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第17回納本制度審議会議事録

日時:
平成21年10月13日(火)午後2時~4時50分
場所:
国立国会図書館 本館4階特別会議室
出席者:
中山信弘会長、合庭惇委員、石坂敬一委員、小峰紀雄委員、佐野眞一委員、関口和一委員、濵野保樹委員、福井健策委員、藤本由香里委員、湯浅俊彦委員、植村八潮専門委員、大久保徹也専門委員、三瓶徹専門委員、常世田良専門委員、深見拓史専門委員
会次第:
1. 開会
2. 専門委員の委嘱
3. 諮問
4. 小委員会の設置について
5. 報告
6. 審議
7. その他、今後の予定
8. 閉会
配布資料:
(資料1)第16回納本制度審議会議事録
(資料2)納本制度審議会委員・専門委員名簿
(資料3)諮問書
 国立国会図書館法第25条に規定する者(私人)がインターネット等により利用可能とした情報のうち、同法第24条第1項に掲げられた図書、逐次刊行物等に相当する情報を収集するための制度の在り方について(平成21年10月13日国図収090928001号)
(資料4)小委員会の設置及び小委員会の調査審議事項等について
(資料5)植村専門委員報告資料
(資料6)大久保専門委員報告資料
(資料7)三瓶専門委員報告資料
(資料8)深見専門委員報告資料
(資料9)常世田専門委員報告資料
(資料10)オンライン資料の制度的収集にあたっての論点
(資料11)出版・納本ワークフロー
(資料12)納本制度審議会議事運営規則(平成11年6月7日納本制度審議会決定)の改正(案)について
(資料13)今後の日程(案)
(資料14)国立国会図書館法(抄)
(資料15)納本制度審議会規程(平成9年国立国会図書館規程第1号)
(資料16)納本制度審議会議事運営規則(平成11年6月7日納本制度審議会決定)

議事録:
1 開会
会長:  定刻となりましたので、第17回納本制度審議会を開会いたします。本日は、15名の委員中10名の委員の方が御出席予定となっておりますので、過半数という定足数は満たされております。本日は先日委嘱された専門委員の方々にも御出席いただいております。また、藤本由香里委員は委嘱後初めての御出席でございますので、何か一言御挨拶いただければと思います。よろしくお願いいたします。
委員:  明治大学の藤本由香里と申します。その前は25年ほど筑摩書房に勤務しておりまして、最後8年ほどは編集部で部長をやっておりましたので、会議などにも出席していたのですが、会社には今後は電子出版が必須になってくるという認識が強くありました。じつは編集者と並行してずっと、漫画などの評論をやってきたということがありまして、昨年4月に明治大学の国際日本学部ができたところで、会社を退職いたしまして、そちらで教えることになりました。漫画においても、現在は携帯電話でのコミック配信が非常に大きな流れになっていますので、その辺りも含めてお話できればと思っております。また、納本制度に以前から関心がありまして、数年前に朝日新聞に書かせていただいたこともあります。非常に大事な制度だと思っておりますので、微力ながら皆様の末席に連ならせていただければと思います。よろしくお願いいたします。
会長:  ありがとうございました。それでは、お手元の会次第に従いまして、会を進めて参ります。まず、配布資料の説明を事務局からお願いします。
事務局: 〔配布資料について説明。〕
会長:  ありがとうございました。お手元の資料に過不足はございませんでしょうか。
 
2 専門委員の委嘱
会長:  引き続きまして、会次第の2に入ります。新たに委嘱された専門委員について、事務局から報告していただきます。
収集書誌
部長:
 審議会に特定の事項について調査させるため必要があるときは、審議会規程第6条第1項で専門委員を置くことができることになっております。専門委員は、学識経験者のうちから館長が委嘱することになっております。この10月1日付で名簿にございます植村様、大久保様、三瓶様、常世田様、深見様にそれぞれ館長から専門委員をお願いしてございます。
会長:  せっかくの機会ですので、専門委員の方々から御挨拶いただければと思います。まず、植村様からお願いします。
専門委員:  社団法人日本書籍出版協会理事をしております植村です。本務は学校法人東京電機大学の出版局長を務めております。30年にわたって理工学書や電子ジャーナルなどのデジタル化の進展をずっと見てまいりました。よろしくお願いいたします。
専門委員:  集英社の大久保です。社団法人日本雑誌協会のデジタルコンテンツ推進委員会の委員長を務めております。よろしくお願いいたします。
専門委員:  日本電子出版協会事務局長の三瓶です。元々は日立製作所の研究所におりまして、CD-ROMやペリフェラルを研究しておりました。4年前に、もう一度電子出版協会を梃入れしようということで戻ってまいりました。よろしくお願いします。
専門委員:  日本図書館協会の常世田です。公共図書館の現場に20年以上おりまして、図書館の現場の電算化ということにもかなり取り組んでまいりました。現在は、図書館界の著作権に関する担当という位置付けで、文化庁の文化審議会著作権分科会にも参加しております。よろしくお願いいたします。
専門委員:  廣済堂スピーチオ販売というところで責任者をやっております深見です。凸版印刷という印刷会社で電子出版に携わってきましたが、現在は目の不自由な方用の機器の開発も行っております。よろしくお願いします。
会長:  ありがとうございました。
 
3 諮問
会長:  それでは、会次第の3の国立国会図書館長からの諮問を受けたいと存じます。
〔館長起立〕
館長:  本日は皆様方お忙しい中、当審議会に出席していただき、大変ありがとうございます。また、本日の審議会から、新たに専門委員をお引き受けいただいた5名の皆様方にも御出席いただいております。私どもも当館に課された使命を果たすべく努力をしておりますが、納本制度という当館の根幹に関わる制度につきまして、皆様方に色々お教えいただくとともに、御指導、御鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
 さて、前回開催いたしました第16回審議会において、従来であれば図書、逐次刊行物として発行した資料で、インターネット等を通じてのみ出版される資料が増大しているとの御指摘もございました。私からも、これらの電子出版物は日本の重要な文化財であり、何とか集めておきたいということで、皆様にいろいろな観点で御意見をいただきたいとお願いしていたところでもございます。前回の審議会で御意見等も多くいただきまして、やはりこの問題は正式に審議会に諮問して、審議していただくのがふさわしい課題だと考えまして、今回諮問をさせていただくことになりました。
 それでは、諮問をさせていただきます。
〔会長起立〕
館長:  納本制度審議会規程第2条第1項の規定に基づき、次のとおり諮問いたします。
 「国立国会図書館法第25条に規定する者(私人)がインターネット等により利用可能とした情報のうち、同法第24条第1項に掲げられた図書、逐次刊行物等に相当する情報を収集するための制度の在り方について」ということでございます。
