体となり、間接的に動力を生む。 例)蒸気機関、蒸気タービンなど
- 2.内燃機関
- 燃料の燃焼で発生したガスそのものが直接動力を生む。 例)ガスエンジン、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなど
火薬から蒸気へ-外燃機関の誕生
大きな動力を生み出す機械として熱機関の本格使用が始まったのは産業革命以降であるが、17世紀にも、火薬や蒸気を利用した外燃機関で水を汲み上げる試みが行われた。この頃、炭鉱では排水が悩みの種だった。1712年、ニューコメン(T. Newcomen)が石炭を燃やして水を水蒸気にし、それが冷えて水に戻る時に大気圧がシリンダー(筒)内のピストンを下げて動力にする揚水機を開発すると、多くの鉱山で使用された。
蒸気機関の登場
ニューコメンの蒸気機関は、熱効率の悪いものであったが、その後、復水器を用いて効率よく動力を発生させることに成功したのが、ワット(J. Watt)である。彼が1776年に改良した蒸気機関は熱効率が大幅に向上しており、1780年代に揚水ポンプの動力源として急速に普及した。ワットは更に改良を重ね、蒸気機関の動力は、それまでの水車に替わって*工場でも使われ、製鉄所では蒸気ハンマーが活躍した。1803年には世界初の蒸気機関車が完成し、1807年に汽船が実用化される。1884年にはパーソンズ(C. A. Parsons)が蒸気タービン(羽根車が回転する)の特許を取得すると、船舶や発電の際の動力に使われた。
このように、蒸気機関は、鉱山、製鉄業、物流など様々な分野で応用されて産業革命の原動力として発展を遂げたが、19世紀後半には、大型で移動用には不向き、ボイラー爆発事故が多発、熱効率が低いなど欠点が目立ち始める。特に、交通輸送機関には軽くてより効率のよい動力源が求められ、それに応えて登場したのが内燃機関である。
*なお、水力の利用も工夫が試みが続けられ、万博にも水力機関が出展された。
内燃機関の誕生
密閉空間で混合気を燃やして動力を発生させる現在の内燃機関は、1794年にストリート(R. Street)が考案したといわれる。その後、1860年にルノアール(J. J. E. Lenoir)がガスエンジンを実用化させ、世界初の内燃機関が誕生した。これは、石炭ガスと空気の混合気を使用した「2サイクル」(2行程)のエンジンで、熱効率は蒸気機関の約3倍も向上した。彼のエンジンは1867年第2回パリ万博で出品されている。同じパリ万博では、オットー(N. A. Otto)とランゲン(E. Langen)が、ガス燃焼時にピストンが上がり、その後大気圧で下がるという、燃費の良い「フリー・ピストン機関」で金賞を受賞している。1876年には、オットーは吸入・圧縮・膨張・排気の「4サイクル」のガスエンジンを試作し、翌年特許を取得した。彼のエンジンは出力・熱効率に優れ、騒音も少なかった。
燃料の変遷-石炭から石油へ
これらの内燃機関の燃料はいずれも石炭ガスだったため、移動用には重いガス発生器などが必要だった。そこで、容積あたりの発熱量が高く運搬が容易な燃料として、石油を精製したガソリンを用いる研究が進められた。
1883年、ダイムラー(G. Daimler)がガソリン用の気化器を備えた4サイクルのガソリンエンジンを開発し、エンジンの小型化・高性能化に成功する。内燃機関は点火装置も大切だが、彼は熱管をシリンダーに刺し、自然着火させるという特許もとっている。1886年にはベンツ(C. F. Bentz)が世界最初の実用的なガソリン自動車(3輪車)を製作した。2サイクルのガソリンエンジンも作られ、1881年にクラーク(D. Clerk)が実用化第一号を発明、1891年にデイ(J. Day)が発明したエンジンは4サイクルのものよりコンパクトで、20世紀にオートバイやモーターボートに普及した。1887年ボッシュ(R. A. Bosch)が磁石発電機を用いた火花点火方式を完成、1893年マイバッハ(W. Maybach)が霧吹き式の気化器を発明するなどガソリンエンジンの開発が進んだ。
以後、ガソリンに代わり低質油を燃料とするエンジン開発への需要も高まり、1893年、ディーゼル(R. Diesel)が軽油を燃料とした圧縮空気着火式エンジン(ディーゼルエンジン)を発表、1895年に完成させ、安価な軽油や重油の利用に道を開いた。
1870年代から1890年代は現在のエンジン技術の基礎が確立された黄金時代であった。そして2度にわたる世界大戦期を迎えると、軍用機や兵器への応用のために技術開発が加速し、熱機関はさらなる進歩を遂げていくことになる。
蒸気ハンマー
蒸気機関を利用した機械の一つに、蒸気ハンマーがある。画像は1876年、フィラデルフィア万博に出展されたもの。ハンマーが垂直に動き、素早く強力な打ち付けを行う。こうした蒸気ハンマーや、削り加工などを行う工作機械がなければ、十分な強度と精度のある機械は作れない。蒸気ハンマーは鉄鋼の鍛錬にも使われ、その鉄鋼もまた、船舶や銃砲の発達に欠かせないものだった。
- 参考文献:
荒井久治 『エンジン進化の軌跡 : 蒸気エンジンから環境エンジンへ』 山海堂 1998 <NB85-G16>
鈴木孝 『エンジンのロマン : 発想の展開と育成の苦闘』 三樹書房 2002 <NB85-H1>
チャールズ・シンガー[ほか]編 ; 高木純一訳編 『技術の歴史.9』 増補版 筑摩書房 1979 <M31-47>
桧垣和夫 『エンジンのABC : ガソリンエンジン、ジェットエンジンから外燃機関まで』 講談社 1996 <NB85-G5>
H.W.ディキンソン著 ; 磯田浩訳 『蒸気動力の歴史』 平凡社 1994 <NB83-E13>