医療機器
画像は、1851年の第1回ロンドン万博に出展された冠状のこぎりである。開頭手術、切断手術は非常に古くから知られている手術であり、冠状のこぎりも原型は13世紀くらいには存在していたが、ここには、重さと目詰まりを起こしやすかった点を改良したものが出品された。
医療全般
16世紀末から17世紀にかけて発明された顕微鏡や体温計は、医療機器の歴史を大きく進展させた。19世紀に入ると医学の進歩により、人々の生存率も高まった。聴診器の発明により、医師は心拍音を知ることができるようになり、また麻酔の発明で手術の安全性は高まった。
1851年に開催された第1回ロンドン万国博覧会では、新発明品として瀉血器や義足・義手・義歯・義鼻、喉頭鏡、各種切断器などが出品された。義足や義手は、戦争で手足を失った兵士のために考えられたものであった。
医療に電気が使用されたのは、1743年のドイツが初めてと言われている。その後1832年にクラーク(E. M. Clarke)によって電磁治療器が発明され、電気刺激治療器の先駆けとなった。1838年、医療用発電機がペイジ(C. G. Page)によって発明され、1855年から1880年にかけてホールス(W. H. Halse)によって多くの電気刺激治療器が作られた。1876年のフィラデルフィア万博、1893年のシカゴ万博でも医療用発電機や変圧器が出品された。
1895年にドイツの物理学者レントゲン(W. K. Rontgen)がX線を発見し、体内の撮影を可能にしたことは、その後の医療機器の発展に大きく寄与した。1900年の第5回パリ万博にはレントゲン装置も出品されていた。
歯科医療
抜歯や初歩的な歯石除去などの歯科治療は古くから行われていたが、多くは理髪師や鍛冶屋によってなされており、歯科学が1つの独立した医学として確立されたのはようやく18世紀になってからであった。19世紀に精巧な器具が製作されるようになると、治療面での改革が著しく進んだ。
1851年の第1回ロンドン万博では抜歯鉗子を始めとする歯科用器具セットが出品された。歯科用ドリルは、18世紀初頭には手で動かす弓形ドリル等が使われていたが、1829年にナスミス(J. Nasmyth)がチューブとうずまき螺旋を使ったドリルを開発し、メリー(C. Merry)らにより改良された。1868年にはアメリカの機械工グリーン(G. Green)が空圧式歯科用ドリルを、1871年にはモリソン(Morrison)が足踏式歯科用エンジンを発明した。1876年のフィラデルフィア万博では歯へのダメージについて改良が施された足踏式歯科用ドリルが出品された。これと同時代に最初の電気を使った「歯科用電気エンジン」も考案されたが、その普及にはさらなる改良と電気の一般への普及を待たなければならなかった。
1893年のシカゴ万博では、市内電車用の500ボルト高圧線を電力源とする歯科医の治療台も出品されており、医師にも患者にも危険のないことが強調されていたようである。
- 参考文献:
エリザベス・ベニヨン著 ; 児玉博英訳 『西洋医療器具文化史』 東京書房社 1982 <SC221-95>
久保田博南 『医療機器の歴史 : 最先端技術のルーツを探る』 真興交易医書出版部 2003 <SC221-H26>
長谷川正康 『歯科の歴史おもしろ読本』 クインテッセンス出版 1993 <SC671-E43>
本平孝志, 内藤達郎, 安藤嘉明 『歯科の歴史への招待 : 歴史遺産と史料を求めての旅』 クインテッセンス出版 2005 <SC671-H35>
Walter Hoffmann-Axthelm著 ; 本間邦則訳 『歯科の歴史』 クインテッセンス出版 1985 <SC671-52>