 この制度につきましては、何とか法律の形にしたいと思っておりますが、これがきちんと定着して機能すること、また社会的にも妥当なものとして受け入れられるためにはどうすればよいか、ということまで広く御検討いただきまして、お教えいただければ大変ありがたいと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします。
〔館長、会長に諮問書を手交〕
会長:  諮問の件、確かに承りました。この問題は非常に重要な問題でありまして、時宜に応じた制度の改正のためには不可欠の課題ですから、当審議会として調査審議し、その結果を答申したいと思っております。
〔会長着席〕
〔館長、副館長は席移動〕
会長:  ただいま、館長から当審議会に対する諮問を頂戴いたしました。この諮問事項につきまして、事務局から補足がございます。よろしくお願いいたします。
収集書誌
部長:
 それでは、諮問書にございます諮問理由について補足説明をさせていただきます。お手元の配布資料の24頁に、ただ今の諮問書の写しがございます。
 7月23日に開催しました前回の審議会におきまして、納本制度審議会でこの問題をどのように取り扱ってきたのかを概略御報告いたしましたが、平成16年12月9日に「ネットワーク系電子出版物の収集に関する制度の在り方について」と題する納本制度審議会の答申をすでに頂戴しております。この答申では、ネットワーク系電子出版物を納本制度とは別の制度により収集することが適当であるとした上で、制度の骨格を示していただきました。この答申では、ネットワーク系電子出版物をかなり広く定義しているわけですが、他方ネットワーク系電子出版物の特質にかんがみ、「制約のある資源の下で、収集の実施を段階的に進めることが考慮されるべきである」という提言がなされております。
 国立国会図書館では、今年7月に国立国会図書館法の改正が実現し、政府機関などが公衆に利用可能としたインターネット資料の制度的収集を行うことが可能になったわけですが、それはこの答申にある段階的実施の方向に沿っているものです。
 政府機関等が利用可能としたものについては、制度的な収集が実現できることになったわけですが、では、私人、民間のものはどうかと言えば、従来であれば、国立国会図書館法の第24条第1項に掲げられた図書、逐次刊行物等として発行された資料と同様の資料が、従来の出版と同様の編集過程を経たものであっても、電子出版物になってネットワークで公開されると、これを制度的に収集する手立てはないのです。
 今日、インターネット等を通じて出版する事態が急速に進展しております。これらの情報を包括的に収集することができない状態が続くと、出版物の収集を通じた国立国会図書館法第25条にある「文化財の蓄積及びその利用」という納本制度の目的が達せられないおそれがあります。
 民間のウェブサイトの包括的収集の課題もあります。また、映像、音声等さまざまな情報がインターネットで流通しています。これらすべてを収集するのはかなり困難な問題があります。まずは段階的に、緊急の課題として、出版物と同様の編集過程を経てインターネット等で利用可能とされた情報を、包括的に収集する制度を設けることができるかどうか、その場合の収集の対象、収集方法などについて審議していただきたいということが、この諮問の理由として述べられているところでございます。
 補足説明は、以上です。
会長:  ありがとうございました。諮問事項と補足説明について、御質問があれば頂戴したいと思います。今回の諮問では、私人の図書、逐次刊行物等に相当する情報ということで、比較的限定された範囲での諮問になっていますが、その点などについての御意見、御質問があればお願いいたします。
委員:  諮問の理由はよく分かりましたが、目途として、いつ頃までに出版物相当のオンライン資料を収集することになるのでしょうか。
収集書誌
部長:
 事務局の想定では、当審議会議事運営規則第10条にあります小委員会を設置していただき、当該小委員会を中心に審議を行い、今年度中に大枠のところで小委員会の審議結果を本審議会で報告し、了承していただきますと、来年度は法制度化に向けた取り組みということになろうかと思っておりますが、あくまでも今後の調査審議の進捗具合によるところです。
会長:  よろしいでしょうか。他に何かございますか。ネットで流れている情報は、私人の図書、逐次刊行物だけとは限らないわけですが、焦眉の急といたしまして、とりあえずはこれらを早くやらなければいけないという主旨だろうと思います。よろしくお願いいたします。
 
4 小委員会の設置について
会長:  ただいまの諮問事項に関する調査審議の進め方について、私の方から委員の方にお諮りしたいと思います。
 国内において発行されるオンライン資料を収集することについては、デジタル化された出版物の流通の実情を把握し、法的、技術的な面で専門的事項について調査審議する必要があります。そこで、納本制度審議会議事運営規則第10条に基づき、小委員会を設けて、これに対応したいと存じます。小委員会の名称を「オンライン資料の収集に関する小委員会」として当審議会に設置したいと思います。この所属委員といたしまして、合庭委員、福井委員、山本委員と湯浅委員にお願いします。専門委員からは、植村様、大久保様、三瓶様、常世田様と深見様にお願いいたしまして、小委員長には合庭委員を指名したいと存じます。この点について、御異議はございませんでしょうか。
〔異議の声、特になし〕
会長:  よろしいでしょうか。ありがとうございます。合庭小委員長をはじめ、小委員会に所属する委員、専門委員の方々には、調査審議をよろしくお願いいたします。それでは、合庭小委員長から一言お願いいたします。
委員:  大変な役目を果たさなければならないことになりました。今伺ったところでは、今年度中に何らかの目途をつけなければいけないということで、残すところ数か月ですので、専門委員の方々に入っていただいて、かなり詰めた議論を急いでやらなければいけないと思っております。御協力をよろしくお願いしたいと思います。
会長:  合庭小委員長は大変ではございますが、よろしくお願いいたします。この点について、事務局から何かございませんでしょうか。
収集書誌
部長:
 この点については特にございません。
会長:  分かりました。それでは、先に進めていきたいと思います。
 
5 報告
会長:  会次第5に入ります。専門委員の方から報告をしていただきます。まず、植村専門委員お願いします。
専門委員: 〔電子書籍の状況について、配布資料5に基づき、以下の内容が報告された。〕
 [(1)IEC TC100/TA10 (2)Conceptual model for multimedia e-publishing (3)電子書籍市場の現状について (4)eブックリーダー小史 (5)各種読書端末の普及(キャズムを越えるか)(6)出版コンテンツのデジタル化]
会長:  ありがとうございました。それでは、引き続きまして大久保専門委員お願いいたします。
専門委員: 〔雑誌のデジタル化の現状と今後の取組みについて、配布資料6に基づき、以下の内容が報告された。〕
 [(1)雑誌市場の現状と雑誌販売不振の要因 (2)出版社のデジタル化への取組み (3)日本雑誌協会デジタルコンテンツ推進委員会立ち上げまでの軌跡 (4)総務省「雑誌コンテンツのデジタル配信プラットフォーム構築に向けた調査研究の請負」の落札 (5)雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアムの設立 (6)雑誌コンテンツのデジタル配信プラットフォームによる実証実験イメージ (7)雑誌コンテンツデジタル化への取組み]
会長:  ありがとうございました。それでは、引き続きまして三瓶専門委員からお願いいたします。
専門委員: 〔JEPA電子図書館委員会について、配布資料7に基づき、以下の内容が報告された。〕
 [(1)JEPA(日本電子出版協会)について (2)JEPAデジタルビジネス情報委員会の「出版デジタル・アーカイブ構想」(2006年) (3)JEPA第2次国会図書館委員会の「オール日本電子図書館構想案」(2008年) (4)JEPAの電子図書館委員会による長尾構想への逆提案 (5)電子出版の成功例]
会長:  ありがとうございました。それでは、ここで10分間の休憩をはさみたいと思います。3時5分に再開したいと思いますので、よろしくお願いいたします。
〔10分間休憩〕
会長:  それでは、再開いたします。先ほどの専門委員の方からの報告に引き続きまして、深見専門委員から報告をお願いいたします。
専門委員: 〔デジタルコンテンツ配信における技術的課題について、配布資料8に基づき、以下の内容が報告された。〕
 [(1)コンテンツのデジタル化による流通形態の変化 (2)E-bookの変遷 (3)インターネットの出現と汎用マークアップ言語 (4)電子書籍コンテンツ配信 (5)携帯電話向けコンテンツのフォーマット (6)e-bookビューアーと標準化 (7)コンテンツ資産の継承]
会長:  ありがとうございました。引き続きまして常世田専門委員から御報告をお願いいたします。
専門委員: 〔図書館とデジタルコンテンツについて、配布資料9に基づき、以下の内容が報告された。〕
 [(1)公共図書館の増加と背景 (2)情報の多義的利用と共有化 (3)情報内容と媒体の分離、融合 (4)米国の公共図書館におけるデータベース提供状況 (5)国立国会図書館の役割と納本の範囲 (6)網羅的な情報の蓄積(納本制度)の重要性]
会長:  ありがとうございました。ただ今、専門委員の方々から5件の報告がありましたが、それに関しまして御意見、御質問がございましたらお願いいたします。
委員:  植村専門委員の御報告の中で、ケータイ電子書籍の82パーセントがケータイコミックで、大半がボーイズラブ、ティーンズラブであるとのことでしたが、これはアクセス数という意味でしょうか。それとも、タイトル割合でしょうか。
専門委員:  これは売り上げです。『電子書籍ビジネス調査報告書(2009)』によると、ケータイ電子書籍の売り上げの82パーセントがコミックであるとされており、ここから先は報告書にありませんが、関係者の話によると、8割位がボーイズラブ、ティーンズラブなどの成人コミックの売り上げであると言われています。
委員:  女性向けのコミックということでしょうか。
委員:  主要なユーザーは若い女性だと思います。実態調査を読むと、ユーザーに偏りがあるようです。本屋に行って買うのがためらわれるので、携帯電話で読んでいるのではないでしょうか。
専門委員:  メディアの立ち上げ方としては、歴史からみると、むしろ自然な流れかもしれません。
委員:  書店で買いづらいものを携帯で買うということですか。
専門委員:  そうだと思います。かつてPCだったものが、携帯電話が今や誰でも手にすることができる状況になったことで、そこでの市場が急激に立ち上がっているのだと思います。
会長:  他に何かございますか。常世田専門委員にお伺いしたいのですが、図書館の利用者層について、例えば受験生やサラリーマン、主婦といった特定の層の方が多いのか、あるいは万遍なく利用されているのか、公共図書館の利用者というのは、どういう方が多いのでしょうか。
専門委員:  公共図書館は実は二分化しておりまして、娯楽教養だけではない、多様な情報をきちんと提供できる図書館においては、30代、40代、50代に利用者の山があるという状況が生まれてきています。一方で、従来の娯楽教養型、子どもの絵本中心の図書館では、子どもと老人に利用者の山があります。利用者の山が一こぶか二こぶか、という形で、日本の公共図書館は二極分化し始めていると言えると思います。もちろん、私たちは一こぶの方を目指しております。
会長:  デジタルも一こぶ型をモデルとして色々考えていらっしゃるのでしょうか。
専門委員:  はい。
委員:  関連して常世田専門委員にお聞きしたいのですが、図書館が増えている理由として、知の共有という崇高な面も確かにあると思うのですが、一方で、景気が悪いので自分では購入せず図書館で借りる、あるいは少子高齢化で活字を消費する高齢者層が相対的に増えているなど、デモグラフィックな理由も相当あるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
専門委員:  おっしゃるとおり、不況になると図書館の利用者が増えることは確かです。しかし面白いことに、景気がよくなっても利用者は増えるのです。海外旅行に行くなど、趣味や娯楽に活動の幅が広がるので、こういったものの情報を求めて図書館を利用するようです。活動が活発になると図書館利用も増えるし、逆に外に出かける機会が少なくなっても利用は増えるということです。基本的に景気がいい時と悪い時で利用者層に若干の違いはありますが、相対的に図書館利用はずっと右肩上がりに増えていると言えると思います。
委員:  例えば周りの主婦層の方の話を聞くと、旅行に行く際にガイドブックが必要になった場合、以前だったら本屋で買っていたが、今は一回しか使わないものを買うのはもったいないと言って、図書館に行ってガイドブックを見て、必要なところだけコピーを取るそうです。こういった図書館の需要が非常に増えているということは、利用者のビヘイビアが変化した表れだと思うのですが、いかがでしょうか。
専門委員:  そういった形での図書館利用について、一部では非難の声もありましたが、実は日本書籍出版協会と日本図書館協会で調査を行ったところ、図書館で本を貸しているから売れないという事実はないということが判明しました。むしろ、いくつかの調査ではっきりしたのは、図書館を利用する人の方が、本の購入費が家計に占める割合が高いのです。つまり、自分で買える分は買ってしまっているので、買えない分を図書館で読んでいるという利用の仕方ではないかと考えられています。例えば浦安市立図書館では、人口15万人で年間200万冊の本の貸出しを行っているのですが、本屋がつぶれたことはありません。むしろ、図書館ができてから市内にチェーン店が4つもできています。経済産業省の商品別統計をみても、貸出しの多い浦安市での本の売り上げは、同規模人口の町よりも多い状況です。もちろん、この商業統計は文房具屋と本屋を一緒にしたものなので正確な数字は分かりませんが、トータルとしては高い方です。だから、図書館で本を貸すと売れなくなるというのは間違った指摘だろうと思います。これは浦安市だけの状況ではなく、例えば成田市も図書館利用が多い市なのですが、同様の傾向が出てきているので、これについてはもう少し調査すべきではないかと思います。
委員:  先ほどの御報告にありました、有償のデータベースを、パブリックなお金であらゆる人とシェアするという形が将来のあり方だとすると、今のビジネスモデルとは相当違った世界が出現するのではないかと思います。この枠組みを国立国会図書館のようなところで作って、日本でもみんなでシェアできる状態にする、しかも現物のシェアはすでに行っているわけですから、さらにデジタルになったことで、図書館や自宅といった場所を問わずシェアしやすくなる、そういった方向にこれから進んでいくだろうし、進んでいくべきであるとお考えでしょうか。
専門委員:  もう少し丁寧にその辺りのことを考えますと、商用のデータベースを個々の図書館が使用料を払って導入するというパターンもあるでしょうし、かなり無償に近いようなデータベースの提供もあると思います。国会図書館で収集したものを何らかの形で公共図書館が使うというようなパターンもありますし、かなり複雑に色々なモデルが発生する可能性があるのではないでしょうか。
 実は、アメリカの一部の図書館ですでに起こっている現象なのですが、先ほど御紹介したデータベースの多くが、自宅のパソコンでも使えるようなサービスになっています。図書館で作成したカードの利用番号がキーワードになっていて、それを自宅のパソコンで打ち込むと、図書館のサーバ経由でベンダーのサーバに行って、月額何万円もかかるデータベースを使用することが可能なのです。このサービスの開始当初、アメリカの図書館員は利用者が図書館に来なくなることを心配していたのですが、むしろ来館者数は増えているそうです。といいますのも、御覧いただいたような商用の専門的なデータベースは、とても素人では使いこなせないからです。結局図書館に行った上で、優秀なライブラリアンとやりとりをしながら、自分の問題意識を深化させていき、専門のサーチャーやライブラリアンが情報をきちんと検索するというような組合せによるサービスが増えてきていると言われています。ですから、こういったレベルでの図書館サービスをしていくべきではないかと考えております。
専門委員:  商用データベースを公共図書館で提供する場合の対価の支払い方は、従来型の納めてしまったら終わりということではなく、利用に応じてペイメントがきちんと出版社に戻るというモデルを持っているのでしょうか。
専門委員:  アメリカの場合は、ほとんど定額制です。実は日本図書館協会でも、従量型の代表的なデータベースである日経テレコンについて、唯一、日本図書館協会を通じた公共図書館への販売において定額制というものをやっていただいております。すなわち、公共図書館が月額固定料金を支払えば、その図書館の利用者はデータベースが使い放題となっています。
専門委員:  利用者が無料で使用できるのはよいのですが、そこから先が定額制か従量制かという問題は、従量制でなければ従来のデータベースモデルが崩れてしまうと思われますので、そこに対する補償をどうするのかということが、逆に問題になることはないのでしょうか。
専門委員:  市場規模の問題で、例えば1000館の図書館が月に1万円支払えば、ちょっとしたデータベースであれば十分維持できてしまいます。アメリカは公共図書館だけで15000もありまして、普通はその地域の図書館がコンソーシアムを作りまして、公共図書館も大学図書館も学校図書館も全部そのコンソーシアムに入って、コンソーシアム対ベンダーとの契約という形で、かなり多額の使用料を支払っています。ニューヨークの公共図書館は、オンライン系のデータベースの使用料だけで、年間1億円ぐらいを支出していると言われていますので、その位のコストをかけられるようになれば、十分ペイすると考えられます。
専門委員:  先ほど利用率という数字を出されましたが、その数字はヘビーユーザーの利用者、リピーターが増えても数字が上がるのではないかと思うのですが、実人口の利用という調査データはあるのでしょうか。
専門委員:  市民の世論調査ということで調査項目の中に「図書館を利用したことがあるか」という項目を入れて調査している例があります。毎回、平均して55パーセントから60パーセントという数字が出ています。かなり高い自治体は日本でもいくつか出てきていると思います。
専門委員:  日本国内のことですが、先ほど一こぶ型、二こぶ型というお話が出ておりましたが、例えば地方は二こぶ型、都市圏は一こぶ型というような、地域による分布はあるのでしょうか。
専門委員:  残念ながら、圧倒的に一こぶ型が少ない状況でして、まだ点と線の状態です。必ずしも一こぶ型が大都市近郊にある訳ではなく、地方に突如としてそういった図書館が生まれたりすることもあります。むしろ大阪や東京23区は、図書館サービスとしてはあまり高くないと思います。
委員:  日本は電子化というものを相当昔からやっていて、音楽についても世界で最初に電子化をやり始めたにもかかわらず、後から出てきたアップルがプラットフォームについて主導権を握ったという経緯があります。書籍についても同様で、日本は初期の段階から電子化を行っているのですが、気がつくとアマゾンやグーグルが大規模に電子化を行う状況になっています。ですから、市場で大きなシェアを獲得するデファクトスタンダード的なやり方がよいのか、みんなで寄り集まってやっていく日本的なコンソーシアム方式がよいのか、この辺りの問題はどのように考えるのでしょうか。
専門委員:  昨今、日本では読書端末が成功しなかったが、アメリカではキンドルが成功しているということがよく言われます。その理由として、日本は出版社がコンテンツを出したがらないし、コンテンツがなかなか揃わないからだということが関係者から指摘されていますが、私はそれだけが原因ではないと思います。むしろ出版文化の違いが非常に大きいのではないでしょうか。アメリカは書籍組版そのものが非常にプアであり、組版というものを意識しない読者がいることは間違いないと思います。ですから、クオリティの低いeブックに対して、何ら気にすることがないし、オンデマンドパブリッシングと称しているアメリカの大学の教科書などは、リングやホチキスで留めているものを「book」として平気で使用しています。そういう読者が読むeブックと、本のクオリティに対する意識の高い日本人が読むeブックは、品質にかなりの違いが出ます。どうしてもデジタル化する際のコンテンツに対する作り込みについて、出版社だけでなく読者もこだわってしまっているという二重のしばりがあったのではないかと思っています。逆に日本人が本当にディスプレイで読むのかというと、米国でキンドルを用いて読まれるほどには読まれないと思います。
委員:  音楽の世界においても、昔のレーベルの方は、CDにしてもレコードにしても、きちんとパッケージや写真があって、きれいにした状態のものでないと売れないと主張してきたにもかかわらず、現在ではデータだけの販売が成立しているわけでして、同様のことが本の世界についてもいえるのではないでしょうか。つまり、ある段階でデジタル世代が増えると一気に進展するのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
専門委員:  そういう意味において、日本はむしろケータイ小説をすでに成功させていて、一方アメリカがまだその市場を作り上げていないという点からすれば、日本の方がはるかに進んでいると思います。ケータイ小説というのは、まさに日本が独自に作り上げてきた文化であり、マーケット規模も非常に大きいです。こういったボーンデジタルで作り上げるコンテンツ、マーケットといったものは、ある意味、デジタルネイティブ達に任せると上手くいくのではないかと思っております。
委員:  ということは、本の風合いなどに愛着を感じている世代がいなくなると、一気にボーンデジタルの方向に進展してしまうことになるのでしょうか。
専門委員:  個人的には、今の関口委員の意見にかなり近いところがあります。
専門委員:  我々は紙の本に対して愛着があるゆえに、活字にも非常にこだわってきました。その結果、外字や異体字を多く作り出し、あまりにも字を増やし過ぎたという問題があります。お互いに通信する際にどの字を採用するのかということは分からないわけでして、意味が通じないものは電子書籍にならないのではないでしょうか。電子化した際の最終的なネックは、外字、異体字の問題ではないかと思います。活字にこだわらない学術系の書籍はどんどんデジタル化が進みパソコンで読むが、一方で文芸本はいつまでも残ってしまうのではないかと思います。
委員:  常世田専門委員に質問ですが、いわゆる紙の本を利用するのではなく、先ほどライブラリアンのスキルという話も出ましたが、デジタルデータを具体的にどのように利用しているかお聞きしたい。
専門委員:  レファレンスと言いまして、利用者からの質問を受けて、専門の図書館員が必要な本や雑誌、論文を集めて提供するというサービスがきちんとできている図書館は、まだそれほど多くないのですが、そういった図書館でのオンラインデータベースの使い方は、大きくいって3つあります。一つは直接利用者に開放していて、利用者自身が自由に使います。もう一つは、レファレンサーが答えを出す時に使います。データベースを使って専門的な資料の検索をする、普通の検索では出てこないような資料を探す、あるいは直接データベースにアクセスして、有料のデータを引っ張ってくるというような使い方をしております。3番目として、これは日本の図書館ではあまり多くないのですが、代行検索といって、利用者が調べたい事項を代わりに検索してデータベースの中に踏み込んでいくという使い方があります。日本では最初の2つの使い方が中心だと思います。
会長:  他に何かございますか。植村専門委員に伺いたいのですが、日本でeブックがうまくいかないのは、先ほど出版社がコンテンツを出さないという話がありましたが、それ以前の問題として、アメリカなどでは出版社が権利を持っているのに対し、日本は出版社が権利を持っていない、個々の執筆者が持っているというのが慣行であり、出版社が出したくても出せないという状況があるのではないでしょうか。
専門委員:  それもあると思います。eブックビジネスをやるために、出版社はまず著者の先生方との契約を見直さなければならないという前提はあると思います。ただ、著者との信頼関係がありますので、最終的に商品を作り上げていくという出版社の役割がありますし、読者が何をもって買うのかという場合の出版社というブランド力などは今後とも強くあると思います。やはり時間や手間がかかっても契約をきちんと作ってやっていくことで、今のところ、それほどビジネスの阻害はないと思います。
委員:  深見専門委員にお伺いしたいのですが、先ほどのお話の中で、端末にしてもフォーマットにしても先々はよく分からないということでしたが、現在までのところで、どういったものが評価されてシェアを獲得しているのでしょうか。生き残ったものとそうでないものの違いはどこにあるのでしょうか。
専門委員:  日本人的な成功からすると、携帯電話でもそうですが、各メーカーが色々な機能を追加して、それによって差別化しようとします。そうやって深堀していけばいくほど、離れていってしまうというところがあると思います。とてもよいというわけではありませんが、今ネットに出ているものは、例えば役所関係でいえば画像としてPDFで掲載してしまって、検索するなら自力で探すという形のものが多いような気がします。商業データベースでも、特別なサーチャーがいないと調べられないというのではなく、もっと一般的に誰でも使えるような形にしていくには、膨大な時間がかかるのではないかと思っています。はたして本当にできるのだろうかという疑問もあります。
委員:  PDFのお話が出ましたが、PDFはアドビという会社が技術的に主導権をとって、しかもそれをオープンな規格にして、やっとここまで育ってきています。こういった無償で使えるようにするという手法に対し、日本の場合はコンソーシアムを作って、その中に加盟しないと使うことができないといった、規格作りのやり方の差が成功、非成功に関係しているのかどうかという点については、いかがでしょうか。
専門委員:  従来の日本のようなやり方はうまくいかないのではないか、むしろ、アドビがいいかどうかは別として、広く無償で使えるような環境を作って、コンテンツを作らせるということが自然にできていく、うまくいくのはそのスタイルではないかと思います。
専門委員:  日本の出版社の経営規模は非常に脆弱ですので、出版社自らが自分達のコンテンツをサーバ運営するというのは、とても無理だと思います。一方、海外における電子ジャーナル、例えばエルゼビアなどは非常に巨大な規模を持っていますし、メディアコングロマリットの傘下にある出版者も多くあります。こういった出版社の経営規模の違いが、欧米型が日本でうまくいかない理由の一つとして挙げられると思います。零細な出版社がまとまるための公共的なプラットフォームがあって、そこに提供していくという仕組みの方が日本には向いているのではないでしょうか。そういった意味では、しばりのないオープンなコンソーシアムがあり、それに対する電子的なものを公共の投資で作っていただき、表現等が萎縮されないような枠組みの中で出版社あるいは著者が提供するという仕組みが、理想的ではないかと考えております。
委員:  日本の電子出版というのは、電機メーカーがリードしてきたということが多くて、その中での力関係に、コンテンツを提供する出版社が振り回されてきたということがあります。ですから、どのフォーマットが生き残るのかという問題は、私の経験からすると、OS次第であると思います。例えば「FM TOWNS」という今では知る人も少ないマシン上で色々なマルチメディアソフトを作りまして、「FM TOWNS」が教育機関に導入されたこともあり、瞬間風速的にはソフトは売れたのですが、マシンは生き残りませんでした。また、富士通が中心になってEPWINGという規約を作りましたが、これも結局ある力関係の中で、そして思うように商品化されたものが売れなくて、だんだん消えていってしまいました。ソニーの「データディスクマン」やNECの「デジタルブック」など、ハードの開発からソフトの調達までやってきましたが、例えばNECの「デジタルブック」が出た時に、ちょうどアメリカのマックワールドで「ニュートン」が発表されまして、「ニュートン」を見た時に、自分が取り組んでいることは何とむなしいことだという気がしました。日本のマーケットの中で、日本語のコンテンツをどのように電子化していくのかということは、深見専門委員が先ほどおっしゃったように、失敗の連続だったわけですが、それはフォーマット等の問題というよりも、その中で働いた力関係が大きかったように思います。さらにその中で、コンソーシアムを設立して独自のスペックを作ろうとしますが、この独自のスペックというのは排他的であり外国では通用しない、こういったものが過去には随分とありました。
委員:  CD-ROMの規格については、日本が相当リーダーシップをとったと思いますし、そこにアップルやマイクロソフトが入ってきて、その時のデジタル化というのは日本が主導権を握っていたような気がしますが、いかがでしょうか。
委員:  ハイシエラフォーマットからXA規格にいたるまで、基本はソニー・フィリップスですが、その上で日本語を表現するものは日本側でやってきたし、それと一体になって展開してきたわけですが、あっという間に状況が変わっていきました。昔は、ネットワークが発達してもCD-ROMはなくならないと思われていた時代もありました。そういう時代を経て今日に至ったわけです。SGMLから現在はXHTMLというデータベースの構築が非常に容易な記述言語が出てきたということは、これまでとはまったく違う局面になったという感じがしています。
委員:  三瓶専門委員にお伺いしたいのですが、配布資料にありました「オール日本電子図書館構想案」というのは、現在さまざまなところで報道されている、国会図書館・日本文芸家協会・日本書籍出版協会が中心となって進めようとしている「ジャパンブックサーチ」とは別のものでしょうか。
専門委員:  別です。
委員:  先ほど長尾構想への逆提案というお話もありましたが、別途の独立な構想としますと、どういった点が異なるのでしょうか。また、この構想ではスキャンという言葉が入っているので、既存の書籍のデジタル化を伴っていると思われるのですが、ネット上のデジタルコンテンツのようなものも対象に入っているのでしょうか。
専門委員:  この構想は1年前に出したのですが、今は中身がかなり陳腐化しております。元々がデジタルのものは、サーバに上がっていれば基本的になくならないので、むしろこの構想では、紙の本を入れることを前提として考えておりました。しかし、電子化がどんどん進むと、それぞれの出版社あるいは業界にデータが蓄積されるので、売れるものは自分達のところで売ってしまうのではないか、そうすると「オール日本電子図書館」の中身がないという事態になりかねないと考えまして、最近ではむしろ、データをそのまま取り出すというよりは、知的検索を中心に考えた方がいいだろうという話を中心に、JEPA内部で議論しているところです。
 ブックサーチの話は何とも言えませんが、先ほど申しましたように、文化的価値は高いと思われるが、たまにしか読まれない本、アクセス数だけでは評価できない本に対して、どのようにお金をフィードバックしていくのかという問題があり、なかなか難しい面があると思われます。また、電子書籍をまったくオープンにしてもよいという方から、紙の本がなくなった時に出してほしいという方まで、さまざまな要求があると思いますので、それに対して全部応えられるような階層的な著作権構造をとらないといけないのではないかという気がしております。
委員:  「売れるものは自社で売るので、電子図書館としてはうまくいかないのではないか、むしろ検索サービスで特徴を出した方がよい」ということは、つまり検索エンジンのような全文検索までのサービスは提供するけれども、実際のデジタルコンテンツは各社のサーバから直接入手してくださいというようなことが、あり得るということでしょうか。
専門委員:  そうです。
委員:  アマゾンなどが短期間でシェアを伸ばすことができたのは、品揃えが非常に幅広かったからだと思います。そうすると、各社のサーバへ誘導するだけではなく、一つのサーバで全部入手できる状態の方が、市場が広がっていく可能性があるし、そのことによって運営コストも下がり、採算に見合う部分が広がっていくのではないか、という議論はなかったのでしょうか。
専門委員:  当然ありましたが、それ以前にネックになることがありました。今は著作物について出版権設定契約が中心になっておりますが、フリーハンドで色々やっていくためには、著作権譲渡の契約に切り替えていかなければなりません。出版社が使いやすい状況に進んでいくことができるならば、色々なサービスが考えられると思います。まずは、そういった契約のあり方を変えていって、流通しやすい環境を作っていかないと、出版社としても売れるかどうか分からない状況で、著者の方々に契約の書き直しをお願いすることは、なかなか大変だろうと思います。
委員:  これは著作権譲渡ではなくて、日本書籍出版協会が作成した契約書式にある「電子的使用の優先権」などの規定を、「電子出版の許諾」という言葉に置き換えれば解消できる問題であると考えておりましたが、やはり著作権譲渡をしていくという方向なのでしょうか。
専門委員:  電子化したものを具体的にどのような条件の下で取り扱っていくのかということに関して、きちんと詳細に著者の方に説明しないと、契約書だけで電子配信の許諾を取り扱っていくことはできないと思います。書式に一筆入れておくだけでは、なかなか難しいのではないでしょうか。出版社が責任もって電子出版をできるような状態にしなければいけないと考えています。
委員:  大久保専門委員にお伺いしたいのですが、そもそもデジタル化された出版コンテンツの場合、書籍と雑誌の区別はなかなか難しいのではないかと思いますが、雑誌コンテンツ配信というビジネスモデルを具体的に考えている中で、定義といったようなものはあるのでしょうか。また、各社それぞれにおいて議論等はあったのでしょうか。
専門委員:  まず、漫画は入れておりません。漫画はデジタルコミック協議会というものを中心として、ある程度すでにビジネス化できておりますし、漫画を出している出版社の数はそれほど多くないということで、それ以外の雑誌が対象ということになります。その中には、ジャーナル系の週刊誌からファッション雑誌、小説雑誌等、一般的なジャンル分けでも12通りの雑誌があります。今のところ、雑誌の目次単位での取扱いを予定していて、実証実験では編集部などに了解してもらった記事を使い、連載小説やコラムなど、著作者との話し合いが難しそうな部分に関しては切り離して考えております。複数の権利者にわたるものについて、まずは実証実験を行い、サイトでの実際の展開をみていただきながら、一方の著作権分科会で、雑誌に関しての統一契約書的なものを作成して、いわば雑誌版のJASRAC的なものを作っていかなければ、将来の運用がうまくいかなくなるだろうと思っております。作家の連載小説やコラム等については書籍との絡みもありますし、一括で扱うのは難しいだろうと思いますので、そこは切り離して、まずは複数の権利者にわたるものということで考えております。
委員:  アメリカでeブックが成功して、日本でなぜ成功しなかったのかということについて、コンテンツの著作権問題が指摘されていたのですが、それ以外に非常に大きい問題としては、本を読むシチュエーションの差があるのではないかと思います。
 日本では、本や雑誌を読むもっとも日常的なシチュエーションは通勤電車の中です。それに対し、アメリカは車社会であり、逆に本の朗読テープ等が普及しています。つまり、本は家で読むことが多いので、PCへの書籍データの配信でも都合がよかったのではないでしょうか。一方、日本では本を持ち歩くことが多いので、文庫や新書に比べて重く、しかも高価な読書端末を購入する必要があるeブックは使いにくいという状況があったのだと思います。ケータイ小説やケータイコミックが非常に発達したのは、携帯電話という普段持ち歩いているもので、通勤電車の中で気軽に読めるということが大きかったのではないでしょうか。これが日本の電子出版市場の特性を成しているのではないかと思います。ですので、すでに出版されている書物の電子版を収集するというのも一つではありますが、ケータイ小説やケータイコミックはデータで保存しておかなければ、後からアクセスすることができなくなるので、日本の文化の特性を知るためにも、きちんと保存しておくべきであると思います。データを配信することに焦点を当てると、商業的なものは収集は後回しにした方がよいという議論になってしまいますが、きちんと保存するという観点からは、データでしか出版されないものは、優先的にとっておくべきものではないかと思います。逆に配信を考える場合は、商業的なものではなく専門的なものを中心に考えていけばよいのではないでしょうか。その場合には、自宅からアクセスすることを前提に検討していってもよいのではないかと思います。
委員:  キンドルが成功したと盛んに報道されていますが、販売台数は50万台であり、私自身は実際にキンドルを使って電子書籍を読んでいる人をアメリカで見たことがありません。研究用に買っている数を除き実際は何万台なのかということを考えると、報道が結果的にミスリードすることにならないでしょうか。任天堂DSやiPod、携帯電話の販売台数と比較しても、報道の仕方がおかしいのではないでしょうか。また、携帯電話のコミックマーケットが400億円近くに成長したのは、版面をただスキャンするという方法を取っていて、携帯電話会社ごとにプラットフォームが異なっていても簡単に変換可能であり、出版社にとって非常にリスクの少ない方法が確立されたからだと思います。読む文法がそのまま使えるという意味では読者にとってもリスクがありませんし、キンドルよりもブックサーフィンの方が成功しているのではないでしょうか。電子出版に関しては、これまでの日本の経験が活かされているのではないかと思います。
委員:  新聞も含めて日本の出版業界は非常に危機感をもっています。だから、キンドルのようなものに対して驚きと危機感をもって接するがゆえに、大きく表現されてしまっているという側面があるので、濵野委員のおっしゃるとおり、もう少し見極めていくことが必要だと思います。
会長:  他に何かございますか。よろしいでしょうか。大変活発な御議論をありがとうございました。
 
6 審議
会長:  それでは、会次第の6に入ります。国立国会図書館がオンライン資料を収集する場合に想定される論点を、事務局から提示していただきます。まずは、小委員会で想定される論点について、事務局からお願いします。
事務局: 〔オンライン資料の制度的収集にあたっての論点について、資料10に基づき説明。〕
会長:  ありがとうございました。小委員長から何かございますか。
委員:  事務局の方で整理していただいた論点だけでも課題は多く、さらに本日の専門委員の方々からの御報告とそれをめぐる議論を伺っていても、大変であるという思いがしております。議論はある程度予測はつくのですが、それを年度内に何らかの形で示さなければならないということで、基本のメニューだけはきちんと押さえておいた方がよいと思いまして、47ページに資料11としてワークフローを掲げました。従来の出版物の納本と、今回の書籍・逐次刊行物相当の出版物をターゲットにする場合の納本ワークフローです。フローの上3つまでがおよそ出版社や印刷所で行うことでして、テキスト入力や画像入力をして、それをDTPソフトやコンピュータ組版で整形し、校正の上、校了データにする、校了データを印刷所が出力して印刷・製本を行い、それが市場に出て、国会図書館へ納本制度によって納められるという流れになります。実際には市場に出る前に、取次経由で国会図書館に納本されています。この他に自費出版の流れなどもあります。今回ターゲットにするオンライン出版では、データ出力されたものが冊子体という形をとらずに、オンラインでユーザーのところに配信されることになるので、このデータを納本していただくという形になると思います。この流れをきちんと押さえた上で、例えば冊子体であれば取次から納本されますが、オンラインの場合には取次に代わってどこが納本するのか、どの段階でコンテンツプロバイダーから国会図書館に到達させるのかなど、周辺の様々な事項を検討していきたいと思っております。もう一つは、国会図書館の近代デジタルライブラリーのように、出版物をスキャンして画像として利用する際に、今の出版物はほとんどがボーンデジタルという形をとっているので、仮に納本制度の枠内で冊子体として市場に出回るものでも校了データという形で確保しておけば、将来的にデジタルライブラリーを構築していく上で、あらたにテキストデータを作らなくても済むので、こういったことも今後の課題として考えられるのではないかと思います。
会長:  それでは、ただ今の論点につきまして、御意見、御質問等はございますか。
委員:  「日本国内で発信」というのは、例えば「asahi.com」はアメリカ西海岸から発信していますが、日本でのパブリッシュというものをどういう定義にするかということを、ぜひ小委員会で明確な定義を打ち出していただきたいと思います。もう一点、現在の電子出版関係の動きとして、キオスクでポンとかざすだけで新聞を入れることができて、しかもどんな端末でも読むことができるという実験をしようとしていて、まだアクセスのスピードが遅いので、最初はコンビニでSDカードを入れてやる計画とのことですが、来年ぐらいにはキオスクで新聞や雑誌が一括して入るという状況になるかもしれません。これははたしてオンライン出版なのでしょうか。こういった新しい動きについてもぜひ小委員会で御検討いただければと思います。
委員:  ドメインの話ですが、ドットコムぐらいインターナショナルなものだと色々と国内法では押さえきれない部分もありますが、それはナショナリティとドメインの関係では…。
委員:  「asahi.com」は明らかに日本人のマーケット向けだと思います。
委員:  そうだと思います。
委員:  それを日本向けのパブリッシュではないとするのでしょうか。
委員:  朝日新聞は法人登録を日本国内でしているので、そこがサーバをアメリカにおいていたとしても、アサヒオンラインで出てきたものは日本国内で発行されたものになるのではないでしょうか。
委員:  その定義付けをぜひ小委員会で検討していただきたいと思います。
委員:  ただ、法人登録などしていない個人がドットコムを使って情報発信している場合、そういったものも将来的にはターゲットにするならば、日本語とは言ってられないと思います。日本から英語で情報配信する場合もあり得るでしょうし。
委員:  ドメインの拡張子はしばしば任意で選べるので、拡張子で何かを区別するのは難しいのではないでしょうか。
委員:  今回ターゲットとしている図書・逐次刊行物相当のものは、発行主体が分かっているので問題にならないと思われますが、一方ですべてのデジタルコンテンツを収集してほしいという声も強くあるので、その先の部分をやっていく時に、この問題を定義付けすることはできないのではないかと思います。今回については制限することはできると思いますが。
委員:  合法的なものはいいのですが、ポルノのように意図的に海外にサーバを置いているものまで網にかかってしまうので、何かしらの定義をしていただきたいと思いました。
会長:  この問題は納本に限らず、著作権法などにおいても難しいところでして、なかなか解決がつかないと思いますので、納本という目的に従うとこうなる、という切り口で議論していただくのがよいと思います。サーバの置かれている場所はあまり問題にならないのではないでしょうか。
委員:  限定的定義しかできないと思います。一般的な定義は不可能に近いと思います。
委員:  基本的には利用地で考えてもらって、圧倒的に日本人を対象にしているものであれば、どこにサーバがあろうと対象にしていくということではないでしょうか。
委員:  それはどのようにして追跡していくのでしょうか。ログを見るだけでもかなり大変だと思います。
委員:  範囲をどこまで定めるかという時に、そういう発想に立っていただけたらと思いました。
委員:  日本でアメリカのサーバを使って配信して、中国でよく閲覧されているサイトなどもあります。
委員:  日本の文化の保存が目的なので、その点で集めるべきものとそうでないものを線引きすればよいと思います。
委員:  納本制度は文化を定義しておらず網羅的収集としているので、その点で線引きするのは難しいのではないでしょうか。
委員:  大きな目的としては、日本の文化の保存だと思います。
委員:  著作権法の手当ても議論の対象に入ってくるのだとすれば、収集するに当たっては日本の著作権法の及ぶ範囲という制約がかかってくるのではないでしょうか。
委員:  これは国立国会図書館法を改正して行うので、著作権法上の問題は免除されるわけではないのでしょうか。
会長:  日本の著作権法上の問題はクリアされますが、国会図書館がアメリカに行って違法行為をやっていいことにはなりません。そもそもどういう行為が日本国内での著作権侵害になるのか、ということすらはっきり分かっていない状況なので、非常に難しいと思います。
委員:  国会図書館法の改正であれ著作権法の改正であれ、違法行為にならないような改正をしなければならないという点では、本質は一緒だと思います。
委員:  今年7月に行われた政府機関等のインターネット資料の制度的収集に関する国立国会図書館法の改正というのは、著作権法とは接点がない問題と考えてよいと思います。だから、これから小委員会で議論しなければならないことも、著作権法と抵触しないように改正するということになるのでしょうか。
事務局:  著作権法との関連について補足いたします。7月の国立国会図書館法の改正の際に著作権法上の手当てもいたしまして、附則で著作権法の改正をしております。ですから、今回の場合も著作権法の改正も視野に入れて議論していただくという形になると思います。
会長:  つい最近、著作権法が改正されて関連する著作権制限が規定されましたが、そもそもオンラインについては、著作権法上どういう扱いになるのか分からないという問題があり、なかなか難しい面があると思います。しかし、基本的には日本の文化ということになろうかと思います。色々な発信パターンが考えられますので、その辺りを小委員会で詳細に検討していただければと思います。他に何かございますか。
委員:  先ほど事務局からも御説明がありましたが、対象範囲として、紙で出版されている物のデジタルデータとボーンデジタルのものでは、世界がまったく違うし収集方法も異なってくると思われます。段階的実施ということですが、この2つを同時に収集対象としていくのか、それともボーンデジタルなものを優先して収集していくのか、どちらの想定なのでしょうか。あるいはその点が議論の対象なのでしょうか。
収集書誌
部長:
 まさにそこは議論の対象になるところであると思っています。論点を事務局から御説明させていただいた中に、その点も含んでいたかと思いますが、当館としてもできるだけ広く捉えていきたいとは思っておりますが、時間的な制約や政策的な優先順位を考慮の上で集めていかなければならないと考えております。まずは何が望ましいのか、小委員会を中心に議論していただきまして、その議論を踏まえて当館として法律に落とし込んでいきたいと思っておりますので、その部分を含めて御審議いただければありがたいと考えております。
会長:  よろしいでしょうか。それでは、時間の都合もございますので、先に進んでいきたいと思います。
 
7 その他、今後の予定
会長:  それでは、会次第の7に入ります。議事運営規則の改正があるようです。事務局から説明をお願いいたします。
事務局:  資料12を御覧ください。事務的な改正です。納本制度審議会議事運営規則第15条について、館の組織機構の変更に伴いまして、収集部収集企画課を収集書誌部収集・書誌調整課と名称を変更するものです。
会長:  これは特に問題ないと思いますので、次に進みたいと思います。今後の日程について、事務局から説明をお願いいたします。
収集書誌
部長:
 資料13に審議会、小委員会の今後の日程案をお示ししております。次回の審議会といたしまして、年度末の3月に第18回の審議会の開催を予定しております。次回審議会までの期間に、3、4回の小委員会の開催を予定しており、次回の審議会ではオンライン資料の収集に関して、小委員会で検討した内容を中間報告として報告していただくことを予定しています。
 なお、次回の審議会までに半年近い期間があります。この間に、必要に応じまして御意見等を伺うこともあろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。
会長:  ただ今の日程について、何か御質問等はありますか。特に小委員会の方々に御質問はございませんでしょうか。少しタイトな日程ではありますが、これでよろしいでしょうか。合庭委員、大変ではございますがよろしくお願いいたします。
 
8 閉会
会長:  時間も若干ありますので、何か御質問等はございますか。よろしいでしょうか。
 それでは、以上をもちまして、第17回納本制度審議会の会次第はすべて終了いたしました。長時間ありがとうございました。これをもちまして散会といたします。
(午後4時50分終了)

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